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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第四章 シャドウ・オリジン編
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第四章 七話 トラウマ(その一)

今回から話が急展開します。

簡単な偵察任務だったはずの作戦でいったい何が起こるのか。シンの目線で楽しんでいただければ幸いです。

シンは車に揺られていた。

森林の荒れた道をNGOの車に乗って進んでいた。

NGOはアズマ人やアスガルド共和国、AGUの医療関係者やジャーナリストで構成されていた。中には大型の銃を持った案内人もいるが、それは現地の状況に詳しいPMCの人間か、出身国政府の軍人だと考えられた。明らかに医療関係者ではない人物の中にはアズマの人間もいた。

サワダ一等兵、改め曹長を除く四人はできる限り私服のような格好で動いた。民間人だと思われるためであった。

「……サワダは生きているんだろ」

「基地で見た。生きてたよ」

「……なぜ曹長になれた?」

「さあ?」

「……早く着くといいな」

「そうだね」

ミッシェルとシンはゆったりとした様子で会話した。端からは、年の違う子供が微笑ましい会話をしているような風に見えた。シンは可能な限り自然な感じで顔を隠した。シンは帰りたかった。しかし、知りたい事や友達の事、いろんな事があった。それを手放したくなかった。それに、今は任務だった。シンの生来の律儀な性格が自分の存在を周囲に話す事を拒んだ。

「……」

「……」

「今回はすまないな。ゾラ」

「いえ、久しぶりに友達と話せて楽しかったです。……これは仕方のない事ですよ。どうか気を病まないでください」

「ああ、君にも頑張ってもらうぞ」

「……はい」

シンはゾラと曹長を見た。

「ゾラさん」

「どうした?」

「ゾラさんと隊長は付き合いが長いのですか?」

「そうだな。彼とは長いな。でも名前知らないんだ。変だろ」

「そうでしょうか。僕らの中では曹長は曹長ですから」

「はは、……ゾラは俺の事をこう言うんだ。ロン。由来は分からないが。幸運になった気がするよ」

「では今度からロン曹長と呼ぶ事にします」

「いい。いつも通り曹長にしてくれ」

「わかりました」

3人が会話すると、車にいた人の一人が話しかけてきた。

「そっちのヤツは軍属かい」

「元な。今は違うが」

「そうか。……この先は気をつけな」

「うん?何かあるのか?」

「兵士と間違えられたら撃たれるってことさ」

「そうならないように行くよ。今日はありがとうな」

「いいさ。属する団体は違えど旅は道連れなんだ」

「いいね『道連れ』。俺はその言葉が好きなんでな」

「……あんまり悪趣味な意味にとらないでくれよ」

「……ああすまない。仕事の前はこんな調子でな。気にしないでくれ」

「へえ、仕事はどんな?」

「軍を離れて、教師の仕事をな」

「そうか。……友達も教師をやってたんだけど死んだんだ」

「戦争で?」

「ああ、彼の分もできることをしようと思ってな。それで募集をしたらこんなに人が来てくれたんだ世の中はわからない事だらけだな」

「そうだ。世の中は不思議でいっぱいだ。……そう言えば前にこのゾラもそんな事言ってたな」

「その細身のレムリア人だな?」

「そうだ」

「俺の友達の友達が知り合いだった」

「そうか。その縁でここに?」

「そうだ。ここでは悲劇にあふれている」

「案外身近に悲劇があるのかもな」

「ならできる事をしたいな」

「……幸運を」

「そちらにもな」

「気遣いに感謝する」

これ以降の会話はなかった。ひたすら車に揺られ、荒れた道を進む。シンは移り変わる景色をミッシェルとともに進んだ。木々が生えた道。草の高い場所。木々の隔たりが大きく日の光がさすところ。万華鏡のように移り変わる自然の姿をミッシェルとともにシンは見る。青々とした熱帯雨林を、草を食む草食竜をただ眺めた。

NGOの車は道の途中にある難民キャンプで止まる事になった。他の団体と合流する事が目的らしかった。

四人の目的地は、その先の宇宙港。その周囲にある空軍基地であった。艦載機として配備された航宙機だけでなく、AFの存在もあった。人型の鉄巨人。これこそが、シンたちの目的のようであった。

