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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第五章 偶像救助編
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第五章 第12話 合同作戦 その四

この物語は残酷な表現が含まれております。ご注意ください。

マリンのいる個室へとシンは足を運ぶ。

シンはシャドウとしての出で立ちだ。自身の身元を隠すためでもある。だが、戦闘への備えも兼ねていた。漆黒のボディアーマーに、白で描かれたカラス。黒地のマスクは敵への威圧とシンのもう一つの素顔を意味している。

「……調子はどうだ。マリン」

「……みんな、私に良くしてくれている。アディさんもアオイさんも……サイトウさんはおちゃらけていてスケベだけど、……優しくもしてくれている……イェーガーさんは厳しいけど、……言葉が……優しかった。普段はきっとあんな優しい事を言う人じゃないけど、気を遣ってくれることがよく伝わったわ……」

「そうか」

「レオハルトさんとユキさんが私のことを真面目でがんばり屋さんだっていってくれた……裏切る前のファンのみんな以外にこんなに優しくしてくれたのって…………はじめて……かも」

「そうか……」

「ご飯も美味しかった。ユキさんが好きな食べ物のことを話してくれたの……ユキさんわたしと同じものが好きだった」

「……当ててやろう」

「シャドウさん、わかるの?」

「甘いもの。乾燥した果実が好きだったと聞いている。それと……『うどん』だ」

「え、うどん正解」

「シンが以前ユキの好きな料理について話していたことを思い出した」

「そう……なら分かって当然かな」

「そういえば、君もうどんが好きだったな。護衛任務の前に芸能事務所の情報を調べたが、公式プロフィールにうどんが好きだったって記載があったな」

「……うん。オフの日はおうどんの美味しい店を回ってたの。そのとき食べるうどんを写真に乗せてみんなに見てもらうの。……美味しそうとかってコメントをもらうとわたし……うれしくて……」

マリンが涙ぐむような表情を浮かべる。

「なるほどな。……ならうどんの店の話をしたんだな」

「うん。……ユキさんは外国での暮らしが長かったけど、美味しい店の思い出は忘れられないって……それでね。ユキさんと今度アスガルドに出店したチェーン店を訪ねるって」

「そうか……よかったなマリン」

「うん。年上だけど友達が初めて出来て嬉しかった」

「………………そうか。よかったな」

「芸能界ではこんなに無条件に優しくなかった……みんな必死でぎらぎらしていて、……醜かった。そうじゃない人もいたけど……私の周りはギラギラと欲深い人が多かった。いつも人を利用してのし上がってやろうとか」

「その手の輩は昔の俺の周りにもいた。そいつはそいつで俺は俺だと言い聞かせて、自分の仕事をしていた。今は気のいいヤツが多くて少しは落ち着くが……」

「私も……シャドウも大変だったんだ……」

「……ああ、俺も命を狙われた事もあった」

「……そう」

「…………マリン」

「何?」

「……死ぬなよ。それだけは絶対許さんぞ」

「……うん。今なら生きたいって思える」

「ならよかった……」

シャドウの目が優しく緩む。マリンがシンの方を見てはっとした表情となった。

「どうした?」

「……シャドウさんってシンの兄弟?」

「…………どうしてそう思う?」

「出会った時のシンさんの表情と今のシャドウの目の表情が似ている気がして」

「……他人の空似だ」

「そう……」

シンは部屋の外へと歩き出した。


ユキはレオハルトの言葉を聞いて唖然とする。

都会の高層ビル間で既に『戦争』が始まっているという事実と『敵』の手段を選ばぬ冷酷さに彼女は薄ら寒さのような感覚を覚える。

「……都会のど真ん中で狙撃合戦していたの……警察は何しているの?」

「高層ビルの上で綿密に練られた隠密暗殺計画だ。警察どころかこれは正規軍でも手が出しづらい案件だ。狙撃の専門家たるイェーガーにしか対処でしか対処出来ないだろうな……」

