第七章 第四十七話 警察対テロ組織大連合
この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください
ヴィクトリアシティには四つの地区がある。
官公庁や旧市街のある都市の心臓部『アルファ・フォート地区』
映画産業と自然公園が著名な北部『ブラウニー地区』
南部に位置し、港湾と大学、工業地区のある『アイビーズビーチ地区』
そして、東部に位置するハミルトン島で構成されたヴィクトリアシティにおける経済と文化の最先端をいく『ハミルトン地区』があった。
主だった一連の事件はハミルトン島を中心に起きていた。その事件の黒幕がいるのは奇遇にもハミルトン島のほぼ真ん中であった。
セントラル・スクエア。
ここにアインは潜んでいた。
彼は自害したアインとは別のアインだ。
だがそれは異質な光景を作っていた。
一の名を持つ男が群れを成していた。同じ顔の男が何人も潜んでいた。
何番目かのアインの隣にはガーマ人の巨漢が帽子で顔を隠していた。体格の大きさが目立つが、服装自体が地味なので通り過ぎる人たちは気にしてはいなかった。
「協力に感謝する。ビッグ・フロッグ殿」
「グロロを捕らえられたのは痛かったな。グロロ・ゲルゲルは優秀なヒットマンであり、優秀な指揮官であった……惜しい事だ」
「血に飢えた正義の味方など替えは利きます」
「そうだな……そちらの『血に飢えた正義の味方』はどうしている?」
「……サワダか。ヤツは変わった男だ。進んでノブとリーザに繋がる人物を消してくれている。理由はよくわからんがな」
「そうか……これで事が成せるな」
「ですな。なにせ安全装置を作られるとは思わなんだ。……そうはおもわないか?アカガワ総帥殿?」
ガーマ人の巨漢と何番目かのアインは背後にいる人物を見た。それはトレンチコートと仮面を被った異質な男だった。だが、周囲の人間はどういうわけかその人物を認識していなかった。
「……異存はない。目的は君らが果たしてくれる」
「正直、こいつと友好関係を組むのは気に食わないが……」
「贅沢を言うな、ライコフクローン。貴様の切り札は誰が用意してやったと?」
「……承知してますがね。今だけのことですよ」
「ふん……」
険悪な両者にビッグフロッグと呼ばれたガーマ人の巨漢が割って入る。
「まあまあ、この作戦は仲良くしましょう。今は共通の敵を叩くべきでしょうから」
ニコニコとギャングの首魁は愛想笑いを浮かべたが目は笑っていなかった。
「共通の敵……SIAが来るだろうな」
「その前に殺すだけ殺しておこうか」
そう言ってライコフたちが銃を取り出そうとした時だった。
「ちょっと失礼」
中年男性の声がビッグフロッグのそばから聞こえた。
「なんです。刑事さん」
カエル顔の巨漢は目を見開いた。
いつの間にか自分たちが囲まれている事を悟っていたのだ。
「……ビッグフロッグさん。と呼ぶべきでしょうかね?なんせ本名が分からないので……まあ、いいでしょう。ちょっと署まで来ていただけますか?……ああもちろん、そちらの方たちも遠慮せずに……」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
車と雑踏の音だけが周辺に反響していた。
周りの人間は気がついていない。
雑談と歩行。ネオンの光と街頭モニター。ファッションと新作ドラマの話題。それだけが彼らを夢中にさせていた。
「……私からもいいですか?」
「はい?」
ダニー警部補が怪訝な顔をした。
「……私の部下にも私がどこに行くかを伝えてないのですがね……どうして私がここにいると?」
「……ああ、そのことですか」
「外出は秘密にしてたんですがね?どうしてです?」
「たしかにあなたは……言うなれば『ビッグな人物』だ。それこそこの街でも影響力がある。遠回しに言えばね……ですが、私も人脈があるんですよ……ああ、おっしゃらないで、私の人脈なんて狭いものでこの街限定のものでありますよ……後は……地道に歩き回って……ということですよ。発見自体はなかなか難儀しましたがね。あなたが有名人なら……それを見ている人は意外にいると言う事です。この街は意外と見ないようで見ているものですよ……」
「そうか……お前はこの街で育ったと……」
「そちらも。署まで」
そう言われたライコフクローンたちは拳銃を一斉に警部補に向けた。
それに呼応して警部補の部下たちもクローンたちに銃を向ける。アッカーマンが叫んだ。通行人が驚き両者を見る。
「警察だ!銃を降ろせ!無駄な事はやめろ!!お前らには黙秘権と弁護士を呼ぶ権利がある!命は大事にしろ!」
巡査はライコフたちに権利を読み上げながら、銃を向ける。平然を保っていたが表情からは焦燥と緊張が見て取れた。
それに比べると警部補の表情は冷たかった。目が冷めきっていた。
「……お前ら、そうやって殺したわけか。……俺の仲間を」
「お前ら、人類は紙くずのように燃え尽きるのが必定だからな。早く死ねて良かったな?」
「おう、口に聞き方に気をつけろ。……俺が一人の警官から一人の怒れる男に変わる前に大人しく逮捕されとけや。悪い事は言わねえからさ」
「は、羽虫の言う事を聞けと?」
「お前、言葉知らねえな?」
「あ?」
「学校で国語も習わねえのか?一寸の虫も……てよ?親が泣いてるぞ?」
