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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第四章 シャドウ・オリジン編
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第四章 二十九話 カラスの男(その十五)

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

隠れ家のラジオがニュースを告げた。

それはどれも真剣な声色で、ここ最近のアズマ国内の治安や情勢の悪化を淡々と告げる声であった。

「先日の帝都中央病院にて武器を持った集団が病院内を選挙した事件で、被害の全貌が明らかになりました。この事件では病院内でカラードギャング『レッドスピリッツ』が武器を持って入院患者に暴力を振るい、五十名以上もの患者が負傷しました。また、その際入院患者の八十代の男性が……」

カールはため息をつきながらニュースの感想を漏らした。その隣にシンは座っている。二人以外に人はいない。既に、捕まえたギャングこと『預かりもの』は狂った様子で逃げ帰っていった。正気を失ったまま恐怖から逃げ帰っていった。大いなる恐怖に彼は押しつぶされていた。

「長い平和でテロも無縁。それがこんな形であだになるなんて予想もつかなかっただろうな。やれやれだ。これだから平和ボケは」

ニュースキャスターが次のニュースを読み上げる。そこには汚水を飲まされたギャングのニュースが映し出される事はなかった。否、扱う余裕すら世間には残ってはいないと表現すべきだった。

シンはおもむろに口を開いた。

「……さてカール。ようやく君に話を聞ける」

「カール『さん』だ。礼儀を尽くす努力をしろ。俺は年上だ。すくなくとも」

「……なぜお前は俺たちに協力する?」

「……なに?」

「学校社会に迫害されている少年を救ったところで何の利益にならないだろう?お前は外国人だしな。もともとはアズマとは関係ない。そうだろ?」

「……何が言いたい」

「お前の目的が分からん。なぜそうまでして俺に協力する?」

「……タカオにいくつか貸しを作っているんでな。お前を助ければそれをいくらか返せる」

「借り?」

「ああ、借りだ。俺は外国の事情には全く駄目だからな。タカオの存在は大きかったのさ」

「なるほどな。だがタカオとお前の関係は何だ。俺はそれが見えない」

「アイツから聞いていたろ。俺の二人目の息子がタカオの親友。俺はそれに加えて仕事仲間だ」

「仕事仲間?」

「内閣特務調査室と俺の部隊は協力関係にある。軍の一部はそれを快く思わないヤツもいるがな」

「……50年前の戦争か」

「……そうさ。マリー・オルガ大佐とキャプテン・クラウスの時代さ。コミック顔負けの大英雄時代のことを引きずっているヤツもいるってことさ。自分たちが悪役とか敵役にされたのが気に食わないってな」

シンは意外な表情をする。目の前の四十路が『コミック』って単語を使ったことに。漫画よりお固い哲学書を読んで世の不条理をせせら笑うのが、シンの中のカールのイメージであった。

「……俺がコミックに例えたのがそんなに意外か?」

カールはシンの心を察したかのように問いかける。

「……意外だった。それ以外の回答は嘘になる」

「……正直な少年だ。だが悪い気はしない」

「すまないな。嘘は苦手だから」

「……ふん、下手に気を遣われる方がよっぽど不愉快なんでな。逆に感謝している。……正直それ以外の比喩が見つからん。演劇でもあんな荒唐無稽なことはしないからな……映画か?……映画よりかはコミックの方がよっぽど突拍子もないことをするからな。ものにもよるが、映画よりかはコミックと例えた方が適切だと考えた」

「そうか……」

「あの戦争は、訳の分からん異星人の屁理屈から始まった。宇宙を救うためには人命を燃料にする必要があるってな。冗談みたいな主張から始まった大戦争だったよ。俺の居た国は当然、反対派だった。犠牲になるのは、『感情を持った民族』だったからな。……その時代を切り抜けるためには、多くの人の運命をねじ曲げる事が必要だとされていた。多くの人間は『抜き取る事とは違う犠牲』を求めた。だが、どちらにも歯向かったヤツがいた。……それがクラウスだ。俺の……父だよ」

