表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

01


「走れゼンノスケ!」


陽が落ち、視界の悪い森に少女の声が響く。

その声に導かれるように俺は走る。


「待て!止まれ殺してやる!」


背後からは怒りに狂う女の声。

進行を邪魔する木々を切り倒して迫って来ているのか、物凄い音を立てながらこちらに近づいて来ているのがわかった。


「くそっ…もうダメだ!」


どれぐらい走ったのかわからないが、もう足の感覚も無い。胸も痛い。もうすぐ追いつかれる。今俺が置かれている状況は絶望的と言って差し支えないものだった。


あぁ…こんなことになるなら母さんと父さんに日頃からありがとうの言葉ひとつでもかけておけばよかった。今思い出すのは最後見た光景、正月ということもあり親族が集まった宴会の席で甥っ子姪っ子や従兄弟たちと餅を食べていた時のことだ。調子に乗って餅を頬張りすぎた俺は餅を喉に詰まらせてそのまま気を失った。


「……って、うわっ!?」


考え事に気を取られていたのか、足元への注意がおろそかになった俺は木の根に躓き、そのまま前に倒れた。


直後、背後にガチャリと音を立てて何者かが立ち止まった。恐らくは俺を追いかけていた女だろう。振り返ることもなく、俺は目をつぶり頭を抱える。なにをしても助からないことがわかっているからこその行動だった。


終わった…春野 善之助の18年という短い人生はこうして幕を「間に合った。」


間に合った……そう聞こえた。一体何が起きたのか分からなかったが、頭上をなにかが凄まじいスピードで通過したかのような突風が吹いた思ったら、今度は女が立っていたであろう背後で轟音が響き、地面が揺れた。その数秒後に、離れた場所の草木となにかがぶつかる音。


「え……?」


恐る恐る目を開けて後ろを振り返ると、そこには闇が立っていた。


闇、そう表現したのは彼女からなにか嫌な気配を感じたから…そして何よりその長く綺麗な黒い髪が原因だ。ボロボロの布をマントのように羽織っているためその全身はほぼ見えないが、身長はそれほど高くない。姪っ子と同じくらい…小学校高学年程度だろうか?ただ、それとは不釣り合いなほど長く伸びた髪が風に揺れ、月に照らされ怪しく輝いている。


俺は言葉を失っていた。それほど、彼女の後ろ姿は綺麗だった。


「なんだゼンノスケ、間抜けな顔をして…まだ油断する暇なんてないぞぉあ?…………」


振り向きざま、最後まで言葉を発することなく黒髪の少女の首が飛び、その瞬間がスローモーションのように見えた。切れた髪が血飛沫とともに飛散し、人形のように美しかった彼女の顔は歪み口や鼻から体液を散らしている。


そしてそのまま、少女の頭はゴトリと音を立てて地面に転がった。


自らの心臓が聞いたこともないほどの鼓動を打ち鳴らし、身体中に血を巡らせている。きっとこれは逃げろという警告だ。目の前の光景に麻痺し、機能を放棄した脳の代わりを果たそうとしているのだ。


気づけば俺の後ろに立っていたであろう女が、不自然に草木が倒れた方向から歩いてくるのが目に入った。白い鎧…動きやすさや防御力を重視したそれとは違い、見た目全振りの煌びやかな装飾はどこかRPGのゲームに出てくるキャラクターを思わせた。怒りに染まった顔ではあるが端正なつくりで、平常時の彼女がどれほど綺麗かを想像することも難しくはない。


しかしその金髪が風以外の何かの影響を受けてユラユラと上へ揺らめく姿は某バトル漫画の主人公を思わせた。


黒髪の少女の首を切り飛ばしたのは間違いなく彼女だろう、距離も離れているし物理的に無理だがきっとそうなのだ。そして今度こそ間違いなく俺も殺される。ズボンが暖かくなったのに気づかないほど混乱しているはずの俺は、すぐそこまで迫った目に見える形の死をなぜか冷静に目で捉えていた。


いや、これはどちらかというと本能だろうか?目を離せばそこでヤラレるという…


「さぁ…今度こそ終わりだ。」


目の前に迫った鬼神のような形相の金髪碧眼美女を眺めながら俺は考える。どうしてこんなことになったのかを…






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