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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第十二章 辞表と打ち切り
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Tomoki Viewer 02

「チーッス! 智紀さん! 陣中見舞いにきたッス!」

「そんで、コレは差し入れッス。イケイケ餃子の変わり種を適当に」

「恵太……それにタカシも……」


 そう、パック詰めされた大量の餃子が入った袋を抱えて現れたのは、R-4時代の後輩である恵太とタカシ。


 更には――


「そんで、コレはウチのパパからの差し入れッス。片手でも食える様にって」


 大量の海苔巻きが詰まった寿司桶を抱えて現れた、元鬼怒姫の梅子。


 って……


「おい、梅子――オマエんトコのオヤジさんが、パパって(ツラ)か?」


 前科持ってる極道の親分みてぇな、強面のオッサンだったぞ、確か。


「コラッ、北村っ! ウチのパパ、バカにすんなっ! 傷害罪(しょーがい)以外じゃ逮捕(パク)られた事がねぇ、硬派なパパなんだぞっ!」


 って、ホントに前科持ちかよ……

 つーか、硬派な親父(オヤジ)ならパパなんて呼ぶな。


「でっ? 進捗はどうなんッスか?」

「なんかオレらでも、手伝える事はねぇッスか?」


 餃子のパックと割り箸を差し出しながら問う、恵太とタカシ。


「おう、サンキューな」


 手伝える事ねぇ……

 気持ちはありがたいが、素人が出来る事なんて消しゴムをかけるぐらいか? あとはまあ、教えれば枠線を引くくらいは出来るだろうけど……


 とりあえず餃子をひとつ、口に放り込みながら考えてみる。


 おっ!? コレはウニか? うむ、コレはまあ当たりの方だな。


 ちなみにイケイケ餃子は、常時六百種類の餃子があり遊び心満点ではあるが、中にはいくつかハズレもある。更に外見はみな同じなので、数種類を一度に頼むと、食べてみなければどんな餃子なのか分からないというギャンブル性もある餃子屋なのだ。


「そだっ、恵太、恵太~っ! コッチ来て、ココに座れ」


 二つ目の餃子を口に放り込んだ時、ちんちくりんから恵太にお呼びが掛かった。

 すくっと立ち上がり、今まで自分の座っていた場所を指差すちんちくりん。


「お、おう、ココか?」

「違う。もうちょい後ろだ」


 何か恵太にも出来るか事でもあるのか?

 まあ、簡単な作業なら手伝わせても問題ないだろう。それに、何か教えるのも、技術は一番あるが手が使えずにヒマしているという最適な人材もいるしな。


 そんな事を思いつつ、三つ目の餃子を口に運びながら様子を伺っていると――


「お、おい……」

「おしっ! ちょうどいい高さだ」


 あぐらで座る恵太の膝へちょこんと座り、ちんちくりんは満面の笑みを浮かべる。


 ああ、確かにちんちくりんの身長(タッパ)で作業するにゃあ、テーブルじゃ少し高すぎるかもな。

 まっ、恵太もまんざらじゃねぇみてぇだし、それで作業効率が上がるなら、座椅子代わりにでも何でも使ってくれや。


「じゃあタカシは、ちんちくりんが上げた原稿に消しゴムをかけてくれ」

「うっす!」

「そんで梅子は、どっか邪魔になんねぇトコで安来節でも踊ってろ」

「テメッ……マジで死なすぞ、北村」


 いや、だってよ……人手は余ってんだ、しょうがねぇだろ?


