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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第二章 元ヤン編集者と元ヤン少女漫画家
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Tomoki Viewer 03

 そして、目的地の駅で降りたオレ達。

 自分の荷物とは別に、歩美さんの荷物も一緒に持ってあげるというジェントルな一面を見せつつ、駅前の大通りを歩いて行く。


 道すがら工藤先生の事について聞いてみると、歩美さんはまるで自慢の妹の話でもするかの様に喜々として語り出した。


 そんな歩美さんの情報を要約すると、こんな感じある。


 色白の肌にスリムな体型。明るめの長い髪に、整った顔立ち。

 ちょっと人見知りで大人しめの性格だけど、芯は強くて、言った事は必ずやり遂げる。

 ただ、子供っぽい所もあって、少しばかり少女趣味――


 一言で表現するなら、深窓の令嬢タイプだそうだ。


 饒舌な歩美さんの話に、ドンドンとテンションが上がって行くオレ。

 そして、そんな話を十分程もしていると、オレ達は目的地のマンションへと辿り着いていた。


 まあ、身重(みおも)の歩美さんに合わせて、ゆっくり歩いていたけど、普通に歩けば駅から五分程の距離だろう。


 北関東とはいえ、東京への通勤圏でベッドタウンの駅前。

 そんな所に建つ新築マンションに一人暮らしとは、さすが売れっ子漫画家だ。


 まるで『おのぼりさん』みたいに、真新しいマンションを見上げるオレ。


 そんなオレを余所に、歩美さんはオートロックのインターフォンで工藤先生を呼び出していた。


『ひゃ、ひゃいっ!』


 あっ、噛んだ……


 しかし歩美さんは、それをあえてスルーする様にインターフォンのカメラに顔を近付け手を振っている。


「やっほ~。約束通りぃ、イケメンくんを連れて来ましたよぉ~」

『ひゃ、ひゃい……ど、どど、どうじょ……』


 歩美さんとは対照的に、噛みまくりの工藤先生。

 前情報通りの人見知りで、かなり緊張しているようだ。


 てゆうかイケメンくんとか、反応に困るのでやめて欲しいです……


 そんな事を思いながら開いた自動ドアをくぐり、エレベーターで9階へと上がったオレ達。

 そして、角部屋である『901』号室の前に立つと、歩美さんはインターフォンのボタンを押した。


「は、はーいっ!!」


 ドア越しに聞こえる声。

 今度は噛まずにすんだみたいだけど、ガチャガチャと鍵を開けるのに手間取る音からは、かなりテンパっているという様子が窺える。


 しかしオレは、そんな行動がとても新鮮で微笑ましいと感じていた。


 まあ、今までオレの周りにいた女は、恥じらいとか慎みに欠けるようなヤツばっかだったからなぁ。


「お、お待たせしました。いらっしゃいま…………せ?」


 程なくして開かれた扉。


 聞いていた通り、色白で綺麗な髪の女性。服装はヒラヒラの付いた薄いピンクのトップスと白いスカートで確かに若干少女趣味だ。

 ルックスだけでカテゴライズするなら、確実に『美人』のカテゴリーに分類されるであろう。


 しかし、明らかな作り笑いで扉を開いたその女性は、歩美さんの後ろに立つオレを見た瞬間。まるで時が止まったかの様に固まり、動かなくなってしまった。


 そして対するオレも、やはりその女性を見た瞬間、愛想笑いを浮かべたまま固まってしまった。


 な、なんで、コイツがここに……?


 そう、オレはその女性を――いや、この女を知っていた。


 さっき電車の中で見た夢。

 最後のシーンで振り向いた先に立っていたのは歩美さんではなく、この女なのだ。


 それを認識した瞬間、まるでフラッシュバックの様に、あの夢の続きが頭の中で蘇っていく……


 ……

 …………

 ………………


『ちょっと待ちなさいよ、智紀っ!!』


 聞き覚えのある声。しかし、この声に、あまりいい思い出はない。

 オレは、ため息をつきながら、声の方へと振り返った。


「っんだよ、千歳……?」


 そう、そこに立っているのは、お腹の大きな歩美さんではなくセーラー服の上から特攻服を羽織った長与千歳という女。


 更に千歳の後ろには、同じような格好をした女達が十数人ほど控えている。

 彼女等は『鬼怒姫』という女だけ(レディース)のチームで、千歳はそこの四代目の頭だ。


 元々、鬼怒姫とウチのR-4は活動地域が被ってはいたが、特に対立をしていたわけでもなかった。

 まあ、友好的でもなかったけど……


 しかし、去年の秋に千歳が頭を張るようなってからは、やたらと因縁や難癖をつけるようになって来たのだ。


 その頻度は――

『コイツもしかして、R-4(ウチ)に気になる男でもいるんじゃねぇーの?』と、勘繰りたくなるほどだ。


 ちなみに、この話を他のメンバーにしたとき、全員から白い目を向けられ『この人なに言ってんの?』的な顔をされたので、まあオレの勘違いなのだろうけど。


 さて……今日はどんなに難癖をつける気なんだか?


