第七章 第三十三話 意外
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください
降伏のポーズを示す人物に意外な人物がいた。それはアディにとってかなり驚くべき再会であった。
「あんたは……!」
「……ポイズン?」
「おい、どうした?」
シンとジャックが面食らったような印象を感じる。
その人物は他の敵兵と違う印象を受ける。それは大半の敵がジーマ人の一糸乱れぬ規則性があったことも大きかったが、何より彼がその人物と違った服装をしていることが大きかった。
「おまえ」
「うん?」
「名前は?」
「…………ああ、俺かい?」
男は不敵に笑っていた。ジーマ人の兵同様サイボーグで、あちこちの部分に外付けの人工筋肉や循環促進装置などの小型機器が体に接着していた。だがファッションは個性が感じられるもので、自己主張の強い髪型に加え、ロックTシャツにジーパンといった明らかに荒くれ者の普段着のような雰囲気の装いをしていた。
「久しぶりだねえ……ザザン・アディーネ・スコルピ?」
「やめろ……フルネームで私を呼ぶな……」
「すまんね。アディーネ……忘れたかと思ったよ」
「……やはりあなたね……」
男はゆったりとした口調でアディに再会の挨拶をした。アディも眼鏡を戦闘用のバイザーに取り替え、目元は見えていないはずだったが、僅かな表情の癖や声などから彼はポイズンがアディであると気がついていた。
「おまえ……アディの何だ?」
「元同僚だ。目元と声と豊かな体つきで分かったよ。……もっとも同僚は匂いで分かるがな」
「匂いだ?」
シンは首を傾げていた。
彼は気にせず会話を続ける
「懐かしいねえ……まさかアディがあのシャドウと一緒にいるとはな」
「関係ないわ。単純な脳みそも相変わらずね?オーゲン殿?」
「おうおう……冷徹な蠍姫様が手厳しいのは相変わらずだ」
「……」
アディは黙っていた。思案するように目線を逸らしている。
「オーゲン。悪事のアルバイトはお金のためかしら?雇い主を教えれば、あなたを警察に突き出すのはやめにしておくわ」
「相変わらず鋭いねぇぇ……感心するが雇い主を教える程じゃあねえな」
「へえ……刑務所のメタアクター用独房がよほど恋しいみたいね」
「まてまて……そう言っちゃいねえよ」
「じゃあ何?」
「……教えるが条件がある」
「……『条件』って?」
オーゲンはにやりと口元を動かした。あからさまな程の笑みである。不敵な自信すら匂わせていた。
「なあにシンプルな話だ……」
「ほう……なら社長の代理として話を聞かせてもらうぞ」
「……あ?」
シャドウの姿のシンがオーゲンの話に横から割り込んだ。
「初めまして、オーゲン君。俺がシャドウだ」
「……へえ……生きた伝説を見るとはな……アラカワ殿だっけか?雇い主はよほどの人望のようだな」
「アラカワは関係ない。今の話し相手はシャドウだ」
「わーてるよ。なら二人で話そうぜ」
「条件は……二つあるのだろう?」
「…………」
「そのうちの一つは金、もう一つは……彼女に関する条件だ」
「…………鋭いなお前。流石だ」
「お前の言った言葉とアディに近づいた様子から推察したまでだ。ついでに言うとお前は裏社会の住民だと分かる」
「……ほお」
意味深に笑うオーゲンを後目にシンは言葉を続けた。
「……金は文字通り資金だな。だがギャンブルじゃない。『同僚』って言葉から察するに仕事の軍資金に使うということだろう。そこから考えるとお前はアディに何かを手伝わせようとしている」
「……」
オーゲンの顔が険しくなる。
「ああ……そういうことかよ……」
ジャックも察したかのようにオーゲンの方を向いた。こころなしかジャックがオーゲンを見る目線が冷たい。
「……」
「……」
「さて……君の職業は?……おっと、表向きのとは言ってない。俺が知りたいのは……ポイズンことアディに何をさせたいか……だからな」
「……おい、アディーネ。どうやら忙しいらしいからな。さっきの話はなしだ。いずれ連絡する」
「……話は済んだか?」
「ああ……後は頼むぞ。モリ殿」
モリ室長とその部下が警察へと彼らを送り届けた。
その間に残ったメンバーで室内を捜索する。敵の姿はないが罠が隠れている恐れはまだ残っていた。そしてアクセスキー。その確保も必要であった。
サワシロ、モリ、ハヤタ、サトウ姉妹の五人がバレッドナインと共に捜査を手伝う。残りの面々で降伏した敵を警察への受け渡しを担当した。
警察が来る前になすべきことをシンたちは急ぐ。
「スペード。お前はこう言うの得意だったっけ?」
「ああ……フルハウス隊時代は企業やら要人やらの仕事をしていたからな。こういう金庫も管理したときもあったな」
「そうか。なら解除できるか?」
「アディと一緒ならな。アイツは俺よりもこういうことは得意だ」
「なるほど……」
「……過去が気になるか?」
「仕方ないさ。だが、アディは俺らの仲間だと言う事実は変わらない。お前の大事な相棒だと言う事もな」
「ちげえねえな」
ジャックは静かに頷いてアディと共にアクセスキーの金庫へと向かった。
「おい」
シンが通信機をジャックに投げ渡した。
ジャックは器用に受け取る。
「そうだったな。社長さんの指示」
「言い方がややこしいな」
「おまえは『シャドウ』だろう?」
