17.宮廷内の勢力
マクレーと何回か話をして、今まで見えていなかった宮廷内の勢力について、なんとなくわかってきた。メイは考えをまとめようと、自室でノートを広げていた。
「アカリさん、ちょっといいですか?」
自分一人の頭で考えるより、アカリと話しながらまとめたほうが、うまくいく気がした。
『なになにー?』
「ちょっと、宮廷内のことをまとめているんですが、話し相手になってもらえますか?」
『もっちろーん』
「ありがとうございます」
今、宮廷内は大きく二つに分かれている。第一王子デュランを支持する派閥と、王位継承権第二位のミハエル王子を支持する派閥だ。
『うんうん、それは最初の方に言ってたねー。忘れちゃったからもう一回教えてー!』
「はい、もちろん」
第一王子のデュランを支持する貴族たちは、このサフィリア家を含む四公爵のうち三家。その下の侯爵家たち、伯爵家たちを合わせると全体の約7割だ。
第二王子のミハエル王子を支持するのは、四公爵の一つと、その他貴族たち。公爵家は一つとはいえ、内親王の降嫁が決まっており、それなりの力を持っている。
アイリーンを陥れようとする老人、テンスリー伯爵も、第二王子派閥だ。
『けっこうガッツリふたつに割れてる感じなの? どっちつかずみたいな人もいそうだけど』
「そうですね……。内心は、どっちでもいいと思っている貴族もいるかと思います。しかし中庸でいるのは案外難しく、味方でなければ敵だとされてしまうので、結局意思表示をする方が多いようです」
『なるほどねー。味方じゃないなら敵かぁー』
マクレーによると、聖女ショウコは第二王子に近づいているらしい。ショウコは元素を集めることにあまり積極的ではなく、第二王子に熱を上げていると、マクレーは言っていた。
キララもあまり元素を集めずユウヒのところに出入りしているから、似たようなものだ。
ショウコの動きを見て、第二王子有利と見た貴族がそちらにつくということもあるらしい。
「そんななか、第一王子デュランさまと王が不仲であるという噂が流れます」
その噂はどんどん広がり、不仲どころか暗殺を企んでいるというところまで膨らむ。
『えー! 王子にとって王様ってお父さんじゃん。暗殺とかするかなー』
「過去――王宮内で血族が争った例は多いです。父殺し、子殺し、兄弟で殺し合い、自分以外の一族皆殺しなど……」
『こっわ!! カジュアルに殺しすぎでしょ! 殺伐としてるな~』
「王権というのは魔物なんです、きっと……」
メイも実感としては分からないが、そういうものなんだろうと考えている。そうでなければ、血で血を洗う闘争にはならないと思うから。
「王への反逆の首謀者とされ、処分されてしまうのが――」
『未来のアイリーンさんね』
「はい。マクレーはそう言っていました。何度やり直しても、アイリーンさまが処刑されてしまうと」
アイリーンの立場はまずすぎた。
動向として、確かに反勢力に名を連ねている。第一王子との婚約は済んでいるものの、まだ正式に宮廷に入ったわけではない。だから、処分がしやすい。婚約者の王子はアイリーンをかばうことはなかったし、サフィリア家も巻き込みを恐れ静観を決め込んだ。
事態が露呈した以上、誰かが責任をとらなくてはならなかった。身分は高いがつながりが薄いアイリーンは、この騒動を収めるのにぴったりの生贄だったのだ。
こうしてさまざまな要因が絡んで、アイリーンは処刑されてしまう。
『なるほどねー。アイリーンさんがかなり危うい立場にあるってことは分かったよ。多分、反逆計画に少しでも加わっちゃったら、アウトだね。最悪なピタゴラスイッチが始まっちゃう。逆に言うと、反逆計画にさえ関わらなければ――疑われることさえしなければ、ピタゴラスイッチの最初のボールが落ちることもないから、大丈夫そうじゃない?』
「最悪なピタゴラスイッチ…」
アカリの言っていることは半分くらいしか分からない。しかし、自分の主人が非常に危うい立場であることは分かる。しかしどんなに危うくても、疑われることさえなければ安寧だ。王子との婚姻を済ませ世継ぎを身ごもりさえすれば、おそらくその危うさもなくなる。
「結局、アイリーンさまには、反逆計画のような怪しい計画、集団には関わらないようにしてもらうってことですよね」
『そうそう!そういうこと!』
一瞬だけ、メイの脳裏に、そもそもアイリーンと王子と婚約しない未来が浮かんだ。そうすれば反逆計画に巻き込まれることはないし、もし巻き込まれたとしても責任までは取らされないだろう。
(でも……)
メイがアイリーンのそばに仕えるようになったのは、アイリーンが9歳の頃だった。その頃、すでに王家とサフィリア家の間では、第一王子との婚約がほぼ内定していた。アイリーンは感情を素直に表現することが少ないため誤解されやすいが、彼女の王子を見る目が熱っぽいことに、メイはすぐ気が付いた。
アイリーンは、王子との婚約、そして婚姻を心から楽しみにしていた。おそらく、王子のほうも同じ気持ちのようだった。
(やっぱり、アイリーンさまは、殿下と結ばれるべき)
だとすれば、やることは一つ。王への反逆計画に乗らないことだ。
◆
キララがきた翌日、もう一人の聖女、ショウコが来た。キララとショウコ。彼女らを「聖女」としてひとくくりにし、「異邦から来た無礼な人」としか認識していなかったメイだが、キララという人間に触れ、その考えを改めた。
そうして、ショウコのことも知ってみたいと思った。
「ショウコさまのご両親は、何をなさっている方なんですか?」
会話の折を見て、メイはキララにした質問を、ショウコにも投げかけてみる。
「え……?」
ショウコは驚いたのか固まった。おそらく、質問の内容に驚いたというよりは、「モブ」だと思っていたメイが話しかけたからだろう。
「えっと……なんでそんなこと聞くの?」
「もう少し――聖女さまのことを知りたいと思ったからですわ」
「あ、そ。なんだ、それだけ。別に答えなくていい質問なら、答える必要ないよね。それよりあたし、こっちの人にまだ聞きたいことあるんだけど」
ショウコの言う「こっちの人」とは、四公爵サフィリア家の息女であり、将来の王妃、アイリーンのことだ。アイリーンはその横柄な呼び方を、無表情で受け止める。
「はい。出過ぎた真似を失礼いたしました、聖女さま」
メイは一礼し、「モブ」へと戻る。
(びっくり。同じ「礼儀知らず」でも、ずいぶん方向性が違うものね。今までこんなことにも気づかなかったなんて)
キララとショウコはかなり違う。そんな当たり前のことに、メイはやっと気づかされた。




