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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第二章 元ヤン編集者と元ヤン少女漫画家
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Tomoki Viewer 02

 ……

 …………

 ………………


 深夜の国道。片側3車線の長いストレート。

 この時間帯、交通交通量自体は少ないが、代わりに大型トラックが目立つようになってくる。


 そんな中を黒塗りのバイク――ニンジャの名前を冠した1000ccのバイクで大型車の間をすり抜けて行くオレ。


 サイドのミラーに目をやると、二十台程のバイクが追従するように疾走していた……


 ――――って、アレ?


 なんでオレは、バイクなんて乗ってんだ? 東京に来てからは、バイクに乗った事はないはずなのに……


 夢? ああっ、コレは夢か……


 そう、コレはオレが高校の頃の夢だ。確かにこうゆうのって、明晰夢っていうんだったか?


 中学に入った頃、離婚した両親へ反抗するように素行の悪くなったオレ。高校に入学してすぐにR-4という走り屋のチームに入った。


 バイクとケンカのチームではあるが、ケンカに関しては『一般人(カタギ)には手を出さない』をモットーといていた。

 とはいえ、世の中には当時のオレと同じようなバカがたくさんいるので、ケンカ相手に困る事はなかったけど。


 特にオレは空手をやっていた事もあり、ケンカの時にはチーム内でも重宝されていた。


 そして高二の冬休み。六代目の(リーダー)が引退すると、その次の七代目を引き継ぐ事になったオレ。

 まあ、そのオレも、高三の夏休み直前には引退したけど。


 将来の目標を決めたオレは、大学の入試に向けてチームを引退したのだ。


 県下最低ランクの高校で、しかも成績は平均以下。そんなオレが大学に――それも国立文系を目指すなんて確かに無謀ではあった。

 一学期終盤の三者面談で『進路は国立文系に変更すっから』と告げた時の、担任の呆けた顔は今でもハッキリ覚えている。


『はあ……? オマエ何言ってんの? バカなの?』的な顔は、正直かなりムカついた。


 しかし、志望校に現役合格。

 そして留年もなく、きっちり四年で卒業してやったぞ。ざまあみろ、ハゲ!


 オレは口元に笑みを浮かべながら左にウィンカーを出してジャンクションを降り、県道にへと入っていった。


 そのまま県道を疾走し、鬼怒川に掛かる大きな鉄橋を渡ったところで、オレ達は川沿いの河川敷へと降りて行いく。


 ああ、あの時の夢か……


 ここまで来て、ようやくオレはいつの夢かを理解した。

 そう、この夢はオレがR-4を引退した時の夢だ。


『今日はオレの引退式に、チーム全員が参加してくれた事に感謝するっ!』


 バイクを降りて振り返ると、チームのメンバー総勢二十四名がコチラを向いて立っていた。

 揃いの白い特攻服(マトイ)を纏ったR-4のメンバー達。オレは、そいつらに向かって声を張り上げる。


『こんな中途半端な時期に引退するのはすまないと思うが、そんなオレのワガママを許して欲しいっ!』


 バイクのアイドリングと川のせせらぎの中、オレの声がメンバー達に向けてこだまいていく。

 オレは大きく息を吸い込むと、更に声のトーンを上げた。


『だがっ、オレがR-4のメンバーだった事には変わりねぇーっ!! ケンカで人手がいる時はいつでも呼べっ! 困った事があったら、何でも相談しろっ! R-4の絆は引退ぐらいじゃ無くならねぇーっ! お前らは、永遠にオレのダチだっ!!』


 一気に湧き上がる歓声。

 メンバー達の歓喜に満ちた表情に、オレは頬を緩める。


 ホント、オレってヤツは、子供の頃からダチには恵まれているな……


 そんな事を思いながら、オレは先代から受け継いだ特攻服を脱ぎ、傍らにいた男――一年後輩でナンバー2の中野恵太(なかのけいた)に放り投げた。


『次の頭は、恵太だっ! お前らっ、一緒に盛り上げてやってくれっ!』

『『『『押忍っ!!』』』』


 河川敷に響くメンバー達の声。その気合いの入った声にオレは満足気な笑みで応えると、踵を返してバイクに跨がった。


 寂しくないと言えばウソになるだろう。しかし、オレにはやるべき事があるのだ。

 この二年間、コイツらとくぐって来た修羅場を考えれば受験くらいどうという事はない。いやっ、むしろ受験如きに失敗するようなら、コイツらに申し訳ないくらいだ。


 オレの代わりに前に出た恵太の背中を見ながら、オレは口角をつり上げ笑みを浮かべる。

 そしてクラッチを引き、ギアを入れようとした時だった――


『ちょっと待ちなさいよ、智紀っ!!』


 背後からオレの名を呼ぶ、聞き覚えのある女の声。

 しかし、この声には、正直あまりいい思い出はない。


 オレは、ため息をつきながら、声の方へと振り返った……


 って……え?