「この時点でとんでもない話だ」

「後世の人間に何度も言われたことだ。……そして、『そのトリックスター』が最初に始めた事は……人助けだ。『孤独のヒロイン』を救い出す事。誰も褒めも認めもしない女一人を救うためにクラウス大尉は戦争にすら歯向かった。冗談みたいなお話だろう?今時、小説でもそんな話は描かれないぞ。そうだな…………『孤独なヒロインが孤独で絶望的な境遇を告白して死にました』ならありえそうだがな……悲劇的で目を引くだろう?」

「女じゃないが、そんなことは現実で見た。二度目はごめんだ」

「そうかよ……ご愁傷様だな。少年」

「だから、神は嫌いなんだ。誠実なヤツに限ってそんな目に遭うのに、神は何もしないんだから」

「神は死んだ」

「なにそれ?」

「有名な哲学者の言葉だ」

「……へえ、論理的だな」

「そうかもな。もし、いたらどうする」

「さあな。会ってみないと分からん」

「殴るんだろ?」

「かもな」

「俺は殴りてえ、……おふくろを苦しめた神がいるなら一思いに殴りてえ」

「気が合いそうだ。あなたとは……『全知』とか言った瞬間、俺もそうなるかもな」

「……さて、話を戻そう。俺が人助けを手伝う理由だったな。もう一つある」

「?」

「レッドスピリッツだ。奴ら、マフィアとつるんでいるだろ。犯罪組織は『抜き取る者』と関係する事もあるから油断できない」

「……抜き取る者?」

「……ふりふりの服と変な武器を身につけた能力者を見た事は?」

「……今のところは……だが、『魔装使い』のことはニュース等で聞く。そういえば、カールのいた国も『抜き取る者』関連でこの国と協力して対処するって言ってたな?」

「そうだ。下手すれば銀河の勢力全てで対抗しても足りないかもしれんぞ?」

「どうして、犯罪者と『抜き取る者』が手を組むのがまずいんだ?」

「『抜き取る者』は人間を『絶望させる』ことでエネルギーを得る。犯罪とは『相性抜群』なんだよ。だからまずいんだ」

「突拍子もない話だ」

「だが、事実だ」

「だろうな。じゃなきゃ俺たちはまだ戦争していたかもしれない。知的種族にとっては、『それほどの共通の敵』なんだろ?」

「かもな……」

「つまり、お前の狙いはギャングと異星人種族とのつながりなんだろ?」

「完璧な答えだ。そう思っていれば間違いない」

「そうか。だが、確証はあったのか」

「なきゃ、ここにはいない。これを見ろ」

カールが手渡したのは一枚の写真であった。

「これは!リョウ!?」

「ああ。アイツが数ヶ月前にツァーリン連邦の宇宙港にいた時の写真だ」

シンは手渡された写真をまじまじと見た。老ヤクザとリョウ、そしてリョウの父が写真に写っていた。彼らが見ていたのは小動物。猫に似た白い体毛の生き物が無機質な赤い目をしながら向かい合っている。それは地球上のどんな生物にも似ない未知の生物であった。彼らは知的な雰囲気を漂わせながら機械的な表情をしている。猫では決してあり得なかった。

「なん……だ……これ……!?」

「……奴らは種族によって呼び名を変えながら、細々と生きている閉鎖的な種族だ。奴らは知能が発達しているが、道徳よりも効率を優先する傾向にある。一族郎党全てサイコパスってヤツだ」

「……こんな奴らと何の取引を?」

「……いろいろだな。その時の音声も録音している。取り押さえようとしたが、現地警察がバカをやったせいで、俺はここでまた一から調査するはめになった……まあ、珍しい事ではないがな……」

