第七章 第五十九話 感謝
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。
夜の屋外。負傷者の確認にバレッドナインは奔走していた。
一行は可能な限りその作業を手伝った後、念願の食事にありつく事が出来た。一行はみな空腹と疲労でヘトヘトの状態だった。
幸いにも軍や警官の比較的無事な者たちが一行に便宜を図ってくれた事でバレッドナインはすぐに食事にありつける事になった。ドロイドたちとの戦闘を最前線で戦ったことで警官隊・軍の双方から好印象を持たれていたことがはっきりと一行にも伝わった。
特に軍歴のあるシンやジャックは彼らの好意にとても感動していた。その様子はそれぞれの相棒であるアディとユキがはっきりと感じ取る程のものであった。
そして、シンたちは心置きなく食事をとる事となる。場所は美味いと評判のある大衆食堂。軍属の人の一人が紹介してくれた店であった。
その食堂の店内のテレビでは今日の事件を取り上げていた。
街を攻撃していたドロイドたちが全て機能停止したことがニュースで持ち切りとなっていた。
その報道を聞きながらバレッドナインの面々は山盛りの食事を楽しんでいた。
「やれやれ……とんでもない一日だった……」
ジャックが柄にも無くげっそりとした様子になっていた。戦いになれた大男はようやくありつけた食事に舌鼓を打ちながらそう言っていた。食欲だけは旺盛だったが、食べる気力以外は完全に尽きていたことが伺える。アディも静かに頷いている。彼女も彼女で嫌な過去がちらつく場面があったが、食事そのものはジャック以上に夢中でありついていた。ジャックと違って豪快ではないが無言で肉やエビを貪っていた。
「めちゃくちゃだったわね。まさか内部にねえ」
とルイーザ。彼女も串焼きの肉を頬張っていた。
「敵は二通りの手段を同時に考えていた。想定の範囲内だが、ここまでの技術力は想定外だった。今回の勝利は皆のお陰だ」
シンは食事をとりながら首を傾げていた。
「紫電機関ね……」
ユキがそう言う。彼女は麺類を頬張っていた。夕食の麺類の六割は彼女が既に食べ尽くしていた。麺類に目がないユキは麺類を食べる量が他を圧倒していたのは言うまでもない。特にうどんのような太い麺類は彼女がほぼ全て食べ尽くしていた。
「そうだ。紫電機関だ。アレを使って何をする気だったのか……今となってはSIAやハヤタたちの調査結果を待つしか無いな……」
「……その事に関してはやや不安が残るわね」
ユキの不信感にアディも言葉を続けた。
「そうね。私はユキに賛成。ユダは調査機関としては不安のあるチームね。SIAがいるから前みたいな決めつけはないだろうけど」
「……Aが実はBだったのだよ!みたいなやり取りも多いし」
「……」
「……」
ユキの指摘にアディとルイーザがよけいに不安の色を濃くした。
「まあ、まて。逆に言えばSIAもいるから、悪い事やヘマは出来ないってことだろう?あっちは信用できるから彼らに任せると思えばいいんじゃねえか?」
「ああ……それになにもギャングに調査を任せる訳ではない」
「そうだけどさ」
「……前の事もあったが、ハヤタの正義に対する思いの強さは本物だ。そこだけは俺が保証する」
「……シン、彼らの言う『正義』私は信用できないわ」
ユキが殺気立った目線をシンに向けた。
シンは納得したように静かに頷いてから口を開く。
「……分かっている。ユキの言う通りだ。社会や大きなものの存続のためだけに個人を斬り捨てる『自称正義』は信用できない。もっともハヤタのいう正義はもっと優しいものだと信じたい」
「マリンが切り捨てられたのに?」
「それは許さない。……俺はアイツが優しかった頃に戻ってほしいだけだ」
「そこは同感ね……どうなるか分からないけど」
「ああ、そこが不安だな」
沈むユキ。苦々しい顔のシン。
ジャックは二人に寄り添って語りかける。
「ご飯食べるときくらいは前向きになりな。せっかく警察たちが俺たちの食事の時間を作ってくれたんだぜ?好意に甘えないと損だ損」
「……か。今日は協力者だったからな」
「前の私に至っては警察の敵だったからね」
「大使館のか。そうだったな……」
「ほら、前の話もなしだ。メシだメシ」
「ああ」
「そうね」
そう言ってシンは食事に戻る。
魚介系のスープとパンを頬張るカズがふと口を開いた。
「とりあえず解決してよかった」
「……そうか。恋人も大変だったな」
「うん、埋め合わせしないと」
カズが安堵しながらスープをすすっているのを見て、ユキとシンの顔が自然と穏やかなものになる。ルイーザは笑顔で、ちらりとカズの顔を見たアディは普段通りを装っているがとてもリラックスした様子だった。こころなしか顔が笑顔に見える。
「そういえば、アレックとはどんな出会いだった?」
「え?」
「ああ、男同士の恋愛だと出会うのも大変じゃなかったか?」
「まあね。僕はラッキーだったと思うよ。友情から信頼関係を始めたらさ。向こうが悩みを持ちかけてくれて」
「悩み?」
「普通の猥談とかにしっくりこなかったみたいでさ。アレックが悩んでいたのを相談したらそこで意気投合してさ」
「ああ……大変だよな。俺は女の子のほうがいいから分かりづらくてすまんね」
「いいさ。僕もそういうは僕も慣れてる」
「仲間だろう?辛かったら頼れよ」
「そうする。ありがとジャック」
「いいさ。ボスの親友でもあるしな」
