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少女漫画に恋をして ~元ヤン達の恋愛模様~  作者: 宇都宮かずし
第三章 カラオケとナンパ
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Tomoki Viewer 04

「んん~~っ、歌った歌ったぁ~」


 飯を食った店から徒歩五分の場所にある、カラオケボックス『まねきたこ』。

 その駐車場で、千歳は満足げな笑みを浮かべながら体を伸ばした。


 三時過ぎに入店して、現在の時刻は夜の九時過ぎ……

 いくらなんでもの、六時間は歌いすぎだろ?


 オレはげんなりとした顔で、駐車場の先にある幹線道路を眺めていた。


「そう言えば、智紀の歌って初めて聴いたけど…………ぷっ」

「っるせー。笑いたきゃハッキリ笑え……」

「アハハハハハーッ!!」


 コイツ……いつか殺す。


 心の中で千歳の命日を、連載の最終日に設定するオレ。長生きしたければ、せいぜい頑張って連載を続ける事だな。


 そんな事を思いながら、流れる車のテールランプを見送って行く。

 ちなみに今のオレ達は、電話で呼んだタクシーを待っているところ。そして歩美さんはといえば、フロントのシートに座って休んでもらっている。


 なんだかんだ言っても、歩美さんは妊婦だからな。身体には気を付けてもらわないと――


 ってか、おせーな、オイ……

 何が『五分でお伺いします』だよ、もう十五分は過ぎてるぞ。オレの貴重な睡眠時間を削りやがって。


 そば屋の出前とタクシーが時間通りに来ない事など百も承知であるが、それでも眠さのあまり、徐々に苛立ち始めた頃だった――


「智紀……」


 声のトーンを落としてオレの名を呼ぶ千歳。


 オレが眉をしかめながら振り返ると、千歳は険しい表情を浮かべたまま、店横の物影の方へアゴをしゃくった。


 その視線を追うように建物の影へと目を向けると、そこには暗がりに立つ数人の男達の姿――

 暗くて顔の確認は出来ないけど、見覚えのあるセンスの悪いスタジャン。そして手には、バットや鉄パイプなどが握られているのが見える。


「ちっ……お礼参りなら、せめて明日にしろよ。このセッカチさん共め……」


 ガックリと肩を落とすオレ。まるで就業時間終了間際に、残業を言い渡しされた気分だ……


「で? どうすんの?」

「どうするも、こうするも……」


 全力でスルーしたい所だけど、後先とかを考えられるほど賢そうには見えんかったし、跡(あと)とかつけられたら余計にメンドくさそうだ。


「はあぁ……しゃーない。オレが残ってガキ共の相手すっから、千歳は歩美さん連れて先に帰ってくれや」

「まっ、それが妥当ね」


 揃って肩を竦めたところで、駐車場に迎車のランプを点けたタクシーが入って来た。

 千歳がタクシーに向けて手を挙げて合図を送ると、オレ達の前にゆっくりと横付けされるタクシー。


 フロントからも、その様子が見えていたのであろう。オレが店の方へ振り返ると、ちょうど歩美さんが自動ドアを出てコチラへ向かって来るのが見えた。


「まあ、二手に分かれるとか、先回りするとかなんて考えつく頭があるとは思えんが、一応気をつけろ」


 隣に並ぶ千歳の耳に口を寄せ、小声で話すオレ。


「わーってるわよ」

「正直、オマエの方は拉致られようが、ボコられようが、輪姦(まわ)されようが一向に構わんけど、歩美さんだけは無事に駅まで送り届けろよな」

「アンタ……いくら温厚な私でも、いい加減ホンキで怒るわよ」


 カマボコの断面のようなジト目を向けてくる千歳。オマエは帰りに辞書でも買って『温厚』って意味を調べておけ。


「じゃあぁ~、帰りましょうかぁ~」


 そんな微妙な空気が流れる二人の間に、独特な間延びした声が届く。

 オレは頭を掻きながら、苦笑いで歩美さんへと振り返った。


