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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第三章 暗夜の絵画編
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第三章 十四話 見知らぬウエイターへの鎮魂歌 

今回、シンの兄であるタカオが登場しましたが、その理由はシンプルです。GFを悪用しようとする勢力を排除することです。彼はアズマ国の国家元首の勅命に基づいて行動しています。


今回はそんなタカオと『バレットナイン』の側がGFを悪用しようとした警官の一派とマフィアたちに対して、どう行動するかという場面です。

ジル・ベフトンは全ての記録を目にしてため息をつく。

これを裁判にかけろと言うのかという思いが彼の中から込み上げる。

『未知のエネルギー空間をフランクの空間と接続する絵画』の使い道を巡ってマフィアと警察、外国のテロ組織までもが醜い争いをした挙げ句、民間人と議員が犠牲になった。しかも、その事件を起こしたのはよりにもよって警察の方で、マフィアはおこぼれを預かろうとしただけ。テロ組織の思惑には外国との繫がりすら感じさせる。

混沌とした事件の非情な事実にジルは思わず頭を抱える。

「……ここまで腐ったのか……『正義』は……」

ジルは事件の複雑怪奇な混沌さに頭を抱えたのではなかった。国を守るはずの人間たちの計画によって見知らぬウエイターを含めた四人の命が犠牲になったことに苦しんでいたのだ。

「……すみませんでした。もっと私が『絵の件』の対処に動けば……」

タカオ・アラカワは深々とジルに頭を下げ謝罪の言葉を口にする。

「……君には君の仕事がある。これは我々が対処すべきだったのだ。我々がもっと早く動ければ……」

ジルは後悔の言葉を口にする。握られた拳は固く重い。指の間から血が滴ってもおかしくないほど強い力が手にかかる。

「……あなたは十分うまくやりました。でも、誰にもどうしようもなかったのですよ。我々が出来ることは事件を終わらせるだけです」

「…………ちくしょう……」

タカオは思いつく限りの慰めの言葉をかけたが、ジルは苦々しい表情を和らげる事はない。フランク語で悪態をついたジルはトボトボと警察署を出た。精神を破綻してしまったソニーは警察監視下の精神病院にて余生を送るだろう。

それについては問題ない。あるとすれば、黒幕たるクリストフと『リセットソサエティ』の繫がりを証明出来る術がないと言うことだ。真相は判明したが犯人は野放しの状態であった。手掛かりがあるとすればソニーの証言が考えられていた。以前ならば。

