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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
202/383

第七章 第四十話 突入

この物語には残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

シンは突入前に再度、武装の確認をする。

ベレトM93型拳銃。羽根型手裏剣。通常型と爆破型、凍結型、閃光弾型、煙幕展開型も存在する。それと防弾・防刃性能に優れたレイヴンスーツを着用していた。

都市戦に特化したタイプで普段着に偽装できるようにフード状の部分もあったが、よく見るとただの強化繊維の服と言うだけでなくプロテクターも巧みに織り交ぜられていた。

『シャドウ』としての戦衣装であった。

ナイトヴィジョンがないことが少し心許ないが、シンにとってそれは誤差の範囲だった。斥候や特殊部隊としての訓練を積み、暗闇での活動経験があるシンにとっては暗がりはアウェーにはなり得なかった。

そして、メインアーム。

シンの武装は拳銃の他にアサルトライフルの傑作を用意していた。

「……ふぅー……」

呼吸を整えながら、シンは仲間の様子をチェックする。

個々の違いはあるが、バレッドナイン側は全て黒を基調とした服とプロテクターを着用していた。

ジャック、散弾銃を握っている。サイドアームも大型の粒子式拳銃であった。

アディ、露出の多い服装。メタアクトを考えると最適な衣装であった。『蠍の尾』は既に出している。サブマシンガンも所持。

ルイーザ、愛用の回転式拳銃を涼しげにいじっている。曲芸の域。その代わり、弾を多く所持していた。

カズはユキとともに指揮用のワゴン車で待機。そばにはアレックもいる。

今回は、ユダ側からイシカワも居た。監視目的兼いざって時の援護要員であった。彼はジャックたちと同行する。和服姿の男の手には短刀があった。

ユキ。人工知能『ヒューイ』と共に情報分析とハッキングを担当。

「……アラクネ、ユダの方は?」

「外れみたいね」

「なぜ分かる?」

「ターゲット接近」

その言葉通り、ノブは緩んだ笑顔で風俗店へと入って行った。

「……チッ……いい気なものだ」

「抑えて。天国から地獄になるんだから」

「……あー……同情すべきだったか?」

「必要ないわよ」

「それもそうか」

ジャックとアディは軽妙な言葉を交わした後、各々の銃を構えた。

「皆様、どうぞおかまいなく」

「……!?……お、おい!?」

イシカワはどういう訳か店の前へとゆったりと歩み寄った。

厳つい黒服たちが怪訝な顔で彼に近寄った。男は二人いた。

男の一人がイシカワに警告するはずだった。

「なんだお前は?ここは会員せぇ――……、ぇえあ?」

一閃。

否、二つの太刀。

男の一人は上顎と下顎が綺麗に別れてしまった。

もう一方の男も金縛りにあったかのように動きを止めたかと思うと首から噴水のように真っ赤な液体を吹き出してどうと倒れてしまった。

イシカワはゆったりと短刀を納めてバレッドナインに言った。

「さて……行きましょうか?」

「…………そうか」

ジャックはそうとだけ言って入り口ヘと歩みを進める。バレッドナイン側は血だまりを避けて進むが、イシカワは気にせず歩みを進める。

イシカワの細い目はどこか仄暗い光を放っていた。







「どう?」

「シャドウだ。制圧完了」

報告はそれだけで十分であった。敵は油断していたのだろうかボディガードを連れてくる事はなかった。そのせいか相手したのはマフィアの息がかかった警備要員やいわゆる『ケツモチ』とよばれる後始末役ぐらいしかいなかった。

アディとジャックだけでも対処できる雑魚に過ぎず、彼らはなす術もなく気絶させられる羽目になった。

「アラクネ。今のところ敵の脅威度は低いが……」

「油断しないでシャドウ、上階のフロアには腕利きの用心棒と警備責任者に当たる人物がいるわ。特に警備責任者は腕利きよ。注意して」

了解ラジャー

音を殺しながらバレッドナインとイシカワはノブのいるであろうエリアへの階段へと忍び寄っていた。

「……常にカバー」

「イェッサー……」

ひそひそと声を殺し、互いに死角を補うように動く。

「……クリア」

敵影無し。その確認をとったと同時に部隊は上階ヘと向かった。

「……」

「……」

「……」

音一つない階段と通路を進む。罠一つないルートの為に侵入は想定よりも速く済んでいた。

「……変だ」

壁を見ても何一つ変化がない。部屋からは音はなかった。

「……おかしい」

そこは風俗店である。人の気配がしてもおかしくはない。だが客の姿がどこにもない。そればかりかものを運ぶ係もいなかった。

「罠だ!」

シンはすぐにそう叫ぶと、バレッドナインはすぐに踵を返して元いた道に戻った。その統制のとれ方は見事で、そうでなければ恐ろしい結末が待っていた。

「撃て撃て!」

イシカワが逃げ後れるが、すぐさま弾丸の軌道を短刀で僅かに逸らしていた。そして超人的な跳躍と共に銃を持った荒くれものどもを斬り捨てて行った。

敵の一人は銃を持った両腕を切り落とされ、悲鳴を上げる。が、すぐにその声は命と共に絶たれた。短刀で首を突かれ血を流していた。ごぼっという音を首から立てながら血を抑えようとしたが、切断されていた腕が更に紅く染め上がっただけであった。

