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まおうといっしょ! 〜復習、虐殺、建国への道〜  作者: 爪楊枝
魔王との旅立ち
8/26

03


「無いな…糸と針」

「そうだな…」


あれから何時間たったか、俺とロベリアは未だに旧市街の廃墟を物色して回っていた。古いが保存の効く食料や衣類、かつての住人が残して行った貨幣などが見つかったが今一番欲しいと言っても過言では無い糸と針が見つからない。ロベリアの作戦を考えれば彼女の首と胴体は繋がっていた方が好ましい。しかしここまで探して無いのならもはやこの場所には無いのではないかと俺は思い始めていた。


「こうなれば仕方がない、ゼンノスケがどこかの村か町で買ってくるしかないかの…丁度貨幣も幾らか見つかったことだし」

「いやいや、俺は案外寂しがり屋なんだ。こんなわけわからん場所でひとりで買い物なんてできないぞ。それに他国の人間と言葉は通じるのか?」

「通じるさ、今ゼンノスケと我がこうして話し合えているのだからな」

「え?」

「…別に我とゼンノスケは同じ言葉を話しているわけではないぞ。ただ単にこいつはこんな感じのことを言っていると魔法で互いの言語に翻訳しているだけにすぎん、まあこれもゼンノスケを召喚した時の付属品だ」


まじか…すげえ、コンニャクみてえだ。


「ま、まあ言葉が通じるのは分かったけどやっぱりひとりで行くのはちょっとなぁ…ここに来て初めて会ったヤツに殺されてるわけだし」

「む…そうか?それなら別の手段を講じよう。」

「別の手段?」

「よっと…」


軽い掛け声と共に、ロベリアは頭を持った腕を上に伸ばし勢いをつけて胴体の首部分にくっつけた。


くっつけた…と表現が軽い感じになってしまったが、目の前で行われた行為はとても直視できるものではない。ゴリゴリとなにかが擦れる音や時折パキパキと不気味な音も聞こえる。そしてその度にロベリアの口からとても可愛らしい少女とは思えない鈍痛に喘ぐ声が聞こえてきた。


「う、うわぁ!?な、なにしてるんだよ!!」

「なにっ!?て……こうっして脊椎を差し込んでだな……うぐっ…おっ!ほれゼンノスケ見てみろいい感じにはまったぞ!」


無邪気に笑う少女の笑顔の下、その首は歪な歪み方をした接着痕が残っており見るだけで痛そうだった。


「ろ、ロベリア?なんで急にそんなことを…」

「ん?なぜってゼンノスケはひとりでお使いに行くことが嫌だったのだろう?まったくしょうがないヤツだ。ならば主人として我がその尻を拭いてやらねばな。まあこうして無事に首も繋がったのだ。喜べゼンノスケ、これでお前はひとりでお使いにいくことはなくなったぞ!我と一緒におれる」


その首は無事では無いし、その狂気染みた発想に俺は恐怖の感情を覚えたがそれを顔に出さぬように気をつける。ロベリアの言う通り、これは俺のことを思ってやったことなのだ。……変なわがまま言うんじゃなかったと今頃後悔してしまう。


「でもそれ…本当にその内くっつくのか?」

「我の身体を甘く見るなよゼンノスケ、この程度ならそうさな…3日もあれば元通りよ!」


とにかく、こうして服や首の問題を解決した俺たちはついに旧カルミア市街を出て東へ進み始めた。長年使われていないせいか凸凹で草も生え散らかった土の道を行くこと2日、旧カルミアの領地を抜けていくつかの村や町を見かけたがそこに立ち寄ることはなかった。まあロベリアの首がちゃんと繋がるまでは人との接触は避けた方が良いだろう。…でもできることなら風呂に入りたいし美味い料理も食べてみたい…


そんな旅の最中、俺たちの前に一匹の犬が現れた。犬?狼?とにかく俺の住んでた町でも時々見かけた海外のバカでかい犬の一回りくらい大きい。灰色の体毛をした犬のようなヤツだ。


「ロベリア、なんかやばそうな奴がいるんだが…」

「あれは…犬だな」

「犬なの!?」

「ああ、我も昔城で似たようなのを飼っておったから間違いない。あれはただの犬だ。よし見ておれゼンノスケ、我があやつを手なずけてみせよう」

「お、おい不用意に近づかない方が…」


なんの躊躇いもなく犬とやらに近づいたロベリアは左手を伸ばしてコミュニケーションを図り始めた。


「ほれほれ、警戒する必要は無いぞ〜我らはお前の敵ではな……


一瞬…犬が揺れた…いや、揺らめいたようにおれには見えた。そして犬の姿が揺らめいたと思った時にはロベリアの左手はすでに噛みちぎられていた。


「ロベリア!!!」


や、やっぱりただの犬じゃないだろアレ!!!


「むう…全く困ったものだ…こうも容易く頭や腕をポロポロポロポロ取られていたんではこの先が思いやられるな」


腕を噛みちぎられたというのに冷静な反応のロベリアは残された右腕を振り上げて犬の鼻先へと振り抜く。



「おすわり」



相変わらずの馬鹿力で叩かれた犬はその場で地面へ激突し動かなくなった。


「どれどれ……うわぁ…」


地に伏せた犬の上顎を持ち上げ、飲み込まれかけていた腕を取り出したロベリアが嫌そうな声を出す。どうやらヨダレにまみれている様だ。あれは…乾いたら地獄だな。


「おい、ロベリア…大丈夫……じゃ無いな」

「ふん、別にどうってことないわこれくらい!」


千切れた部分の断面同士をグリグリとくっつけながらロベリアは言う。どうやら少し機嫌が悪い、多分。


「しかしまだ首の傷痕も綺麗に消えてないのにまた新しい怪我しちまったな…」

「こんなもの勇者を殺すことになんの影響もありはせんわ!」

「わかったわかった」


プンプンと見た目年齢に合った怒り方をする魔王はガシガシと地面を何回か蹴る。


「それよりゼンノスケ、そろそろ日も落ちる。この辺りで村を探そう。」

「村?今まで避けてたのに…なにか買い物か?」

「いや、そろそろロサに入る。この辺りでまずは情報を集める。我が来た頃より国の情勢が色々変わってるやもしれぬしな」

「……慎重だな」

「我はこれでも王だぞ。王たるもの慎重でなければならぬからな!」


先ほど犬に腕を千切られた魔王がなにかぬかしているが気にしていたら負けだ。きっとこれは高度なボケだきっとそうだ。


「まあ、俺はお前に従うだけだしな。よし行くか」

「うむ!」


この日、俺とロベリアは初めて村へ行くことになった。




「あ、その前に腕と首どうにかして隠さなきゃな」

「なにか布切れでも巻いておけば良い。変な目で見られるが仕方がないさ」


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