だが、今の時点では彼の証言は当てにならなくなった。

手詰まり。

ジルは曇り空のセントセーヌをトボトボと歩く。

憲兵の服装のまま。曇りから雨に移り変わってもジルはトボトボと街を歩き続けた。

不意にジルは誰かに声をかけられた。

ジャックであった。

「……お前は『シャドウ』の仲間の……」

「……一杯付き合ってくれよ」

「飲む気分じゃない」

「なら、飲まなくて良い。話し相手になってくれ」

「……そうか」

ジルはジャックに連れられある家へとつく。居間には年老いた老夫婦が食事をとっていた。四人の犠牲者のうちの一人、『ウエイター』の両親であった。




セントセーヌから脱出した星間船五隻には全てマフィアの一団が乗っていた。

ルチア・ファミリーの船だ。

彼らは警察と憲兵の追手から逃れるため、フランク共和国を離れようとした。

「……ソニーがヘマやった以上、これ以上フランクで商売はできないと本国である決定が下された」

「……フランク支部は撤退。俺たちはアタリアの支部の一つに降格だとよ」

「……あの絵が手に入りゃなぁ」

警告音。

船が攻撃を受けているという報告を幹部たちは聞いた。

「ちぃぃ、攻撃だ!?何処の仕業だ!?」

「……どうせ身の程知らずの海賊か、バウンティハンターの仕業だろ?」

「……そ、それにしては変なんです!?」

マフィアの下っ端が歯をがちがちと震わせながら、敵の特徴を口にした。

簡潔かつ恐ろしい情報であった。

「敵は……一機です!アサルトフレームが……一機!機体を青く塗られた……鬼のような……」

「て、おい……そりゃあ……」

「『東の賢者』の……!?」

「な、早く撃ち落とせぇぇッ!」

ルチアファミリーの船団は戦闘機部隊、AF部隊を全て出撃させ、可能な限り対空砲火や艦砲射撃を実施した。艦載機に過ぎないAFに大しては過剰すぎる火力であったが、タカオ・アラカワを仕留めるには余りにも足りなさ過ぎた。

タカオの機体『カムイ』は艦砲射撃を湾曲させ明後日の方角の隕石に命中する。GFを用いたバリアの力の一端であった。

続いて対空砲火と戦闘機軍団のレーザー掃射が開始される。

船団の四〇ミリエネルギー機関砲と戦闘機部隊の二〇ミリレーザー機関砲の弾雨によって隕石群の群れに不自然な空間ができる。隕石たちは粉々に砕け、塵と化すが、タカオの駆るカムイに傷を付けることはない。

「……こちらの番だ」

タカオがそう言うとカムイの両腕から拳銃の形をした武器が展開される。両腕に装備された銃器をカムイが握ると、タカオは三秒の間に弾道予測と敵機の動きの計算、弾や銃口の移動量の計算などを正確に済ませ、一言。

「……馬鹿しかいないな」

刹那、カムイから放たれた粒子拳銃は敵を効率的かつ正確に撃ち抜くだけでなく、哀れな犠牲者たる彼らをありとあらゆる方法で自滅へと追い込んだ。

通信越しにその様子を三人の幹部たちは聞くことになる。

「こ、こちらアルファの11。操縦不能!操縦不能!」

「メーデー、メーデー!……わあああああああ!」

「ば、バカ、……こ、こっちに来るな!わああああああ!」

「い、隕石がっ、つ、潰され――」

「え、援軍を!えんぐ――」

モニターに映された艦載機部隊員の顔が次々と『砂嵐』に変わってゆく。

航空隊の数は有に二百を超えていたが、それらの生き残りは十にも満たなくなった。それらも、隕石の衝突や、タカオの精密射撃によって一つになる。

最後の生き残りも半泣きの表情を浮かべたまま、虚空へと消えた。

だが、AF部隊がまだ残っていた。それらは航空機部隊よりかは少なかったが、それでも五十はいる。しかも本国から借りてきたヒットマンたちが搭乗している。軍人の経験もあるプロの殺し屋や戦闘員が相手をする以上、普通なら勝ち目はない。ある自動車学・航空工学のエンジニアがいうに人間の攻撃力は武器と兵士の数を掛け合わせた能力で計算される。つまり、良い武器と多くの兵士の数が軍団の攻撃力を決定する。もっと言えば銃を持った一人がいくら頑張ったところで、同じ銃を持った五十人には敵わない。普通なら。