苦々しい表情をしながら、カールは自身の銀髪を片手で掻いた。

「……まあ、裏工作に限られるが、それでも悪質なレベルだ。もっとも末端のチンピラは何も知らず仕事をするだけだがな」

「なぜ、リョウはそんな奴らと?」

「自分以外を売り渡すつもりなのさ。ごく一部の感情の麻痺した人種だけが生き残れるように便宜を図っている。大まかな内容はそんなところさ」

「……じゃあ、カズやミクのいじめも……?」

「それは、どうも違うようだ。あれはそれまでの暇つぶしみたいなものらしい」

「……暇つぶし……?」

シンの表情が変わる。

猛禽の目。ぎりと噛み締めた歯。表情一つからにじみ出るシンの殺意は、歴戦の猛者であるカールですら一瞬たじろがせた。

「……ち、その迫力は訓練じゃ出せねえよな……」

「……そんなくだらないことで?」

「そういうものだ。いじめってものは、理由のない悪意だ。それこそが、故郷だよ。全ての犯罪や暴力は。……これは犯罪の始まりなんだ。そして終わりがない。無数の人々を巻き添えにした呪いだよ。これこそがこの世の暗黒だ。そういう悪意は『影』とは違う。もっと暗く深く、『日常と幸福』を侵してゆくんだ。その闇の中では正義の光ですら届かない事がある。……なんとも胸糞悪い話さ」

「……なら、もう遠慮する必要はない」

「あ?」

「手段は選ばない。俺の友達は死んではならない。苦しんでもいけない。俺は『俺の友達』を救うためにあの赤ギャングを潰す必要がある。お前も『奴らの敵』なら手を貸してほしい」

「……いいさ。だが、条件がある」

「なんだ?」

「お前は俺の部下になってもらう」

「!?」

「俺の配下として動く。それは再び兵士になるという事だ。だが安心しろ少年兵時代とは違う。高校までは教育の面倒をみてやる。そのかわりアスガルド共和国。つまり俺の国だ。俺と一緒に来てもらう……当然、タカオは反対するだろう。だが、お前は俺の意見を飲むしかない。なぜなら、この事件の処理にはあるストーリーがある。これはお前にとっては不都合だ」

「それは?」

「ミクやカズを見捨てる事だ。戦えないものは切り捨てる。実に合理的だ」

「!!」

シンは目を見開いて、表情を強張らせた。シンの顔は時が止まったかのように、緊張による強張りを見せていた。

「……俺は正直、反対だがな。俺の『上』はそう言うわけにはいかない。奴らには結果が必要だ。お前が協力すれば、二人は助かる。無論、エミも。エミは特に深刻だ。お前の協力一つでその後が決まる。エミはきっと粛正されるだろう。そうなる前に避難させるには、お前の協力が必要だ。エミが死ねば、お前の友達の一人のミクは大変苦しむ……だが、どうするかはお前次第だ。強要はできん。せいぜい良く考える事だ」

シンの答えは決まった。

それを聞いたカールは無表情で頷く。

「……そうだ。それが賢明だ。お前は『シャドウ』として。『カラスの男』として、俺の手先になってもらう。それはしばらくだけでいい。戦闘能力やあらゆる国の軍事技術を学んでもらう。お前はメタアクターではない。グリーフが使えてもたかが知れているだろう?鍛えても生身で『同じ能力』の『感知』をするだけで精一杯のはずだ。……だが、安心しろ、俺もお前も常人の兵士程度の能力しか備わっていないが、対抗する術はある。それを学んでもらう。それを使ってどうするか……実に見物だな……」

「ああ」

「この作戦をまず終わらせたら紹介したい武道家がいる。……アマミヤといってな……」

「そこまででいい。続きは、ミクとエミ、カズたちの脅威を排除してからだ」

「そうだな……くくく、楽しみだ」

カールとシン。

二人の密約は静かに交わされる。

シンは初めて、タカオやミッシェルの考えを抜きに答えを決めた。

こうして、シンは『恐怖の影』にして『カラスの男』となった。

シンのなかで再び何かが目覚めようとしていた。

本作品は『孤独なる人間』をテーマに様々な物語を展開していきます。


次回もよろしくお願いします。

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