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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第四十五話 キラー・カム

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください。

マリアたちに大きな収穫はなかった。

町中を歩き回ったが、アインらしき人物の行方に関しては知るものはいなかった。

「…………どこも駄目そう」

「そうなると……レオハルトさんの情報を待つしか」

「そうだな……レオハルトさんが頼みとしか……な」

「はぁ……男でしょ……情けない事言わないで……」

双子の発言にマリアは思わずうなだれてしまった。手がかりはないのは事実だが敵の襲撃がこれから起きるのも事実だった。後手に回らないためにも敵の計画に繋がる手がかりがマリアたちに必要であった。

Kことマリンが調べている情報が頼りであるとマリアは痛感していた。

「あ、来たぞ」

「!」

マリアがマリンの方へと駆け寄る。

「……どう?」

「大収穫よ」

「……そうよねぇぇ…………って、ええええ!!?」

マリアは驚愕の余り目を見開いていた。マリアの顔つきは元々整ったものであった。だが、その時ばかりのマリアの顔は、喜劇役者も驚愕ものであった。顔中の筋肉が劇的に強張ったシュールな顔をしていた。驚いた時の野太い声も合わさり、一層周囲に笑いを誘う。

レンはそんな顔をしたマリアを見て笑いをこらえるのを必死だった。ケンはしばし笑った。そしてマリアにどつかれる。何度も。

「大収穫よ」

「わ、分かってる!どういうことだ!?」

マリアにどつかれながらケンは疑問を口にする。

「任せてよ。私、昔あるコネクションがあるんだから」

「……それは凄いな。どんなコネなんだ?」

「……秘密よ。正直、昔の仕事に戻れたらとは思うけど……」

どうしてグラサンの女エージェントがその情報を持ってきたのかという疑問はさておき情報を得られたという事実がマリアにとってありがたかった。

「大きな情報が三つあるの……場所を移しましょう」

そう言ってマリンが美しい茶色の長髪を風になびかせて歩き出した。元芸能人を名乗るだけあって

「あ、マリ……Kさん待って!」

そう言ってマリンと双子はKを追いかけていった。日は完全に暮れて夜がやってくる。三人は夕日と共にマリンを見失わないように必死だった。マリアとマリンの身体能力がほぼ伯仲であったこともあり、双子が脱落しないようにマリアは配慮していたのだった。







三人は大通りから外れた一画にたどり着いた。

マリアは建物に囲まれた空き地で会話を始める。そのそばにはレオハルトもいた。

「すまないね。……改めて……謝罪したい」

「薮から棒ね。気にしないでよ。私はあなたの苦労は分かってるから」

「……それでも巻き込みたくなかった」

「いずれはこうなると思ってたわ。あなたが教師の道をやめた時からね」

「……『褒めて伸ばす教師になる』か……今でも諦めてはいないよ。人の可能性を救いたいからこそ軍人になったって事もあるからね。やるべきことをやったら夢を追うことも考えているさ」

「ごめん。いまさらね」

「再確認は大事だ。マリアの基本を忘れない姿勢は大好きだ」

「もう……口が上手いんだから」

「事実だよ」

「あなたってさ……ばか」

レオハルトの言葉にマリアは思わず赤面する。

レオハルトは息をするように人を褒めるがそれはマリアに大しても例外ではなかった。それはただのおだてではなくレオハルトの本心からの人間への賞賛である事も大きかった。

そしてそれ以上にレオハルトは妻への気遣いを忘れていなかった。そのことがマリアの心をくすぐる。暖かな気持ちがマリアの内側からわき出していた。魔法のように。

「ゴホン……すまない。ラブコメは好物だが本題に」

「ラ!?……ちょっとあなたね……」

「う、すまん」

レンの同様にケンが割り込む。フォローのつもりだろうが実際はレンへの追い討ちにしか見えなかった。

「あー……すまんすまん。ウチの兄貴は純愛が好物でね。恋愛小説を読みあさってるくらいさ。だから悪気はないんだ許してくれよ。な。な」

「レ、レン!貴様!」

「え!?怒ってる!?なんでよぉ?」

「追い討ちかけんなゴラ」

「フォローだよぉ庇ってんだよぉ」

「なってねえわ!このあほんだらぁあ!」

「ひええ!勘弁してくれえ!」

漫才のような奇天烈な言葉のやり取りとその後のレンの暴君のような制裁が余計その場の空気をコミカルに和ませた。

「……仲がいいな」

「……仲がいいわね」

マリアとレオが顔を見合わせて言っていた。二人とも目を合わせて互いの困惑を確かめ合っていたのだった。

「……ゴホン、レオハルト様本題へ戻った方が」

マリンが咳払いをしている。平然を保っていたが声の調子が少し乱れていた。

「あ、ああ……そうしよう」

レオハルトが襟を正した状態に戻る。

「……まず、分かっていると思うがこの街は混沌とした状態だ」

「……ヘルズキッチンと言い迷惑なヤツらが多すぎね……」

「そう、ヘルズキッチンの連中からこの街の朝は始まった。そのせいでこの街の警察は混乱状態だ。……そして、彼らの脱出は無関係ではない」

「……どういうこと?」

「裏で糸を引いた連中がいた。彼らを何日も匿った連中が」

「どうせ、得体の知れないマフィアか何かでしょう?」

「その得体の知れないマフィアの正体が分かった」

「誰だった?」

「ガーマ人のグループだ」

「え、えぇ……よりにもよって……」

ガーマ人の大半は栄光を忘れ、穏やかな日々を望んでいる者が大半であったことをマリアは知っていた。実際にガーマ人の料理関係者などと会話する事もあり、ガーマ人すべてが独立のために汚い事をする連中ではないということをマリアは経験から理解していた。が、同胞に対しても汚い手段で苦しめてくる連中もいることも知っていた。

