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03


「どうしたゼンノスケ、そんな顔をして」

「……」

「…あぁ、この女のことなら気にすることはない。この程度では死ぬことはないし、そもそもそのうち殺すことになるのだからな」

「いや…」

「ん?違うのか?あぁ、お前が小便をまき散らしたことを恥じているのだな!良い良い気にせずとも、我は寛大だからな!許してやろうその程度のことは!そんなことより早く立て、そんなに小便の臭いを漂わせておるとそれこそ獣の餌になるぞ」

「いや…く、首が……!!」

「む、これは仕方がないことだ。どこかで針と糸でもくすねて繋げておけばそのうちくっつくだろう、それより2度目だぞ?早く立て」


やけによく喋る生首に促されて立ち上がった俺は見える角度の変わったその存在をもう一度見たことを少し後悔した。自分よりも背の低い少女の首、その断面図をまじまじと見ることになったからだ。


「おえっ……」

「なんだなんだ?安心して急に吐き気でも催したのか?ほら我が背中を撫でてやるから楽にすると良い。」


己の頭部を放り投げ、自立する女児の死体が俺の背後に回り込んで背中を撫でようとする。が、その手は触れることなくバチンと音を立てて何かに弾かれた。


「あ?なんだそれは…む?ゼンノスケ、ちょっとその手を見せてみろ」

「手?あっ…これって…」


見ると俺の右手にいつのまにかあった刺青のようなものが熱を帯び、淡い光を放っている。


「これは…勇者の加護か?でもなんでゼンノスケに…」

「勇者の加護?」


確か女騎士もそんなことを言っていたような気がする。


「勇者の加護というのはかなり古い魔法の一種で単純な契約内容と反して勇者が敵と判断したものに対するアホみたいに強力な守護の力を宿す力のことだ…で、なぜそれがお前についておるのだ?」

「い、いやそんなこと言われても…」

「本人がわからんはずないであろう!この魔法を発動するには儀式めいた宣誓とそれに対する了承が必要とされておる!必ずなにか心当たりがあるはずだ」

「宣誓と了承……あっ…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あっはっはっはっ!!!!ひーーーーっ!!!あっはっはっ……あへ…ふーーっ!!」

「なにがおかしいんだよ…」

「おかしいもなにも…ゼンノスケ!ふふっ……気がついたらその女が跪いていて何か聞かれたからはい?と聞き返しただと!?あーっはっはっはっ!」

「……いや、そもそも魔法ってなんだよ…」

「ひーっ…ひっひっ…まあその辺はまた説明してやる……とにかくその勇者の加護のことだが、まあ簡単に言えばその女とお前は主従関係を結んだということだ。そいつはお前を守るように行動する」

「は、はあ?でも俺さっき殺されかけてたんだぞ?」


というより、多分2回ほど確実に殺された。


「それは契約をゼンノスケが強制的に発動させたからだろう。その女は契約の破棄を願ったのだろう?」

「だ、だから俺は断ったって…」

「きししっ…ゼンノスケ、お前はなんと言ったのだ?」

「え?ふつうに断るって言ったけど…」

「ぷぷぷ!」

「さっきからなんなんだよ!」


地面にめり込んだ女騎士をゲシゲシと蹴っている体と違い、地面の上でコロコロと笑い続ける少女の頭はやっと落ち着きを取り戻してから言葉を続けた。


「ふぅ…まあとにかくゼンノスケとそいつが交わした言葉をもう一度思い返してみろ」

「…?えっと…確かその勇者の加護と誓いを受けてくれるかって問いに俺ははい?って聞き返して…」

「あぁ、ゼンノスケの言葉に感情はいらん、その文面だけで考えれば良い。」

「文面?……受けてくれるか…はい…まだ間に合う契約の破棄を…断る…なっ!?」

「きししっ、やっと分かったか?この魔法はそもそもとある勇者が仕える国の姫を守るために生み出した儀式が派生したものだ。互いの意思に関係なく、その言葉のみで主従関係を結び主を守る。まあ、使い道としては勇者を国に縛り付けるための枷にすることの方が主流ではあるが…まあそいつもあと7日もすればゼンノスケを守るようになる」

「…それって…口約束だけで命を捧げるようなもんじゃないか…」

「口約束だろうがなんだろうが魔法による契約は絶対だ。それを破ることができるのは勇者の主であるゼンノスケ…お前だけだが…残念なことにお前に魔法は使えんからな、その女はもう一生お前の下僕だ。良かったな!」


当然のことのように笑う少女の頭ではあるが、俺は理解に苦しんでいた。先ほどから登場する魔法という言葉もそうだけれど、喋る生首や再生した自分の体…訳の分からないことが多すぎる…


そして何より彼女。


あの時確か誓いと告白と言っていた。俺自身も愛の告白だと思ったのだから多分そうだ…それを台無しにされたどころか…一生知らない男の下僕になるだなんて…考えるだけでもおぞましいだろう…


今になって彼女の怒りが当然のもののように感じる。


「なんだゼンノスケ、その女のことを気にしておるのか?お前は我のことだけ考えておけばいいのだからそんな奴放っておけ。それより行くぞ、時間も魔力も有限だがやることだけは死ぬほどあるからな」

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