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第一章 ep.4

 あくびが止まらない。やっぱり寝不足はよくないよな…。でもさ、昨日の夜、いきなり有給とった親父に嬉しそうにゲームに誘われたら断れねぇだろ?普通。正直何でいきなりとったのかは分からないけれど。ちなみに、昨日も今日も誰の誕生日でもないし、何の記念日でもない。

そして残念なことに、うちの高校は地味だが長い坂道の上に建っていやがるので、寝不足の身体にこの坂はきつい。だらだらと無駄に続きやがって、このやろう。せめて平地ならましだっただろうに。もしくは下り。自転車で颯爽と駆け抜けてみせるのに。

「眠そうだな」

 登校中三度目のあくびがこぼれた時、後ろからおっすと言いながら同じクラスの武田が近付いてきた。武田とは中学の時からの腐れ縁で、親友とも呼べるような間柄である。見た目はかなり童顔で、背も低めなためはっきり言って見た目だけではとてもじゃないが高校生には見えない。中学生だ。しかも中二くらい。おまけに頑張れば女装もいけそうな顔立ちでもある。言ったらぶっとばされるが。ちなみに下の名前は紘基で、たいていの人間にはひろと呼ばれている。

「まあな、夜遅くまで親父とゲームだよ」

「相変わらず仲良いな、お前ら親子。で、何のゲームしてたんだよ」

 にやにや笑いながらこっちを見てくる武田の頭をはたいてやった。

「期待してるとこ悪いが、ぷよぷよだ。おまけに、分かんねぇかも知れねぇけど、フィーバーじゃなくて、ぷよぷよ通。めちゃくちゃ古いやつ。画面から昭和の香りがしたぞ」

「…もうどっから突っ込んだらいいのか分かんねぇぞ、それ」

「しょうがないだろ、親父が中古で買ってきたソフトなんだからさ。親父が分かるソフトなんてぷよぷよかポケモンぐらいだろ。むしろポケモンじゃなかっただけ、まし」

「せめてドラクエぐらいまで進ませろ、お前の親父」

 無理だなとか答えながらふと思い当る。

「あれ?お前野球部の朝練は?」

 こいつはこんななりして野球部のエースだったりする。こんななりして次期キャプテンとも言われている。こんななりして…。ぶっとばされそうだ。

 うちの学校は通学の邪魔になるというとんでもない理由で、大会前でもない限り、朝に部活のグラウンド使用禁止であるが、真面目な野球部は確か学校の周りを毎朝走りこんでいたはずだ。というか、今日も何人かに追い抜かれながら坂を上ってきた。

「そこはなんとなくニュアンスで悟れよ」

 さぼったんだな。

「え?ちげぇよ。ちょっとこう…な?目を覚ますとこう…いつもの時間ではなかったというかさ」

 遅刻によるさぼりか。

「だって毎日毎日やってられっかよ。大事だと分かっていても、しんどいものはしんどいんだよ」

 おい、いいのか?いくらそんな気合の入ってない野球部だと言ってもこんな奴がエースで次期キャプテンでも。弱くても真面目でこつこつと練習を頑張る野球部から、弱い上に頑張らないただの廃野球部に来年から退化するぞ、おい。というか、開き直るなよ。

 横で伸びを始めたそんなダメダメ次期キャプテンが鞄を後ろに回すと、背後から何か嫌な音がした。

「痛いよ、ひろ」

 小さく聞こえた声に思わず振り返ると、鼻をさすりながら情けない顔をした男がそこに立っていた。

「あれ?いつの間にお前後ろにいたんだよ。てか、何で鼻なんだよ」

 その前にお前は謝れ。

「ひろが上から思い切り振りおろしてきたんじゃないか。歩いてたら前にひろとそーごの姿が見えたから話しかけようとしただけなのに」

「そっか。悪りぃな」

 よし、偉いぞ、武田。

「それにしても、めずらしいね。二人が一緒に登校してるなんてさ。そーごとはたまに会うけど、ひろには滅多に会わないからさ」

 赤鼻のままでにこにこと笑うこいつは野木原。こいつも同じクラスでいつも俺と武田と野木原の三人でいることが多い。こいつとは高校からの仲なのだが、いつもにこにこと笑っているせいか、今だに何考えているのかよく分からない。基本的に何を言ってもにこにこと笑うだけで、笑いながら毒を吐いたりすることもないので、悪い奴ではないと思うのだが、いまいちつかみ切れない奴である。

「それはまぁ…大人の事情ってやつですよ」

 吹けもしないくせに口笛を吹いてごまかそうとする武田の後ろで俺はこっそりと野木原に耳打ちする。

「何となくでいいから察してくれ」

「…なるほど」

 物分かりのいい奴だ。


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