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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第四章 シャドウ・オリジン編
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第四章 三話 初陣(その一)

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

シンたちは装甲輸送船の中で降下準備を進めていた

シンだけではない。装甲輸送船自体がいくつもいくつも飛んでいた。ミッシェルの言う話に従うなら、この日の作戦には、装甲輸送船が二百機近く飛んでいるらしかった。どうもこの作戦では基地を襲撃するらしく、そのために多くの兵士が参加していた。シンがトラックで出会った少年兵も多く参加するらしい。シンはなんとなく、この作戦が血なまぐさいものになると直感していた。それは間違いないらしく、ミッシェルが言うには先に攻撃を加えているアサルトフレーム(AF)部隊の報告によると、基地の防衛設備は堅牢で対空砲火も分厚いものになっていると言われていた。

シンはヘルメットを被り直す。ちいさなヘルメットでは対空砲の弾丸を防ぐ防御能力はない。しかし、精神的にそうした方が落ち着く気がシンにはした。

ベテランの兵士はどこか落ち着いたように振る舞うが、少年兵や若い新兵は気が気でない様子だった。例外なのはミッシェルぐらいだった。

シンはミッシェルに聞きたいことがあった。

少年兵のこと。ミッシェルのこと。その二つはどうしても聞きたかった。

「……ミック。ちょっといい?」

「うん?いいよいいよ!何?」

「……この作戦、僕の部隊も出るんだけどさ。どうして集められたんだろう」

「……ああ、そうか。君アラカワの家に生まれたんだっけ」

「そう、……お母さんを殺したヤツに売り飛ばされた。傭兵として……」

「そっか。俺も……似たような感じ。親に見捨てられてここに来た。知り合いのおじさんに軍での仕事を紹介されてここにいる。僕の場合は特殊能力が使えるから」

ミッシェルの顔が険しくなる。緊張したり、戦闘態勢に入るときのミッシェルは『一人称の調子が強くなる』。僕というよりかは俺と表現するような強さだ。

「前にも言ってたね?それは何?」

「グリーフフォース。アズマじゃあ『紫電』と呼ばれてるんだっけ?」

「うん……でも僕はちっとも使えない」

「そうか。おそらくそれが……」

「それがって?」

「超能力者は人身売買の値段でも高くつく。戦わせれば傭兵として十分もとがとれるからね。それが狙いだったのかも。ただの子供でも超能力者と謳って売りつければ十分な稼ぎになる」

「でも、最初は殺そうとしたんだ」

「そうか。子供が嫌いなヤツは声を聞いているだけでも頭に血が上るらしい。子供の大声が嫌いなのさ。僕の前いた部隊の嫌なヤツが俺のどを潰そうとしたからやっつけた。あいつ、子供は皆大声を出すものだって思い込んでいるのさ」

「……ひどいヤツだったね」

「だろ、だからやっつけた。俺には非がないからそいつは軍事裁判にかけられたよ。今どうしてんのかなぁ」

「牢屋入りだよきっと」

「お、いいね」

「でしょ。ミッシェルいじめるヤツはみんなそれがお似合いだよ」

「うれしいこと言うじゃないか。お菓子分けてやるからな」

「ありがとう。ミック」

ミックと話をしていると輸送船が目的地に到着し始めていた。空中を浮かぶ五十メートルの鉄のかたまりが地表の森に近づき始める。森の近くには川があり、緑と濁った水が眼下に広がる。

シンは他の分隊メンバーとともに武器の調整をした、サワダ一等兵とゾラ一等兵、それと曹長。

ミックは武器らしい武器を持っていなかった。腕にあるガントレットの調子を確認していただけだ。

「それは?」

「俺の武器」

「へぇ。僕はこれ」

「……おお、良く整備されてるな」

「ミックは銃使わないの?」

「俺のは銃より強力だから」

「だから、隊長より……」

「おおっと、みんなのまえだから。な」

「う、うん」

階級が隊長より高い理由をシンは察していた。

ミックは軍の重要な戦力として扱われているのだ。その一方で、ミックを見張る人物が必要なのだろうとシンは察する。それが『曹長』だった。

シンは話題を変えることにする。

「ミックは傭兵として戦っているの?」

ミックはいつもの陽気な笑顔で答える。

「ちょっと違うかな?別枠の戦闘員」

「……特別扱いのおこちゃま枠な」

サワダが口を挟んできた。

「……おっさんは引退しな」

シンは即座に罵倒の言葉を返した。返礼代わりの反撃だった。

「俺は事実を言っただけだぜ」

「だから、僕も気を使ったんだ。引退しなよ老いぼれ」

「……調子ついてんじゃねえぞ?使い捨てのガキが?」

即座にゾラと曹長が割り込んできた。

「サワダ!いい加減にしないか!」

と曹長。

「……シン。ここは大人になれ」

とゾラ一等兵。

シンは即座に従ったが、サワダがわめき続けた。そのうち、残りの兵士もうるさいとサワダを黙らせたが、何人かが殴られただけだった。

そのうち機内にアナウンスが流れる。降下準備のアナウンスだ。

「……そろそろ時間だ」

「ああ」

シンの手が震える。

ミッシェルが何も言わずぽんと肩を叩いた。

「終わればご飯だ」

「ああ、楽しみ」

シンの手の震えが止んだ。

揚陸ポッドが強襲シークエンスに入る。

生体部品で作られた黒色の円筒。その中に甲殻類を思わせる足の部品や酸や火炎を吐く器官が備えられている。無論機銃も。何人かの兵士が入れる大掛かりな装置であった。

「上等な装備だ」

ミッシェルがそうつぶやいたのをシンは確かに聞いた。揚陸ポット自体シンもあまり見なかった。


深い熱帯森の中をシンの部隊は降下した。森の凶暴な生き物を排除しながら、ポッドから飛び出したシンたちは勇敢に進んでゆく。作戦説明によれば5キロ先の基地を制圧することが目的だと言うことだ、『曹長』率いる3番隊は森林を抜けて、基地を目指してゆく。

