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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第四十三話 警部補はバーで戦闘中

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

リーザが一杯の酒を頼んでいた。

ヌルは未成年でダニーは仕事中なので、二人はリーザが一杯のウィスキーに口をつけるのを見ているだけであった。

「……お酒か」

ヌルが思いついたかのように言葉を紡いだ。

「未成年は駄目だ」

「知っている。けど、どうして大人はわざわざ意識を酒で揺るがそうとするのだろうね?」

「純粋に好きと言う事もあるが……悩んでいるというサインでもあるのさ」

「悩むと酒を飲むの?」

「人によるが概ねそうだ」

リーザがゆったりとオンザロックを楽しんだ後、ふと口にする言葉があった。

「アズマ人の変態さん」

「ん?」

ダニーが疑問にリーザがすぐ答える。

「あの時は国の特別な日だったのよ。だから来ていたの」

「……そうか」

「マリアも意外だったけどあり得なくはなかったわね。建国記念日」

「……建国記念パーティだったな。それだったら軍の重要人物や政府関係者が来てもおかしくはなかったな。祝日なら足を運ぶ者もいただろうからな」

「もうだいぶ前の事なのに昨日の事みたいな感じがするわ」

「そうか」

「一番意外だったのは……ヒビキちゃんがいた事ね」

「ヒビキ・メアリー・ムラカミか」

「そうそう、彼女は天才よ。素晴らしい作家だわ。書き出しから素晴らしいの」

「読んだ事はないな」

「あら……もったいない……それとも幸せってことかしら。新鮮な気持ちで本が読めるのだからね」

「失礼ですが……あまり活字を嗜まないもので……」

「そうなの?損しているわ、あなた」

「面目ない。仕事で娯楽どころではない身でして……」

「警官だものね。真面目さは大事よ」

「配慮に感謝します」

堅苦しくも丁寧にダニーは感謝の意を示した。隠れ家のようなバーでゆったりと時間が過ぎてゆく。女のバーテンは相も変わらず無口だが配慮のない人間ではなかった。適切なタイミングで良い提案をしてくれる。ソフトドリンクも本来は酒に混ぜて使うためのものであったがダニーたちが重要な話をすることを配慮して出してくれていた。

