05
「むむむ?はてゼンノスケ?今お前はなんと言ったのだ?」
「…無理だろそれは……」
「なんでだ!やる前から諦めるなよ!」
「えぇ…」
生首のくせに熱く訴えかけてくる彼女だが、俺はいたって冷静だった。
「だって先代の魔王と王族も殺されちゃったんだろ?そんな奴らに俺たち2人だけで勝てるわけない…というか俺を数に数えないでくれよ…」
そもそも俺は高校生なんだ、人を殺すような覚悟なんて持ち合わせているはずがない。さらには勇者の加護やらなんやらの実感だってまだ湧かないのだ。
「安心しろゼンノスケ!ヤるのは我だ!お前は我のそばにいるだけで良い!」
「…ど、どういうことだよ?」
「お前を召喚した理由はふたつ、ひとつは我の膨大な魔力を勇者どもから隠すための貸金庫的兼燃料タンクな役割のためだ。我がゼンノスケに触ることでその鍵が解かれて魔力の授受が可能なのだが…」
「…勇者の加護で触らないんだったか?」
「その通り!だから我の首も放っておいては再生せぬし、お前から引き出せる魔力はかなり少数だ」
「……」
…彼女は笑っているが、それってかなりまずいんじゃないか?
「だが安心しろ、我にはこの類稀なる身体能力がある。昨夜のように勇者が襲って着ても返り討ちにしてくれるわ!」
「いや!お前首切られてるじゃん!」
「だはーっ!そうだったわ!」
…なんでこの首はこんなにも楽観的なんだ…
「…な、なあ…ロベリア・カルミリア?」
「ロベリアでよい」
「じゃあロベリア…もしかして昨日の女も…」
「うむ、勇者のひとり。あれは確か東にある小国、サルビアの勇者ローズマリーだな」
「じゃあ…あの人のことも…」
「いや、あれは殺さん。昨日は殺すと言ったが撤回する」
「え?」
「言ったであろう?奴は7日後にはゼンノスケを守るために行動するようになると…ならば我の僕の僕ということだからな!ほっとけばよい!」
「あぁ…そういう…」
「それにゼンノスケ、お前が思うほど我々は追い詰められてもおらんぞ?」
ロベリアは自信ありげに話す。心なしか体の方も無い胸を張っているように見える。
「たしかに魔力を供給できぬ以上、我の素晴らしき魔法の数々を使用できぬがメリットもある。今の我の魔力は恐らく一般市民に毛が生えた程度であろう。それにこの容姿、これならば勇者にバレずに近づくことも可能だ。近づきさえすればこちらのものよ。きしし…」
「首はどうするんだよ」
「だからどこかで糸と針を探すと言うておろう?こちらから引き出すことはできずとも、少なからずゼンノスケから我に魔力の供給自体はされておるのだ。くっつけておけばそのうち繋がる」
「……そうだ…俺の首…というか体もだけど傷が一瞬で治ったんだ…これはどういうことなんだよ」
「…再生の魔法は勇者の加護によるものだろう。それから首を飛ばされたのならそれは蘇生魔法によるものだ。お前に死なれては我が困るからな、ゼンノスケが死ぬと同時に発動するように仕掛けてある。我の魔力の尽きぬ内はな」
「魔力が尽きる?漫画とかみたいに休んで回復はできないのか?」
「マンガ?それがなんなのかは知らんが我の魔力は今完全にゼンノスケの中にあり、勇者の加護に邪魔されこちらからの補充は不可能…できるのはそっちからの供給のみだ。」
「どういうことだ?」
「まあつまり魔力が底を尽きれば我もお前も仲良く死ぬということだな」
「なっ……!?」
「きししっ、正に運命共同体というやつだ!」
「何嬉しそうにしてるんだ!?」
体の方も何か肩を抱いてクネクネしている。あれは喜んでいると見ていいのだろうか?
「まあそう焦るな、ゼンノスケが何度死のうが余りあるだけの魔力量だ。それに死なない程度の怪我であれば勇者からの魔力で治癒されるはずだからな。勇者の加護と魔王の呪縛を同時に受けたものなど今まで聞いたことがないぞ。誇れよゼンノスケ」
「……誇れねーよ…」
加護と呪縛…互いが互いを邪魔しあってるじゃないか…
「それで?あとひとつの理由ってのはなんなんだ?」
「あー…それなんだがもう意味もないからこのまま内緒ってことにしておいてくれ」
「なんだそれ…」
「とにかくだ!我がわざわざ異世界より選び、お前の運命を弄ってまでここに連れて着たのだから今日から勇者を滅ぼすその日まで、この我に付き従い側にいることを誓えゼンノスケ」
恐らくこれはロベリアと俺が主従関係にあるからだと思うが、不思議とロベリアの命令を破る気が俺に浮かぶことは無かった。
「それ以外俺に道があるのか?」
「無い!」
「……はぁ…それならもう断る気もないよ。行くとこまで行くとしよう」
「きししっ!決まりだ!ならば我が異界より召喚せし勇者ゼンノスケよ、我のために生きよ!」
「はいはい…」
「きし…しししっ」
ロベリアの言葉に返事をした瞬間、俺の左手の甲とロベリアの頭部が赤黒い光を放つ。
「え!?」
一瞬何が起きたかわからなかったが、それがなんなのかすぐに思い出した。