 若干、呆れ気味に千歳へと目を向けると、ソイツは睨むような目付きで近付いてくた。


「智紀っ! アンタこんな時期にチームを抜けるって、とうゆーことよっ!」

「ああ? テメェにゃ関係ねぇだろ?」

「カンケー大ありよっ!!」


 バイクに跨がるオレの傍らまでやって来ると、ズイっと顔を寄せ睨みつけて来る。


「いいっ!? もうすぐ夏休み。浮かれたバカが一番増えてくる時期よ! それに他県からのチョッカイも増えて来るっ! この一番トラブルが多くなる時期を前に、チームの頭が抜けるって、なに考えてんのっ? バカなのっ!?」


 柑橘系の香りが鼻孔をくすぐり、吐息を感じる距離まで詰め寄られ、思わず後ろに身を逸らすオレ。


 ったく……

 コイツも、ヤンキーなんてやってないで大人しくしていればケッコー可愛いのに。香水の趣味だって、上品でお嬢っぽいし……


 そんな事を思い、オレはひとつため息をついた。


「んな事は、わーてるよ。だから、ケンカで手が足りねぇ時は呼べつったろ? まっ、夏休み限定のにわか野郎や他県のチンピラ相手のトラブルに、オレの手が必要になるとは思えんが――」


 バイクの上から振り返り、オレから受け取った特攻服を羽織る八代目(恵太)へと目を向けた。


「へっ、トーゼンッスよ。っんなボンクラごとき、智紀さんの手を煩わせるまでもねぇーッス!」


 白い歯を見せて笑う恵太。

 そして、そのまま鬼怒姫達の方へと目を向けると、


「つーか、ケンカが怖ぇなら、夏休みのあいだは大人しくファミレスあたりでバイトして、小銭でも稼ぇでろやっ」


 嘲るような恵太の言葉で、一気に殺気立つ鬼怒姫達。


 飛び交う嘲笑と怒声――そんな中、一歩前に出たのは小倉由姫(おぐらゆき)と言う、身長140センチ足らずの小柄な女。

 まあ、あんなんちんちくりんでも、一応は鬼怒姫のナンバー2である。


「おい、コラッ恵太っ! テメェ早漏の分際で随分とデケェ口、叩くじゃねぇかっ! ああんっ!?」

「なっ!? そ、早漏は今カンケーネェだろっ! テメェーこそパイパン女のくせしやがってっ!!」

「パッ、パパパパッ、パイパンそこ、今カンケーネェつーのっ!! このロリコンッ!!」

「うっせーっ! つるぺたーっ!!」


 と、随分と的の外れた言い合いを始める二人――

 ってかこの二人。付き合ってるのを隠してるつもりらしいが、そんな暴露合戦してたらバレバレだろに……


「おい恵太。そのへんにしとけ」

「由姫もやめときな」


 ため息混じりに仲裁へ入る、オレと千歳。


 舌打ちを鳴らし、渋々と引き下がる二人に、オレは軽く肩をすくめてから再び千歳の方へと目を向けた。


「まっ、シマが被ってんだ。コッチの情勢が気になるのも分かるが、知っての通りウチは武闘派揃いだからな。オレが抜けたくれぇで、その辺のボンクラにどうにかされるほど腑抜けちゃねぇよ」


 コレで話は終わりだとばかりに、一度アクセルを大きく吹かしてからクラッチを引いてギアを入れた。


 アクセルターンで方向転換をし、千歳に背を向けるオレ。


「ちょっと待ってっ!」


 そして今にも走入出そうかという瞬間、千歳は声を張り上げてオレを呼び止めた。


「っんだよ? まだナンか用か?」

「………………最後にひとつだけ教えなさいよ。こんな時期にチームを抜けて、いったい何するつもりなの?」


 振り向く事なく、背を向けたまま返事を返すオレに千歳は、絞り出す様な声で問いかける。


 何をする……か。

 そんな事、言えるワケないだろ……


 千歳の視線を背に受け、苦笑いを浮かべるオレ。


「それこそ、テメェには関係ネェ話だよ」


 そう言い捨てて、オレは逃げる様にバイクを発車させた。


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