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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第四章 シャドウ・オリジン編
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第四章 三十一話 取引(その二)

この作品は残酷な描写が含まれております。ご注意ください。

拳銃。ユキからもらった閃光手榴弾。改造スタンガン。伸縮式の特殊警棒。

全身を包む黒装束。カラスの覆面。後は何もない。

シンは再び戦う者となった。

シンの目の前には狂乱の殺人者が向かってくる。

男は叫んでいた。だが、シンは目の前の敵をただ見据えるだけであった。

シンの腕はただ払った。その手には、伸縮式の警棒が握られていた。警棒が的確にナイフを薙ぎ払う。カクは即座に拳銃を懐から出そうとした。

だが、できなかった。右腕の先に手がなかった。ユキが即座に撃ったためだ。ユキの右腕が複雑に機構を変え、砲身の形を作り出していた。それは一瞬の変形であった。

カクがユキに強烈な殴打を食らわせた。だが効果がなかった。攻撃を感知したシステムが、ユキの体内と強化外骨格の機能がユキの頭部を瞬時に保護した。

彼女の纏っていた服、インナーの部分が瞬時に防具としての役割を果たす。インナーと服の間にあった部分からヘルメットとなる微細な部品たちが縫うようにして頭部を包み隠した。塵のような物体がユキの頭部を完全に覆った直後、カクの蹴りがやっと到達した。

「無駄よ?」

ヘルメットから変声装置越しの音声が響く。

ユキは機械の腕でカクを投げ飛ばした。カクの体が窓と窓の間の柱に叩き付けられる。続けざまにシンが強烈な飛び蹴りを食らわせる。

腹部に直撃したシンの攻撃がカクの内蔵に痛烈なダメージを与えた。強烈な衝撃が、足の先に集約された全身の体重と運動エネルギーがカクの胃腸を揺るがしてゆく。

「ゲァアアッッ!?」

吐瀉物を廊下にまき散らしながらも、カクは狂ったようにナイフを振り回し続けた。ユキがその腕を掴んだ時に、カクはもう一つの武器を用いる事にした。

パン。

チープな破裂音がユキの頭部の近くに響く。しかし、鉛の弾丸がユキの頭部に到達する事はなかった。その隙にシンが近づく。

「ロスゾォォォォォオオオオオオオ!!?」

獣のようにカクは吠える。そして三発も銃弾を使った。成果は一発。しかも、シンの頬を少し掠っただけであった。布と皮膚が裂けたところから血がしたたる。すかさず、シンはカクから拳銃を取り上げ警官隊の方へ蹴り飛ばした。

「か、確保ぉぉぉ!!」

警官隊はカクを取り押さえるために大勢で突進した。

数人の警官がシールドを構えつつ、何人かの素手の警官が手錠を持ってカクの方へ突進した。

だが、勝負は終わってはいなかった。

「コロスゥェェアアアアアアアアアアアッ!!」

狂ったように『殺意』を叫びながら、カクは一人の警官の頭を掴んだ。

「え?え?え?」

警官の頭部が潰れた。

まるでトマトが万力で挟まれたかのように容易く潰れた。その過程でユキと警官数人が吹っ飛ばされた。

「きゃあ!?」

ヘルメット越しにユキの悲鳴が響く。

警官たちが一斉に拳銃をカクに向けた。

カクは殺気よりも狂乱した状態で警官たちに突進した。

カクはまず近くにいた警官の頭部を掴むと壁に何度も叩き付けた。それはボールをドリブルするような感覚で何度も何度も叩き付けた。血が出ようと、目がもげようともおかまいなしであった。

「ギャアアアア!!バケモノォ!!」

恐怖に囚われた警官が旧式の銃を何度も撃つ。銃弾全てを放ったが表皮を少し抉っただけだった。警官は銃弾がないにも関わらず引き金を狂ったかのように引き続けていた。否、警官は狂っていた。恐怖によって正気を失ってしまった。

カクは警官の腕をもぎ取った後、すぐに頭部を素手で貫いた。カクの右腕が血と脳漿で赤く染まっていた。

「ひ、ひ、ひ、ひっ……」

目の前で同僚をやられた警官は泣き崩れながら狂ったようにその場から逃げ惑った。ふらふらになり、壁に何度も頭を打ち付けながら狂乱して逃げ続けた。頭部が血で染まろうともおかまいなしであった。戦う事もなかった。

