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14.エンディングの映像

 メイは自室に戻り、机の引き出しを開ける。そこには思った通り、猫の手鏡があった。


『メイっぴ――これはすごいアイテムだね! たぶん自在に逆行できる』

「そのようですね……」


 そのためには、手鏡を天に掲げ、恥ずかしいセリフを口にしなくてはならないが。


『ねえ、ユウヒさんの後ろにいた人、見た?』

「はい。確かにいました。ただ――誰かは分かりません。あまりにぼやけていて」

『そうだよね……。部屋の中みたいだったけど、どの部屋なんだろ』

「部屋の中でしたっけ?」

『うん。メイっぴ、見てなかった?』


 後ろの人物のことばかりを考えていたから、そこまで見ていなかった。


「確かに、屋外ではなかったような――」


 そんなあいまいな答えしか出せない。


「アカリさんは妙にあの映像にこだわっているようですが、そんなに気になることですか?」

『うん、気になる。あの映像、毎回同じじゃん? だから、エンディングの映像だと思う』

「エンディング?」

『うん。ゲームが終わって、おつかれさーんって出てくる映像。たいてい、今まであったシーンが再生されるんだけど、ちょっとした裏設定やトゥルーエンドのヒントがあるときがあるんだ』

「トゥルーエンド」


 正しい結末。以前、アカリが言っていた言葉だ。私たちはそれを目指している。


「もしそうだとしたら――」

『ね! めっちゃ大事でしょ!』

「はい」


 今度逆行したら、きちんと注目してみよう、とメイは思った。これで終わりにしたいのが本音だが。


『じゃあ逆行恒例の、メモタイムー!』

「はい」


 メイは机の引き出しから紙を出し、これまであったことを書き加えようとした。


「そういえば、この紙も”アイテム”でしょうか?」

『そっか。時を遡っているのに、前回のことが書かれたまんまなんておかしいよね。んー……”アイテム”っていうよりは”システム”っぽいなー。ま、便利だから使ってこ!』


0回目 聖女ひとり 婚約は3ヶ月後 テンスリー伯爵来ない 処刑は2年後

1回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵が訪れる 処刑はすぐ

2回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵が訪れる 処刑はすぐ

3回目 聖女ふたり 婚約は1ヶ月後 テンスリー伯爵追い返す

4回目 聖女ふたり すぐに逆行

5回目 聖女ふたり


「こんな感じでしょうか。4回目は試しに手鏡を使ってみた感じですので、カウントするか迷うところですが」


『いいんじゃない、カウントして。さてさて、今回の作戦はどうしようねぇ』

「テンスリー伯爵は、また追い返します。あと、キララさんの動向が気になるところです。サフィリア家をちょくちょく訪れる理由――それが、ユウヒさまへのアピールだとしたら、アイリーンさまの婚約維持が難しくなります」

『さすがメイっぴ! じゃあそんな感じでいこっか!』



 翌日、翌々日と二人の聖女がサフィリア家を訪れる。彼女らの横暴に腹を立てたアイリーンはイライラとアフタヌーンティーをがぶ飲みし、その直後にこにこと殿下との婚約の話をするという離れ業をやってのけた。


 ティーセットを片付けて廊下を歩いていると、ユウヒとキララがおしゃべりをしながら歩いているのが見えた。その後ろにマクレーも控えている。


(そういえば聖女さま、アイリーンさまのあと、ユウヒさまのところへ行くって言っていたな……)


 彼らとすれ違いざま、マクレーがメイに早口で言った。


「後で裏庭にきて。話がしたい」


 ティーセットを片付け裏庭に行くと、大きなブナの木越しにマクレーの赤茶けた髪が見えた。


「マクレー」


 メイが声をかけるとマクレーが振り返る。


「メイ、ユウヒさまからお前に伝言を預かってる。ユウヒさま今からアフタヌーンティーをするんだけど、お前も一緒にいかがかって」


 その展開なら、前回もあった。驚いたふりをしつつも、メイはしたたかに考える。


(そうだ、ユウヒさまにキララさまについて少し探りを入れてみよう)


「わかった。じゃあ、中庭のガゼボへ行くね」


 その場を立ち去ろうとするメイに、マクレーが声をかける。


「メイ、あのさ、もうひとついいかな。お前……聖女さまが今日くるって知ってるみたいだったよな。突然の来訪だったのに」

「なんとなく、そう思っただけよ」


 本当は、何度も過去をやり直しているから、知っていただけだ。


「一昨日も聖女さまのこと、やたら気にしてたよな」

「そうだったっけ?」

「お前さ――」


 マクレーは次の言葉を発しようか迷っているようだった。ブナの枝を一陣の風が通り抜ける。ざざざーっと葉が鳴り、木漏れ日がちらちらと瞬いた。


 やがて彼は決意したように唇を結び、メイの瞳を見る。


「お前さ、何度も過去に戻ったりしてね?」


 メイは息を飲んだ。突然の指摘に、何と応えたらいいのか分からない。


(どうしよう。なんで……? どうして?)


 疑問符で頭の中がいっぱいになる。なぜマクレーは、そんな突拍子もない結論に至ったんだろう。自分はボロを出していないはず。


 これまでずっと、過去へ何度も戻るという荒唐無稽な話をすることを避けていた。でも、マクレーになら話したいとも考えていた。もう嘘をついたりごまかしたりしたくない。


(今なら、話せるかも! でもどこから話せば――どうしよう、どうしたら……)


 さまざまな思いが去来し、メイが何も言えず棒立ちでいると、マクレーはへらへらと笑いだした。


「あ、はは、ごめん、突然変なこと言って。んなわけないよな」


 半ば自嘲的に笑うマクレーに、胸が締め付けられる。


(マクレー、ごめん。マクレーの推理は当たってるよ。私、あなたに嘘をついてる)


 もう、彼に嘘をついたりごまかしたりしたくない。


(マクレーなら大丈夫。私のことを信じてくれる)


 この誠実で明敏な婚約者には、すべてを話そう。


「ううん、してる。マクレーの言う通り、何度も過去に戻ったりしてる」


 決死の覚悟で、メイは告白した。マクレーはなんと反応するだろう。

 しかし、次にマクレーの口から発せられたのは、メイの予想だにしなかった内容だった。


「実は俺も――俺も、過去に戻ってるんだ。もう何度も」

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