表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第三章 暗夜の絵画編
34/383

第三章 四話 意外な再会

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

退役軍人の男。海賊撃退。

そのニュースは早くもフランク連合王国、首都セントセーヌの宇宙港で持ち切りとなった。シン達の周りには周辺を飛んでいた船員達から警備の仕事を持ちかけられたが、断った。スケジュールが合わないこともあるが、先客の件がある。シン達は先を急いでいた。

「……今回も大暴れでしたね」

シンは意外な人物と再会した。

「バッカスか」

「ええ、今回は相棒の方も一緒みたいですね」

ディオ・バッカスは空港の入り口の近く、シンから見て右の柱の方にもたれる様にして待っていた。始めは無愛想にもみえる呆れた表情を浮かべたが、すぐに元の営業スマイルに戻った。

「あのときはすまなかったな。お前にも余計な疑いがかかったろうに」

「気にしないで下さい。あそこの『クソな』お客様にはえらい迷惑していたもので。逆に爽快な気分になりましたよ」

ディオは笑顔になる。形式的な笑顔というよりかは、いじめっ子の不良がひどい事故にあったのを目撃したような晴れやかな笑顔だった。ダークな微笑であったのは、不利な取引を強いられた事への溜飲を下げたことにも関係があると、シンは推測できた。

「……そう言ってくれたのは、こっちとしても幸いだった」

「おかげで他のお客様にも高級品や虎の子を用意出来て感謝しているくらいです。ありがとう、シ――、ミスター・シン」

「ああ、……そういえばお前フランクの出身だったか?ここいらのカフェを教えてもらいたいんだが」

「ええ是非、事件で休業した『ルピュア』以外は――」

「そのルピュアに用がある。事件の調査だ」

「……この国の警察は当てにしない方が良い」

「フランクの人間が警察嫌いだって事は知っている。だが、警察のトップ直々に仕事の依頼が来ちまってな」

「どうしてあんな奴らの依頼を……?」

「親友の品に関連するらしい。それ以外は知らん」

「……ならお気をつけて……アイツらは隙さえあれば人間を逮捕する連中ですから……」

「わかった」

「ミス・ユキもどうか……」

「ありがとう。あなたも素敵な一日を」

そう言ってバッカスは空港の外へと出て行ってしまった。シンの手にはバッカスから手渡された名刺が残される。




宇宙港を抜けて市街地を電気自動車が走る。そうして目的地に辿り着いたシン達は事件現場の有り様をありありと目撃することになった。警察の憲兵部隊や警官たちの物々しい巡回。周りのカフェは穏やかな雰囲気であるはずだが、その場所だけは何かが変化していた。窓が割られている。壁に穴。連なる穴。生々しい血の跡。ひっくり返ったテーブル。死体があったであろう場所には白いテープがしかれていた。

「……ん?おい。ここは立ち入り禁止だ」

無愛想な警官の1人がシン一行たちの前に立ちふさがった。フランク連合の言語ではなく、銀河共通語で話しかけられたこともあり、シン達はそれなりに警戒心を解いていた。

「失礼だが、クリストフという男からこの事件の調査の協力を要請されてきた」

「……へぇ、この黄色猿が?」

「黄色でも白でも関係ない。ここを通してほしい。俺たちは調査のために来たんだ」

「……嫌だといったらどうなんだ?あ?」

先ほどのそれなりに大人しい態度を一変させ、警官はシン達に高圧的な態度を見せて来た。シンが呆れたような顔をしていると、1人の防弾盾をもった国家憲兵の男がこちらに向かってきた。

「……クリストフ警視総監から話を伺っている。通してやれ」

「あ?憲兵あがりはひっこんでな」

「人の話を聞け、『そっちの上司』が通せと言っている。わかったか?」

「……ち」

高圧的な警官はそういって踵を返していった

「すまない。おかげで助かった」

「君が『例の旧式AFに乗っていた男』か。海賊の船の襲撃の件も感謝している。この国の国民の一人として是非お礼をいわせてもらいたい」

「俺たちは自分の身を守っただけだ大層なことはしていない」

「……船の中には友達もいた。気に入らない船もだが」

「気に入らない船?」

「あの場に逃げようとして状況を悪くした船がいただろう。あの船に知り合いが乗っていた。君があの場で大暴れしてくれなかったら死んでいた」

「そうか。友達に聞かせてやりたいね」

「君の名前は?良かったら一緒に調査させてほしい」

「……シン。アラカワ・シン」

「ジル・ベフトン。国家憲兵だ」

ジルが差し出した右手にシンは応じた。

いくらかの社交辞令を交わした後ジルは本題に入った。

「ジラール議員は見ての通りだ。何者かに撃ち殺された。原因はまだ捜査中だが、ある絵画を巡って殺されたと見られる」

「それが『暗夜の絵画』か?」

「そうだ。その絵画は危険なシロモノだが、その絵に選ばれた者は絵画によって『異能の力』を得ると聞いている。どの勢力かは知らないし、その噂が本当かは知らない。だが、その為に殺されたジラール議員は気の毒だ。犯人には絶対償わせる」

