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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第五十三話 紫電

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください

シンはハヤタに問いかけた。

「そう言えば今何時だ」

「八時になるぜ」

「……マジか。車内で乾パンとか菓子パンをつまんだぐらいだな」

「何の話だ?」

「コイツに勝ったら、夕飯は豪勢にするってことさ」

「なるほどな」

シンとハヤタは敵を目の前に軽妙にやり取りを交わす。

甲冑を着た機械が異質な駆動音で吠えながらシンたちに迫った。

「来るぞ!シャドウ!」

甲冑は停車しているパトカーを巻き込みながらシャドウの方へと突進して行った。シャドウとしてのシンが爆薬付きの羽根手裏剣を投げ付けるが効果が薄いので、凍結羽根手裏剣を足元に命中させた。凍結した脚部に足をとられた甲冑に対してハヤタが攻撃を加えた。

ハヤタは手元に倭刀を転送し、甲冑を斬りつけた。胴体への効果は薄いが敵の左腕がずり落ちる。切れ味は十分にあった。切断面から機械の配線や飛び散る電気の火花などが見える。

「へへ、効くみたいだな?」

「油断するな。攻撃を続けろ」

そう言ってシンは短機関銃とベレトM93を撃つ。両手での銃撃は人間相手への敵なら脅威であったが、相手は機械でしかも紫電機関を搭載していた。甲冑はシンに突進し強烈な力で圧し潰そうとしたが、シンにひらりと回避される。あまりにも身軽なシャドウの動きに甲冑の敵も翻弄されていた。

それに合わせてハヤタも斬撃を数秒の間に連続して十数回、敵に攻撃を加えていた。

それはハヤタの身体能力の高さがあって可能な技術であった。片刃の武器は十分な時間をかけての鍛錬とそれ相応の技術が必要であったが、ハヤタはナノマシンで強化された身体と『神の剣』内部の戦闘データとの同調によって短期間で達人並みの動きを再現でき、しかも人間の限界を超えた速度と力で技を繰り出す事が出来た。

ハヤタはそれに加えて『転移』能力も備わっていた。

その結果、ハヤタの斬撃はレオハルトの『速度』に劣らない速度にまでなっていた。圧倒的な速度と破壊力である。当然制約はあるが、この戦いではそれは意味をなさなかった。

ハヤタの力とシンの策。

険悪なはずの二人の芸術的な連携。

ラインアークとシャドウの奇跡のコラボレーションであった。

「この程度か?」

ハヤタが余裕の笑みを浮かべると甲冑の敵の一部がズレ始めた。

切断された線と線が不自然な互い違いをいくつも生み出し、敵の体を少しずつ分解し始める。ジグゾーパズルのように敵は歪な姿に変わってゆく。

やがて、線と線と線によって甲冑はちょっとずつほどける。ちぐはぐな物体の群れとなって敵は完全に崩れ落ちた。そして、蒼い火花をまき散らした後、甲冑は爆発した。

「そんな訳ないだろうが、あの紫電機関自体が贋作どころか粗悪品じゃないか。おかわりが来るぞ」

「いいね。楽しみだ」

そう言うと敵の群れがいくつも瓦礫から現れる。

甲冑に混じってドロイドの群れがシンたちに迫る。

「ユキ。少し減らせ」

「いいよ。ほい」

シンはユキに何かを指示する。

「あ?なんだ?」

ハヤタがそう言うと無人の車両が何台か敵に突進する。

「あぁ!?何だぁ!?」

ハヤタだけでなくハッキングの知識のないユダ側の人物は皆、目を白黒させていた。無人の車両がユキに操られ、紫電機関を積んだドロイドに向かって突進する。何体かの敵が車に潰されたり跳ねられるなどして機能を停止した。

「ハッキング技術のちょっとした応用よ」

「アラクネさんアラクネさん」

「なに?レフト」

「私たちもやっていい?」

「……たち?……ああ、そういうこと」

ユキは納得した様子で頷いた。

「そういうこと」

「どういうこと?」

ドウミョウが目を白黒しているとサトウ姉妹とサワシロが異口同音に言った。

「汚名返上だね」

「汚名返上だろ」

「汚名返上だわね」

「へ?」

ドウミョウが素っ頓狂な声をあげた。彼らの汚名返上という言葉に合わせるように無人の車の群れがドロイドたちを圧し潰さんと迫る。ドロイドたちは粗悪品の紫電機関を開放し、空間をグリーフで歪めたり、開放したエネルギーで射撃したりして突進に備えた。

すると今度は空から武装したドローンの群れが一斉にドロイドたちに銃撃を仕掛けた。

ドローンの一体から女の音声が響く。

「我々は『ガールズ&エレメンツ』。この街を穢し、その罪を我々になすり付けるものたちを叩く者の名だ。我々はある情報を掴んだ。流星とドロイド軍団。その二つをもってこの街を廃墟に帰さんとする悪党たちの存在を。だが、それは我々が許さない。我々を裏切った代償は高くつく。すでに協力者と仲間がドロイドを隠した場所に攻撃している。もちろんガーマ人もだ。安いプライドの代償は貴様らの命と知れ。我々は『ガールズ&エレメンツ』。我々は恐れない。我々は軍団。我々は自由。恐れよ、そして待て」

「ほら来た」

「ね」

「ね」

「あー、なるほど……」

合成された音声が敵への怨嗟の言葉を紡いでいた。

それを見てユダ側の面々が納得したように頷いた。

被害者である『ガールズ&エレメンツ』のドローンたちが防御の死角からドロイドたちに攻撃を加える。ドロイドも銃撃を繰り出すが、小型の飛行体であるドローンたちになかなか攻撃をあてることができなかった。