「だったな」
「じゃ……解除してくる」
「ああ、頼んだ」
シンはユキとともに書類を調べる。
多数の書類は調べるのはシン一人だと非常に大変だったが、ユキという心強いプロがいた。電子機器内のデータや表計算ソフトの情報解析が速く文字通り百人力の効率の差があった。人数の上では二人であったが、実質ユキ一人で情報のプロが十人集まるような差があった。
そもそも、ユキは腕と体内の演算補助脳のみが機械で出来ていたが、体の大部分は生体部品に改造されていた。体そのものはいくらか強化手術が施されている程度であったがナノマシンにより身体能力が強化されている。五感に関する器官のみは生体部品に置き換わっていたが見た目で言えば生身と遜色はない。だが、ユキは彼女自身が高性能の精密演算装置と表現されても差し支えない能力があった。
その彼女の作業は全てが速く効率的であった。
しかも今回はユダの協力者がいる。人員の面での作業効率は段違いであった。
「解析終わったわ」
「さすがだ」
シンは満足そうに微笑む。
「とんでもない事が分かった。……あなたの言う通りね」
「ハイパーコメットか」
「ええ、誰かが製造しようとしている。五大国の様々な企業に仕事を受注しているようね」
「ここのデータだけで分かるのか?」
「分かる。アレックはどうやら想像以上にやり手の社長さんだったようだわ」
「コネクションが?」
「そうね。AI関連だけじゃなくいろんな企業と協力して仕事をしていたようね」
「そこをつけ込まれたか」
「ええ……もっとも財政のデータをみるとこの仕事の報酬がかなり有難かったようね」
「不自然に実入りのある仕事であったと……」
「まさか自分たちの住んでいる国を焼き払うための仕事とは思わないからね」
「敵はずいぶんと大胆だな」
「相手は『あの人のクローン』よ。当然でしょ」
「……それもそうか」
ライコフの性格と同じならライコフクローンも同じ手口で共和国への攻撃を計画していると考えるのは自然な帰結であった。
敵の狙いの一つはアンチ・コメットの無力化及びハイパーコメットに類似した無人兵器による首都星の対惑星攻撃であると確定した。その根拠は各種企画書類や通話記録、協力した企業のリスト、そして残されていたAIのプロトタイプなどから推察された。
「面白いAIね。これはどこでも通用するわね。……軍事用でも」
「高性能で柔軟。ユキの作った支援AIはいくつか見せてもらったけどこれはなかなか凄いな」
「私はせいぜい愛好家レベルよ。スタドニク社長のそれはレベルが違うわね。あっちは専門分野だし」
「なるほど。餅は餅屋と」
「そういうこと。問題は……」
「どうした?」
「アンチ・コメットの方ね。無人特攻兵器に関しては完全にお手上げだけど」
「そのようだな。たとえ位置が分かったとしても、また同じ手を使うだけだからな、きりがない。ならば次の狙いを根元から潰せば……」
「各種発電施設か……政府関係省庁を狙うはずよ」
「発電は予備に切り替えればいいが……政府関係者を狙う線はあり得る。アンチ・コメットの展開衛星の場所は極秘な上に複数打ち上げてあるのが普通だからな。衛星の直接攻撃……いや、警備隊に迎撃されるリスクがあるから普通なら行なわないが……」
「彼は普通じゃないでしょ」
「そうだ。……残虐なことを効率的に……そうか」
「ん?」
「空がだめなら地上を……ということか」
「衛星管理センターね」
「ああ」
人工衛星はその性質上、メンテナンスが非常に難しい。それこそトラブルが発生すれば様々な問題が起きうる。軌道上での修理は危険が伴う上に衛星そのものが軍事機密と言える代物である以上、修理を担当する責任者はどうしても限りが存在する。修理自体はドローンが動けば問題はないが、それを管理する者はどうしても必要となる。
そこで専門の部署が地上に存在するのは自明の理であった。
ならば次の狙いはそこであるのは明白だった。
「まあ、直接知る術はないが推測は出来る。首都であるニューフォートか銀河屈指の経済都市であるここヴィクトリアか……。いずれにせよ、近くにあるのは明白だ」
「なら……非常にまずいわね。敵の手に落ちる前になんとかする必要があるわ」
「……何かないか……うん?」
シンはあるものを見つける。
「アラクネ……」
「どうしたの?」
「スタドニクに聞きたい事がある。撤収だ」
シンはその場にいたバレッドナインの部下に撤収を命じた。
オフィスから脱出後、普段着に着替えたバレッドナイン一同はヴィクトリアシティの別の場所で集合した。スタドニクもその場にいる。
「スタドニク……重要なことを聞きたい」
「どうしたんです?そんなに改まって……」
「君、生まれはツァーリンだが育ちはヴィクトリアか?」
「ええ、まあ」
「マリアとは友人だったか?」
「マリア?……マリア……うーん、同じ名前の人がたくさんいますからねえ……どのマリアです?」
「……マリア・シュタウフェンベルグだ」
「……ええ……まあ……」
スタドニクは僅かに目を逸らしていた。
「あと」
一拍置いてからシンは写真を見せた。
「この男は知っているな」
「!」
スタドニクは目を見開いていた。
繋がりを見いだしたシン。バレッドナインとスタドニクを巡る事件は大きく動き出す……。
次回もよろしくお願いします。




