04
「さあ、もう少しだぞゼンノスケ!足をキビキビ動かせ」
「わかってる…」
相変わらずよく喋る生首を片手で乱暴に持った小さな体の案内で森を抜けた俺は日が昇り始めた頃にある廃城へとたどり着いた。
「でかい城だな…」
「そうだろう?勇者どもに討ち滅ぼされる前はもっと立派で城下には多くの民がいたものだ」
「勇者に滅ぼされた?」
「…まあその話は後で良い。とにかく今は階段を登れ」
「…はいはい」
一晩中この動く女児の死体と喋る生首と共にいて分かったことが少しだけある。ひとつ、喋る生首はどうでも良いことはよく喋るが俺の質問にはあまり答えてくれないこと。もうひとつは体と頭でふたつの感情を有しているかもしれないということだ。頭が笑い転げている時も、体の方は女騎士を蹴っていたのでもしかしてと思っていたがどうやら頭と体は本当に別の意思で動いているらしい。
現に今も髪を持ってぶら下げた頭を崩れた壁や階段の角にぶつけながら移動しており、その度に頭がプンスカと怒っている。
「ほら着いたぞ、この扉の向こうだ」
大きな扉…というよりもこれは門といった方がいいのでないだろうか?とにかく、扉の前に立った少女は人一人が倒れる程度に扉を開けてその中に入る。今彼女はさりげなく扉を開けていたが、俺はそれにも驚かされた。どう考えてもあの華奢な体で開けられるサイズではないからだ。
「どうした?入ってこい」
「あ、ああ…」
扉の向こう側から少女の声がし、俺も続いて中へと入る。その向こうは、かなり広い空間になっていたが、天井は無く、というより崩れており太陽の光が眩しい。石造りの床や壁には草や根っこが生えてその時間の経過を伺うことができる。ところどころが破れ、埃にまみれた絨毯の先、階段の上にひとつの玉座が置かれていた。
その玉座にペタペタと足音を立てて駆け寄った体が座り、その膝の上に頭部を乗せる。
大きな玉座にその小さな体は不釣り合いに見えたが、どこか威厳さえ漂って見えるのは気のせいだろう。
「ゼンノスケ、近くに寄るが良い」
絨毯の上を歩き、玉座まで10mほどまで近づいた時少女から再び声がかかる。
「そこで座れ。お前のくつろぎやすい格好で良いぞ。」
そう言われたので胡座をかいて座ったが、こういう場所では普通片膝をつくとかそういうのがいいのではなかろうか?
「きししっ…やはりこうだな!この構図が一番それっぽい!」
「……?」
「さて、ゼンノスケ今こそお前に話すべきだな。我がお前をこの地に呼んだ理由を」
「えっ!?聞かせてくれるのか?」
「当たり前だろう?何も説明せんままでは互いの絆すら構築できんそれともなんだ?我が何も聞かせずお前をこき使うとでも思ったのか?」
ちょっと思っていたが黙っておく。
「い、いや!そんなこと思ってない!聞かせてくれ、俺を呼んだ理由ってのを」
この地に呼んだという言葉から多分ここは自分の故郷とは違う所だと分かったが、それ以上に不思議なことは山ほどある。
「うむ、まずはそうだな…この世界のことを説明しよう。ゼンノスケももう感づいておるとは思うが、ここはお前のいた世界とは別次元に存在する世界。名をテトラゴナ、ゼンノスケのいたチキュウ?とかいう世界とは全くの別物だ」
「それは…まあなんとなく分かってはいたけど…」
魔法とか言われた時点…いや、目が覚めたら鎧を着た女がいた時点で…
「うむ、飲み込みが早くて結構。では続けるがそもそもこの世界には4つの大陸が存在しており、その大陸ごとに大小様々な国が形成されておる。そしてそこに住まう物もまた様々だ。」
「…?それってつまり」
「我のような存在、ニンゲンの言葉で言う魔物か?まあとにかく多くの種族がひとつの国に所属し、それがいくつもあるのだ。以前のこの国以外はな…以前ここにあった国、カルミアは魔物のみで形成された国だった。それが理由で周辺から疎まれたカルミアはよく周辺諸国との小競り合いをしていたものだ。特に人間のみが住む国々との溝は深く、我々のことを魔王国…それを統べる王のことを魔王と名付け泥沼の戦争を繰り返した。まあ魔物とニンゲンの間には魔力も身体能力でも大きな差があったからの…領土も民もそれほど疲弊することなくいられたが数年に一度、もしくは魔王が変わるごとにニンゲンの中から特異な力を持って生まれるものが出始めた。それが勇者だ。」
「勇者と魔王の因果関係は不明だが、ひとつだけ確かなことは魔王が現れると勇者も現れることだ。魔王を討ち取るほどの者が現れた始めた時にはもう遅かった。勇者を恐れて次々と代替わりする魔王と新たな魔王が誕生するごとに生まれる勇者の構図は最悪な形で終わりを迎えた。4つの大陸、カルミアを除く大小含め全153カ国その全てに勇者が誕生した時、次なる勇者が誕生することはなくなった。しかし153人の勇者に敗走し続けたカルミアは次第に縮小し、民は減り最後にはこの城に王族のみが残っておりもはや国としての形は保っていなかった。」
「…それで…カルミアはどうなったんだ…」
「見ての通り、いくら魔王や魔物の王族といえど大量の勇者になすすべなく虐殺されカルミアは100年前に滅んだ。残ったのはこの城だけだ」
「じゃあ…お前は…」
「ああ、我こそがあの戦火から生き延びただ一人存在するカルミアの王族にして現魔王、第246代カルミア国王 ロベリア・カルミリエである。我は憎き勇者どもを皆殺しにし、再びカルミアを復興させるためにゼンノスケを異世界より召喚した!!」
…声高らかに宣言した生首はこれでもかと言うくらいの可愛らしいドヤ顔を披露しているが、一連の話を聞いた俺の感想は…
「無理だろそれは…」
この一言だけだった。