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1.転生!逆行!聖女!

「妃殿下、あいかわらすキレイな御髪……」


 侍女のメイは、主人であるアイリーンの髪を結っていた。

 パールを溶かしこんだような不思議なニュアンスの髪は、角度によってピンクにも水色にも見える。銀髪はサフィリア家の証だが、アイリーンの髪色はその中でも群を抜いて美しいと、メイは思っていた。


「今日くらい妃殿下はやめて、以前のようにアイリーンと呼んで」


「はい、アイリーンさま」


「髪飾りは、一番上等なものにして。最期まで、誇り高くいられるように」


 言われた通り、外国から取り寄せた硝子玉のかんざしを耳元の髪に刺し、ダイヤとサファイアが散りばめられたティアラを、震える手で載せる。


 主人に課せられたあまりに酷な運命に、メイは思わず涙を落とした。


「どうしたの、メイ。泣いてるの?」


「いいえ、アイリーンさま。いいえ」


 アイリーンを差し置いて、自分が泣くわけにはいかない。メイはぐっと涙を押し込んだ。


 今日、アイリーンは処刑される。無実の罪によって。


「いままでありがとう、メイ」


 アイリーンが振り返ってメイを見る。これから処刑台に上る彼女の瞳は、冬の湖面のような、穏やかな青い色をしていた。


 メイの主人は、2年前に王によって召喚された「聖女」と、第二王子の策略によって、咎を受けることになった。なんの罪もないアイリーンに反逆罪がでっちあげられ、下された処罰は死罪。

 

 あまりに重い処罰を知った時、メイは声も出なかった。現実とは思えない。もともと罪はないのだから、その処罰がいつかはひっくり返ると信じ続けたが、とうとう今日を迎えてしまった。

 

 その日メイが載せたティアラが「遺品」としてサフィリア家に戻ってきたのは、10日後のことであった。血痕がついたそれを目にし、メイは倒れた。

 


 どのくらい眠り込んだだろう。メイは目を覚ました。


「ここは……」


 奉公人の休憩室だ。


 窓の外から、侍従たちの会話が聞こえる。


「おい、今回の聖女召喚、二人だったらしいぜ」

「二人も!? 普通一人だろ? それって、どうなるんだ?」


 ――聖女の召喚は2年前のはず。

 

 またおぼろげな頭で、メイはぼんやりと考えた。


 また、聖女召喚が行われたのだろうか。いや、そんなはずはない。聖女召喚は、国の元素が枯渇した折に行われる。頻度はだいたい100年に1回のはず。ではなぜ。


 メイは飛び起きた。すぐそばに、侍従仲間のマクレーがいた。


「メイ!気がついたか!」


 マクレーが駆け寄ってきた。どうやら、看病していてくれたようだ。


「マクレー、聖女召喚って……?」


「王さまが、ゲートを開けられたんだ! 120年ぶりに聖女召喚したんだけど、なぜが二人も召喚されたって。それで大騒ぎだよ」


「聖女召喚って、つい2年前にも…」


「寝ぼけてんのか? 120年ぶりだって!」


 どうなっているのだろう。


「メイのこと、アイリーンさまも心配していたから、報告してくる!」


 マクレーはそう言って、バタバタと部屋を立ち去る。


「え……? アイリーンさま?」


 メイの主人は咎なき罪で、非業の死を遂げたはず。なのに、この屋敷にいる……?


 ――結論はひとつだ。


(処刑はなかったんだ! 夢だったんだ! アイリーンさまは生きてる! 生きているんだ!)


『はうわぁー! え? あたし、生きてる?』


 突然頭の中で、それはそれは明瞭な声が聞こえた。


「え? 何? 誰?」


『あたし、アカリ! あたしトラックに轢かれたみたいなんだけど、まさかの生きてる感じー? でも、ここどこ? めっちゃレトロな病院?」


(トラック? メッチャレトロナ病院?)


 そこへ、アイリーンがやってくる。見覚えのあるパールの髪、ディープブルーの瞳。颯爽とした足取りは軽やかで、生き生きとしている。


 ああ、どんなに会いたかったことか!


「妃殿下!」


 感動でベッドから起き上がるメイに、アイリーンは小首をかしげた。


「妃殿下? メイ、何を言ってるの? まだ私、殿下と婚約すらしていないのに」


 そう言って、メイの主人は微笑んだ。呆れて笑ったように見えるが、メイにはそれが照れ隠しと分かる。


「え? ど、どういう……」


「まだちゃんと回復していないのね。もう少しゆっくり休んで。出仕は、良くなってからでいいから」


 そう言ってアイリーンは、来た時と同様、颯爽と退室した。パールの髪がわずかに放った燐光、その残像を見つめながらメイは独り言ちる。


「どうなってるの……?」


 どこまでが夢で、どこまでが現実か分からない。混乱するばかりである。


 そこへ、さっきの頭の中の声が降りそそぐ。


『たぶんあたし、分かっちゃったから教えてあげる! メイッぴ!』


 さっきの声だ。アイリーンの件ですっかり忘れていた。


『いーい? あたしはこういう小説やゲームを知ってるから、こっからはある意味チートよ!』


「ち、チート? えっとあなたは? どこにいるの?」


『アカリ! さっきも言ったんだけどなあ。あたしね、現代日本でフリーターしてたんだけど、トラックに轢かれちゃったの。んで、乙女ゲー世界観の中に転生するはずが、あなたの頭の中に入っちゃったみたいなの』


「現代日本……」


 聞き覚えがある。たしか聖女も、現代日本とやらから召喚されたのではなかったか。


「聖女さまと同じところからいらしたんですか? アカリさまは」


『メイッぴ~! アカリでいいよ! で、話続けるよ。メイッぴはたぶん逆行してる』


「逆行」


『時間が戻ってるってこと! メイッぴは、聖女召喚は2年前だと思ってるんでしょ? でも実際は今日、行われた。これって、時間が戻ってるってことじゃん』


「たしかに――信じがたいことですが」


 何より、処刑されたはずのアイリーンが無事である。殿下とのご成婚も、ご婚約もすませていない。


『たぶんメイッぴには、するべきことがあるんじゃないかな。だから、時が戻った』


 私のやるべきこと……。そんなの、ひとつしかない!


 アイリーンさまを処刑させないことだ!


『お、するべきこと、ありそうじゃん! あたしも暇だから、じゃんじゃん協力するよー! 転生、逆行、聖女、要素がてんこ盛り! 楽しそうー!』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 侍女が逆行して、謎の転生者?が協力するのね…!楽しみです!
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