カズの愛する者を守れた事実。それが一行の会話を和やかにし、ユキの心の負担を大きく減らす事になった。そのためか、その後のユキの顔は微笑みが多く浮かんでいた。
「あ、シン笑ってる」
ユキが微笑んでそう言った。
「そうか?」
「うん。笑ってた」
「そうか。カズは俺と違って愛する者を失わずに済んだからな」
シンの表情が真剣なものとなる。ユキをはじめ一行は引き締まった顔で自分たちのボスを見た。
「……お母様とミシェル君のことね」
「ああ……カズは失わずに済んだ。それだけでも今日は上の戦果だ」
「……どうしてアレックが?未だに分からない」
「アレックもアレックの姉のエリザヴェータも機械の知識に秀でた人物だ。おそらく今回の事件だけでなくほかの科学者絡みの事件に敵は関わってる。そこは今後調べる必要があるが……今は良かった。カズの大切な人を失わずに済んだからな」
そう言ってシンに再度微笑みが戻る。
「ありがとうねシン。ここまで助けてもらったのは中学の頃以来かも」
ジャックが最初首を傾げたが途中で何かを察した。
「うん?ジュニアハイで……そうか」
「そう。僕はいじめられッ子でさ」
「ゲイのことで?」
「いいや。……僕は今でも強そうでは無いでしょ?メタアクト目覚めたのもだいぶ後だし。大学ぐらいかな」
「……チッ、どこにでもいるな。ひでぇヤツは」
「だから私たちが必要ですね」
ルイーザが遠くを見るような目をしていた。右手で左の義手を彼女はさすっている。恋人を想うように金属の腕をさすっていた。
「そうね。私もいろいろと騙されたりしたし……あ、曇り止め忘れた」
アディがそう言って自分の分のスープを一口。スープをすすっている時に彼女の上品な眼鏡が曇った。
「愛する者がいる。それで十分だ」
シンがはっきりとそう言う。そして、言葉が続く。
「カズ、俺は愛する者を一度失って孤独の怖さと辛さを味わった身だから言っておく。もし、この仕事が辛くなったら言ってこい。別の仕事を斡旋してやる。もっと平和な仕事を」
「いや、僕は君が上司で良かったと思ってる」
「ならいいが……わかっているだろうが、俺は、親友と母を失っている。だからお前にまでそんな思いを味わってほしくない。異性愛だろうと同性愛だろうと……恋愛でなくても慕い想う人がいることが大切なことだからな」
「うん」
「……誰にも。誰にも孤独になってほしくない。カズやユキのような真面目で一生懸命なヤツには特に」
「孤独じゃない」
「?」
「僕らは皆、『カラス』に助けられた」
カズの言葉に他の三人が続いた。全員が微笑む。
「私は仇をカラス男に裁いてもらったし」
「俺らは退屈しない。無力さも感じなくなった。そうだろ?アディ」
「そうね。ジャックの言うとおり」
シンはしばらく沈黙する。
その後、口を開いた。
「皆ありがとう、今後も頼む」
そうしてシンが食事を再会した後、訪ねる者がいた。
「ここだ。カズ!」
「アレック!」
カズは立ち上がりアレックを抱きしめた。アレックもカズを優しく抱擁する。そのそばにはエリザヴェータが立っていた。微笑み浮かべていた白衣の似合う美人だった。リーザはアレックの面影のある素敵な美人であった。
「話には聞いているわ。始めまして」
「はじめましてだな……こんな一日の終わりに言うのも奇妙だが」
「そうね。カズから聞いてるわ。親友だって」
「ええ……今後は我々の警護の世話になるでしょうがよろしくお願いします」
「そうね。SIAにもまだだけど話しておきたい事があるの」
「なんです?」
「ノブ・ホソカワという人の目的よ」
「……ノブか」
バレットナイン全員の表情に緊張が見えた。
「彼はマリア・シュタウフェンベルグ夫人に勧誘していた。……『新世界』のメンバーにならないかと」
「マリア?なぜ」
「どうも気に入った人間を誰彼構わず誘っているみたい」
「……それとあなたの技術とどんな?」
「……そうね。AIや船の技術がどうしてそんな曖昧な言葉と関係するかは分からないわ。ノブはなにも言ってなかった」
「……『新世界』……か」
「正直、見当もつかないわね。さっぱりよ」
ユキの言葉に皆が同調する。
「……カルト、テロ組織、マフィア、ギャング。だめだ、色々考えたがそんな組織は思い浮かばねえ」
「……さっぱりね」
「カズはどう?あなたは誘拐の時なにか言われた?」
「……分からない。無言で攫われてあの爆弾の車内に。……怖かったなあ」
シンはリーザに問いかけた。
「リーザ、ノブはマリア以外に誰と接触していたか思い出せるか?」
「マリアは美人だったからね……いろんな人に……あ」
「どうした?」
「プロフェッサーよ」
「誰だ」
「……サミュエル・スティーブン・フリーマン」
「……有名人だな。『生き字引のフリーマン』か」
「そうそう、あの人有名だよね。レオハルト中将の母校の先生でもあるし」
ユキの言葉にアディも頷く。
「ニュースで聞くぐらいだな」
「科学賞を良くとる人だよね。口達者で」
「うーん。僕はあまり知らないな……」
科学の分野にやや馴染みの無いジャック、ルイーザ、カズの三人に対してシンが一言付け加えた。
「フリーマン教授。彼はこの国建国以来の……」
一拍置いてからシンは言った。
「天才だ」
陳腐だが、非常に端的な表現に三人はぎょっと目を見開いた。
戦いは終わった。だが、それは一つに過ぎず謎は残る。カラスは飛び立つ。新たなる戦場へ。
次回もよろしくお願いします。