「……なあ」

「?」

シンはミッシェルの方を見た。陰のある表情がシンに一瞬だけ見える。すぐにもとの顔に戻るが、シンにとっては嫌な予感がした。

「別の任務ができた。でもすぐに戻るからそっちに集中してくれ」

「別の?危険じゃないよな」

「……心配するな。すぐ戻るよ」

「……わかった。無理するなよ」

「そっちもな」

シンは不安な表情を隠して、目的地に向かった。ミッシェルはそれを見送った後、哀しげな表情を浮かべた。





フランク連合の基地の暗がりの中でサワダは周囲をうかがっていた。

バレてはいけない。空間を確保しなければならない。その事を念頭に『準備』を進めていた。

警備兵の姿はなく。黒いスーツを来た男が電灯の明かりの下にいるだけであった。サワダは無表情のまま、悠然と男の前に歩み寄った。

「……来たかサワダ君、うまくいったかね?」

「問題ねえ。無事上層部に取り入ったぜ」

「そうか。報告によれば曹長にまで一気に昇進したと聞いてるが」

「今後の展開しだいなら、もっと昇進できるぜ?」

「……慢心はするな。すべてが水の泡となるぞ?」

「……心配はするな。準備は万端だ。オズの連中が泡を吹くのが目に見えるぜ」

「ふむ、作戦は午後。本日一五:○○に行う。極秘会談に合わせて動くようにしろよ」

「ああ……そうさせてもらう」

サワダは暗がりからどこかへと去っていった。サワダの背後で男はこう言った。

「……世界に真実の回帰あれ。再生あれ」

サワダはオズ連合の軍服から黒い戦闘服へと着替えた。エナジー機関銃や手榴弾、リモート爆弾の発信装置が戦闘服と共にアタッシュケースの中に入っていた。

サワダはにやりと邪悪に笑いながらつぶやく。

「偽善者どもと平和ボケどもに真実を叩き付けてやる。それとミッシェルのガキも確実にな」

サワダは機関銃を抱えて暗がりへと消える。それに合わせて黒スーツの男もどこかへと消えていった。





シンは森林から森林へと移動を繰り返した。基地やキャンプでの生活に慣れたせいか、野戦に関して成人した兵士よりも優れた水準の行動がとれるようになった。全身を木々の緑に迷彩し、大人顔負けのスピードで行軍する、しかも、スタミナも底なしだといわんばかりにハイペースの行軍に耐えた。野生生物にも何体か遭遇したが、どれも不要な戦闘を避け、うまくやりすごす事ができていた。

「……今日は一段と草食竜が多いな」

シンはそうつぶやきながら草と木々の間を行軍する。地図を用いながらも、ハイペースで行軍したシンはとうとう、目的の空軍基地へと到達した。

空軍基地では公開軍事パレードが行われており、旧式の兵器から最新鋭のものまで一様に顔をそろえていた。

「……すごいな。あんなAFは初めて見た」

フランク連合製の戦闘艇や艦載機、ファランクスを始めとしたAFや駆逐艦クラスの艦船の公開砲撃訓練が行われていた。

特に目を引いたのはフランク製のAFである『グリムG』が登場していた事が目を引く。軍事大国であるアスガルドの兵器に依存する状況がフランクで目立つためフランク政府は国産の兵器の開発を急いでいた。

それが『グリムG』であった。コンセプトは完全にアスガルドの『クルセーダー』の模倣品といった有様ではあったが、クルセーダーと比べると最新鋭の装備への互換性を高めており、対艦攻撃や拠点制圧を重点においていることが見て取れる。

シンが見た最新鋭機は『グリムG』系列の最新鋭機体であることがシンに察する事ができた。

「……あれ、見た事ないな」

グリムGの蛇行するかのような機動が観衆の目を引いていた、『グリムG』そのものの性能は最新鋭機にしてはややお粗末ではあるが、フランク国の軍事力の誇示を目的としたプロパガンダと考えるならそれなりに効果はあった。フランク連合はオズ連合と比べ歴史が浅く、新興国としてなめられる心配があったが、工業面での経済力と技術力を誇示できれば、大国としてのアピールは十分であった。まねすらできないと思われていた各国の軍事関係者はそれなりの驚愕をもって『グリムG』の飛行を目撃していた。

シンはその様子を念入りに写真に収めていた。

一枚。もう一枚。

標的用の軍事車両が無人運転で装甲する。グリムGはそれを電磁キャノンで撃ち抜く。パイロットの腕は良いようであった。

一枚。もう一枚。

「……こんなものか?そろそろ……」

シンがそう言って小高い丘の草の中から下がろうとした。

シンの網膜に閃光が映る。

格納庫の部分。聴衆のいる建物のそばで不審な爆発があった。

「え……?」

シンはその付近に見覚えのある人物を見た。

ミッシェル。ミッシェル・バルザック少尉。

彼は何かと戦っていた。シンは驚き慌て双眼鏡でミッシェルの行動を覗こうとしたが、分からなかった。煙と炎で『何か』をうかがう事ができなかった。

聴衆は避難し始め、兵士たちはミッシェルと『何か』に銃撃を浴びせた。

しかし、だれも殺せなかった。『何か』とミッシェルを撃ち殺すより前に『何か』が攻撃を仕掛けた。黒豹のような死の風が兵士たちの命を刈り取った。人だったものが赤い飛沫となって消滅した。

『グリムG』も攻撃に参加しようとしたが、『何か』はAFの関節のもろい部分を砕き転倒させた。ミッシェルは怒りの形相で『何か』に向かって蒼の光弾を連射していた。『何か』はミッシェルの攻撃を軽々と避けていた。子供の投げたボールを避けるかのように動いていた。『黒い何か』は飛行型のパワードスーツを着ていた。

本作品は『孤独なる人間』をテーマに様々な物語を展開していきます。


次回もよろしくお願いします。

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