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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第五十話 大作家と二つの脅威

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

デッドガールズストリートを抜けた後、車両の中でイェーガーとウェルズは手錠で繋がれたグロロに尋問していた。

「…………」

無言。

沈黙が場を支配していた。それまでの激しい戦いがウソであったかのように、静寂が空間に渦巻いていた。

「さて、グロロくん。君は色々と驚いていたようだね」

「……何の事だ」

ウェルズの問いかけに対して、グロロはしらばっくれた表情と口調を見せた。カエルと爬虫類が合わさったような生物的特徴がグロロの心理状態を隠すのに一役買っていた。それだけにウェルズは難しい駆け引きを求められていた。

「それは確かに驚くだろう。目の前で仲間だったヤツが燃えるなんてな……?なんか聞いていた訳ではないだろう?それとも君の指示か?」

「そうだよ。口封じはギャングの常だろう?」

「ウソだな。あからさまに驚いていただろう?」

「……」

表情が複雑に変わっていた。それはごまかすような笑顔だったり、苦々しい苛立ちだったりとせわしない変化だった。

焦燥。

奥深くに眠る感情をウェルズは確かに見抜いた。

作家としての洞察力がそうさせたのか。それとも長い経験による人間へと理解がそうさせたのか。あるいは純粋な第六感のためか。ウェルズはいずれにせよ、グロロの表情の機微に富んだ動きからその事を理解した。

「君?状況を理解しているかな?」

そう言ってウェルズはグロロの手に触れた。それは子供を気遣うように優しい接触だったが、目は笑っていなかった。

イェーガーは最初苦々しい表情を浮かべていたが、ヴィクトリア・シティの人命を優先し、これからの事を黙認した。

「蝕め。錯覚」

そう言った途端、グロロの口から意味不明な言葉が溢れた。

「……はい、黒い黒いぬばたまの闇が闇の手から底知れず伸びてきて闇の手が目と目と目と目と口を開く宇宙ミミズの群れが一斉に舞踊を踊り口から手と手と触手と手と手が目の世界と手が交差して矮小な私をああ食べないで食べないでたべあいあいあいあい」

狂乱したかのように意味不明な言葉をグロロは喋った。グロロは顔から滝のように汗を流しながら恐怖した。まるで彼の周囲が醜悪な肉の塊に侵食されているかのように。

「手に肉と羽虫羽虫羽虫と羽音おとおとおとおととととととと口目口口目目目手手ててててててててめめめめめめめめめめめめめめめめめ」

ウェルズは一瞬だけ手を離すと一言言った。

「やめ」

そう言うとグロロは息を切らしながら周囲を見た。恐ろしい悪夢から目を覚ましたかのように。

「な、は、ひ、ひ……」

「この街の人命が脅かされているんだ。分かるね。私に至っては養子の娘の命まで奪われかけたんだ。彼女は頑固なのが欠点だが可愛い娘でね。ん?分かるね?穏やかなお話の方がいいだろう?」

ウェルズが穏やかに微笑んだ。その笑みは慈悲深い僧侶のようにも老獪な策士のようにも見えるものであった。あるいは仮面のような笑みに似た禍々しいものでもあった。

イェーガーが一歩踏み出す。

「一つ言っておこう。今そばにいる人物はメタアクト能力を持っている。それは人を操ったり惑わす術に長けた人物だ。簡単に言えば人や知能のある生き物をハッキングできる。この意味が分かるか?」

「……く、こんなの反則だ!くそ!」

「ギャングで散々人を脅しただろうが。立場が変わっただけだ」

「そっちじゃない!こんな能力が!クソが!」

「ああ……メタアクトってそういうものだな。まあ、それもお互い様だ。シンはまだ感じとる事が出来るが……俺は無理だ。お前と同じだな」

「こんな作家風情が……ひぃぃ羽虫がアアア!?」

あるはずのない羽虫の群れに怯えながらグロロは言葉を振り絞った。

「畜生!畜生!何が狙いだ!何が!」

「お前は大幹部だ。だからはっきりと聞きたい。計画。この街を滅ぼす理由とその方法を洗いざらい吐け。今すぐだ」

がたがたと震える身を抑えつつ、意を決したようにグロロは喋った。

「……は、はは……仕方ねえ……なあ……おれに拷問まがいなことをしてまでも守りたいって事だろうなあ……しゃあねえなあ……俺は正直、仕事の前にイメージを浮かべるんだ……どういう利益になるか。どういう準備が必要か……それだけ考えて組織に尽くしてきたんだがなぁ……今回だけはイメージつかなかったんだよ……流星と紫電機関だぞ?なにをどうしたらそうなるんだよ……」

「紫電……機関……?何を言っている?」

面食らったウェルズをよそにグロロは語り続けた。

「ああ、俺たちの組織、元々は帝国の一部隊だったって聞いてる。それだけだった。それが俺の組織の元々の成り立ちだと。そんなことは知らねえがな……俺は貧しいからのし上がる事だけ考えてたんだよ……だから今回も、政府系組織から脅しのネタをかすめ取るぐらいにしか考えてなかったさ……共和国打倒?星の破壊?……は、ははは、俺はとんでもない闇を覗いちまったのかもしれねえ……」

「流星は予想がついていた。ハイパーコメットだろう。転移技術と船舶の加速技術を悪用した。あの『流星戦争の流星』だ。……だが、紫電機関?そんなもの何に使うつもりだ?」

