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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第五十六話 デストロイヤー

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください。

マリアとペニーワースはレオハルトと良く知る顔に出会った。

彼らは町中を転戦しながら、現在の状況を地道に調査していた。

「……こいつら。一体どこから!?」

「レオハルト様。そちらで聞いている状況を詳しく聞かせていただけないでしょうか?」

「マイク。敵はテロ組織だ。最早ギャングと呼べる連中ではない。彼らは街の内部と首都星近海宙域の二面から同時に攻撃を行なっている」

「今現在ですか?しかし、そのような話は……」

「極秘だったからな。今現在正規軍系統の特殊部隊が交戦している。いずれはニュースになるだろうが今は伏せてある。だが、問題は……街だ。この数の敵は動ける人員だけだと厳しい」

「……」

「マリア、君はもう十分やってくれた。だから逃げてくれ」

「……そう言って私だけ逃げるなんて」

「相手が多すぎる。カバーしきれない」

「私なら相性は悪くないはずよ」

「そうだが、君を失うリスクがある。僕はそれが怖い」

「だとしても街の危機よ」

「だが……」

二人の口論に老執事が割って入った。

「失礼します。レオハルト様」

「ペニーワース?なんだ?」

「その逃げ道の件ですが敵は島全体に分布しているようです。逃げるにせよ戦闘は避けられないかと」

「……そうか。なら、僕がマリアを援護する必要があるな」

「そして、このパニックですので海上への移動手段はほぼ埋まっていると考えるべきです。陸路での避難経路を確保するにせよ、戦うにせよ、敵との遭遇は避けられないと考えて動くべきだと思います」

ペニーワースはそう言って一般人の集団の一つを指差した。彼らは訳も分からずその場を逃げ惑っていた。

「…………確かにそうだ。感謝するペニーワース」

「ほっほっほ。坊ちゃんが冷静になられてなによりです」

「すまんマリア。もう少し手伝わせることになった」

「あら、私は最後までやるつもりよ」

マリアは笑みを見せた。

「無理だけはするなよ」

「当然でしょ」

その言葉を合図にレオハルトたちは行動を開始した。三人に部下が続く。

「いつもの三人での行動も久々だな」

「マリア夫人もな。相変わらず美人だ」

「二人とも変態とナンパは無しだぞ」

「スチェイ。俺だって空気は読むぜ」

「俺も言葉は選ぶ」

「ならいいが、読まなかった時は覚悟しろ……お前ら」

スチェイとサイトウ、ジョルジョはいつも通りの軽口を叩いた。

「これだから男ってさ……」

レナの言葉にフェリシアとキャリーが同調する。

「全くね」

「うん。……どうして男って変な話が好きなのかしら……」

「そりゃ……男子だし……」

「ですね……」

女性陣の冷ややかな目すら臆する事なく『元傭兵の変態』と『女好きの凄腕AF乗り』と『不運な苦労人』がいつも通りのやり取りを交わしていた。

苦労人の方は辟易していた状態ではあったが、他二人は陽気であった。

「そりゃ……男だし。無くて七癖とは言うだろう?」

「お前の癖が七百はあるわ。この変態魔人」

「はぁ……男に言われても嬉しくねえ……あ、女装すればいけるか?」

「そういう問題か。そして、戯言はその辺にしておけ」

女好きの方も軽口のブレーキを外す。

「とりあえずさ」

「何だ?」

「新米の二人とお茶したいよね」

「ジョルジョ、お前もそう言うところがだな……」

「えー」

「えーじゃない。お前も慎め」

「だってみんな美人だし……今日は空戦じゃないし……」

ジョルジョの与えられた任務は彼の言う通り空対空の戦闘ではなかった。そのタイミングでレオハルトが口を開く。

「宇宙は正規軍が抑えてくれている。我々は空と地上の両面から鎮圧することに専念する。それに……」

「それに?」

マリアが怪訝な顔をする。意を決したように若き中将は口を開いた。

「……ユダがいる」

「……あー、そりゃ終わったようなものか」

「とどのつまり……俺たちは後始末担当と」

「ああ、だが悪い事ばかりじゃない。シンもいる。それも思いっきり重大な役割で」

「マジ?」

ジョルジョが仰天とした。その顔は両生類のように目を見開いていた。

「久々だな……あの『ブラックバード』の噂を聞くのは」

対照的にサイトウはニヤニヤと笑みを浮かべる。その顔は少年のように朗らかですらあった。

「お前……ずいぶん、嬉しそうだな……」

「そりゃあよ……メタアクトみたいな異能力をほとんど持たない軍人がいくつも伝説を作ったんだぜ」

「あ?ああ……アイツも一応メタアクトやらグリーフやらが見えるんじゃ?」

「ああ、『見えるだけ』な。アイツは『絶縁体質』つって、体にグリーフが通らない性質をしているらしい。本人いわく汚染に強いがグリーフの制御は出来ないってさ」

「ほぼほぼ『無能力者』ってことだったな。改めて聞くと、とんでもねえな」

「だが、そんなあいつは現役のときは凄かったぞ。当時の大統領とその娘を一回ずつ救ってる」

「はぁ!?いくらなんでも初耳だぞ!?」

そばにいたジョルジョが仰天する。

ジョルジョだけでなかった。レオハルト中将とサイトウ以外の面々はあからさまに驚愕していた。

「……まぁ極秘だったからなぁ、あの作戦はよ。全体の士気下がるとまずい事態だったしな。……まあ結果は聞いての通りだが……」

くっくっくっと、サイトウは不敵に笑みを浮かべた。

「……『元』な。書類上はSIAを引退している」

「関係ねえ。アイツはまさしく『一人軍隊』だ。一人で数千人分の働きをしやがった正真正銘の『伝説』よ」

「……俺アイツ怖くてさ……何考えているか分からねえから……」

「いいヤツだぞ」

「だろうけどさ……」

「あの」

「?」

「……今回の作戦は地元警察や地上配備された陸戦部隊と共に敵人型装甲駆動兵器を殲滅すること……ですね?中将」

キャリー中尉が概要をまとめたところでレオハルトがゆっくりと頷いた。

「ありがとう中尉。そう、今回の我々は地上の安全確保に専念すればいい。万が一、宇宙方面での援軍が必要ならジョルジュを向かわせる。その時は指示を出すからそれまでは地上に集中だ」

