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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第三章 暗夜の絵画編
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第三章 八話 ホテルの銃撃(後編)

台風の影響で停電する場所もあって驚いています。いつもの散歩コースも葉っぱで……。


今回は国家憲兵のジルさんと途中から行動することになります。

裏口から食事客たちとウエイターが裏手から逃げ出した後のレストランは全くの無音であった。スーツ姿の男たちは奇声をあげるのをやめ、焦点の合わない目で辺りを見渡す。

シンとユキは、そんな襲撃者たちの姿を観察している。

薬物。

ナノマシン。

メタアクター能力。

メタビーングの特殊能力。

あらゆる可能性を吟味する。

外見には怪しい部分はない。強いて言うならガクガクと壊れた操り人形のように奇怪な動きと自律兵器の様な規則だった動きの両方をしている事だけがシンにとって気になった。もし毒物の影響なら規則だった動きをすることはない。

「……あれ、操られているの?」

「そう考えるのが普通だが、とにかく排除するしかないな」

「そうね。左の二人は任せてちょうだい」

「わかった。右側の一人を任せろ」

物陰から襲撃者に奇襲をかけるべく、シンはテーブルのコップをこっそり拝借し、壁の方角に投げつけた。

機関銃のけたたましい射撃音がおしゃれな柄の壁と絵画を穿ってゆく。

「……?」

シンは動いた物陰から物陰へ、側面から背後へ。

物音と地形の複雑さを最大限に利用して3メートル近くにまで移動する。

シンの合図を機にユキは襲撃者の前に飛び出した。

「食らいなさい!」

ユキの右手。そのか細い義手が変形し、腕部エナジー無反動砲を形づくる。

それと同時にシンは襲撃者の一人の首にナイフを突き立てる。

「ぎぇああああ!」

襲撃者は黒い血液をまき散らしながら、悶え苦しむ。

そのタイミングに合わせ、ユキは腕部キャノンを放つ。

二発。

また、二発。

確実に息の根を止めるため、大型の粒子弾を二発ずつ放つ。

中央の敵は回避すら出来ず上半身を粉砕される、力の抜けた下半身だけが地に倒れた。だが残りの一匹に関しては片腕を粉砕するだけに留まり致命傷にはならない。人間なら片腕を破壊されればそれだけで致命傷になるはずだが、生き残りの襲撃者はゾンビのようなヨロヨロした動きを続ける。しかも、戦意を失ってはいない。機関銃の連射がユキを襲う!

「……まだよ!」

ユキは右腕を元の形に戻す。そして両腕を交差させる様にして防御の姿勢をとると両腕から青い光の障壁が展開される。粒子の弾丸が障壁に完全に阻まれ、貫通することはない。

「…………ぎ?」

敵が首をかしげ、隙が出来る。そこにシンは強烈な蹴りを食らわせる。スーツの敵の足に衝撃が走り、大腿骨にひびが入る。敵がよろけた時を狙ってユキの右腕から強烈な殴打が放たれる。頭部に命中した殴打は敵の頭部に致命的なダメージを食らわせた。頭部から血しぶきが飛び散る。ユキ自身は華奢な女性は過ぎないが、両腕の義手は別であった。強化された腕部の出力によって敵は一撃のもとに撲殺された。

「よし、早く逃げるぞ……ん?」

踵を返したシンの前にクリストフの姿があった。

「な!?」

クリストフは不意を突く形でシンとユキの側面からレストランの外へ逃げようとした。しかし、その身体はサソリの尾によって軽々と抱きかかえられる。当然、シンやユキの仕業ではない。

「こらぁ?に・げ・な・い・の」

アディの尾がクリストフの身体を個室の方へと投げ飛ばす。蛙の潰れたような音をあげてクリストフの身体は個室の壁に叩き付けられた。

「ナイスだ。アディ」

「お化け以外はおまかせってところね」

こうして、シンとユキのコンビは残りの仲間や『お客さん』と共にせっせと逃げる準備を始めた。シンたちは敵の姿をうかがいながら服装と装備を整えてから、ホテル内からの脱出を計った。

「さて、警察に間違って撃たれないようにしなくては……」

「そうね。とにかくここから避難しないと……」

「問題はクリストフが俺たちをテロリスト呼ばわりすることが考えられる。どうしたものか?」

「今、外は?」

「まだいない。でも、じきに人が来る警察に誤解されない様に出るか、別の手段で逃げるか……」

「第三の選択もある」

「それは?」

「俺とカズがクリストフを連れて屋上から滑空して逃げる。その間に、ユキ達は警察に駆け込むようにして逃げろ。そうすれば、クリストフに押さえ込まれる心配はない。マフィア野郎は……迷惑な客だったが仕方なく連れてきたと言うことでもしておけ」

