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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第一章 缶詰と地獄の番犬
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Chitose Viewer 02

「なあ、昨日ガオガオガーファイナル観たか?」

「ああ、観た観たっ! カッコよかったよなっ!」


 私の前の席に座る男の子。その男の子の周りにはたくさんの男の子達が集まっている。


 イヤ、男子だけじゃない。


「私も観たよ。トモくんが面白いって言うから」

「私も観た」


 そう、男子だけじゃなく女子達も彼の集まり、楽しそうに笑い合っていた。


 その後ろで、私はひとりポツンと本を読んでいる……


 引っ込み思案で、クラスにほとんど友達のいなかった私。前の席に座る彼がとても眩しく、そしてとても羨ましく見えた。


 席はすぐ後ろなのに、彼はとても遠い存在で、そこにはまるで見えない壁があるようだった……


 って、アレ……? なんで私はアイツの後ろで本なんて読んでるの?


 私は読んでいた本から顔を上げると、幼い頃のアイツが友達に囲まれて笑っていた――


 夢……? そっか、コレは夢なんだ……


 そう、私がまだ幼い頃の――多分、小学三年生の頃の夢。

 自分で夢であると自覚しながら見ている夢――こうゆうのって確か明晰夢(めいせきむ)って言うんだっけ?


 明るく活発で、常にクラスの中心にいた男の子。いつもひとりで本ばかり読んでいたボッチの私とは、まるで正反対の存在……


 私はその男の子に憧れ、その男の子のようになりたいと思っていた。


 前の席で話す彼の言葉にコッソリと聞き耳を立て、彼の面白いと言っていたアニメを観て、彼の好きなゲームをプレイした。

 彼がK-1にハマり空手を習い始めた時も、やはり私は同じ道場に入門した。


 もっとも、そんなストーカーみたいな事をしていたけど、彼と会話をした事など殆どない。常に友達に囲まれていた彼にとって、遠くから見ているだけの私など眼中になかったのだろう。

 もしかしたら、同じ道場で稽古をしている私と、教室で後ろの席に座っている私が、同一人物だとすら気付いていなかったかも知れない。


 そんな明るい彼だったが、中学に入ると少しずつ素行が悪くなり始め、高校に入る頃には『R-4(ルートフォー)』という暴走族のチームに入ってしまった。


 まあ、R-4は暴走族というより、走り屋に近いチームではあったけど。


 バイクと喧嘩が中心で、万引きやカツアゲ、ドラッグは禁止という硬派なチーム。


 さすがにそっちの世界まで追いかけるのは――と、かなり迷っていた私。しかし、思い切って飛び込んでみると、思っていたよりも水が合ってしまった。


 私の入ったチームは『鬼怒姫(きぬひめ)』という、やはり硬派なチーム。


 ここで、習っていた空手の経験が活きた。

 空手の腕前を買われ、チーム内で頼りにされるようになり、いつもひとりだった私の周りにも友達が集まるようになったのだ。


 ボッチ卒業という念願の叶った私。

 そしてその頃にはもう、私の彼に対する憧れという気持ちが、まったく別の気持ちに変わっていた。


 そう、『恋』という気持ちに――


「トモくん……」


 夢からゆっくりと覚醒を始めた私の口から、無意識に漏れた言葉……


 霞んだ視界で見慣れた天井をぼんやり眺める私。

 そして静かに上体を起こしていくと、瞳から溢れた温かいモノがスーッと頬を伝い落ちていった。


「なんで、今更こんな夢見てんのよ、私は……」


 ため息をつくように呟きながら、私はベッドサイドにある時計へと目をやった。


 舞浜の大型テーマパークで買ったネズミのキャラクター時計。そこに表示されているデジタルは、アラームが鳴るまで一時間以上ある事を示している。


「たくっ、あのバカ……ヒトの安眠を邪魔してくれちゃって……」


 私は再びベッドへ倒れ込み、流れる涙を誤魔化すように枕へと顔を埋めた。


「勝手にいなくなったくせに、勝手にヒトの夢に出て来んなつーの……」


 大きめの枕をギュっと抱きしめながら、私は掠れた声を絞り出した……


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