『智紀くぅ~ん……てくだ……い……』


 そこに居たのは、オレの想像していたヤツとはまったくの別人。そして、まったく想像していなかった人物。

 聞き覚えのある刺々しい口調から一転、間延びした口調で笑顔を見せる女性……


 そう、そこに立って居たのは、会社の先輩であり上司でもある堀川歩美さん。


『な、なななん……なんで、あ、あああ、あ歩美さんが……』

『なんで? じゃありません~。もうすぐ着きますよぉ~』


 振り返った先に立っているはずなのに、なぜか耳元で聞こえる歩美さんの声……


 いやいや、違うでしょっ? このシーンで、そこに立っていたのは――


『智紀くぅ~ん、そろそろ起きて下さぁ~い』


 えっ? 起きる……? ああ、そう言えば、コレって夢なんだっけ?

 そう、コレは夢………………って、夢っ!?


 一気に意識の覚醒したオレは、そのまま勢い良く立ち上がった。


 そして、オレの視界に飛び込んで来たのは…………完全な闇が支配する世界。


 アレ? な、なんで……? オレはまだ、夢から覚めていないのか?


『ようやく目が覚めましたかぁ~? でもぉ、アイマスクをしたまま、急に立ち上がると危ないですよぉ~』


 アイマスク?

 ああ、そうか。オレは、歩美さんから借りたアイマスクをしてるんだっけ。


 自分の目を覆っていたアイマスクを外すと一気に視界が開け、差し込む光が眼球を刺激する。

 オレは目を細めて、静かに周囲を確認していく……


 人も疎らな電車の車内と、窓の外を流れる風景。その見覚えのある風景に、オレは軽く眉をしかめた。


 一里(いちり)交差点の踏切? 雀の駅を過ぎた辺りか……


「おはよう、智紀くぅん。危ないから、座った方がいいですよぉ~」

「えっ? あっ、は、はい……」


 突然に、勢い良く立ち上がった事で、周囲から注目を集めるオレ。

 そんな衆目から視線を反らしつつ、再びシートへと腰を降ろした。


「しっかりと熟睡出来たようですねぇ~」

「す、すみません……軽く仮眠をとるだけのつもりだったんですけど……」


 上野駅を出てすぐに眠ってしまい、次はもう終着駅。てことは、二時間近く寝てたのかオレは……


 からかう様な笑顔を見せる歩美さんから照れる様に視線を外し、頭を下げるオレ。


 しかし、歩美さんは(そむ)けたオレの顔を覗き込む様に、ズイっと身を乗り出して来た。


 とても年上とは思えない可愛らしい笑顔に、思わず心臓が高鳴り顔が熱くなる――てゆうか、胸っ! 肩に胸が当たってますからっ!


「うん、目の下のクマもだいぶ取れて来ていますねぇ~。善きかな、善きかな」

「ど、どうも……」


 ホント、この人はパーソナルスペースの狭い人だな……


 この無邪気で無防備な笑顔に、これまで何人の男が勘違いして泣かされて来た事やら。

 てゆうか、この人が人妻だと知らなかったら、オレはこのまま結婚を申し込んでいたかもしれない。


 そんな年上の女性の可愛らしい色香と、鼻孔をくすぐる甘い香りで固まりかけていたオレに救いの声。

 通勤時間を過ぎて、乗客の少ない車内に終点を告げるアナウンスが流れる。


「じゃ~あ、降りる準備をしましょうかぁ~」

「は、はい」


 笑顔で身を離す歩美さんにホッとした気持ち半分、肩の柔らかい感触がなくなり寂しい気持ち半分で返事を返すオレ――


 てゆうか、歩美さん胸デカッ! 完全に着痩せするタイプだ。正直、歩美さんの旦那に、そこはかとなく殺意が……


 って、人妻さんに、それもお腹に子供のいる女性に、そんな事考えちゃダメだろ、オレッ!

 それはオレの望む、胸がときめく様な少女漫画の恋愛ではなく、ドロドロとしたレディコミの恋愛だ。


 そんな恋をする為にオレは編集者になった訳ではない。

 ましてやコレからオレは、その胸がときめく少女漫画の生みの親である工藤愛先生に会いに行くのである。


 待っていて下さい、工藤先生――


 まるでお見合いにでも臨む様な逸る気持ち抑え、オレは手荷物をまとめ始めた。

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