「よっしゃ」

「各員油断するな。敵はグリーフモーターを装備している。油断は出来ない。以上だ」

「……そりゃあ……手に負えねえな……」

「警官と軍人だけならな」

「?」

「協力を申し出るものは多いと言う事だ」

そう言ってもう一機のフロート型輸送機をみた。輸送機はSIAのそれとは違い道路に無理矢理着陸する。周りのものを巻き込み轟音をたてながら落ちるように着陸した。

「……なんだぁ?あのむちゃくちゃな操縦……い!?」

「ええええ!?あの人たちは!?」

白い割烹着の男たち。ヘルズキッチンを名乗る面々が輸送船から降りてきた。降りると言うよりかは扉を蹴破って出てきたと表現した方が適切な現れ方だった。

「こりゃあ、派手だな?!」

「おいおいおい、何だコリャア?」

「…………」

「まあ、この街は何年か先の予約やファンがあるからな……取引のためでもあるが、これくらいは想定内だろう?」

割烹機の男たちは素手かせいぜい包丁で武装して機内から出てきていた。

「んで、敵って言うのは?」

「アレだ」

レオハルトがそう言って振り返ると紫の電気に似たエネルギーを放つ敵がレオハルトたちに向かってきた。マリアに攻撃しかけた何体かをレオハルトが両断する。マリアも一体の敵の頭部を右腕で完全に粉砕した。電子部品やコードが無残に散らばりバチバチと奇天烈な電気音を立てて敵は崩れ落ちる。

「おー、やるねー」

ヘルズキッチンの副リーダー格はマリアを褒めながら、ナイフと包丁を敵の頭部に投げつけた。どちらも命中し、敵は処理が追いつかないままその場で崩れ落ちて停止する。投げナイフと言うよりかは銃弾の如き速さだと表現した方が適切だった。

「やるね。オッサンたちも」

サイトウはそう言って一本のナイフを敵に投げ飛ばす。敵の頭部に突き刺した瞬間に敵に飛び乗る。そこでナイフを引き抜き、投げ付けながら後方の敵をも拳銃で射貫く。結果は驚異的だった。弾丸も三発全弾頭部に命中し、ナイフも敵の頭部の制御装置に深々と突き刺さっていた。

彼はまだ本気を出していない。短機関銃は一発も使用していなかった。

「ほお、だが甘いな」

そう言ってリーダー格の老人は敵の一体を綺麗な二つに両断した。

「……何の競い合いだ、これは……」

スチェイがその様子を見て呆然とした。

警官や正規軍の軍人が翻弄されている敵。それに対してサイトウとヘルズキッチンがまるでスポーツをするかのように次々と撃破していた。スチェイは目の前の光景がゲームかなにかのように錯覚したが、すぐに現実のものだと再認識し、彼は戦慄した。

「おい、こいつらとんでも……ジョルジョ?え?」

いつの間にかジョルジョは空を飛び回っていた。縦横無尽に。

彼は既に専用のウィングスーツを着用していた。都市戦仕様だった。

「ひゃああああああっ!久々のぉぉ!空だぁあああああああああああ!!」

歓喜の絶叫しながらジョルジョは空中から敵を蹂躙していた。

空戦に耐えうるのその戦闘強化服は普段着や軍服にも偽装できるが、戦闘時には装甲を展開し、着用者の防御能力を向上しつつ、高い火力の兵装を個人でも運用可能にするものであった。その火力は戦闘用の軍用車両にも匹敵する。

「………………」

スチェイは肩をすくめる。両手で『理解不能』のジェスチャーを行なった。

さすがにスチェイは女性陣から同情されていた。

「これは……もうね」

「あー……どうしようレナ」

「私に聞かないでフェリシア……」

三人はスチェイに気遣うような目を向ける。

「やめて……戦友が変態の限りを尽くしているからと言って僕に同情しないで……」

しょんぼりしているスチェイとは対照的にジョルジョとサイトウは破壊の限りを尽くしていた。ヘルズキッチンの四人に勝るとも劣らない戦果を挙げ続けてゆく。

空からジョルジョ、サイトウが地上から射撃や榴弾を喰らわせて、敵を次々と機能停止に追いやった。機銃と砲撃の隙を縫うようにヘルズキッチンの四人が敵を念入りにガラクタへと分解していた。

「それに……僕も軍人だ。仲間を痛めつけた報いはたっぷり与える!!」

スチェイがそう言うと女性陣の表情も自然と引き締まったものとなった。

スチェイのチームに合わせてレオハルトとマリアも攻撃に加わった。

街に攻撃を仕掛け、軍人や警官に手痛い打撃を与える敵に対し、特務機関と料理人集団の同盟という奇妙な防衛部隊が迎え撃った。

全ては彼らが愛する街と日常と信念の為に。

奇妙な防衛隊。街の敵、己の敵を破壊する者たち。彼らの団結は街の運命と複雑に絡み合う。


次回もよろしくお願いします。

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