「……もし、アラカワ・タカオになれる手段があるとすればどうする?」

「なってどうする?俺はそれなりに名の売れた小説家だ。そして、それで十分幸せだ。血は繋がらないが……愛する娘もいるからな」

「分かってねえな……神になれるんだぞ。それを手にしたいヤツらがいるってことさ。ウチらもそうだ」

「……まさか」

「第二のプラン。お前らだって予想していただろう?」

「……首都星内部での破壊活動を」

「そうだよ。流星は警戒されるだろうからな。予備の手段は必要だろう」

探偵グレイの言った通りの言葉であった。ウェルズは今、真実を知る。

だが、分からない部分もあった。

「それでなぜ……マリアとカズマが巻き込まれた?」

「カズマ……ああ、バレッドナインの社員か……俺らの組織は口封じ程度だったがな……協力してくれた人物が彼の関係者に恨みがあるだと。金でお願いされたよ。相場の三倍くらいか?実入りが良くてな……」

「なら、マリアは?」

「シュタウフェンベルグの人間なのだろう?ならそれが理由だよ」

「レオハルトの妻だからか?」

「そうだ。SIAには『流星』を迎撃する部隊や技術班の連絡手段とグリーフに関する技術があるからな……グリーフに関しちゃまだ仮定の段階だろうが……図星だろう?あのレオハルトをリーダーにいくつもの紛争やらに関わっているからなぁ……?対抗手段くらいあるだろう?」

「……人質か」

「そうだよ。組織の命令だとはいえ、……あんさんの娘さんにもわるいことしたな……」

ウェルズは目の前のガーマ人を思い切り殴打した。グロロはその拍子に椅子から転げ落ちる。顔には内出血の跡と口から流れた赤い血が生々しく残った。

「落ちろ……地獄に落ちろ……お前のせいで娘が死にかけたんだぞ……俺の天職以上に大事な俺の……」

「分かってたさ……すまんかったな……」

「謝って済むか!ふざけるな!ふざけるな!」

ウェルズはイェーガーに羽交い締めにされる。

「離せ!離せ!」

「よせ。こいつも言ってるが、黒幕はこいつじゃない」

「こんな犯罪者の肩を持つのか!?」

「違う。首謀者を抑えるのが先だろう?その時にいくらでも殴ればいい。こいつは……違う。幹部だが首謀ではない」

イェーガーの制止にウェルズは渋々と従った。

「……今は……紫電機関だ。流星はレオハルト達が抑えてくれる。ハヤタとやらもいるしな」

「ハヤタか……やはりな……」

「なんだ?」

「ハヤタってユダのハヤタだろう?」

「彼がどうした?」

「紫電機関が絡むならヤツも出てくるだろうからな」

「なぜ?」

「……紫電機関だぞ。銀河の勢力図すら一変させうる。それにふさわしいシロモノだ……くくく」

グロロはそう言って短く笑うだけだった。

「それはどこにある?」

「ハミルトン地区のどこか。おそらくボスの……ビッグフロッグの邸宅か……もしくはそれ以外の拠点か……どっちにしろこの街の何処かだ……くくく」

敵の狙いをウェルズは理解した。

惑星の破壊か、内部からのグリーフ兵器の行使か。そのどちらかが狙いだと理解できる。むしろ、本命は紫電機関を搭載した兵器による破壊活動だと考えら得れた。正面きっての流星の破壊活動は阻止される可能性が高いため、メインではなくあくまで目立たさせるためのブラフであり、インパクト重視の囮だと分かる。歴史的に人命を奪ってきた負の産物であり、大型の破壊兵器であることで大きな部隊の目を逸らす事ができた。

それが敵の準備であり、巧妙な罠でもあった。

大掛かりな囮で時間を稼いでいる間に敵は地上で着々と街を滅ぼす準備を進めていたということだ。

だがウェルズにとってもっとも気がかりなのは紫電機関という聞き慣れない動力機関の存在であった。

タカオ・アラカワとなれる手段。

それはつまりコミックのスーパーヒーローが如き力を得るということを意味していた。だが、それだけの大きな力は代償や留意すべき運用法があるというのが常であった。

「そんなものどこで……」

ウェルズは当然の疑問を口にした。

「前にアイビスタンで革命が起きたろう?王権政治が打破されて共和制に切り替わった時のことだ。あの時の王権派の協力者の一人が運良く逃げ延びてな。その時に一緒にもたらされたんだ。紫電機関の設計図が。……まああっても製造自体がなかなか難儀したがな……あれは科学技術に精通した人物が必要だ。あと、製造の行程でAI制御も必要だからな……無人で作業する必要がな」

「……その時か」

胡散臭い噂に過ぎなかった『紫電機関』の存在。

ウェルズの中で実感にも似た確信があった。なにより、未だ謎多きグリーフ能力者としての力を誰でも行使できる『紫電機関』は軍事面でも十分な価値が存在していた。その危険性も。

「……イェーガー。どうする?」

「……戻る必要がある。邸宅でなければ……」

「どこだ?」

「セントラル・スクウェア。おそらく紫電機関をそこで使う者がいる」

大作家と狙撃兵。二人の男が意を決したようにハミルトンの中心地へと向かった。グロロの身柄を他の者に任せて。

日常と守るべき人のために。二人は街の中心へと向かう。

街を守るため。悪意と怨念に二人は立ち向かう。


次回もよろしくお願いします。

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