「あ、あの……歩美さん。実はさっき、電話でコッチの友達から飲みに誘われたんですよ――」

「そうなんですかぁ~? まあぁ、地元ですものねぇ~」

「はい、それで……出来ればオレはココで解散したいんですけど……」

「はい~、かまいませんよぉ~。でもぉ、明日は会社、どうするんですかぁ~?」

「あっ、軽く一杯つき合うだけですから、終電前には帰りますし、朝は通常通りに出勤します」

「そうですかぁ。じゃあ、楽しんで来てくださいねぇ~」


 なんの疑いもなくニッコリ微笑む歩美さんに、ちょっと良心が痛んだ。


 それに、妊婦の歩美さん一人を電車で東京まで帰すのは、少し不安だけど――まあ、仕方ない。


「じゃあ、駅までは私も同じですから一緒に帰りましょ、歩美さん」

「はい~」


 お腹を庇うように、ゆっくりとタクシーに乗り込む歩美さん。続いて開いたドアの前に立った千歳が、オレの耳に口を寄せて来た。


「あっちの道を奥に行くと右手に公園があるから。そこならこの時間は、人目がないはずよ」

「わーてるよ、サトカメの裏だろ?」


 オレの返事に千歳は小さく頷いて、タクシーへと乗り込んだ。


 自動でドアが閉まり、走り去って行くタクシーを見送ってから首をコキコキと鳴らす。


 さてっ、残業頑張りますか。残業手当は出ないけど……


 ゆっくりとした足取りで、街灯の少ない路地へと入って行くオレ。背後から付いてくる複数の気配を確認しながら、サイトーカメラの駐車場を抜け、公園へと入って行く。

 照明が少なく、薄暗い公園。中央の障害物のない広いスペースまで進むと、オレは気怠げに振り返った。


「さて……一応聞くけど、なんの用だ?」


 振り返った先にいたのは、ニヤニヤとキモい笑みを浮かべるDQNどもが五匹――二匹ほど増殖したようだ。


「決まってんだろ。ハジかかせてくれたお礼だよ」


 金髪の鼻ピー男が、手にしたバットを見せつける様に突き出した。

 それを合図に、鼻ピー男を中心にオレを取り囲みながら距離を詰めて来るDQN共。


 ったく……っんなモンに頼ってるから、軟弱な指になんだよ。てか、武器持ったくらいで強くなったと思うのは勘違いだぞ。


「さて、オッサン……土下座しろや」

「そうそう、財布出して泣いて謝りゃ、ヤキ入れんのも少しは手加減してやんよ」

「ハハハーッ!」


 何が愉快なのか分からんが、楽しそうにゲラゲラと声を出して笑う男達。

 もしかして、自分達の方が優位に立ってると勘違いしてんのか……?


 オレは、目の前に迫るバットの先端を見つめながら、ひとつため息をついた。


「オマエら……ホントにケンカした事ねぇーんだな……?」

「はあぁ?」

「ケンカ相手にバット突き付けてんじゃねぇーよ、バカ」

「オマッ、ナニ言って、ぐぉっ!?」


 正面の鼻ピー男が、オレの言葉に訝(いぶか)しげな顔をした瞬間。目の前にあったバットの先端を掴んで、そのまま男の鳩尾へ蹴りをブチ込んだ。


 苦しげに腹を抱えて膝を着く鼻ピー男。オレは追い打ちとばかりに、ちょうど良い高さにあった顔面へ向けて下段蹴り(ローキック)を叩き込む。


 一気に静まり返る、薄暗い児童公園――


 白目を剥いてピクピクと痙攣しながら仰向けに倒れる鼻ピー男へ、声も出せずに呆然と目を向ける仲間達……


「ふんっ……オレの分までバットを用意してくれるとは、中々フェアプレー精神が旺盛じゃねぇーか」


 オレは不敵な笑みを浮かべながら、奪ったバットを見せ付ける様に突き出した。


「で? 次に遊んで欲しいのは誰だ――と、言いてぇトコだけど、時間がもったいねぇ。まとめて掛かってこいや」


 ……

 …………

 ………………


「ハァァァ~ア……オレも随分と鈍ったモンだ……」


 公園のベンチに座り、空を仰ぐオレ。

 そんなオレの目の前には、バカが五匹ほど転がっている。


 徹夜した上にメシだカラオケだと引っ張り回された挙句、最後の最後にケンカとは少しオーバーワーク過ぎんだろ?