「わかった。でも気をつけて……」

「問題ない」

シャドウ姿のシンとカズはぐるぐるに縛ったクリストフを連れて屋上に向かう

クリストフの身体とをカズの『風力操作』によって浮かせ、シンとカズは地上に向かってダイブする。

「長官殿すみませんが、少し我慢願います」

「お、おい。……警察の長官にこんなこと――あああああああ!」

シャドウは背面の黒い滑空翼を展開し空気抵抗を和らげる。カズは強烈な上昇気流を起こし長官と共に空を舞った。

しばらくすると警官たちのパトロールカーがホテルの前に止まる。

ギリギリであった。ユキたちが警察に保護されるのを目撃後、シンたちは空中から華麗に大脱出を図ったのであった。




クリストフとシャドウのグループは警察署の前でユキたちと合流する。

警察の人間には、威圧的な黒い恰好が警戒心を煽ったものの、警察の長官を連れてきたのを目撃して、警戒を緩めてくれていた。

「……長官は恐ろしい目にあって支離滅裂なことを言うかもしれない。だから手厚くカウンセリングをお願いする」

「ありがとう、シャドウ。君の今までの行いは警察機関としては容認できないが、今回の件もあるから、大目に見よう」

「感謝するぞ。ミスターベフトン」

「ジルでいい。苗字での呼ばれかたは好まないのでな。カラス男」

憲兵隊に保護された形で長官は警察署に入ろうとする。クリストフは突如、口を開いた。

「……『リセット・ソサエティ』だ」

「……」

「その人物を名乗る人物から端末にメッセージが入っていた。『絵画』を渡せ、そうすれば、支配者にしてやると書いてあった」

長官の姿は建物の中に消えてゆくと、ジルはシャドウに問いかけた。

「……『リセット・ソサエティ』だと。今回の事件はテロ組織と繋がっていたのか?」

「そうだ。今回の事件はマフィアがらみの事件だと思っていたがな……思ったより闇が深かったようだ」

「そこの男は?」

「マフィアの生き残りだ。少し話が出来る場所を貸してほしい」

「なぜだ?」

「この男は絵画を狙うもう一つの組織に突いて知っている。『リセット・ソサエティ』についての有力な情報源である可能性がある」

「わかった。ただし、条件がある」

「それは?」

「私も同伴させてほしい。元々は我々の国の事件だ」

「ああ、その条件を飲もう」

「それともう一つだ」

「なんだ?」

「この国に君たちが来た理由だ。話してもらうぞ」

「構わない。俺がこの国に来た理由は、昔俺を庇って命を落とした親友と『暗夜の絵画』に大きな繫がりがあると聞いたからだ」

「それは何処で?」

「クリストフ長官」

「な!?」

「あの危険物と俺の親友の繫がりは何なのかを知りたい。それがこの国に来た理由だ。クリストフ長官としては失ったアーティファクトの確保を最優先しているようだが」

「……か、絵画が?そんなの初耳だぞ!?俺たちは何も聞かされていない!」

「落ち着け」

シャドウは興奮した相手を落ち着かせようとした。しかし、ベフトンの戸惑いは大きく、彼は語気を荒げる。

「落ち着いていられるか!あれは下手な爆弾よりずっと危険なシロモノだ!現国王『シャルル・ルイ・エル・フランク八世』様はあれを発見した当時から厳重な封印処置を命令なさっていたものだぞ。それを紛失だと?デタラメも大概にしろ!」

「長官は本当に言っていた」

「なんだとなら、それが嘘じゃないという保証は?」

「契約書がある。彼にサインさせたものだ。筆記鑑定すれば本人のものと分かる」

「…………あのじじいィ!!隠蔽してやがったのか!?」

ベフトンは通信端末を操作し、周波数を保管局の波長に合わせる。しばらくして応答を確認すると語気を強め、仲間に呼びかける。

「こちらイージス2。A級封印の0013番の保管状況は?」

「こちらイージス11。警備兵に状況を……な!?」

「どうした?」

「…………おい、『ない』ってどういうことだ!?ふざけてるのか!?」

「ない!?マジか!?」

「こ、これはまずい!大事件だぞ!これは!」

「くそ、いったん通信切る!イージス2アウト!」

ベフトンは顔面蒼白の様子の有り様でシャドウに言った。

「畜生ォ!おい、カラス男!今日は残業だ!お前にも付き合ってもらうぞ!」

「もとより」

シャドウは重武装の憲兵に引きずられる形で連れて行かれた。ユキたちもそれに続き警察署を後にする。




国家憲兵の拠点にて、シンは取り調べを受けることとなった。

その際聞いた話によると、『暗夜の絵画』は星一つを滅ぼすことも珍しくないシロモノと言われていた。その絵画は絵画でありながら、異空間のゲートの役割を果たしており、その次元にはグリーフフォース、GFとも呼称される超常のエネルギーを始めとした、混沌の産物が蠢いていると言われている。そのゲートを通じてフランク政府の調査隊が入り込んだが、戻ってきた人物は五十人居るうち七名だけであった。しかもそのうちの一人は『闇人間』と化して周囲の人間を殺傷。生き残りは三人だけになったという。しかも、その生き残りの人物たちも黙して語らなかったという記録が残されている。

ただし、生き残りの一人はこう証言したという記録もまた残されている。

死者に助けてもらった、幼い頃死んだ母に当時と変わらぬ姿で会えたと。

その証言は様々な憶測を呼び、その絵は別名『神に至る道』と呼ばれるが、その絵を狙って盗もうとする人物は後を絶たなかったという。

どういう訳か、今回の事件はその絵の真実を知った上で狙う人物がいる事をフランク政府の一部の独自調査で明らかになったと告げられる。

「んで、その独自調査に参加していたのは君だったということか」

「そうだ。私ベフトンは国王の命でその絵の正体を解明しようとしている。だが、分かることと言えば物理の常識を外れたエネルギーを排出することと、その副産物として、名状し難い異形のものを呼び寄せると言うことくらいだ。我々人類の手には余ると言うことしか分からない。しかし、それ以外に理解しようとするのはあまりに恐ろしいのだ!」

ベフトンは眉間にしわを寄せて、その絵の正体について語る。だとすれば、一つ疑問が残る。それだけのシロモノを管理するからには、管理する人間の数が限られる。それを盗まれたと言うことは内部に『絵画を外部へ流出させた悪意ある人間の存在』という事実をシンは悟らなければならなかった。

今回もお読みいただきありがとうございます。次回は『マフィア野郎』氏との会話と暗夜の絵画を巡る国際的な陰謀がメインのお話しになります。次回もよろしくお願いいたします。

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