「すまんな」

「……なんのことでしょう?」

「いや……ありがとうな……」

「…………どういたしまして」

ダニーは思わず微笑む。無愛想なダニーらしからぬ久しぶりの笑顔であった。

「良い酒場だ。オフの時にまた来るよ」

「……お待ちしております」

女バーテンは仰々しくお辞儀した。

丁寧で静かなお辞儀であった。

その時であった。明らかに武装した様子の男が入り込んできたのである。散弾銃。拳銃。金属バット。ナイフ。明らかな暴徒の群れだった。

思わずダニーは持っていた拳銃を向ける。早業だった。

だが、頭数の不利を覆すには拳銃一丁では心許なかった。

「ヒビキはどこだ?」

「さあ……知らないな」

「よく考えな」

「知らねえな。……その銃はなんだ?」

「さあな。天国で聞いてくるかい?」

「天国じゃあ銃なんて流行らねえからな」

ダニーは暴漢たちの方を見た。暴漢の一人。大男の手に何か紙のようなものが握りしめられていた。

「その紙はなんだい?」

「ちょっとした資料でな」

「資料?」

「お前警官だろう?手配書ってあるだろう?お尋ね者とかさ」

「……お前ら……その警官に銃を向けたんだろうが」

「おっといけねえ。俺たちはなああんもしらねえや」

暴漢どもがゲラゲラと下品に笑う。

「お客様」

女バーテンが殺気立った様子で暴漢を睨む。口調こそ丁寧だが、声色は明らかにお客様相手のそれではなかった。

「警告します。銃をこちらへ」

「銃を預けたらよぉぉ……シてくれるのかなぁあ?」

暴漢のリーダーが湿っぽい微笑を浮かべる。粘度のある不快な笑みであった。

それを見てげたげたと取り巻きの暴漢たちが笑う。

不意に女バーテンがカウンター下のボタンを押す。

低い電子音が響いた後、ポニーテールは言った。

「……店長。コール5です」

そう言った後短くやり取りをしてから、女バーテンはポンプ式の粒子散弾銃を下から取り出した。

「……退店願います」

バーテンは銃を向けて暴漢たちに再度警告する。暴漢たちは聞く耳持たずであったため、ポニーテールのバーテンが地面に威嚇射撃をした。

うぉぉぅ……。

男たちの声が短く響いた。

だが、激高した暴漢のリーダーが怒鳴り声を上げる。

「良い度胸じゃねえか!?このクソアマが!?たっぷり可愛がってやろうかゴラァァッ!?」

巨漢の前にダニーが立ちふさがる。

「おっと、兄さんたちよ。レディ相手に恫喝はねえんじゃあねえか?」

「あ!?ポリ公が調子づいてんなよぉ!?」

金属バットをもった取り巻きがダニーに得物を振りかぶったが思いっきり派手に転倒した。否、ダニーによって転倒させられたのだ。

「おっと、派手にどうしました?転んでますねぇ?痛いでしょう?」

「がが……あが……」

「おーい、そこの兄さんがた。そんな物騒なものしまってこいつの介抱頼みますぜ?」

ダニーはしらばっくれた様子で男たちに紳士的な態度で近寄る。

「今だったら……見逃せるよ?凶器準備集合、火器規制法違反、恫喝に、威力業務妨害……現行犯逮捕のち即ムショコースは嫌でしょうなぁ?」

もちろん見逃すつもりはダニーにはない。だが、今はバーの安全確保が優先だった。

相手が利口だったら、お互いに一度引いて態勢を整えるなり、話し合うなりの穏健な展開が望めた。

だが、相手は馬鹿だった。それも筋金入りであった。

「しづいてんじゃあねえぞンダゴラ!オイオラ!たたんじまえああ!!」

「うぃぃいぃいいいいいいいいいいい!!」

「ウェイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!」

暴漢たちが銃を乱射する。

酒瓶の中身やガラス片、机の破片が四方に辺りに飛び散る

ヌル、ダニー、リーザがとっさに近くのカウンターに隠れる。飛び越える形だった。

女ウェイターの真横を粒子弾が掠める。彼女はその後すぐに身を屈めて隠れた。

所詮は暴力があれば何でも出来ると勘違いした社会の芥どもに言葉の意思疎通は儚い希望であるとダニーは痛感した。この手の勘違いの過ぎた小物にはそれ相応のお仕置きが必要であるとも理解したダニーは殺さない程度に応戦する必要があるとも思案していた。

ダニーが一人、また一人と足を撃ち抜いて無力化するが、多勢に無勢。

無線で応援を呼びかけたがそれまでには全ての決着がついていることは明白であった。

弾雨が飛び交い、斜めにしたテーブルやカウンターを盾にダニー、ヌル、リーザ、女バーテンが身の安全を計るだけで手一杯であった。

こうなると不殺が不可能であると警部補は判断せざる終えなかった。

「……正当防衛に徹する……しかねえか」

そう言ってダニーはヌルの方を見る。

「当然でしょう。あんな礼儀知らずは」

「不本意だがな」

ヌルが隠し持っていた拳銃に弾を込めたことを確認してダニーは台の上に手だけ出す形で銃撃を加えた。

「グエッ」

「ウェエエエエエエ、エエギャ!!」

胸や腹を撃ち抜かれ、短い悲鳴を上げて倒れる。銃撃の音と弾雨、砕け散る音の中で暴漢は次々と倒れていた。

それに援護射撃が続いた。

別の場所から。

奥のスタッフルームに続く木の扉からだった。扉越しに粒子弾の弾雨が悪漢どもに浴びせられる。体から血の霧を吹き出しながら敵の群れは一目散に逃げ出した。

穴の開いた扉が吹き飛び比較的大柄な男が現れる。

一八〇センチには僅かに届かない体格の筋肉質で右の頬に傷のある男だった。彼は猟銃と思われる散弾銃を持っていた。水平二連式であった。

「……ギャングとの喧嘩が相変わらず派手だねえ」

「すまんな。あんな知り合いに覚えがなくてね。新入りかな?」

「あーあ、せっかく儲かったのにまた修理費がな」

「今日のヤマが終わったら手伝ってやる。片付けなり色々とな」

そう言って色黒の店主と警部補は親愛のハグを交わした。

ロイ・クリーブランド。

警部補とは旧知の仲であった。

「お前、ここで店開いてたのな」

「言ってなかったか?連絡はしていたろう?」

「あー……そんな記憶会ったなぁ……あの時は忙しかったからな……」

「大事件か?」

「だな。今は古株も若手も総動員しててな」

「これもその影響か」

「多分な。もうすぐ援軍がくる」

噂をすれば影。サイレンの音が響きパトカーと警察の装甲車両が止まる。

SWATやほかの制服警官と共にアッカーマン巡査が突入してくる。

「全員動くな!」

両手を上げながらダニーは一言。

「犯人が逃げやがった」

ダニーを見たアッカーマンが安堵の表情を浮かべる。







アッカーマンが首を傾げていた。

「あのチンピラなんなんです?」

「……ああいう手合いはどこにでもいるだろう?」

「それが……あのヒビキ・M・ムラカミ先生の通学するジュニアハイに銃を持った男が入り込んだらしく……」

「何……そいつはどうなったのだ!?」

「……警官が駆けつけた時には気絶していて縛られていたそうです。学校の女子生徒が撃退したとか……」

「……ヒビキだな……絶対に……」

ダニーが困惑のあまりため息をついた。

「今は?」

「現場保存のために警官が学校にいます。証言を聞く限り警部補の考えた通りかと……」

「……警官泣かせだが一つ分かった事がある」

「なんでしょう?」

「この事件は国内の犯罪組織も一枚噛んでいると言う事だ」

「なぜ?アインはこの街ごと組織も滅ぼすつもりだろうが」

「事実を伏せて協力関係を築いているのでしょうね……もしくは……」

「なんだ?」

「ヤツらは替えの利く下っ端でもっと違う組織が噛んでいる事も考えられるのでしょう」

「……だったらなんだろうな?」

「ただ……警部補の話が本当ならガーマ人の組織が噛んでいるのは濃厚だと思います。マフィアになる連中は選民思想が強く、ヒットマン役を他種族の殺し屋やごろつきに金で委託したりするのは十分にあり得るかと……それに……『動機』の予想もつきます」

「……行くしかねえか」

「はい。相応の準備が必要かと」

「……気をつけろよ」

「警部補も……」

「ああ、今回は経験にないことになるかもな……」

アッカーマンとダニーがSWATの方を見る。彼らや制服警官も顔を見合わせる。巨大な戦いの嵐が目の前に来ているのは明確であった。

裏社会の闇、深まる夜。思いもよらぬ敵との戦いを警部補は予感する。


次回もよろしくお願いします

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