バレッドナインは近くにあった部屋に飛び込む。中には良い雰囲気の二人がいた。だが命には替えられなかった。

「すまんな」

そう言ってバレッドナインが敵に銃撃の一手を加える。部屋の二人はガタガタと隅っこで震えているだけだった。

「アロー!行くよ!」

「マッテタゼ!」

ルイーザが拳銃を構えると放たれた弾丸がデタラメな軌道を描き始めた。跳弾とは違う『活きた弾丸』であったが、腕や足を撃たれた敵にとってはどうでもいいことであった。違うのは効率。ルイーザの弾丸が威力をなくすまで飛び回り続け敵を完全に無力化した。致命傷は避けてあった。

「ぐ……ご……」

抵抗する意志のある敵もいたが、アディの手でしばしの『睡眠』を楽しむ事になった。睡眠と言っても麻酔ではない。物理的な気絶であった。こうして敵はあっさりと無力化されたが、異質な敵が一人、奥の扉から現れた。

「招かれざる客か……」

巨漢の大男が姿を現す。白い肌の大男は目元に特徴的な傷がついており、ただならぬ雰囲気に拍車をかけていた。

「……そこをどけ」

だがシンは気に留める事はしなかった。他が躊躇している時でも他の敵を相手する時と同様に悠然と足を進めていた。

「断ると言ったら?」

「叩き潰す」

単純明快にシャドウは大男に宣戦布告を行なった。

両者は互いに向かい合う。その場をヒリヒリとした殺気のみが支配する。

大男の突進をシンはひらりひらりと避け続けた。シンは男に拳銃を向けようとするが男も武道や軍隊格闘術の心得があるのか巧みにアサルトライフルをもつシンの手を払いのける。

「……」

シンは僅かに腕を動かすと、羽根手裏剣が飛びだした。

羽根手裏剣は男の頬を傷つけただけだった。

「その程度――」

衝撃。

そして小さな破片と炸裂音が大男の意識の大部分を刈り取る。

背後の壁に刺さった羽根手裏剣の炸裂と共に男の体が前にのけぞる。その瞬間にシンは強烈なハイキックを喰らわせた。

「ぐごぉ……」

腹部に一撃。

男は息を吐く事すら出来ずに腹を抑える。両手で。

シンはそこに突き上げるような破壊的な拳を大男の顎に加えた。

アッパーカットだ。シンの右腕が大男の顎を狙う。逃れようがなかった。

直撃だった。

男の体は一瞬だけ浮き上がり、その場にどうと倒れ込んだ。

「悪く思うなよ?」

「……おい。シン」

「どうした?」

「そいつ有名なメタアクター能力者の用心棒だ。何度か会った事ある……能力使われる前に倒しちまったな……」

「……関係ない。立ちはだかるヤツが誰であれ倒して進むまでだ」

「……おっかねえよ……うちのボスは……」

ジャックの戦慄をよそにシンは歩を進める。他の面々はそれに続くだけだった。







糸目のアズマ人は待っていた。

シャワー室にいる娼婦を今か今かと楽しみにしていた。

「おほ……ほほぉ……」

誰が見ても気色悪い笑みを浮かべながら、ノブはシャワー室の乙女のシルエットをまじまじと見つめていた。

たわわな胸元の膨らみ、引き締まったくびれ、豊かな臀部。曇りガラスとカーテンに阻まれて影のシルエットしか見えなかったが彼女の魅力はむしろ隠されることで十二分に演出されていた。

彼女は時折、暖かな温水を浴びながら恍惚の声を上げていた。

それによってノブのパンツの興奮は最高潮に達していた。

だらしない笑みを浮かべ、ノブは影の方へと誘われていた。

だが影はどういう訳かその場を逃げ出してしまっていた。ノブは最初のうちだけ演出かなと呑気に考えていた。

事実シャワールームからバックルームに繋がっており娼婦はそこからシャワールームを通して上客のベッドルームへと向かう構図になっていた。

だが、その後に彼の愚考は吹き飛ぶ事になった。

娼婦と入れ替わるように小柄な影があった。それはノブの方をじっと見据えていた。

「うん?新顔?」

小さな影は曇りガラスを蹴破った。破片が破砕音と共に飛び散る。

「ひ……」

ノブは怯える。演出ではない唐突な襲撃に。

影が悪党を見据えて言った。

「……楽しかったか?地獄へようこそ」

ノブの興奮は萎えた。恐怖によってしなびていた。

「ひ、ひぃぃいいッ!?シャドォゥゥゥゥッ!?」

影がノブの首根っこを捕まえベッドの方へと投げ飛ばした。壁に顔をぶつけてノブは顔から軽い流血をしていた。

「遊びは終わりだ。色々聞かせてもらおう」

「な、なにを……おご」

「しらばっくれると咀嚼の度に俺の顔を思い出す羽目になるぞ」

「ひぃ……」

ノブのパンツから情けない湿り気が広がった。

「ひえええ!お、お、俺はただ仕事の伝達をしただけだ!」

「伝達でもずいぶんな役割だな?何の仕事だ」

「あ、ひ、ひえ……」

「答えろ」

端的に、しかし、威圧的にシンは答えを急がせた。

「か、各種資材の補給先や、協力してくれそうな企業名を連絡リスト化して渡した……レフ・ライコフとかいう……無数のクローンどもにぃぃ……」

「何のために?」

「ぶ、ブラフって言っていた!軍の大部分を惑星軌道上に集結させて注意を向けるって……」

「……」

「ウソじゃない!ほら、ここにヤツらの計画書が!」

ノブの指差した方に荷物入れらしき小さな棚があった。シンはアディに目配せをして鞄を運ばせる。そしてバレッドナインとイシカワはノブを連れ去る形でその場を後にした。

そして、部屋には誰もいなくなった。

バレッドナイン、ノブを確保。真実は……?


次回もよろしくお願いします

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