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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第二十八話 分裂のナンバーズ

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください。

ダニーは驚いた。

ナンバーズの構成員同士がその場で戦い始めたからだった。

先手を打ったのはアインであった。アインは不意ににやりと笑った後後ろにいたゼクスに火を放つべく片手をかざした。だが、ゼクスはガス状になって回避する。メタアクトの発動には場所のイメージ、すなわち『座標の指定』と『細胞の活性』が必要とされる。心身が優れた状態で現象をどこに起こすかが重要だった。ゼクスは自分のガス状の体が引火しないように『着火地点』から可能な限りぎりぎりの回避を行なっていた。成功。火種は空気だけを巻き込んで煌めいた。

そしてアインの背後に回った後、ゼクスは組み付いて締め上げる。

アインは不意をつかれ絞首を解くことに必死になった。

「ぐぅ……ぐ」

「……前から思ったがお前は笑顔を見せなかったな?今日のためか?」

「ぐ……ご……」

「愛想笑いなら見た。うんざりするほどな。……馬鹿にしやがって」

「ぎぎ……」

ゼクスが絞首を強くしたときだった。

ボン。

破裂したような音と共にゼクスのスーツが炎上する。

「があ!?」

その過程でアインの服にも着火したが、アインは冷静に火を消した。ゼクスはスーツの火を消すのに時間がかかった。

その隙を狙うように、アインはゼクスのタイを掴む。そしてそのままダニーの方へと投げ飛ばした。ゼクスはダニーに当たりそうになったが体を逸らして回避する。そして転がって服の炎をどうにか鎮火した。

ダニーは投げ飛ばされたゼクスの体を回避した状態で銃撃に移る。

二発。

高速で射出された電気弾はアインに当たらずその背後の木やコンクリートの壁に着弾する。

「無駄だ無駄!」

アインが片手をかざすとダニーのそばで火柱が上がる。だが、ダニーは一切怯むことなくアインの肩を撃ち抜いた。

「ご!?」

「どこがだ?」

アインは周囲を見渡す。そしてどこかに走り去ろうとしていた。

クレアが叫んだ。

「逃げられる!」

その声と同時にダニーとゼクスはアインを追った。

「いたよ!」

アリアの方が指差す。

アリアとクレアが追走しようとした。

突如、二人は足を止めた。

ダニーとゼクスが足を止めたからだ。

「ダニー!?」

ダニエルは銃を構えたまま動かなかった。その理由はすぐにカニング姉妹にも理解できた。

人質。

アインは女性を人質にとって近づいてきた。女は怯えていて、アインの右手が首元に触れている。

「悪党のお決まりか?」

ダニーの皮肉にアインは余裕で答える。

「皮肉は冴えているが頭はどうかな?打開策は用意したかね?」

「……アイン。貴様、仕事で一般人を巻き込みやがって」

ゼクスは怒り心頭の表情を浮かべた。

だが依然としてこの悪辣な悪党は涼しい顔で人質を殺す容易が出来ていた。

その時だった。

「お母さん!!」

女の子の叫び声がした。

ダニーの視界の端に少女と二人の女がいた。

アインは予想もしないものを見た顔を浮かべた。

だが、その後のアインは満面の笑みだった。それは悪辣な悪意の笑みだった。

まるで映画の復讐者が探していた標的を見つけたような笑顔だった。

アインは人質を突き飛ばして、二人の女の方へと右腕をかざそうとした。

二人の女の顔にダニーは見覚えがあった。

一人は普段着。二月の気候に合わせた白っぽいお洒落なコートを着ていた。

もう一人は女物の黒服を着こなしたSIAエージェントだった。サングラスで顔は隠されていたがその美しく整った顔をダニーは確かに知っていた。

普段着の方はマリア・シュタウフェンベルグ。

もう一方の黒服は元アイドルのマリン・スノー。テロリストの誹りを受けて芸能界を追放されたはずの女だった。彼女はSIAの腕章をつけていた。

「マリア様!!」

マリンがマリアを庇おうと覆い被さる。

アインが醜悪な笑みで二人を焼こうとした時だった。

ダニーがその腕を変形銃で撃ち抜いた。

「な……に……!?」

アインは撃たれた腕をとっさに庇う。電気で彼の右腕が麻痺する。

その間、カニング姉妹が地面を潜る。彼女らは水中を泳ぐ人魚のように地面を急速潜航し、アインの足を掴んだ。二人に足を引っ張られたアインは転倒し体を地面に叩き付けられる。そこにゼクスが肘で強烈な一撃を喰らわせる。

「ごぉ!?」

アインは顔の骨を折られ鼻血を出す羽目になった。

「積年の鬱憤だ」

そう言ってゼクスはアインの顔を更に足で追撃した。

踏みつけにするかのようにゼクスはアインの顔を渾身の力で踏み抜いた。

そこにダニーが変形銃を警棒モードに切り替え、アインを何度も叩く。

警棒には電気が流れ、アインの意識を刈り取る。

ダニーはとっさに腕時計を見ながら、特殊手錠でアインを拘束する。

ダニーは警察無線にこう叫んだ。

「こちら、ダニエル・グレイ!マリーズパーク一番通りにて被疑者確保!二月八日十五時四十九分。殺人と殺人未遂、銃・火器規制法違反、公務執行妨害、暴行と傷害等で被疑者現逮!被疑者現逮!」

