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22 必ずしも幸せとは限らない(相手次第)

 一方のアパート引き籠もり組は――――


 大家の部屋での話し合いでは、能動的なメンバーがいないせいもあって『絶対に外へ出るな』以外何も決まらず、レオノーレに付き添われて部屋に戻った雅人は、パラパラと漫画のページを(めく)って閉じ、ぼんやり窓の外を眺めていた。

 就職した兄が置いていった本など、既に何度も読み返しているのだ。

 立ち上がって置いてある物が少ないダイニングに移動すると、しばらく身体をほぐしてから、先日篤志に教わったパンチとキックを試したあと、独りごちる。


「うーん、一人でやってもなあ……」


 呟くと同時に、足元をドンドンと叩く音が響いた。真下は乃愛の部屋だ。


「あれ? うるさかったかな?」


 本人が思う以上に熱が入っていたのかもしれない。

 だが、これといって暇潰しの方法がないのだ。

 ひとつ溜息を吐いて部屋の片付けを始めた雅人は、去年の学園祭で使った小道具を発見した。

 一つ目妖怪のお面と、畳まれた黒い布だ。

 お面は内側に細工が(ほどこ)され、口で操作すると(まぶた)が開閉する。

 なかなかに凝った作りで、表面が伸縮性のある素材で作られているため、腹話術の人形のような分割線が入っていない。

 お面を付けて布を被るだけで、『これはキモい』と好評だった小道具である。

 作ったのは同級生だが、着用した雅人がそのまま貰い受けたもので、妖怪役に選ばれた理由は『キモい動きができる逸材』だったからだ。


「どうせ引っ越しの片付けも必要だし、無事に帰れたら処分するか……」


 そう呟いて立ち上がると、玄関脇に不用品を纏めている場所に置く。

 すると、また床を叩く音が響いた。


「うーん……理由を訊きに行くぐらいはいいよな?」


 その後、鏡を見つめてから玄関に向かい、ドアノブを掴もうとしたタイミングでドアが開け放たれ、体勢を崩し前につんのめった雅人の顔が、柔らかなクッションに埋もれた――


「これは世に言う、ラッキー……」

「シュヘフェニンゲン!!」

「今、美邑さんのウザドヤ顔がカットインしたぞ!?」


 どうでもいいトリビアで現実に引き戻され、幸せな温もりから顔を離す雅人。


 冒険者が勢い任せに一般人を平手打ちすれば、どんな惨事が起こるのか――

 それが分かっているレオノーレは、小刻みに身体を震わせながら、片手を上げた姿勢で固まっていた。


「ソーリー! トツゼンオープンドア、アイアムノーマルニンゲン!!」


 あわあわしながら奇天烈(きてれつ)言語で弁明する雅人に、レオノーレは真っ赤な顔のまま吹き出し、くるりと背を向けると、日本語で「キテ」と告げ、足早に一階へ戻っていく。


咄嗟(とっさ)に押し止めるぐらい、できると思うんだけどなあ……」


 雅人は素朴な疑問を呟きながらドアを閉めて、レオノーレの後を追う――


 レオノーレはそのまま乃愛の部屋に入っていくので、雅人も「お邪魔します」と言ってから遠慮がちに部屋に上がると、奥から声が飛んだ。


「呼びに行かなくても気付いてよね! っていうか、ノーレに何したの!?」


 レオノーレの紅潮した顔を見て驚いたのだろう。


「ノットギルティー! ノットスケベニンゲン!!」

「私には日本語でいいでしょ……あとそれ、オランダの地名よね」


 乃愛も静香のウザドヤ顔を思い出したのか、半眼で口を横に開いている。

 その後ラッキースケベ犯が呼ばれた理由を問うと、乃愛達もカードゲームなどを試していたのだが、言葉少なく黙々とやって盛り上がるわけもなく、『急募!! 暇潰し案』ということらしい。


「ビニールシートと数字を二~五まで書いた紙を張るための両面テープと、あとはサイコロがあれば」

「それエロいやつでしょ? 軟体生物に有利だし。却下」

「一と六をどうしたのか訊いて欲しかったのに!」

「実際にやったのね……」

「まあ、普通に考えれば木を組み上げたタワーを一人ずつ抜いていくやつが、定番なんじゃないの?」

「私がそんなもの持ってると思う? 引き籠もり舐めてるでしょ」

「自慢げに言うなよ!? 俺も持ってないぞ。貧乏人は、割り箸だとすぐに倒壊することまで知ってるんだからな!!」

「それも試したのね……なんかこう、言葉が通じなくても盛り上がれるやつ、ないかな?」

「うーん…………穴を掘って、埋めるとか?」

「うわあ。そこまでつまらないことを言えるのが逆に凄い」

「ギブミーノリツッコミ!! いたたまれないだろ!」

「あのねー。ノーレもいるんだから、そういうのはダメ」

「ごめん……」

「ヘンペック」


 レオノーレがそう言って辞書を指差したので、その単語をぶつぶつと反芻しながら調べた乃愛の顔がみるみる赤くなり、また「ノー!!」と強い語気で言ったため、雅人はまたしてもその意味を察することになった。