 殺気がダダ漏れな梅子の視線から顔を逸し、あえてスルーを決め込むオレ。


 さて、コッチも作業に戻る――


「ん?」


 パックに残っていた餃子三つをいっぺんに箸で掴み、まとめて口に放り込もうとしたところで、不意に視線を感じて動きを止めた。


「なんだ? オマエも食いたかったのか? ウニ餃子」

「ち、違うわよっ!」


 視線の主である千歳は、頬を赤くしながら顔を逸した。


 そして千歳は、恵太の膝へ乗るちんちくりんとオレをチラッチラッと交互に見比べながら――


「そ、その……アンタは机……高すぎたりしないの……?」


 などと、挙動不審な態度で尋ねてくる。


 いや、高すぎるかって、オマエ……


「アホか、オマエは……? 普段はオマエが使ってる机だろ? 逆に少し低いくらいだよ」

「そ、そりゃあ、そうよね……ははっ、はははは……」


 オレの答えに、千歳はなぜか落胆したかの様な表情を見せると、あからさまな作り笑いで笑う千歳。


 何が言いたいんだ、コイツは?

 まあ、いいか。コイツが変なのは、今に始まった事じゃねぇし。


 オレは餃子三つを一口に頬張りながら、なぜかガックリと項垂れる千歳に背を向けて、描きかけの原稿へと向かった。


 そんなオレの背中に恵太とタカシのジト目が――更にちんちくりんと梅子の立てた中指が向けられている事など露知らず、ペン入れを再開するオレ。


 こうして、オレが初めて編集を担当した漫画『フラッシュ☆ガールズ』は、いろんな奴らの力を借りて、なんとか締め切り日の早朝――六時十四分発の電車が発車する、ほんの三十分ほど前にどうにか完全したのだった。


 ホント、オレは昔からダチには恵まれているな。



※※  ※※  ※※



 そして、修羅場だった締め切り日の翌日――


「ただいま戻りました……」


 朝からずっと、書店回りの営業をして来たオレは、重い足を引きずりようやく編集部へと戻ってきた。


 時刻はすでに午後八時を回っているが、コレからまだ領収書の精算や日誌の作成とまだまだ仕事は残っている。


 こんなんで、よく労働基準監督署(ろうき)から文句を言われないもんだ……


 そんな事を愚痴りながら、自分のデスクにドカッと腰をおろし、ため息をついた。

 そういえば、まる一日都内から出ないなんて久しぶりだな。あの煩わしい往復四時間の通勤も、なければないで物足りないもんだ。


 オレは苦笑いを浮かべながら、バックから領収書の束を取り出した。


 さて、もうひと踏ん張りだ。

 気合を入れ直して、領収書の精算に取り掛かろうとした時だった――


「北村くん、お疲れさま」

「え? あっ、お疲れさまです」


 両手にリボDの小瓶を持って現れたのは眼鏡美人の副編集長、南静香さん。


「ホントにお疲れのようね?」


 リボDの瓶を差し出しながら、もう一本の瓶に口を着ける副編集長。

 オレは眼鏡美人の差し入れをありがたく受け取りながら、ムリヤリに笑って見せる。


「いえ、まだ若いですから、このくらいは……」

「ムッ! それは、私がもうオバサンだと言いたいのかしら?」

「そっ、そそそ、そんな事は言ってないですし、思ってもいませんよっ!」


 眼鏡の奥に殺気を孕んだ瞳を光らせる副編集長に、慌てて席から立ち上がり物凄い勢いで首を横に振るオレ。


 実際に、この編集部で編集と並び最年長者と言われても、とてもそんな風には見えないし。


「まあ、今回はそう言う事にしておきましょう。今回はっ!」

「ほっ……」


 副編集長の、執行猶予付き温情判決に胸を撫で下ろすオレ。

 まあ、あくまで執行猶予付きの判決なので、ここは早々に話題を変えてしまおう。


「それで、副編集長……何かご用ですか?」

「そうそう――」


 副編集長は一度言葉を区切ると、残ったリボDを飲み干してから要件を口にした。


「明菜が呼んでるわよ。帰ったら編集長室に来てくれって」

「編集長が……?」

「領収書の方は、私がやっておいてあげるから。早く行ってきなさい」

「は、はあ……では、お願いします」


 オレの席に座り、領収書の計算を始める副編集長に頭を下げてから、訝しげにその頭を傾げて歩き出すオレ。


 編集長がなんの用だろう……?


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