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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第四十一話 コメット

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

レオハルトにとってもリーザとの付き合いは浅からぬものであったが、マリアにとってはそれ以上の意味があった。

マリアはサウスを問いただしながら、その言葉の意図について考えていた。

ハイパーコメット。

レオハルトいわく『自爆流星』や単に『流星』とも称されるその悪魔の兵器に流星戦争当時の各国は有効な迎撃手段、または、無力化の方法を10年もの年月をかけて開発したとされる。マリアにとっては遠い歴史の出来事のようにも思えたが、レオハルトにとっては違うようであった。

マリアがレオハルトから聞いたことを思い返す。マリアは語学以外の勉学は得意な方ではなかったが、歴史が好きなレオハルトの影響によって知っている事はいくつかあった。

まず、『流星』は開発当初は『神聖ガーマ帝国』の大艦隊を滅ぼし、一時は戦争の様相をも変えると称された。それと同時に惑星をもいとも簡単に破壊した影響でガーマ帝国側・竜山連合側・そのどちらにも属さない国家群を問わず銀河各国の経済と文化に悪影響を及ぼしたという。そして一度起動させ、座標を指定されたら最後、目標に向かって亜高速で突貫し破壊するとされる。最初は人が敵を道連れにする目的で行なわれたが、次第に人工知能やドロイドを搭乗させて投入されあらゆる惑星の人材や文化、資源などを灰燼に帰したのである。

流星戦争を終え連合は流星での強硬な外交で他国を圧倒し、自国民をも管理主義によって縛り付ける恐怖の時代がしばし訪れた。

だが、当時の険悪だった『アズマ国』や一大勢力だった国家連合である『アテナ銀河連邦』を始め、新興国であったアスガルド共和国や、フランク連合王国・オズ連合王国の五カ国はツァーリン連合と竜山連合の二カ国にある手段を持って『流星』と対抗する。

それこそが、再興歴一六○年の第一次銀河大戦の始まりだったという説が近年では有力視されていた。

それを支えたのがアンチ・コメットと呼ばれる次元歪曲による迎撃機構であり、これは始め居住可能惑星のみに配備されたが、ガーマ側から亡命した科学者や竜山連合・ツァーリン連邦から流出した人材によってもたらされた技術を元に開発が急がされた。

そしてある戦いでツァーリン連邦側の艦隊を壊滅させたことによって当時の五カ国は大国への道を歩み始めたとマリアは聞いていた。

マリアが思うに流星という兵器は銀河を混乱させるシロモノであると薄々感じていた。

だが、そのような陳腐化した兵器が今になってテロリスト側の兵器として投入されることにマリアはいくつかの疑問を感じていた。

実用性。

当時こそ対抗手段がなく艦隊や惑星の区別なく破壊の限りを尽くしていたが、現在は小さな船ですら演算予測の技術が発達し、またワープ式の事故防止の装備をいくつも完備しているので、小型船艇ですら破壊は不可能であり、惑星にいたっては人工衛星と地上管制による二重の態勢でアンチ・コメットを管理している。したがって、『流星』による破壊活動は到底現実的な手段ではないとマリアは考えていた。

「……どうも変ね?」

マリアはレオハルトに当然の疑問を口にした。

「そうだ。わざわざ流星を投入する理由が分からない。大都市を混乱に陥れるだけならほかの手段がある。細菌兵器、時限式の爆弾、化学兵器。あらゆる方法がある。……どうしてだろうな?」

