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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第四十八話 闘争

この物語は残酷な描写が含まれる事があります。ご注意ください

シンは待っていた。

バレッドナインの車両の中でただ時を待っていた。そしてそれは他のメンバーも同じであった。さすがに運転をしているジャックの昔の戦友だけはその端末を見る事が出来なかった。だが、見たところで分からないであろうということは誰の目にも明らかであった。

ユキ。彼女の指は車両内に取り付けてあるPCのキーボードを叩く。だがそのスピードは最低限であった。余裕すら感じる動きであったが、その僅かな操作によって無数のプログラミングが作動していた。

「……字が見えねえ。速いな……」

ジャックは唖然とした様子で画面を見ていた。

「えっと、これはどういう状況?」

「……簡単に言うと、裏口を作ってる」

「裏口?」

「ヴィクトリア・シティ、ハミルトン地区の防犯カメラとかのシステムに侵入してるあと70%」

「ほおお……ってええ!?こんな端末に!?」

「仕組みが分かれば簡単なものよ」

「わかんねえよ!?なんで監視カメラを!?」

「カメラだけじゃないわ。警察無線とか電話回線で怪しいのとかを」

「まて!まてまてまて!どこから突っ込めばいい!?」

訳も分からず混乱するジャックに対してアディは平然としていた。

「ユキはこういう人でしょ?今更な気がするわ」

「それにしたってなあ……」

「それに今は時間がないでしょ?」

「そうだったな……」

「ちょっと借りるだけよ。皆の命が懸かっている訳だし」

「はは……そうだな……それにしてもどうして警察無線までを?」

「警察がギャングの本拠地に乗り込むって言ってたでしょ。でもユキがいうに不自然な動きをしているって言ってたわ?」

「そりゃあ。ギャングとかマフィアの根城はそうそう公にしないだろう。まだ探している最中じゃ……」

「だとしたら、なぜ彼はセントラル・スクウェアに向かっているの?」

「……まさか」

「幸いにもガーマ人ギャングの首魁は有名だから監視映像を逆算して本拠地を特定できるわ」

「あの巨体は探せば分かるからな」

「そうね。あいつは目立つわ」

そう言ってマリアはセントラル・スクエアにいる時の映像から逆算して敵の位置をまとめあげる。防犯カメラの映像は個人経営の飲食店のそれから、商店街の組合のカメラ、挙げ句は警察や役場のカメラまでも乗っ取って映像を記録してゆく。それらはドミノ倒しのように順調かつ高速でまとめられてゆく。そのスピードは明らかに人の操作する速度を遥かに上回っていた。

「お前……あらかじめプログラミングを……」

「あら?あらゆる準備をしておくものよ」

ドン引きするジャックを後目にユキは淡々と端末への入力を続けていた。

「ビンゴ」

ユキはそう言ってPCの画面をシンや仲間に見せた。

「ここね」

「……やはりな」

「え?やはりって?」

ルイーザの疑問にジャックが答えた。

「警察でマークしていた拠点の一つだな。大規模な上にあからさまに豪華な外装で地理的にも重要。ほぼほぼ確定だったようなものだ。が、警察でも決定的な決め手がなくて決めかねていたって聞いてる。なんせマフィアの巣窟だからな……」

「マフィア?ギャングじゃなくて?」

「あいつらは力任せの荒くれ者集団というより犯罪者組織と考えておいた方がいいぜ。なんせ、ビッグフロッグってヤツがとんでもないやり手でな」

「え?このデブがなに?」

「あんなあ……こいつは共和国の裏社会じゃ有名でな……」

そこまでジャックが言ったところでシンが答える。その答えにルイーザは徐々にげんなりとした表情を見せる羽目になった。

「誘拐、人身売買、政敵暗殺、地上げ、暴行、拷問、監禁、脅迫、薬物売買、銃火器の乱射、船舶への破壊行為、建造物への放火や破壊、違法な銃器売買、違法な動植物や毒物の売買、偽札の作成や流通、気に入らない店への妨害行為と破壊行為、しまいには、生きた人間をビル百階から投げ捨てる。……他にもあるぞ?聞くか?」

「う、うわぁ……うわぁ……人の事言えないけど、これはオンパレードね」

「そういえば……ルイーザって殺し屋まがいの事をやってたな……」

ルイーザが気まずそうにしていると、それを見たシンがフォローを入れた

「ルイーザはまだ善良なほうだ。彼女はそもそも相手にしたのは極悪非道な犯罪者や彼らと手を組んでいた富裕層や権力者だからな。動機が違う」

「動機?」

「ルイーザの標的自体が人を死に追いやったり廃人同然に追い込んだ下衆だからな……そんな輩は遅かれ速かれ警察やら恨まれていた人やらに裁かれていただろう。それをルイーザがやっただけだ。それに彼女は被害にあった人のアフターケアまでしているからまだ温情だ」