 グッタリとベンチに腰を掛け、オレは少し休憩とばかり目を閉じた。


 そう言えば、殴り合いのケンカなんて久しぶりだな。高校んとき以来か? まっ、今日のはとてもケンカなんて呼べるほど、大(だい)それたモンじゃな――


「ホント、鈍り過ぎ」

「あだーっ!」


 不意に横から声をかけられると同時に、ちょこんと頬をつつかれる。


「テ、テメェ! いきなりなにしやがるっ!?」


 頬を抑えながら声のした方へと目を向けると、さっきまでは誰も居なかったオレの隣に呆れ顔の千歳がちょこんと座っていた。


「自業自得――こんなガキ共シメんのに、一発貰うとか鈍り過ぎよ」

「う、うっせーなぁ……ちょっと油断しただけだよ」


 オレは千歳から視線を逸らすようにソッポを向いた。

 そう、千歳がつついた左の頬は、夜中にグラサンをかけるという意味不明な事をしているお子様の振ったバットが、偶然にも何故か当たってしまった場所なのだ。


 ったく……素人ってえのは、たまにコッチの予想出来ない動きをするから困る。


「てか、なんでオマエはココにいんの?」

「なんでとは、ご挨拶ねぇ。歩美さん送ってから一度家に帰って、わざわざ車で迎えに来てあげたのに。どうせタクシー代とかないんでしょ?」


 タクシー代くらいあるわっ! まあ、節約して駅まで歩くつもりだったけど。


 てゆうか――


「なに? オマエ、車持ってんの?」

「当たり前でしょ? 東京と違って、コッチじゃ車ないと不便だし」

「だったらタクシーなんて使わねぇで、最初から車で来りゃよかったんじゃねぇか?」

「お生憎さま。私の車は二人乗り(ツーシーター)なのよ。まあ、アンタがトランクに乗るってんなら、車だしてもよかったけど」


 ツーシーターねぇ……

 個人的には嫌いじゃないけど、あんま実用的ではないよなぁ。てか、仕事が一段落したら、オレも四輪の免許取らんとな。


 そんな事を考えていると、千歳かスーっと顔を寄せて来る。


「な、なんだよ……?」

「アンタ、頬(ソレ)……結構、青くなってるわね? かなり腫れてきそうな感じ」


 まっ、バットで殴られたワケだしな。


「し、しょーがないわね……ウ、ウチ来なさいよ。冷えピタがいっぱいあるから、一枚くらい恵んであげるわっ」


 顔を赤らめて視線を逸らしながら、若干裏返った声で話す、なにやら挙動不審な千歳。


「あん? 別にいいよ……こんなん、ツバでも着けときゃ治んだろ」

「そうゆーワケにはいかないわよっ! もしケンカしたのが知られて、そこから元ヤンバレしたら、私も困るんだから」

「いや、オレの元ヤンがバレても、別にオマエは困らんだろ?」

「そ、そんな事ないわよっ! え~とえ~……そ、そうっ! アンタとは以前からの知り合いって事がバレてるだから、アンタが元ヤンってバレたら、私までそうゆう目で見られるかもしれないでしょうがっ!」


 ま、まあ……そうゆー可能性もなくはないが……

 てか、随分と取ってつけたような理屈だな、オイ。


「い、いいから、四の五の言わずに来なさいっ! ビールくらい出してあげるからっ!」


 言うが早いか、千歳は勢いよく立ち上がるとオレの手を掴んで強引に歩き出した。


 まっ、ビールが出ると言うなら付いてくか。一杯飲みたい気分ではあるし。


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