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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第十一章 ヘタレヤローと直管マフラー
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Chitose Viewer 02

「ホントに来るんッスかね……?」


 ローテーブルを挟んだ反対側。梅子はえびせんをつまみながら、壁掛け時計を見上げてポツリと呟いた。


「絶対、来るわよ」


 私は銀麦の青い缶を口に当てながら、短く返事を返した。


 時計の針は、間もなくL時型になるところ。

 これが明るい時間なら優雅にアフタヌーンティーを楽しむところだけど、あいにくと外は真っ暗だ。


 少し前までは結構規則正しい生活をしていたのに、トモくんが担当になってからは完全に夜型になっちゃったなぁ。なんか高校時代に戻ったみたいだ。


 そんな事を思いながら、私もえびせんを口に放り込んだ。


「ずいぶん自信有りげに言い切りますね?」

「何年、アイツと付き合ってると思ってるのよ。こうと決めた時の決断力と行動力の高さは半端じゃないわよ、アイツ」


 そう、こんな時間まで起きて何をしているのかと言えば、トモくんを待っているのだ。

 あのトモくんが、顔にあんな落書きをされて黙っている訳がない。即、行動に移るはずだ。


「そうは言っても、もう終電もとっくに終わってるッスよ? ウチ、そろそろ空腹が限界なんッスけど……」


 確かに、梅子はお店が終わってすぐにウチへ来たのだから、空腹だろう。そして、夕食をまだ食べていない私も空腹なのは一緒だ。

 お皿に出したえびせんに伸びる手が、やめられない止まらない状態の二人。


 ったく……早く来なさいよ、バカ智紀っ!


「んっ!?」


 私が心の中で悪態をつくと同時に、えびせんへ伸ばした梅子の手が止まった。


「この、最近ではめっきり聞かなくなった、ダッセー直管マフラーのやかましい音は……」


 ふぅ~、ようやく来たか。


 遠くから聞こえて来た独特のマフラー音は段々と大きくなり、そしてウチのマンションの前で止まった。

 インターホンが鳴るかなと身構えていたけど、程なくして玄関の方からガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえて来る。


 ああ、合鍵を使ったのか。なら、ココで待っていればいいでしょう。


 私は笑みを浮かべながら両手で頬杖を着き、うしろの扉が開くのを待った。


 ドシドシと、大きな音を立てながら近づいてくる足音。

 そして、リビングの戸が勢いよく開き――


「おいコラッ、千歳っ! ありゃあ、なんのマネだ、コラッ!!」


 と、物凄い剣幕で怒鳴り込んで来るトモくん。


 私はその怒声も意に返さずにゆっくり立ち上がると、満面の笑みで振り返った。


「おかえりなさぁ~い。お風呂にするぅ? ご飯にするぅ? それとも、う・め・こ?」

「なんでウチィッ!?」

「いや、とりあえずソイツはいらない」

「ひでぇ言い草だな、オイッ!」

「いや、だってオマエよ……」


 すっかり毒気を抜かれたトモくん。逆にいきり立つ梅子に、眉を顰めた。


「BLゲームのハッピ着て、鼻の穴に割り箸突っ込みながらドショウすくいやる女とか、とりあえずパスだろ、ふつー?」

「オメーが余計な事、チクったせいだろっ!? それと、BLじゃなくて乙女ゲーム(オトゲー)だっ! 一緒にすんなっ!!」

「っんなの、たいして変わらんだろうが?」

「変わるわっ、アホッ! 女子高生モノAVと女子校生モノAVぐらい違うわっ!」


 え、え~と……その違いは、私には分からな――


「いやいや、そこまで違わんだろ?」


 って、トモくんには分かるのっ!?


 くだらない事で、あーでもないこーでもないと言い争う梅子とトモくん。そして、そんな二人の様子を微笑ましく眺める私……

 まるで、高校時代に――私の一番楽しかった時に戻ったみたいだ。


 おっとと……思い出にふけってばかりにもいられない。それに、そろそろ止めないと、取っ組み合いに発展しそうだ。


「まあまあ、二人ともその辺で……」

「って、『その辺でぇ』じゃねぇよっ! そもそもテメェのせいで、こんな夜中に単車引っ張り出すハメになったんじゃねぇかっ!?」


 おっと、コッチに矛先が向いてしまったか。まあ、元々コッチに向いてた矛先を梅子に向けたんだけど。


「まあ、今朝の事は悪かったと思ってるって。だから、ほら――」


 私はテーブルの上を見せつける様に、横へ半歩下がった。


「なん……だと……?」


 テーブルへと目を向けて、驚きに言葉を詰まらせるトモくん。

 そのトモくんの視線の先には、お寿司が詰まった大きな寿司桶が五段ほど積み重なっているのだ。


 そう、梅子ん家の特上寿司である。


「今日のところは、これで水に流してよ。まあ、ダメだって言うなら、私と梅子で全部食べ――」

「よっしゃ、今日はこれぐらいにしといたるわ」


 被り気味にめだか師匠みたいな事を言って、どかっとテーブルの前に腰を下ろすトモくん。


「うわっ……セコい男だな……」

「っるせー、貧乏なんだよっ! つーか、オマエは茶でも淹れて来い。本業だろうが」

「エラソーにっ!」


 プンスカと頬を膨らませながらも、キッチンへ足を向ける梅子。

 確かにお寿司屋さんの娘だけあって、お茶を淹れるのは上手いし、アッチは任せておきましょう。


 さて、ずいぶんと遅い夕食になっちゃったけど、美味しいお寿司をトモくんと食べられるなら、結果オーライよね。


「お~い、千歳ぇ。醤油と小皿がねぇぞ~」

「はいはい」


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