「……イェーガーを現地に向かわせたのはこのためだったのね」

「ああ、その後も何人かの暗殺者を発見し。始末している。どれも最初のヤツと比べて雑魚に過ぎないようだが」

「……具体的には?」

「チンピラ。チンピラ。船乗り崩れ。チンピラ。マフィア。元軍人。ストリートギャング。チンピラ」

「……元軍人はどうだったの?」

「頭が悪すぎて、勝負が一瞬でついたそうだ」

「……結果を聞くまでもなかったわね」

「ああ、全く」

レオハルトは悠々とコーヒーを飲みながら次の手を考えていた。

しばらくしてからユキが提案の言葉を投げかける。

「レオハルト中将」

「ん?どうした?」

「……芸能界側の黒幕については分かったのかしら?」

「そうだな。下っ端でない事がわかっている」

「……子供でも分かるわよ」

「……そうだな。もっと言えば、どうも思ったより近い人間かもしれない」

「え?」

「高層ビルで人質に取られた男がいただろう?」

「ええ。それはこっちでも既に調べているわ。襲ったのはマリンの兄だそうね?」

「襲われて人質だった人物。被疑者の一人だ」

「え……」

「他にも候補がいるが彼がどうも真っ黒な気がする」

「……どういうヤツなの?」

レオハルトは思案するように黙った後、その名前を口にした。

「……ジョン・オータム、年齢54歳、男。職業は敏腕プロデューサーだ。いくらか黒い噂が耐えない人物だが『オータムP』と称される名物プロデューサーとして名を上げている。『オータム・コメディ・ショウ』は見た事あるだろう?」

「ああ、あの悪趣味な……私はあんまり好きじゃないわ……どうも露悪的で……」

「そうだな。番組の売り……というか触れ込みは、『芸能人の意外な一面が見れる』というところにあるようだが……どうにも面妖な感じがする」

「久々に聞いたわ。面妖なんて言葉」

「そうか?」

「でもなんで、オータムPが?」

「……マリンの兄ウィリアム・スノーの証言からだ。彼は第一目標を彼に定めていたのは理由がある」

「それは?」

「オータムが全てのお膳立てをしたと言っている。証拠品がないから警察側は確証がないといって聞かないが……」

「お膳立て?」

「マリン・スノーの引退コンサートの一件やマリン関連で加熱したマスコミの報道。そして雑誌の話題に至るまで彼がほぼ彼が指示したと言っている。マリンを利用だけ利用して捨てるように指示したのは彼以外にあり得ないと」

「……でも、マリンスノーの担当プロデューサーはオータムだって聞いているわ」

「……そこだ。どうして自分の担当を使い捨て同然に?」

「……うむ、マリンがテロリストからファンを守った時には英雄として真っ先に祭り上げたのは彼だ。そして、マリンが『魔装使い』の容疑があるという偽情報をリークされた途端、すべての対応の手のひらを返したのも彼。おそらく、グループの保身のために、マリンだけを切って捨てているのだろう」

「……クズめ」

「全くだ。本部も同じ見解を出している。これは……なんと言っていいやら」

「ひとつ聞いて言いかしら」

「なんだ?」

「マリンは『魔装使い』じゃないでしょう?」

「そうだな。検査の結果は陰性」

「どうして彼女は『魔装使い』と?」

「彼女の能力に問題があった」

「問題?」

「彼女はヒーリングファクター能力がある。それがどうも『魔装使い』と酷似している」

「どうして?」

「魔装使いはコア以外の部分を破壊されても再生出来る能力がある。マリンにはコアがないが再生能力がある。この意味が分かるね」

「まさか……彼女が引っ込み思案なところがあるところをつけ込んで?」

「そのようだ」

「腐りきっている!」

ユキの整った表情が怒りで歪む。右手に固い握りこぶしを彼女は作っていた。憎しみを隠すかのように、圧し潰すかのように。懸命にユキが自身の感情を抑圧していることがレオハルトには分かった。