「し、知ってたのぉ!?」

「ルイーザ。俺とユキを舐めるな」

「うう……お見それしました……」

「気にするな。過去より今のルイーザに期待している。それに、ルイーザは昔からルイーザらしく義侠心のあるヤツだと分かって良かった」

シンは笑みを浮かべる。それは戦闘時の彼からは想像出来ない穏やかで優しい笑みだ。

目が優しかった。敵を見つめる時のシンの目は猛禽の如く暗く鋭いが、今のシンの目からは鋭さはなかった。その代わり慈しむような優しい光が虹彩に宿っていた。

「そう言うところがずるいわ。死んだ元カレみたいでさ……」

「どういうところだ?」

「何でもないわ!言わせないでよ……」

「……すまんな。それより……ユキ、本拠地の様子は?」

少年のような苦笑を浮かべながらシンはユキの方を見る。

「警官隊が既にいる。正面から入るつもりよ」

「好都合だ。俺は警官隊に合流してギャングとダンスをしてくる。その間にユキたちは――」

「決定的証拠の確保。でしょ?任せてよ。コメットの危機が本物だって立証出来れば軍も活動できるわ」

「俺の予想が当たれば、……それ以上のブツが出てくる。気を引き締めろ。敵の抵抗はどっちにしろ……激しいだろうな」

「了解よ」

シンは途中でバレッドナインと別れいち早く警官隊との合流を急いだ。その間にバレッドナインは裏手からの潜入を試みていた。

シンはユキからパルドロデムを借りる。バイクモードに変形した鉄の獣に跨がって鴉の騎士がガーマ人のエスニックな町並みを駆け抜けた。

商店や飲食店の店主が呆気にとられる中、ガーマ人ギャングらしき荒くれ者が泡を食った様子で飛び出してくる。

異国の言葉で何かを喚いていた。

また一人もそうであった。

カエル顔。カエル顔。ややトカゲの面影があるカエル顔。太ったカエル顔。そして、カエル顔。

何かを喚きながら、青ざめた様子で銃火器を取り出していた。

それを見た民間人のガーマ人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出してゆく。

シンは鉄の獣だったバイクを器用に駆って、手投げ弾や弾丸を回避してゆく。

黒装束の跨がるパルドロデムの駆動音が敵を威圧的に吠えた。

シンは敵の攻撃をひとしきり回避し続けたあと、パルドロデムの機銃を構えた。獣の背から生えた機銃。その引き金をシンは引き絞った。

巨大なミシンのように軽快な射撃音。

シンは音響と衝撃と共に無数の弾丸をばらまき、敵の群れを撃ち抜いていった。血飛沫と共に敵の群れはなす術もなく地にひれ伏すことになった。

「十分だ。次」

シンはユキたちの為に囮役を全うする。獣から降りたシンは壁伝いに軽々と屋根へと登って行った。華麗なほど軽快な動きで屋根から屋根を飛び越える。マフィアだけでなく、居合わせただけのものですら、彼の挑発的かつ華麗な身のこなしに呆然と視線を送ることしか出来なかった。

完璧な演出であった。

地を駆る鉄の獣。屋根から屋根を舞う闇夜の騎士。

ギャングたちは驚き怯えながら逃げ回るだけで精一杯であった。

そして、シンはある建物のガラスを突き破り、中に居た敵兵たちを片っ端から殴り倒していった。最初の一人は頭を思いっきり殴る。次の敵は足を思いっきり払った後、倒れたところに強烈な追い討ちをかけて気絶させる。もう一人が銃を構えようとしたところを羽根手裏剣で銃を跳ね飛ばし、飛び蹴りで敵の体を吹き飛ばした。柱にぶつかった敵は完全に意識を失った。

怯えた敵が逃げたところをシンは羽根手裏剣で動きを止める。

「……警備室は?監視カメラや警備システムの管制はどこでしている?」

尊大な口調と虫を見下すような目でシンことシャドウは敵を睨む。

恐怖のあまり、ギャングの一人が股間を湿らせながら警備室の位置を狂ったように喚いた。シンはそれを録音した後、喚き続ける男の首元にスタンガンを当てて眠らせた。スタンガンはレイヴンスーツの腕部に内蔵された機能の一つだった。そしてシャドウは警備室のギャング二人を急襲して沈黙させた。彼らは銃を使うチャンスすらなかった。痛みと共に二人は意識を手放した。シンは側にあった気配に意識を向けた。

「相変わらず、仕事が速いわね」

味方の気配であったことを理解するとシンは彼らを部屋に招き入れた。

ユキたちが後から警備室に乗り込んできた。彼らもまた、荒事は既に済んだ後のことだ。

「仕事ならある。この部屋のシステムをダウンさせろ」

「……これは豪勢ね。マフィアでもない限り、こんな警備体制はないわ」

「ビンゴということだ。『証拠品』も頼むぞ」

「分かってる。そこからは私たちの仕事よ」

「なら、俺は警察と盛大に暴れる事にしてやる」

「それがいいわね。その方が敵の注意も引けるからね」

「ああ。悪夢に出るくらい暴れてやろう」

シンはそう言って、ユキにコメットの制御装置の確保と敵への工作を任せて、本拠地にあるハイパーコメットの遠隔制御装置、シンはその破壊に専念することにした。

シンは二階をしばし捜索した後、窓の外を見た。

見知った顔がいた。ダニエル・グレイだった。

「来たぞ」

「エスコートの時間ね」

「警部補が怒るぞ」

「分かっているわ」

「やれやれだ」

無線越しでのユキの軽口にシンが苦笑いを浮かべた。

「シャドウ、敵が非常階段から一階に向かっているわ……」

「だろうな」

シンは警官隊の様子を見る。一階から堂々と攻め込むつもりであった。

「乗り込みましょう」

「ああ」

そう言ってSWATと警官隊が入り込もうとした時にシンは叫んだ。

「待て」

シャドウは二階の窓から飛び降りるようにして合流した。

警官隊が仰天して銃を向けるのでシャドウは両手で戦意のない事を示した。

「カラス野郎か。邪魔をするな」

警部補が相も変わらず威圧的な眼差しをシャドウに向けていた。

バレッドナインと警察。二つの組織が合流する。街を巻き込んだ犯罪組織との決戦、開幕。


次回もよろしくお願いします。

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