言葉の意味とは裏腹にレオハルトはその意図に気づいている様子だった。

「手に入れにくいシロモノだから仕方なく?」

「それも否定しきれないが……決定的な理由は他にあるだろうな」

「決定的な理由?」

「……そうだ。僕はそれに気がつきつつある」

「マジ?」

「そうだ」

「……ええっと?」

マリアは思い当たる節がなくて、しばし混乱していた。

レオハルトはマリアに優しく指摘する。

「わざわざ『流星』を使うのには理由があるということだ」

「えっと……敵は『流星』を決定的な手段だと考えていない?でもインパクトはあるよね?だって……」

「そう。それだよ。敵は決定的な手段だとは考えていない。インパクトを与えるためだけの演出だ」

「じゃ……敵の切り札は案外地味なものってこと?」

「そうだ。敵は予備の手段を考えているだろうな……そもそも流星での首都星破壊はリスクが大きい。複数の艦船での空間湾曲措置を……そうか」

レオハルトは唐突に合点がいく様子で頷いていた。

「どうしたの?」

「敵の狙いが分かったんだ」

「え!?」

マリアは完全に面食らった様子でレオハルトの方を見ていた。

「えっと!?敵の狙い!?どういうことよ?」

「もっというと今回の事件の中心人物も分かった」

「ええええ!?」

マリアは驚愕のあまり思わず大げさなほどの叫び声を上げた。

「さて……良く思い出してほしい事がある……『複数の艦船での空間湾曲措置を』っていったことだ」

「えっと、宇宙空間に多くの人手が……あ、まさか……」

「そう、敵の狙いはこちらの人員を惑星軌道上に配備させる事だ。そうするとヴィクトリア市内の軍人は?」

「……いなくなる。まさか……」

「そう敵はそのタイミングで何かを始める気だ。もちらんそれが分かったとしてもこちらは人員をあてがうしかない」

「どうするの?敵はこの街で……」

「だから信頼できる人間に調査させる。敵の黒幕と……実動部隊を」

「レオハルト……なにか策が?」

「策と言うにはか細いやり方だけど……」

「やらないよりはってこと?」

「そうだね。軍人や軍属の人間はどうしても艦隊を援護する必要がある。それはユダも同じだろう」

「そうすると……?」

「この作戦の要は……君にかかるね」

「……え?私?」

「そう。君は僕の妻だ。そしてメタアクターでもある。それを逆手に取りたい」

「……ものすごい事考えるね」

「今はこれしかない。本来ならシンにもコンタクトをとりたかったけど……」

「それは任せてよ」

「何か考えが?」

「この街は色々とあるのよ」

マリアは意味深に微笑んでいた。奇妙な出会いと混乱の中を駆け抜けたマリアだからこそ至った考えがあった。







マリアが呼んだ人員は三人いた。

一方はSIA関係者ではあるが、非公式のスタッフであった。

もう一方は『ヘルズ・キッチン脱獄騒動』で知り合った双子であった。

マリン・スノー。元アイドルという異色の経歴をもつエージェント。

そして、レン・シナガワとケン・シナガワであった。片方は古物商。もう片方は傭兵として傭兵ギルドに登録されている人物であった。

ギルド。

いわば同業者同士が緩く繋がるコミュニティの一つだ。依頼人と業者を繋ぐ仲介ネットワークや業者の業務支援等を行い、運営側が一定額の会費を業者からもらって経営を行なう仕組みであった。

マリアは傭兵ギルドに対するコネクションはないが、彼らとの連絡手段はあった。

SIAには傭兵ギルドとの連絡手段があり、それを通してシナガワ兄弟を呼ぶ事が出来たのだった。

エージェント・マリンはサングラスを常につけた状態で動いており、可能な限り外部の人間にマリンであると認知されないように気を配ってあった。知っている人物は少なく、レオハルト側の人物やバレッドナイン側の人間を除くと初見で彼女の正体を看破出来る人物は皆無であった。

「えっと……呼び名はエージェントKだったけ?」

「ええ、……それが?」

「Kって呼び名には由来はあるのかい?」

「キラー、人殺しの意味ね」

「おおう……物騒だな……」

「事実よ。私はそれで『全て』を失った。だから自戒の念をこめて」

「……そうなんだな……」

ケンがKことマリンに対して頭を下げた。彼なりの敬意の払い方だった。

「失礼した。それほどの……」

「シナガワ兄弟の事は聞いているわ……あなたの親族の一人に恩があってね。その縁もあって私は公私ともにシュタウフェンベルグ家に仕えているの。彼がいなかったら……今の私はなかった」

「……つったらアイツしかいないよなぁ……」

ケンはそう言ってレンの方を見た。彼も弟同様お辞儀をする。

「僭越ながら、弟が失礼しました。あなたが『彼』に縁のある方なら尚更、敬意を払わなくてはいけませんね」

「あまり仰々しくする必要はないわ。私はあなたたちと行動を共にするだけよ。そして私たちの働き次第ではヴィクトリア・シティ……この街の運命が変わる。だから余計な気遣いは無用よ」

「でしたら……今後は遠慮なくさせていただきます。私は弟と違って砕けた言い回しが苦手なのでご承知くださいませ……」

「それでいいわ。よろしく」

「よろしく」

「ケン、お前はもう少し丁重にだな……」

「兄貴、彼女がそう言ったからよくね?」

「なんでもいいわ。私たちの目的は地上に隠れている敵部隊を発見して排除する事。街中だからおおっぴらな行動は厳禁。戦闘は必ず許可を得るか、攻撃された後の反撃のみに徹すること。許可のない先制攻撃は厳禁。いいわね?」

「了解です。ミスK」

「了解だぜ。ミスK」

双子だけにいざって時の連携はぴったりだった。それは彼らのメタアクトとも関係があるが、今現在の時点ではあまり目立つ事柄ではなかった。

「とりあえず確かな事は……荒事は得意でしょ?」

「ええ。仕事柄」

「まあ、そうだ……」

「うむ、そうだ……」

「なら決まりね」

マリアは朗らかな程の笑みを浮かべた。

「ただ……手がかりも無しって言うのはキツいな」

「そうそう、ヒントが欲しいな。せめて」

「その点は心配ないわ」

Kことマリンが双子の前にあるものを見せる。

「……この気に入らねえニヤニヤ野郎は?」

「……悪辣な笑顔の変態似非紳士ですな?」

写真。写っていたのはライコフ教授であった。レオハルト経由で画像を得ていたのであった。かなり、個性的な場面ではあったが、手がかりとしては十分な画像ではあった。

「彼を探して。可能ならこの人物も」

そう言ってマリアはレオハルトから受け取った写真をもう一枚見せる。

ノブ・ホソカワ。

今回の黒幕の一人と言える人物であった。

「一見すると……アズマ人のサラリーマンに見えますね」

「兄貴、ただのリーマンだったら……話題にならない」

「そう……彼も悪党よ」

マリアの言葉に三人が頷いていた。

「K、こいつ知っているか?」

「ええ……有名人よ」

「どんなヤツだ?」

「芸能界の癌、変態、サイコパス」

「……救いようがねえな」

Kの辛辣かつ的確な人物評にケンは肩をすくめるジェスチャーをとった。

流星。ノブ。アイン。ガーマ帝国残党。ブラッドクロス党。違法な紫電機関、敵の切り札。悪党たちの作る闇と謎は未だ深い……。


次回もよろしくお願いします。

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