「お、おい!?どこに行く!?」

警官の制止も耳に入っていないようであった。

その場にユキとカク、そしてシンが残される。

「離れろ!」

ユキがそれを合図にカクと距離をとった。カクはユキを追撃しようとした。が、背後を見せた瞬間、銃弾が撃ち込まれた。

シンだ。シンの両手には拳銃が握られていた。

シンの撃った弾丸はカクの皮膚で止まっていた。服を貫通したが、皮膚を貫く事はなかった。

カクの皮膚は血で滲んでいたが、すぐに塞がっていった。

「……お前、ふざけているのか」

シンは目の前のカクの変化に戸惑いながらも猛烈な攻撃を与え続けた。カクの皮膚に大きな変化が現れる。それは変色というだけではない。岩のような硬質な質感が強まっていた。肌というより岩の装甲と言った方が適切な状態であった。

「撃て」

シンはただそう言った。ユキが背後に回り腕部キャノンを連射する。青い粒子弾が岩の皮を徐々に削り取るが効果は薄かった。

「……対物仕様にしたんだけど!?」

「なら一度引く。科学室だ」

二人は射撃を繰り返しながら適切な距離で逃避を続けた。

「バカ?バカ?バカ?」

挑発するような言葉を岩のカクは繰り返した。

「どうなってんだよ……」

「……相手アダチじゃなくてカクだよね?ね?」

「……こっちだ」

二人は階段を駆け上がりながら、拳銃やアームキャノンでおびき寄せ。おびき寄せては撃つを繰り返した。

そうして科学室に二人は駆け込む。扉の鍵を掛け、時間を稼いでいる間に、使えそうな薬品探す。教室と違って血痕も散らかったものもない。効率的な探索ができる状況であった。だれもそこに逃げ込まなかった状況がシンたちに味方する。

「塩酸か水酸化ナトリウムがあれば……」

「学校の授業でならあるでしょう?……あ、ここ」

「科学万歳だ。……気をつけて扱えよ」

「肌に悪いからね」

ユキがとぼけた口調で答える

「悪いって次元ではない」

ユキの軽口にあきれながらも、シンは机にあった鞄を借用する。そこに塩酸の瓶を詰め込めるだけ詰め込む。

衝撃音。それも複数回響く。

チャックをして敵に備えようとした二人を大質量の物体が落ちる音が部屋中に響き渡った。衝撃で歪んだ科学室の扉が自動車のような衝撃によって一メートルは吹き飛ばされた。教卓と曲がった扉が衝突し、ガタンというべき音が二人の鼓膜を揺るがした。

「オイ、コロスゾ」

カクがそう言って二人を見据えた。

「……『独り』で死ね。狂ったサディストめ」

シンは忌々しそうに吐き捨てる。猛禽の目が『狂気の不良』を見据える。

そう言った直後、彼は塩酸の瓶をカクに投げつけた。ストレートの軌道。時速百三十メートル。野球の要領で投げつけられた瓶はくるくると回転し、カクの肌に直撃した。

パリン。

ガラスの硬質な破裂音と共にカクの顔面、岩の肌の隙間を塩酸が焼き始めた。

「オオオオオオォォォアアアアアッッ!?」

カクの岩の肌の間から肉が溶解しながら血を吹き出していた。カクの全身を覆う堅牢な岩装甲も塩酸の前では全くの無力であった。岩の肌の間からふつふつと気体が吹き出す。続けざまにユキも複数の瓶を投げつける。シンも同時に投げた。