他の部隊も同じ指示を受けているためか、長い長い道を他の部隊と共に進む。

道の途中で奇妙な生物に襲われることがある。

シンたちの場合はオズオオトカゲ二匹に狙われた。

厚い皮膚をした4メートルのトカゲで、人間ですら食べる貪欲さをもっている。人間三人でも苦戦する相手だが、ミックがガントレットをした手でトカゲの肌に触れると、トカゲが苦しみ始めた。

「……母なる哀情の女神よ。悲しみと慈悲の化身よ。我らはその慈悲を理解し、その声を聞く。その声を聞き、その愛とその栄誉を胸に抱く……」

それは、まるで歌のようであった。

シンは絵本で詩をいくつか呼んだことがあるが、それとは違う神々しいような響きと歌い方を感じていた。声が空間を侵し、秩序を乱してゆく。

トカゲが血をふくとその場に倒れ、地に伏すことになった。

「……何をしたんだ?」

「……ちょっとした応用」

「なんの?」

「グリーフ」

「……すごいな」

ミッシェルの異能に助けられて三番隊は森の中へと進んでいった。

味方部隊は何人か敵性生物に補食されたようだが、かなりの人間が生き残った。……もっとも、食べられた者の大半は新兵や少年兵だった。ベテランが狡猾に振る舞いどうにか生き延びたケースが大半のようであった。シンはその現実に嫌悪を覚えながら進んでゆく。

茂みに隠れながら味方部隊が配置に付く、空には飛行ポットが飛び回り敵基地に攻撃を加えている。有刺鉄線の向こう側にフランク軍と思われる軍人たちが対空砲を用いて攻撃を加えている。

入り口には二人の兵士がいて、辺りを警戒している。入り口の近くには敵兵を攻撃するための見張り台が存在している。建物自体は木製の簡素なものだが、重機関砲が配備されていて、うかつに突撃をするのは危険であった。

即座にシンはこう言った。

「僕がいきましょう」

「シン!?」

曹長が驚愕する

「ほお、ガキにしちゃあ思い切ったことをするな?」

このときばかりはサワダ一等兵も感心した口ぶりでシンを評価した。

「……僕は体格が低く、隠れるのは得意です。それに近接戦闘は一通りできます。潜入すれば、高い台の敵を排除できます。そうすることで安全に基地に侵入できるでしょう」

シンは曹長に進言すると曹長はニッと笑って承諾してくれた。

「……いいだろう。だが君は初陣だろう?人は殺せるのか?」

「問題はありません」

冷徹な瞳でシンは答える。

「……わかった。ただし、ミッシェル少尉とサワダ一等兵も同行させる」

「ありがとうございます」

シンを含めた三人が壁の前に待機する。

草むらや物陰に隠れながら侵入の機会を伺っていると別の部隊の一軍が基地に無謀にも突撃を敢行する。うぉぉという雄叫びが響き敵の注意がそちらに向く。

重機関銃が火を吹き、味方がなす術もなくやられてゆく。

「……け、バカめ。まあいい。こっちにとってはラッキーだからな。いくぞ」

サワダが基地の中に入り込むと二人もそれに続いた。

「…………」

「ミック。今は生き残るぞ」

「……わかった」

ミックの表情が曇るのをシンは見逃さなかった。シンが気を遣うとミックの表情がリラックスしてゆく。シンも油断せず、辺りの敵の動きに注意を向けた。

先行していたシンとサワダが敵を発見する。基地の建物内で何やら話をしている。そばには銃が置かれた状態だ。油断。今がチャンスだった。

「へ、こんなときにおしゃべりなんざ。ずいぶん気楽だなぁ?」

今回ばかりはシンもサワダに同意だった。油断があまりに過ぎる状態であった。シンにとってもこれは絶好の機会だった。

「……悪く思うな」

シンとサワダは敵兵の首元にナイフを突き立てた。背丈が低い少年に過ぎないシンは飛びかかるような体勢で敵に襲いかかる。

サワダは敵の体をふわりと浮かせるようにして、敵を投げ倒す。そうして敵が身動きをとれなくなったところにナイフでとどめを刺した。

技術の違いは完全に明らかであった。

シンは体格の低さによる狙われにくさと、勢いあるナイフ格闘で敵を沈黙させる。技量はないが勢いと身体能力で敵を仕留めた。血がシンの顔に飛び散る。

見張りの敵を始末するとシンは、早速仲間に合図を出した。信号弾を打ち出して、味方に知らせる。するとオズ連合の軍が一気に基地に流れ込んできた。

「ミッシェルこれからは?」

シンはミッシェルに任務の確認を求めた。

「機密情報の奪取だって」

「ほかは?」

「わからない」

「何か大事なもの?軍事技術だとやだなあ」

「兵器は使う人次第だ。みんな違うことを忘れるなよ」

曹長が口を挟む、シンは無線で返事をした

「はい」

シンが敵基地のさらに奥へ進むと、そこは人気の少ない通路が見えるだけだ。後はコンクリートの建物と監視カメラであった。ふらりと歩き出すと何か幻のようなものをシンとミッシェルは見た気がした。悪夢だ。水状の何かに強く影響されている。シンとミッシェルが何かに引きずり込まれ灰となって朽ちていく夢だ。


夢幻。シンにとって、その夢は夢というには明瞭すぎる気がした。

本作品は『孤独なる人間』をテーマに様々な物語を展開していきます。


次回もよろしくお願いします。

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