ガーマ人ギャンググループ。通称『フェイスマンズ・ギャング』。

体の何処かに何世紀か前のガーマ帝国の偉人の顔をタトゥーとして刻んでいる荒くれ者のグループが存在していた。

彼らはあらゆるギャングやマフィアと比べても狡猾でとにかく表に出る事を嫌っていた。だが、その癖プライドと選民思想は極端に強く、気に入らない芸術家や個人店舗をたびたび攻撃したり、恫喝したりして自分たちの支配下に置く事で悪名高かった。

それは料理関係者でも例外ではなく、ダークスティールシェフのような非公式の料理大会においても『顔の刺青をしたガーマ人』は出入りを許可されない程嫌われていた。

いうなれば、ガーマ人は裏社会においても最悪の犯罪集団であった。

「フェイスマンズ……それが」

「そう。この事件は彼らともう一つの集団が関わっている。それがブラッドクロスだ」

「最悪のコラボね」

「そう、コメットの管理はブラッドクロス、地上での撹乱はフェイスマンズが担当している。そしてそれを操るのがアインと」

「ノブ」

「でもその証拠は?」

「ここにある」

そう言ってレオハルトが端末をかざす。街にある飲食店の監視カメラのデータ網や大通りの防犯システムの記録から発見された画像の一つだった。画面の隅にある人物がいた。ガーマ人の恰幅の良い人物のそばに二人の人物がいた。

ノブとアイン。

決定的な証拠であった。

だが話題はこれだけではなかった。

あるバーでの暴漢の襲撃、中学校に侵入した銃を持った男たちとその顛末。そして、病院での戦闘。

だが、そのどれもが瑣末ごとに思える程の内容が後二つあった。

「シンプルに言うと、二人の人物が警戒されている」

「誰のこと?」

「……それは……」

「あなたらしくないわ……どうしたの?」

「ウェルズの養子と……君だ」

「……え?」

あまりに突飛な結論にマリアは目を白黒させた。当然、マリアには身に覚えがない。マリアは動揺と恐怖をない交ぜにしたまま疑問の答えを問う。

「私がどうして!?テロリストと繋がりなんてないわよ!?」

「そうだ。だからこそ考えた。繋がりといえばせいぜい前にノブに出会った時くらいだ」

「そうよ。それ以外に……」

「もしかしたら……その時に彼を刺激する何かがあったのかもしれないな」

「刺激する何かって……話した事と言えば、芸能の話ぐらいよ」

「芸能?」

「だって彼は芸能関連の仕事をしていたって言ってたわ。……ん?どうしたの?」

「……K。彼のことは知っているな」

「……正直思い出したくないわね」

双子の弟の方が唐突に情報の整理を始める。あまりに突飛な現在の状況に理解が追いついていない様子であった。

「ええと。ノブがギャングやアインと繋がっていたって件とガーマ人ギャングが元々街に混乱を起こそうとしていたという件と……」

「敵の目的はヒビキだったな?ジョージ・H・ウェルズ大先生の娘さんとマリアを狙っている件とどういうわけか街への破壊工作を思いとどまっている」

「そうそうそれ!あとは……敵の動機が分かれば完璧だったな」

「いずれにせよ敵はなんらかの情報を求めている事が分かる。つまり、ヒビキかマリアを敵に奪われなければコメットの飛来も内部のテロも防げるということだ」

「んで、そのヒビキは?」

「ある人物から連絡があった。秘密の隠れ家にいると」

「なら……マリアをしばらく匿まってジ・エンドだな」

ケン・シナガワが満足そうに頷いていたが。レンの方はどこか寒気を覚えたかのような顔をしていた。その表情は何かを暗示している。

不吉な何かを。

そして、レンの不安の正体が唐突に訪れた。


「マリアはここだな?」


それは純粋な殺意と偽善へと憎悪の化身であった。

両のポケットに手を突っ込んだ男がじっとマリアとKの方を見ていた。

「……ひさしぶりだな?マリン・スノー」

「……サワダ・タクヤ!」

不吉な闇が唐突に姿を表す。

サワダという男が放つ殺意の質量はどんなに武道を知らない人物であったとしても触覚で感じられるほどの寒気を周囲の人間に与えた。それは本人の潜り抜けた修羅場と死線の数々を物語るものであったが、それは同時にサワダという人物が二桁以上もの人命を踏みにじってきたことをマリアたちに否応無しに悟らせる。

「……!!」

マリンが武者震いをした。

「マリン……マリン・スノーだと!?まさか!?」

「スノーか!?あのヒットガールズの!?ウソ!?」

双子がそうであったかのように。双子は思わず身構えた。が、それ故に動きが緩慢になっていた。

「殺しに来てやったぜぇ!?アイドル崩れぇ!!」

サワダは隠し持っていた山刀でマリンに斬りかかろうとした。だが山刀はある人物の右ストレートで吹き飛ばされた。

キィィン、キィィン。

叩き落とされた刃物が金属質な悲鳴を響かせながら地に落ちていた。

マリア・シュタウフェンベルグの右手が山刀を叩き落としていたのだ。

黒い韋駄天、突然の襲撃。マリンを救ったマリアの次の一手は。サワダの思惑は如何に。


次回もよろしくお願いします

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