「ゲァアアアアアアアアアアアッ!!」

岩の間から血を流し、カクは悶え苦しんでいた。

「岩の肌は駄目か」

「岩は、フッ化水素酸がなきゃ駄目だけど、……死ぬよアレは。防護服必須よ、アレは」

「それもそうか。でも内部がもろい事が分かって良かったぞ!」

ユキとシンは悶え苦しむカクの口の中に銃撃をたっぷり食らわせた。

射撃と体を焼く酸の痛みに耐えかね、カクはとうとう悶え苦しみながら息絶えた。

科学室に沈黙が訪れる。

「……ジン・アダチみたいになってたな。カクは」

「……こんなのと毎日毎日相手してたの?」

「……ただの雑魚だったはずだ。メタアクター能力があるなんて聞いた事がない。しかも……」

「どうなってるの?まさか……当たり?」

「どういうことだユキ」

「……人工メタアクター」

「へ?メタアクターは自然発生的に目覚めるものだろう?」

「……ジーマではそれを発現できる技術がある。似たような技術なら聞いた事ない?」

「…………『魔装使い』か?だがあれとは違うぞ?メタアクターは別に生体エネルギーを宇宙的熱量発電法に変換する訳じゃない。ただの特殊能力・才能だろう?」

「……誰かが私たちの技術を盗んだ。それを追跡しているの私は。それが分かれば私は再び『英雄職』に戻れる」

「英雄職?」

「ジーマには『個性』が排されている。それが唯一許される例外がある。それが『英雄職』。私はそれのみに適応するために作られた個体よ」

「……とんでもない背景を背負っているな。君は」

「……そうね。……後、私たちの技術には協力者がいた」

「協力者?」

「……『抜き取るもの』よ」

「!?」

「おそらく、ヤマオウ組が盗んだ。それも若い連中が……奴らのせいで私たちの国は存亡の危機にある」

「極秘の技術か。カールには言えないなそれは」

「ええ、カールが知ったら私を殺す可能性がある。でも私は国の命令に従っているだけよ。私はただマスターや国のみんなに認めてもらいたいだけよ!」

「分かっている。……だが約束しろ。国が全てではない。もし国がお前を裏切るなら俺のところに来い。いいな」

「国が……裏切る?」

「それだけ危険な事をお前独りに託すなんて、どう考えたって、お前を……」

「言わないで!」

「……ユキ」

「みんな……私を認めてくれたの……私を……」

ユキは俯きながらシンの言葉を否定する。

シンは少し間をおいてからユキに言葉をかけた。

「……国がどう考えているかは知らない。だが、ユキは友達を助けてくれた。ミクやエミを……カズが傷ついた時も悲しんでくれたし、不条理な事には怒ってくれた。そんなユキを信じたい。誠実で律儀なお前を」

「……あ、……ありがとう」

ユキはおずおずと微笑みを浮かべた。不器用だがシンにとって、すてきな笑顔に見えた。

突如、はっとした彼女は周囲を警戒する。

「……どうした?」

「だれか……くる」

二人分。足音が響く。

ジン・アダチ。不良の出で立ちとナイフ。染めた金髪。

そして、ヒロシ。大柄の男。レスリング部の裏番。

「オイ。コロスゾ」

ジンは相変わらずだった。殺意の籠った言葉をただ繰り返すだけだ。

「チ、カクの野郎二度も失敗しやがって使えねえ」

ヒロシは酸で焼けた死体に唾を吐きかけた。

「ヒロシか。逃げればいいのに」

「逃げる?俺たちはお前をシメにきたんだよ」

「寝言は寝ていえ。外には警察もいるんだぞ?」

「警察がなに?怖いの?お前は殺された事にするよ。そこの雑魚に。大人なんてチョロいからすぐ騙せるっしょ」

「……」

「オイ、コロスゾ」

「さっきの能力はこいつの?」

ユキがヒロシに問いかける。ヒロシは卑しい笑顔をユキに向ける。

「そうそう。あとオレオレェ。おれが『強化』して、ジンがカクの頭操った。お前は後で『遊ぶ』から大人しくしててねぇ?」

「頭湧いてる?」

ユキが軽蔑の視線をヒロシに向けた。

「……やっぱお前も死ねや」

図体の大きな上級生と狂った不良が二人に殺意を向けた。

アダチは雑魚だった。威勢は良く。殺意に溢れていたが実力が伴ってはいなかった。

ナイフを持って直線状に突進した。シンはアダチのナイフに特殊警棒で応戦する。だが、動きは単純で、すぐに勝負はついた。

蹴り飛ばされ、アダチは窓ガラスに叩き付けられた。

「ギャギャアアアアアアアアアアッ!!」

ジン・アダチの体が校舎から落下し、頭部を強く打ち付けられた。血と脳みそが校庭にぶちまけられ、動かなくなる。あっけない最期であった。凶悪な敵意は多くの弱い生徒を苦しめたが、シンには通じなかった。

「使えねえええええええ!」

同情でも怒りでも悲しみでもなく、『道具に対しての』いらだちをヒロシは感じていた。

二人は目の前の巨漢に攻撃を仕掛けた。

次はヒロシとの戦いになります。リョウとの決戦は後になります。

次回もよろしくお願いします。

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