タカオの戦いは余りにも無謀だった。通常なら。

だが、どういう訳かタカオはAFの敵を一機、また一機と沈めてゆく。

「……へたくそ……しかもバカばかりか」

タカオはまるで流れ作業の様に接近した敵を正確に撃ち抜いてゆく。自分は弾丸が自分から避けていくかの様に当たらないが敵のほうは誘導されているかの様に命中していた。

「……そんな馬鹿な」

AF部隊の隊長は残り十機の生き残りを連れて逃げ出そうとする。

タカオは十機の方角に狙いを定める。そして、腰の部分に装備された大型迫撃を撃つが当たらない。いや、わざと当てなかった。

隊長は始めは外れてくれたと安堵したが、嫌な予感がし散開を命令しようとした。しかし、出来なかった。

不可能だったのだ。

「逃げようとしたのは正解だ。……だが遅い」

隕石の欠片が生き残りたちと何隻かの船に迫った。

隕石の片方は生き残りたちを潰してゆく。

もう片方は船を三隻ばかり巻き添えにする。

最初の一隻は機関部を潰され爆発する。二隻目は中心を爆発の余波とその破片で両断され、船から人員達が投げ出されてゆく。

三隻目は破片の欠片を散弾銃の直撃を受けたかの様にの浴び、機能不全に陥る。

残る二隻は逃げようとしたが、回り込まれる。

目の前には、タカオの駆る『カムイ』の鬼のような形相が船を睨んでいた。




フランクの小さな通りを『例の小太りの警官』が歩いていた。辺りには鳥が悠々と空を飛んでいる。

服装と髪型や帽子などの変装によって彼とは分かる人物は少ない様に見える。しかし、彼は先日の『悪徳な小太り』であった。倉庫に『イージス11』といた人物で間違いはなかった。

「ち、『旦那』も無茶が過ぎんだよ。邪魔な議員を殺すだけに留めておけば十分商売には困らなかったんだ。まあ、いいさ。外国に高飛びしたら適当な女を捕まえて遊ぼうかな。四人殺したからなんだ。俺は美女と遊んでやるんだ」

彼の近くに黒いレディースもののスーツが見える。しかもスカート付きだ。スーツを着用した女が歩いている。後ろ姿な上にサングラスと帽子を着けているため顔は見えなかったが、肉感的な魅力のある女性であることはうかがえる。その女はこちらを誘う様に見ると裏路地へと消えてゆく。

悪徳警官だった男はにやりと笑顔を浮かべた後、裏路地に入っていくが、女の姿は何処にもない。

「あれ、俺の見間違いか?」

「……あららん?来てくれて嬉しいわ。……ウエイター君たちによろしくねって」

アディがサングラスを外す。

「ひぃっ!?」

妖艶な女の声のした直後、男の首元に何かが刺さった。

サソリの尾だ。

小太りな元悪徳警官に致死量の神経毒が流し込まれる。




バルザック家の邸宅の一つ。そこには、カズとシンが立っていた。

カズは喪服のような黒服を来ている。その顔はとても険しい。到底、古い友人に会いにいくような表情と服装ではない。

シンは首から下は漆黒の防具の出で立ちだった。それはケブラーとノーメックスの特徴をあわせた特殊な繊維で出来ていた。シャドウの出で立ちだ。車から降りたシンは目の前の邸宅を見上げたあと、首元のフェイスマスクを引き上げる。その覆面にはあるシンプルなシンボルが描かれていた。

カラス。

太陽の使いでもあり、死を告げる不吉な鳥でもあり、聡明な狩人でもある、黒い鳥のエムブレムであった。

シャドウとなったシンは、フックショットを屋根に打ち込み、一気に登り上がってゆく。シンは『グリーフの門』すなわち『暗夜の絵画』を閉ざす為に指を怪我しているため、手に伝わる衝撃が痛みとなる。しかし、シンが登る分には不便はしない。

一人になったカズはインターフォンを鳴らした。

一回。

二回。

二回目で出た。

「……はい」

「カズだ。カズ・リンクス。久しぶりに会いに来たよ。バルザックおじさん」

「おお、カズか。久しぶりだ。さあ、上がると良い」

「…………失礼します」

カズは微笑む様に努めるが上手くスマイルを作れない。

「……どうしたのかな?具合でも悪いのかな?」

「……いえ、最近物騒なもので……」

「そうか……まあ、入りなさい」

バルサックを名乗る男は大きな玄関を家政婦に開けさせた。

中年の紳士で中肉中背の体格。髪の色はやや茶色であった。首元には紅いネックレスが光る。玄関の扉が開かれた屋根の上から『漆黒の影』が男を狙う。シャドウは敵の姿をしっかりと見据えていた。

ここまで、お読みいただきありがとうございます。次回はバルザック家とシンたち『バレットナイン』の関係がどうなっていくのかという場面となります。次回もよろしくお願いします。

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