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まおうといっしょ! 〜復習、虐殺、建国への道〜  作者: 爪楊枝
魔王との旅立ち
6/26

01


赤黒い光が弱まり、次第に周りの風景と目の前の玉座に座る首無し死体とその膝に乗せられた笑う生首の姿が目に映る。


「おぉ!やってみたら案外できるものだな!」


少女の生首…魔王ロベリアはきししっと笑いその八重歯を覗かせるが、俺にとっては全く知らない世界の話を聞かされた直後にさらに訳の分からないことが起きたので呆然とするしかなかった。が、つい先ほどロベリアと交わした言葉があの勇者との間で交わされたものに酷似していたことから俺はなんとかその名を口に出すことができた。


「お、おい!今のって…もしかして勇者の加護ってやつなんじゃ…」

「察しが良いなゼンノスケ!そう、今この時をもって我、ロベリアを主人とした勇者の加護が発動した!魔力がほとんど無くても言葉の契約のみで良いんだから楽なものだな!」

「いやいや!そんなことしてなんになるんだ!?」

「む?特に何もないぞ、我とゼンノスケの間にはすでに主従関係がむすばれておったからな…それにゼンノスケの中にある我の魔力はあくまでも我のものだ。ゼンノスケが任意、もしくは魔法を行使して供給するなんてことは不可能だ。ゼンノスケが元々持ってある生命力を削っても我の傷を癒せるわけでもないからの」

「じゃ…じゃあなんでわざわざ加護を…」

「ふん、ただやってみたかっただけだ!それにあの女の加護が付いているというのは好かんからな、予防だ。」

「予防?」

「まあ、この話は良いではないか、それよりなにかゼンノスケから聞いて起きたいことなんかは無いのか?無いのならとっとと糸と針を探すとしよう」

「…!えっと……」


聞きたいことなら山ほどあったが、今すぐに知りたいことはやはりこれだろう。漫画やアニメではこれを理由や目的に主人公が頑張るのだから。


「俺は元の世界に帰れるのか!?」

「……帰れるぞ」


思ったよりあっさりした返しだった。表情は真面目なものになったものの、それほど暗いものでもない…案外簡単に変えれたりするのだろうか?いや、そもそも餅を詰まらせた記憶が本物なら今俺の体は向こうではどうなってるんだろう…


「本当か!?」

「我は嘘はつかん、しかしながらゼンノスケを元の世界に返してやれるかはこれからの頑張り次第だな。勇者どもを殺して、我の魔力を自由に引き出す方法を探せば後はなんとでもなる。」

「そうか…」


やはり勇者を滅ぼすという目的は彼女の中で相当大きなもののようで、俺はその手伝いをしなければならない運命のようだ。


…怖い……でも不思議と体が震えたりはしない。こんな訳の分からん世界に来たというのに今は落ち着いてさえいる。これは彼女……ロベリア・カルミリアと共にいるからだろうか…


「で、他にはあるか?聞きたいこと」

「最初はどんな勇者を殺すんだ?」


質問をしてから今自分が聞いたことの異常さに気づく。なにを口走っているんだと一瞬気恥ずかしくなるし、自分の感情が今どんな状態なのか不安にすらなる。しかしロベリアは俺の質問に対して真面目に返してくるのだから、自分がいた世界と比べればそりゃ不思議な気持ちにもなるかと半ば諦める。


「そうだな、近くの国から順に潰して行ったんではすぐに情報が知れ渡り包囲網を形成されかねん…それを回避するためにもまずは人口が少なく他の国との貿易もほとんどないところが良い」

「……そんな国があるのか?」

「ここより東に2つほど国を超えた場所にあるロサという国。そこにおる勇者を討って足がかりとしよう」

「…そういえば、勇者はひとつの国に1人いるって行ってたがそれって100年前の話だよな?今はかなり減ってるんじゃないか?」

「我らの世界とゼンノスケの世界ではそもそもニンゲンという生き物のカテゴリから違う。歳をとる者もいればずっと若いままのやつもおる。それに言い忘れておったが153人の勇者はなにも順番通りではない。幾人かの勇者は魔王との戦いの最中その命を落としておる。今いる153人の多くははその後新たな魔王がその座に就いた時に誕生した者達だ。」

「じゃあロベリアが魔王になった時にもひとり勇者が生まれてんのか…」

「きしし、そうだな」

「なにが可笑しいんだ?」

「勇者なら目の前におるではないか」

「……はあ?」

「お前だゼンノスケ。そもそも我は正式に魔王を名乗ったのはついさっきのことだ。そして今ゼンノスケは我と勇者の加護の契約を行った」

「……まさか…」

「おめでとうゼンノスケ、我らは今この世界の法則を打ち破り新たな魔王と勇者を同時に出現させた。これでお前は154人目……新生カルミアの勇者だ!」


嬉々として喋る生首の上で、女子の首なし死体が拍手をしている。実にシュールな光景だった。


実感も湧かぬまま召喚され、加護を受け果てには勇者になった……なってしまった。それも魔王側…勇者を殺すために魔王が呼んだ勇者…あぁ、頭が痛い。俺の心配なんて他所に、ロベリアは続ける。



「変な顔をしている暇など無いぞゼンノスケ…すぐにここを立つ!目指すはロサ!勇者の名はローズ、前回出会ったローズマリーの実の兄にして情熱の勇者と呼ばれる男だ!」

「……!!!」


あの女の兄………めちゃくちゃ嫌な予感がする…


「さあ、行くぞ!」


頭部を片手に乗せ高らかに上げた身体は、玉座の上に立ちポーズをとった。





こうして、体術オンリーの魔王と大量の使えない魔力がある内は不死身な勇者の旅は始まった。



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