「どうして、その絵画が動機であると断言できる?」

「これだ。現場に落ちていた」

シンは古風なカメラと一枚の写真を手渡された。

ジラール議員とフードの男がコーヒーブレイクしている瞬間である。談話をしているのだろうかジラールは微笑を浮かべている。

カメラは一眼レフのついたマニアックな撮影機器出会ったが壊れていた。落とした形跡がある。土の跡だ。

「……この男は?」

「分からん。ただジラールの知り合いだということで、防犯カメラの画像などを確認している。ただ、顔半分が隠れているから、目元に傷があることぐらいしか分からない」

「困ったな。手掛かり皆無も同然じゃないか」

「ところがそうではない。目撃者がいる」

「ほう。どこにいる?」

「ここだ。ついてきてくれ」

ジルの後にシン、ジャック、カズはついてゆく。ユキとアディはその場に残り調査を行うことにした。

「ユキ、アディーネ。すまないが現場を見ていてくれないか?」

「ふふ、分かったわ」

「任せて」

シン達がジルに連れられ店の中に入るとハンチング帽を被った男が苦々しげな表情で口を閉ざしていた。

「…………はぁ」

時折ハンチング帽男の口からため息が漏れるが、言葉は発せられなかった。

「彼は?」

「外国の記者です。なんというか……スクープの匂いを聞いてやってきたとか……だがどうにもマイペースで……」

「……うーんどこかで見たか?」

「……僕も分かんないや」

シンとカズが男の正体を察しかねていると、ジャックは大声を出した。

「……お前……ケントか。ジェイムズ・ケント」

「え、まさか」

「俺、ジャックだ」

「ジャック!ジャック・P・ロネン!助かった!ホント助かった!!心の友よぉぉぉ!」

大声で喚きながらハンチング帽男ことジェイムズは感動の涙を流した。異国の地、大声で慣れないフランク語を警官達にわめかれた反動だろうか、その後の言葉はまるで滝だった。おしゃべりな中年女性でもここまでまくしたてる部類の人物は奇特な目で見られるだろう。

「ジャック。知り合いがいないだけなら慣れてるが、変な言葉でわめかれるのだけは怖かった。そうだとも、私は新聞記者や雑誌の記者なんだ。警察どころか政治家キラーとして知られたともええ。なのにあの警官どもワーギャー喚き立てるわ睨みつけるわ。ここは一体何処の紛争地帯――――」

それ以降三十分くらいは喚いただろうか。

その間にシンはユキの調査の進捗状況を聞いた。

「おぉい。ユキ。そっちの調査は?」

「シン?さっきなんか大きな男の声が……」

「……心の友よってきいたわ。知り合いかしらん?」

「ジャックの知り合いらしい。……自称」

「……大変ね」

「全くよ」

「ああ」

三人は完全にあきれかえっていた。カズの方はジャックとともにジェイムズを落ち着かせるのに手一杯であった。

「……ところで、そっちの調査は?」

「極めて興味深い記録が手に入ったわ」

「……その記録はどこで?」

ユキは監視カメラの方を指差した。適当な無線通信を乗っ取って調査したのだろう。彼女の手にはタブレット端末があった。その映像には街の監視カメラ映像が再生されている。

「……ナチュラルに凄いことするな」

「テロだもの。調べられるものは調べなきゃ」

彼女がタブレットをいじるとフードの男と話す様子や撃たれた時の様子が再生される。

「……さすがに会話の中身は分からないか」

「でも興味深いものが映っている」

「?」

「これ」

「……これか」

犯人が凶器として使った銃器。それは火薬式の銃であった。しかもアンティークなデザインで『狂騒の開拓時代』のそれだとシンが認識するのに時間がかからなかった。

「……トニーガン?」

「そう。いまでも古い田舎では使われていることも少なくないらしいわ」

「……フランクでも?」

「あらん、フランクならなおさらね。建国当時のフランク連合はお金のない傭兵や貧乏な農民が身を守るために格安の武器を求めた話は有名よね」

「ああ、フランク連合の自警団の間でトンプトン81を買い漁ったことで、マフィアにも広まっているらしいな。だがそう言ったものは老朽化が激しく最近では火薬式でも別のサブマシンガンに取って代わられているそうだが?」

「それがね、この銃は年代物みたいよ。薬莢の型が全然違うわ」

「!!」

トンプトン81の弾丸は45口径の大型自動拳銃用のものが使われる。しかし、新しいタイプのサブマシンガンはフランクだと9ミリ弾のものしか使われない。9ミリのものは精度が高く、機関銃としては最適の弾丸として今日も普及している。第一次銀河大戦までは粒子銃は高級品であったことから、金属弾の使われる銃は9ミリのものが主流だったと考えて間違いはない。

しかし、再興暦0年に近い時代では武器自体が貴重品であったことや、治安がどの星間国家でも悪かった事から、殺傷性の高い武器が好まれた。よって、トンプトンの骨董品を使う事自体かなり容疑者を絞ることが出来ることとなる。

しかも、プロの戦闘員ならば、『足がつく』こと。すなわち、自分が疑われる手段は避けるために、武器は普及したものを使用するはずだと推測される。

マフィアかそれとも、銃器に縁のある素人か。

議員を殺した人物の特徴を絞ることが出来たが、いくらか疑問が残る。

動機。

『暗夜の絵画』と『議員殺し』。

繫がりの糸はシン達にはまだ見えなかった。

本作品は『孤独なる人間』をテーマに様々な物語を展開していきます。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