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ショートショート6月~2回目

爪切り

作者: たかさば

パチン、パチン。


爪を切る音が、モノの少ないフローリングの部屋中に響く。


パチン、パチン。


爪を切りながら、ぼんやり思い出す。


パチン、パチン。


……爪を切るのは、いつだって昼間だったな。


パチン、パチン。


「夜爪を切ると、親の死に目に会えなくなるよ」


パチン、パチン。


……いつ頃からかな、夜になってから、爪を切るようになったのは。


パチン、パチン。


会わなくてもいいや、会いたくないなあ、そんなことを思い続けてもう何年だ。


パチン、パチン。


会わないとダメかなあ、会わずにすめばいいのにな、そんなことを願うようになってもう何年だ。


パチン、パチン。


♪♪♪スマホが鳴り響いた。


パチン、パチン。


ああ、また、呼び出しだ。


パチン、パチン。


……今回も、無事に爪を切り終わってしまった。


夜に爪を切ると、親の死に目に会えないよってね。

夜に爪を切ると、親より先に死んじゃうかもよってね。


夜に爪を切ると、その音を聞きつけた悪魔が魂奪いに来るよってね。

夜に爪を切ると、悪魔に魂奪われちゃって死んじゃうんだよってね。


……迷信、かあ。


いつまでたっても元気に生きてる。

いつまでたっても元気に具合が悪いと叫んでる。


いつまでたっても、元気な親。


いつまでたっても死なない程度に不健康。

いつまでたっても使われる程度に体が動く。


いつまでたっても、元気のない自分。


……このまま、共倒れかなぁ?


親の死に目を見ながら、自分も倒れそうだ。

自分の死に目を見せながら、親も倒れるかもしれない。


そんなのはごめんなんだけどな。


♪♪♪…ああ、呼び出しの催促だ。


早く行かなければ。

早く、行かなければってね。


……いかなくても、いいかなってね。

……だって、今、夜中の3時だよ?


……どうせ、行ったところで。


さんざん文句を聞かされて、最後はお前の顔など見たくないと追い出されるに決まっている。


どうせ、行ったところで、死に目には会えない。

私は、何度も何度も、夜に爪を切った。


どうせ、行ったところで、死に目には、会えないに決まってる。

私は、何度も何度も、夜に爪を切ったのだ。


♪♪♪


私は、スマホの電源を落とし、目を閉じた。


眠らせてもらえない毎日が、目を閉じた瞬間に終わった。


眠らせてもらえない毎日は、瞬く間に私の意識を奪った。


夢を、見た。

夢を、見ていた。

夢を、見ることができた。


ずいぶんぶりに目を覚ました私は、のんびり身支度をして、家をでた。


……私は、今から、何を見るだろうか。

……私は、今から、何を思うだろうか。


珍しく、玄関に鍵がかかったままの、実家の、ドア。


今まで、一度だって使った事のなかった合鍵をつかう。


……どうせ、いつものように。


ドアが、開いた瞬間に聞こえてくるのは、歪みきった押さえきれない感情。

ドアが、開いた瞬間に飛んでくるのは、まっすぐ私に向けられる感情。


「夜爪を切ると、親の死に目に会えなくなるよ」


何年も昼間に爪を切った。

何年も夜に爪を切った。


……ドアを開けた、私が、見たのは。






















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― 新着の感想 ―
[一言] 怖い……。何を見たんでしょう。 私はずっと、朝に切っていますよ。親から、散々言われて育ちましたからね。 夜に爪を切るー>親の死に目に会えない。 であって、 夜に爪を切らないー>親の死に目に…
[良い点]  YOU 呪詛ちゃいなよ。成功!? [気になる点] なにかな?なにかな?
[良い点] なにこれこわい 最初はほんわかだけど [気になる点] あれですねもう、親ちゃんがストレスで死ぬほど歪むのん [一言] んでんでんで、どうなっちゃう? したい?
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