当然レオハルトも黙ってはいなかった。

SIAの長としても。教師の道を目指していた男としても。

「…………これが本当なら、僕は彼にお仕置きを敢行する必要があるね。……でも焦らない事にするよ。僕は、『国と秩序側』の人間だからね」

普段通りのレオハルトの笑みが、彼自身の感情によって完全に引きつっていた。




宇宙港の警備は厳重であった。

何人もの正規軍兵士とSIAの黒服がマリンの安全を確保するために必死に進路を確保していた。だが、ふつふつと悪意が黒服に押し込まれていた。

群衆。

ファンだった者たち。

愛情が憎悪に変化した者たち。

それらが軍隊のように整然と並んでいた。アスガルドの宇宙港内に不気味な静寂が訪れる。フライトプランの描かれた電子掲示板の音とアナウンスだけが静かに響いていた。

まず最初に歩き出したのはレオハルトであった。

続いて、シャドウ、サイトウ、ルイーザ。

そしてようやくマリンが出てきた。ユキとアディ、アオイと共に。

ブーイング。

激しい罵詈雑言の津波がSIAとマリンを襲う。

『人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!』

悪意の声と言葉。それらが着実にマリンから精神の安定を奪ってゆく。だが、彼女は独りではなかった。ユキがその手を握っていた。ユキが彼女を悪意から守っていた。

「……やあ、マリン!……長旅お疲れさま」

SIAの警備チームと正規軍兵が驚愕して声の方を見る。

背広の男が群衆の中心にいた。

ジョン・H・オータム。

グリーンの目をした、にこやかな白色の肌の紳士がいた。

だが、次に紡がれる言葉は紳士的な要素は何一つなかった。

「マリン君。名残惜しいが、予定通り悲劇のヒロインになりたまえ」

「!?」

マリンの顔が愕然としたものになる。

「……テレビのみんな!コメディショウは見てくれたかな!?」

オータムはテレビカメラをもった報道陣と群衆のほうに向かって、唐突に叫ぶ。

「見たァァァァァァァァァァァァ!!」

異様な絶叫を伴い、ファンだった者たちがおもむろに武装し始める。

バッド。包丁。鉄パイプ。レンチ。

粒子拳銃や猟銃を持った者もいた。警官や空港職員も混じっていた。

彼らの目には明らかに正気の光はなかった。

狂気の光ならあった。

取り憑かれたような目であった。

「マリンスノーはァ!?」

「マリンスノーはテロリストぉ!マリンスノーはテロリストぉ!」

場違いな明るい歌を歌うように悪意のこもった言葉を群衆は投げつける。オータムの『能力』によって思考が支配されていた。

「テロリストはァ!?」

「テロリストは死刑ェ!テロリストは死刑ェ!」

「マリンスノーはァ!」

「マリンスノーは死刑ェ!当然!マリンスノーは死刑ェ!当然!」

「今日も元気にぃ!!」

「逝っテミよォォォォォォォォォォッ!!」

狂ったように暴徒の群れが流れ込む。

兵士たちは躊躇しながらも暴徒たちに向かって鎮圧を試みる。

「ギャアアアアアアッ!!」

兵士の一人が暴徒の群れに飲み込まれる。血飛沫を上げながら、兵士と黒服が一人、また一人と負傷してゆく。

「調子に乗るな!ジョン・H・オータム!」

蒼い残像となったレオハルトが暴徒から瞬時に武器を取り上げる。

何百人もの暴徒がいたのにも関わらず。

暴徒たちはふらついた様子になりながらも素手でマリンの方に突進する。

「負傷した兵は船内へ退避!無事な兵は僕に続け!マリンを用意した車両まで退避させつつオータムを確保しろ!」

「了解だ!ボス!」

サイトウが返事する。

レオハルトの命令と共にユキたちが突撃を敢行した。

今回は急速に『犯人』へと近づく場面となりました。オータムの能力はなかなか厄介です。

次回から、戦闘となります。よろしくお願いします。

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