その隙に、ユダとバレッドナインが総攻撃を仕掛けた。

始めに切り込んだのはモリ室長とジャックであった。

モリは刀を、ジャックは散弾銃を構えた。

「室長さんよ。準備いいか?」

「……誰に向かって行っている?」

「愚問だったな!戦鬼さんよ!!」

器用な手つきでジャックは散弾銃を敵に向かってぶっ放す。

曲芸のような器用な手つきでジャックは散弾銃を扱う。何発も銃口から火が吹く。敵の一体の胴体に穴が空く。もう一体も胸に穴を開けられながら何メートルも宙に吹き飛ばされた。横から近寄った近接型のドロイドも撃たれた。ジャックは冷静な目線で向かってくる敵をただただ処理した。

プロの腕前であった。

「ほお……やるな」

そう言っていたモリは刀をいつの間にか刀を鞘に納めていた。

周辺にいた敵が先刻のハヤタの敵のようにバラバラにされていた。

「雑魚め」

敵は十分な、否、それ以上の脅威度をもっていた。

なにせ敵の内蔵していた動力は粗悪品とはいえ紫電機関。グリーフという未知のエネルギーを生み出す動力源を持っていた。

その存在そのものが一騎当千で、メタアクターですら、十分な訓練を積んだ者でないと危険な代物であった。

紫電機関。

グリーフモーターとも称されるその動力機関はタカオ・アラカワの力の一端を持つものに与える力があった。グリーフフォース。それは拡散の対極に位置するエネルギーであった。

収束させ、存在を固着させる。

その性質がその機関に備わっていた。

それは『原初の迎撃本能』と称されるグリーフフォースの最大の特徴であった。機関とそれを保持するものを防衛する力が確かに存在していた。事実、ドロイドの周りには微弱な膜のような防壁が形成されていた。

それを打ち破れたのは『神の剣』の適性者が味方にいたのも大きかった。

「……『神の剣』、そしてそのナノマシンのお陰でかなり善戦できているな」

「当然だ。それにあのような低スペックなマシンに遅れをとるつもりはない」

「それもそうだな」

シンは『ユダ』が参戦しなければ自動車と手持ちの凍結羽根手裏剣を交えた戦術で戦うことを余儀なくされていたはずだった。人造人間であるユキがそばにいるため戦闘自体は可能だが、それでもかなりきつい状況に陥っていたのは明白だった。

バレッドナインのみでも勝算はあったが、消耗を強いられていた可能性は十分にあった。

シンの絶縁体質とユキのナノマシンと生体動力によるグリーフへの耐性で微弱なGFによる汚染と攻撃に対抗する事が出来たが、それでも人数と対抗手段を得たことは大きかった。

その状況をありがたく思う反面、ユダの狙いは『粗悪品の紫電機関』にあるとも考えていた。

「……モリ、この状況を予測していたな」

「なんのことでしょうか?」

「お前たちが突然俺たちのところに来た理由だ。ずっと心に引っかかっていたんでな」

「……勘がいいな?」

「当たり前だ。仲直りとは考えにくいからな」

「だろうな。……まあ、ノブの件もあっただろうがな」

「そういえば、ノブをどうした?」

「警察に引き渡した」

「それだけか?」

「抵抗したから大人しくさせた」

「ものはいいようだな」

「想像は任せる。だが今はこのガラクタどもの始末だ」

「ああ……そのつもりだ」

それぞれの思惑と疑問を隅に置き、『ガラクタ』と断じた敵の群れの始末を両勢力とも急いだ。

ユキは身体の出力を上げる。片方の腕部をキャノンモードに再度切り替える。

シンはただ、手袋の裾を引き上げただけだ。だが、周りの人間にとっては二人の仕草が心強く思えた。

事実として、シャドウとアラクネの二人は神の剣の適性者に並ぶ戦力であった。

だが、決定的な力を持たない者たちでもやるべき事がない訳ではなかった。

ルイーザはドローン軍団への援護。

アディはメタアクトでの火力支援。

ジャックは大口径の銃火器での制圧射撃に加え、余裕があれば敵の不意をついて数を減らす事。

カズは周辺に疾風や衝撃を起こして敵の隙を作る役目。

敵の半分をユダに任せて、もう半分の始末をバレッドナインが担当した。

ユダの戦術は単純だ。

適性者達が得意な攻撃を活かした総突撃を敢行し、ドウミョウなどの常人側の人員はもっぱら援護と敵の妨害に専念するという作戦内容であった。

シンたちはユダと比べると少々決定打に欠ける人員に過ぎず。その状況下での戦いをする以上、戦術もそれ相応のものが要求された。

すなわち、敵の動きの先を読み、さらに敵の退路を塞いで追い込む必要があった。幸いにもそれを行なえるものは周囲に用意されていた。

無数の小型飛行ドローン、ハッキングできる無人の車両、罠に使える街のガスボンベや電柱、瓦礫や倒れた信号や標識による遮蔽物になりうる物陰、なにより街と言う複雑な地形がバレッドナイン側を有利にした。街などの複雑な地形での戦闘はその地の利を十分に活かせる側が勝つのは戦争の常であった。

シンが見ただけでの有利な状況を作れるものは多く転がっていた。

つまり、シャドウたちにとっては物量と切り札に頼りきりの敵ドロイド軍団は『格好の鴨』であることは明瞭な事実であった。

力と技。白と黒の両勢力が力の限りを尽くす。街を救い、己の正義を示すため。あるいは信念のため。


次回もよろしくお願いします。

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