「なるほど。そんな感じで会話してたのか……大変だな」

「ある程度は分かりやすい言葉を選んでくれてるけど、まあ……大変かな」

「それじゃ時間潰しも兼ねて、こういうのはどうだろう――」


 雅人の提案は、『身体を動かしたいので外に出たい』『どうせなら鍛錬したい』というもので、乃愛がどうにかこうにかレオノーレに伝えると、やはり会話に限界を感じていたのか、『アパートの前限定』という条件付きで外出許可が下りた。


「とりあえず素手で――格闘とかできるのかな?」

「トウゼン!!」

「殺されるんじゃない?」

「いや、手加減してくれるだろ」

「ハンゴロシ!!」

「なんでそんな日本語知ってるんだよ!?」

「ワガシ!」

「和菓子かよ!?」


 いきなり組み手というわけにもいかないので、まずは篤志から教わったパンチやキックを見せて、駄目な部分をレオノーレが指導することになった。


 命のやり取りをしているレオノーレにとっては緩慢な動きかもしれないが、前回の練習を見て篤志と雅人それぞれの問題点は把握しているようで、時折ストップをかけては肘や肩の位置や腰の回転を修正している。

 そんな二人の様子を椅子に腰掛けて眺める乃愛は、自身の表情に険が表れていることに気付いていないようだ。

 そんな少女の表情の変化に気付かない鈍感男が、平然と声をかける。


「乃愛も見てるだけじゃなく、身体を動かしてみないか?」

「……いい」


 変な空気になったまま半時ほどが経過して、攻撃と防御動作の修正を終えると、雅人と正対したレオノーレが右手を上げ、ちょいちょいと手招きしてから言う。


「カカッテキナサイ」

「なんで妙な日本語ばかり覚えてるんだよ……オテヤワラカニ」


 そう応えて雅人が拳を繰り出すと、受けることなく躱される。


「『当ててみろ』ってか……」


 次々とパンチやキックを繰り出すが、最小限の動きだけで躱すレオノーレ。


「凄いな……陣内さんは手で受けたり払う感じだったのに、打った場所に身体がないぞ」

「なんか漫画とか映画のお師匠さんみたいね」

「それそれ。ノーレ老師って感じ」

「ロウシ?」

「マスター」

「それそれ。俺が言いたかったやつ!!」


 調子のいい発言に顔を背けて手を払う仕草を見せる乃愛。一方でレオノーレは、身体の前で両手を振って否定している。

 まだ下位ランクなのだ。「とんでもない」ということだろう。


 望外の動揺を見せたレオノーレに、雅人はここぞとばかりに拳を繰り出す。

 左肩を前にした半身の体勢から右の拳を出すと、不意を突かれたレオノーレは咄嗟に雅人から見て左側へ動いた。

 無意識で動いたせいかそれは格闘用の動きではなく、相手の胴を撫で斬りにするための動作になってしまったようだが、今は帯剣しておらず右手は空を掴む。

 さらに上体と下半身がちぐはぐな動きになってバランスを崩したのは、膝蹴りにするべきか一瞬迷ったのだろう。

 相手は貧弱な一般人だ。ほんの僅かな判断ミスで殺しかねない。


 しかし雅人は瞬時に右腕を戻し、そのまま上体から身体を回転させる。

 体勢が崩れたままのレオノーレの身体に、異様な動きから放たれたダメージなど与えられない裏拳が、ふんわりと触れた。

 それはレオノーレにとって、冒険者や魔族ではない未知の軟体生物との徒手格闘であった――――


「イッ――」

「い?」


 ファンシーグローブを着けていない拳に伝わる、幸せな感触の正体を確認すべく視線を送る前に、軟体生物の意識は途絶した。

貧乏ツ○スターゲームの脚注。

1はどれかひとつキャンセル。6は現在押さえている数字と足して

6になる数字を押さえるルールです。(5は足せないのでセーフ)

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