「あいにく俺たちはクローンだからな」
そう言ってライコフクローンがゲラゲラと嘲笑する。
「そうか。なら教師役のヤツがどうしようもない無能か下衆ってことだろうな……かわいそうな連中だ」
露骨な哀れみにライコフ達が引きつった顔をする。
「忘れたのか?おまえの命は俺たちが握っている事を」
「撃てよ」
「は?」
「その代わりお前ら全員ムショ行きだ。俺の部下たちが仇を討ってくれる。死んだ仲間の無念は晴れる。俺たちの勝ちだ」
「イカレているな。なぜそうまでして?」
「俺一人でこの街を救えるなら安い犠牲だ。死にたくはないが、万一のことがあっても勝利は覆らないって訳だ。この街の警察は何人いると思っていた?百人や千人の話じゃねえ」
「ほうならば遠慮なく」
そう言ってライコフ達が引き金を引こうとした。
周囲から悲鳴が聞こえ、民間人が一斉にその場から逃げ出した。
パニックがパニックを呼ぶ中、ダニーだけが静謐な態度で銃口を見つめていた。
だが何人かのクローンたちが腕を抑えて崩れ落ちた。警察の狙撃部隊のおかげだった。
それに合わせて煙幕や閃光手榴弾が投げ込まれる。それに合わせて潜んでいたSWATたちがテーサーガンでクローンたちを無力化する。
「本部まで逃げろ!」
ビッグフロッグがそう叫ぶ。まだ捕まっていないクローンたちが用意されたワゴンの方まで走っていった。
乗れるだけ乗り込んだ後、ワゴンは高速で街を駆け抜けた。
「計画通りだ」
警官たちが白バイやパトカーに搭乗する。
「警部補!」
「ああ」
ダニーもアッカーマンの用意した車両に乗り込んで追尾する。
ガーマ系ギャングの本拠地はハミルトン地区のある場所に位置していた。だが、首魁である通称『ビッグフロッグ』は慎重な人物で話し合いの場所は別の場所で行なうのが常であった。
警察でも場所の目星はついていたが、ガーマ街は警察でも異質な場所と位置づけられており、細かな位置の絞り込みは困難であった。そこでダニーたち警察は彼らを追跡して本拠地まで泳がせることを作戦として立案する。位置さえ分かれば上空のヘリからの侵入、あるいは他の管轄から応援を集めるなどして一気に叩く事が可能であった。なにせ、敵はテロリストで、街を破壊する現行犯であった。彼らの会話の音声も録音されている。警察用ドローンとダニーがこっそり録音した音声データの二段構えで記録されていた。
警察はセントラルスクウェアを南下してガーマ街の商店や民族料理店が多くある地区を抜ける。敵がそこを逃げるのも見越して。
そして、あらかじめ待機してあった別の警官隊と合流しつつ、敵の本拠地の前へとダニーたちは踏み込んでいた。
「宮殿かよ。なめやがって」
そこはヴィクトリア市警がマークしていた拠点の一つであった。
ガーマ人ギャングは下手なマフィアよりも大掛かりな拠点を所有していたが、この拠点はその最たるもので、本部でなくても有事の司令拠点兼同じガーマ人への威嚇の意味合いを感じされる建物であった。
「乗り込みましょう」
「ああ」
そう言ってSWATと警官隊が入り込もうとした時だった。
「待て」
男の声が聞こえる。
上からであった。二階から黒装束の男が舞い降りた。
「カラス野郎か。邪魔をするな」
目の前には威圧的な出で立ちの小柄な男がいる。
シャドウであった。法をしばしば無視したような行いは警察の悩みの種だ。だが、警察の中にもファンとなる人物がいる。そのことがダニーにとって腹立たしいことであった。なにせ、人を救ったり守ったりする自身の業務は警官や消防士などある種の人にとっては誇りも同然であり、ダニーにとってもそれは例外ではなかった。
そして、シャドウは汚職警官などの犯罪に加担する公僕を裁くために警察に攻撃を加えるケースもあった。そのこともあり、ダニーにとってシャドウはあまり好ましくない市民としてみていたのだ。
ダニーの警戒心とは裏腹にシャドウはやや尊大な態度でこう言った。
「違う。逆だ」
「逆?どういうことだ」
「お前たちを援護するということだ。ここはざっと調べただけでも無数の罠と待ち伏せがある」
「その証拠は?」
「アラクネが調べてくれた」
「……やれやれだ。今回は違うってことか」
「前の警官たちへの攻撃は隠れた悪を燻り出すためだ。基本的には味方だ。特にダニーお前には」
「……シャドウ。シン社長に言ってやってくれ。俺はカラスが嫌いだと」
「それでいい。その反骨精神こそ信用できる証拠だ」
「俺は信用しない」
「構わない。俺もお前たちと同じ目的だ」
「……マフィアに恨みが」
「ある。友人を傷つけようとした」
「……ビッグフロッグも喧嘩の相手を間違えたな……」
ダニーはシャドウのことを忌避していたが、大勢の犯罪者に物怖じしない姿勢と卓越した戦闘能力に関しては評価していた。それに助けられている以上は協力してギャングたちに向かって行かないといけないという制約もあった。
「後ろから殴るなよ?」
「お互いに」
シンは隠れていたバレッドナインのメンバーに合図をする。
裏手からバレッドナイン。正面からは警官隊とシャドウがビッグフロッグの邸宅へと突入した。
警察と犯罪組織。ついに衝突。大都市を巻き込んだ戦いは佳境へ。
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