六、重役就任断固拒否
6.
後加車騎將軍,開府如三司之儀。祜上表固讓曰:臣伏聞恩詔,拔臣使同台司。臣自出身以來,適十數年,受任外內,每極顯重之任。常以智力不可頓進,恩寵不可久謬,夙夜戰悚,以榮為憂。臣聞古人之言,德未為人所服而受高爵,則使才臣不進;功未為人所歸而荷厚祿,則使勞臣不勸。今臣身托外戚,事連運會,誡在過寵,不患見遺。而猥降發中之詔,加非次之榮。臣有何功可以堪之,何心可以安之。身辱高位,傾覆尋至,願守先人弊廬,豈可得哉!違命誠忤天威,曲從即復若此。蓋聞古人申于見知,大臣之節,不可則止。臣雖小人,敢緣所蒙,念存斯義。今天下自服化以來,方漸八年,雖側席求賢,不遺幽賤,然臣不爾推有德,達有功,使聖聽知勝臣者多,未達者不少。假令有遺德於版築之下,有隱才于屠釣之間,而朝議用臣不以為非,臣處之不以為愧,所失豈不大哉!臣忝竊雖久,未若今日兼文武之極寵,等宰輔之高位也。且臣雖所見者狹,據今光祿大夫李憙執節高亮,在公正色;光祿大夫魯芝潔身寡欲,和而不同;光祿大夫李胤清亮簡素,立身在朝,皆服事華髮,以禮終始。雖歷位外內之寵,不異寒賤之家,而猶未蒙此選,臣更越之,何以塞天下之望,少益日月!是以誓心守節,無苟進之志。今道路行通,方隅多事,乞留前恩,使臣得速還屯。不爾留連,必于外虞有闕。匹夫之志,有不可奪。不聽。
(訳)
その後、車騎将軍と
開府儀同三司
(三公同様開府を許される)
を加えられた。
羊祜は上表し、固辞して言った。
「臣が伏して恩詔を伺いますに、
臣を抜擢して台司(大臣、ここでは三公)と
同等になされますとか。
臣が自ら身を立てて以来十数年になりますが、
内外の任を受けるたびに
極めて重き任を顕して参りました。
常に、我が智力が卒然たる昇進に
堪え得るものではなく、
陛下の恩寵を、間違いにも
久しく賜ってよきものかと
夙夜(朝な夕な)恐々としておりまして、
栄誉である事を憂いとしている次第です。
臣が古人の言葉を聞きますに、
恩徳がいまだ人々を帰服させぬうちに
高き爵位を受ける事は、則ち
才能ある臣下の昇進を閉ざし、
功績がいまだ人々を帰服させぬうちに
厚き禄を荷す事は、則ち
功労ある臣下の勤めを阻むものです。
今、臣は外戚として身を託し
連衡の機運に巡り会いまして
過ぎたる恩寵を被ります事を誡め、
捨てられる事を患いは致しませぬ。
しかし、妄りにも
内裏より詔を下されまして、
次ぐ者のない栄誉を加えられました。
臣はどれほどの功が有らば
これに堪えられましょう。
どんな心持ちで、
これを安んじられましょう。
身共が恐れ多くも
高い位をお受けしますれば、
国家はたちまちに傾覆いたします。
先祖からの弊廬(自宅)を
守りたいと願えども
どうして叶いましょうや。
御命令を違えれば
誠に天威に悖る事となり、
節を曲げて従ったならば即ち
また先ほどの言葉の通りとなります。
蓋し古人は、※知られる事で申し
(※士は、己を知る者の為に力を尽くす)
大臣の節義として、
(職責に)堪えられぬようなら辞退します。
臣は小人と雖も、もし
(要職の)縁を蒙る所となれば
斯様な義に倣いたく存じます。
今、天下が自ら(晋に)
帰服し、教化を受けてより
漸く八年になろうとしております。
側の席に賢者を求め
微賤の者(伏龍)を幽かにせぬように
致してまいりましたが、
臣はそうした有徳者を推挙し
功績の有る者を進達させられず
ご聖聴(皇帝陛下のお耳)に
臣より勝る者が多く、いまだに
(正当に能力を評価されずに)
栄達しておらぬ者が少なくない事を
お知らせ出来ませんでした。
仮にも徳有る者を版築の下へ遣り、
才有る者を屠殺業や釣り人の間に
埋もれさせておきながら、
朝議にて臣を用いる事を誤りとせず、
臣を斯様な重役に処す事を恥じねば、
その失う所が、どうして
大きくないと申せましょうか?
臣は分不相応な地位にあって久しいと雖も
いまだ今日の若き
合わせて文武の極みと申せます恩寵、
並びに宰輔の高位を賜った事はございません。
かつ、臣の見識は狭いと雖も
現在、光祿大夫の李憙は
節を執りて高邁・明亮で
公に在りては顔色を正しております。
光祿大夫の魯芝は
身を潔めていて寡欲であり
協和はせども迎合は致しませぬ。
(同様に)光祿大夫の李胤は
清亮・簡素であり、
身を立てて朝廷に在ります。
彼らは皆服務して華髪(白髪)となり、
礼を以て終始しております。
内外の寵遇(高位)を歴任していると雖も
(質素な生活を送っている様子は)
寒門の賤しき家柄と異ならず、
それでも猶、いまだに
斯様な抜擢を蒙ってはおりません。
臣が新たに彼らを越(超)えたなら
(彼らの方が立派で実績もあるのに
自分がそれを超える地位に就けば)
どうしえ天下の望みを充塞させ、
僅かでも日月(皇帝と皇后)を
輝かせる(得をさせる)
ことが叶いましょうか。
これらの訳から、
心に誓って節義を守り、苟も
昇進しとう意志などは持ちませぬ。
今、道路は(悪党が?)通行し
地方は多事でありますから
臣を以前の恩寵に留められ、
速やかに(荊州の)屯所へ帰還する事を
お許しくださいますよう。
係留されたままでは
必ずや外患への防備に
闕欠が生じましょう。
匹夫の志は奪うべきではありません」
(羊祜の申し出は)
聞き入れられなかった。
(註釈)
上奏文が一番困ります。
長くて畏まってる上に
その実大した事言ってないから。
「三公レベルの昇進? 恐れ多いです」
の一言で済む話だけど、
故事とか引用し出すから……。
こんな長文で謙虚さを披露されると
却って卑屈に見えてくるもんです。
「早く荊州に帰してください」とも
言ってるんですが、そんなに
赴任地でのスローライフが
気に入ってしまったのか。
そんなに中央がイヤなのか。
中央にいたときの羊祜が
窮屈そうに感じたのはおそらく
気のせいではないでしょう。
最後の「匹夫の志」における
匹夫って誰のことなんでしょう。
自分のこと謙遜して
言ってるんでしょうけど、
案外呉のことを指しているのかも?
次回、陸遜の子・陸抗登場!
「陸羊の交わり」の故事です。




