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18.最悪なピタゴラスイッチ

 アイリーンと第一王子の婚約の儀が一ヵ月と迫った頃、メイはユウヒとお茶をしていた。

 もうこれは3回目だ。正確に言えば、何度も時を遡ってやり直しているから、10回以上お茶をしていることになる。


(さすがにもう、緊張することもなくなったわ……)


 最初はガチガチに緊張して、ユウヒの手元しか見られなかった。しかし今は面と向かって、その優美な笑顔を見ることができる。


「そっか。アイリーンはそんなに喜んでいるんだ、婚約のこと」

「そりゃもう!」


 メイは、アイリーンがどれだけはしゃいでいるかを説明する。儀式の日に付けるアクセサリー、服をすべて新調し、それらのデザインに細かな指示を出している。カレンダーを作らせ、そこへ儀式の日取りを書き込み、何度も見ている。

 アイリーンは王宮が臨める部屋で過ごすことが多くなった。パール色の髪をそよ風になびかせて、窓から王宮の尖塔を眺めるのが日課だ。


「そう、そんなに楽しみに」


 鳥が遠くで啼く。ふわりと風が吹き、ユウヒの銀髪を揺らす。芸術品のような顔をわずかに歪ませたユウヒは、ティーカップを口にした。悲しいような、寂しいような、切ないような気持ちを、ほんの少しだけ表情に乗せたように、メイには思えた。


 この時ユウヒが何を思っていたのかメイが知るのは、ずっと後のことになる。



 アイリーンを謀反計画に誘おうとするテンスリーを追い返して、しばらくしたころだった。ユウヒとキララのお茶会に、アイリーンが誘われた。


(これ、前回もあった! たしか――アイリーンさまは殿下との婚姻が早まりそうって喜んでいた。あくまで噂に過ぎないとは言っていたけど――)


 前回は、このお茶会にマクレーがついていた。彼に何があったのか尋ねても、はぐらかされてしまった。


(でも今回、マクレーは全ての事情を知ってるから、ちゃんと教えてくれるはず……!)


 ユウヒとキララのお茶会の後、アイリーンはやはり機嫌が良かったアイリーンの心境をがらりと変えることが話されたに違いない。その夜、メイとマクレーは、裏庭で会う。


「マクレー、今日のお茶会、どんなことが話されたのか教えて」

「たいしたことじゃないよ」


 どこからともなくヒラヒラと落ちてくる葉を見上げながら、マクレーは答える。


(また、ごまかそうとしてる。どうして?)


 メイはキッとマクレーをにらみつけた。


「マクレー! 大事なことなの。はぐらかさずに全部教えて!」


 メイに一喝されて、マクレーは所在なげにそわそわし始めた。


「マクレー、よく聞いて! アイリーンさまは、私にプレゼントをするくらい機嫌が良くなったの。殿下との婚姻が早まりそうという噂を聞いたと言っていたけど、それじゃ説明がつかない。だって、噂程度で浮かれるほど、アイリーンさまはふわふわした感情をお持ちじゃない。それに、そんな話を聖女さまと同席の上で話すのもおかしい!」


 メイは、マクレーの肩をつかんでまくし立てる。マクレーは、ますます落ち着きがなくなった。本当は口止めされてるんだけど、と前置きをして、重い口を開く。


「ユウヒさまとキララさまは――アイリーンさまを誘ったんだ。第一王子を陥れる謀反計画に」

「はあっ!? マクレー、ちょっと意味が――」


 意味が分からない。どうして、第一王子派閥のユウヒが、第一王子を陥れる計画に妹を誘う。


「これには、ユウヒさまとキララさまのお考えが、ちゃんとある。殿下に一番近く信用できるアイリーンさまを、あちらの勢力に入れて、動向を知るんだ。そうして計画を未然に防ぐ。そうすることで事は早く落ち着き、婚姻の儀式も早まる」

「でも、そんなの危なすぎる!」


 アカリの言葉が、メイの頭によぎる。怪しい計画に名を連ねたら――最悪なピタゴラスイッチが始まっちゃう。


「大丈夫だよ」


 マクレーは自信ありげにうなずく。


「この計画は殿下も承知していらっしゃる。アイリーンさまに罪がないのをご存知というわけだ。だから、罪を問われることはない」


 なるほど一理ある。しかしメイには、何かが引っかかった。引っかかるが、何かが思い出せない。


「ユウヒさまが、妹であるアイリーンさまを危ない目に遭わせるわけないよ。だから、大丈夫だって」


 マクレーの言葉に、メイは頷くしかなかった。


「そう――だね」


 そのとき、アカリの声がした。


『メイっぴ! 思い出して! 前にも同じことあったよ!』


 ――同じこと……。


『ほら、アイリーンさんが謀反勢力に入った後、ユウヒさんにそのことを説明したこと、あったじゃん! でも、あの後……」

「――あ!」


 思い出した。


 何度目の「やり直し」だっただろうか。


 アイリーンがテンスリーの企みに乗った後、ユウヒとメイはお茶をする機会があった。そのとき、ユウヒに事情を話したのだ。アイリーンが謀反計画に加担したのは、反意あってのことではなく、謀反計画の動向を探るためだ、と。

 そしてそのことを、アイリーンの婚約者である第一王子にも含みおいてもらいたいと、お願いした。ユウヒは、あのステキな笑顔で承知してくれたのだ。必ず伝える、と。


 なのに数日後、アイリーンに処刑命令が下った。


「だめ! マクレー、だめ!」


 メイはマクレーの腕をつかむ。


「ユウヒさまに、アイリーンさまが謀反勢力に加担してしまったことを殿下にお伝えいただくように、お願いしたことがあったの! でも――でもその後、アイリーンさまに処刑命令が下った……」

「そんなことがあったのか?」


 マクレーは半信半疑だ。


「うん。ユウヒさまは約束してくれた。きちんと殿下に説明してくださるって。でもダメだった!!」

「そんな――ことが。でもユウヒさまは、約束を反故になさる方では――。メイ、何かの間違いじゃ」

「間違いじゃない! アイリーンさまが危ない! マクレー、なんとかして!」

「何とかしてったって」


 メイの剣幕に、マクレーは一歩下がる


「だって、マクレーのほうが、ユウヒさまに近いじゃん! アイリーンさまに処刑命令が下ったってことは、ユウヒさまが殿下にお伝えしなかったか、ユウヒさまのお話を殿下が無下になさったのかもしれないじゃん! それとも殿下は事情を理解された上で、アイリーンさまを見殺しに――」


 言ってしまってから、メイはあまりに恐ろしいことを口にしてしまったと思った。不敬である上に、考えた全てのパターンが最悪だ。メイは口を手で押さえ、その場にへたり込んだ。


「メイ。この計画は殿下がなされたと、俺は聞いている」

「そうなの?」

「ああ。キララさまがそうおっしゃっていた」

「キララさまが――」


 メイは、小麦の話で盛り上がる、黒髪の少女を思い出す。誰にでも、裏表なく平等に接する聖女。彼女なら、嘘はつかないだろう。


「殿下が計画をされたのなら、さすがに大丈夫だと思わないか?」

「うん――」


 メイは納得した。いや、納得するしかなかった。直感は警鐘を鳴らしているが、理屈の上では何の問題もない――。


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