現行犯逮捕。ダニエルはそう叫んだ。

現行犯。現に犯罪を行い、または行なわれた犯罪者の事を指す。アスガルド共和国の法においても礼状は必要とせず、私人逮捕も認められていた。

まして、アインは現職の警官の目の前で犯罪を犯し、殺人の罪をも重ねようとした。

もはや逃げ場はなかった。しかも、目撃者多数。

アインはチェスで言うチェックメイトとなった。

マリーズパークにおびただしい白バイとパトカーの群れが押し寄せる。静かだった自然公園の近くにはサイレン音が鳴り響いていた。







午後4時きっかりとなった頃。

マリアとダニーは再び顔をつきあわせることになった。

「お前はどうして?」

ダニーにとって見れば、一般市民に過ぎない女性が二度も修羅場に居合わせることがどうにも不自然だった。

「ごめんなさいね警部補さん。わたし今日は厄日みたいで」

「…………厄日?」

「わたしがジョセフ・キャロルの娘なのは知っているでしょう?」

「……ジョセフ?……ジョセ……あー、『アイアンズキッチン』の?」

ダニーにはこの街で行なわれる二つの料理対決について聞いたことがあった。

一つは真夏と年の初めに行なわれるアスガルド共和国の大型料理対決番組『アイアンキッチン』。

もう一つはヴィクトリア市の裏社会で不定期に行なわれる闇の料理大会『ダーク・スティールシェフ』。通称『DSC』。

ジョセフ・キャロルはどちらの料理大会でも殿堂入りを果たした伝説の料理人として有名であった。

警察官として何より地元の人間としてジョセフの名声を良く知っていた。

そして何より、この日の始めの事件はジョセフと同等の技量を誇る狂人料理人軍団『ヘルズキッチン』の騒ぎから始まった。

第42回ダーク・スティールシェフ料理コンテスト。

ヘルズキッチンの優勝で終わったこの異質な大会は相手料理人グループの負傷の原因と言う陰惨な側面もあった。

「……災難でしたな。ご夫人」

「ええ、ですがあなたに助けられました」

「どういたしまして」

ダニーはやや不器用ではあったが精一杯マリアを気遣った。ダニーは彼女の計り知れない苦労をおぼろげに察していた。

その一方でマリアの笑顔は明るかった。

「ご夫人。何か良いことが?」

ダニーがそう言うとマリアはエリーの方を見ていた。エリーは母と抱き合って再会と無事を喜び合っていた。ダニーはそれを察しその場からマリアと離れようとした。

青い閃光。

レオハルト・シュタウフェンベルグがその場に『出現』した。

周りの人間にとっては出現であったが、彼にとっては疾走であった。風や雷の如く高速でSIAから駆け出していたのだった。

「マリア!」

「レオ、わたしは無事よ」

「……どうやらイェーガーも行かせるべきだったな」

マリンが仰々しく敬礼をする。

「すみません司令。セーフハウスも襲撃を」

「ああ……だが、マリンたちは良くやってくれた」

「でも、街中にマリア様が……」

「その件も問題ない。街中の方が却って安全だったことも聞いている。なによりマリンの両親の避難ももう済ませている」

マリアが驚いた様子でレオハルトに問いかけた。

「え?父さんが!?」

レオハルトがマリアの疑問に答えた。

「説得にはわたしが向かった。レイチェルから説得に骨が折れると聞いていたからな。援軍として向かったんだ。交渉は得意だからね」

「だが、まさかマリアがこんなところにいるとは……」

「ごめん。レオ、わたしは……」

「気にするな。無事なだけでも分かって良かった。それにそっちにいる親子を救ったのはマリアだろう?マリアも他の市民も助かってよかった」

「うん……」

レオハルトはいつも通り優しい態度でマリアと接した。マリアも微笑みながらレオの方を見た。レオハルトの表情は柔らかく穏やかだった。

それを見ながらダニーはふと自分の家族について思いを馳せていた。

「……いいね。愛ってヤツは」

それは皮肉屋ダニーにしては珍しい素直な感想であった。

ダニーは妻と娘がいた。仲が良好でありダニーの数少ない心の支えであったが、警察官である以上、なかなか帰れず寂しい思いをさせてしまっていることもまた事実であった。

その妻と娘のため、娘の明日のためにダニーはゼクスに話を聞こうとする。だが、彼の姿はなかった。

「クレア!アリア!あいつは!?」

「あいつ?……あ」

「い、いない……」

「しまった……抜かったか」

「ああ、警部補さん?」

「なんだ?」

「その『あいつ』から」

「……ゼクスから?」

カニング姉妹からダニーに一枚のメモ用紙が渡された。それはポケットに入る程度の一枚の紙に過ぎなかったが、ある場所への地図が描かれていた。

「……この場所は……」

それはバーの名前であった。

『午後6時10分、ゴッデスにむかえ』

「……あそこかよ」

それはダニーにとっても馴染みのバーであった。味が良く静穏な酒場。

静謐という言葉がよく似合う大人の隠れ家だ。

そして無線に緊急通信が入る。

「至急至急、スペンサータワー40階にて銃撃と爆破事件発生。付近の捜査官及び巡回車両は直ちに現場に向かえ。繰り返す……」

女性型アンドロイド通信士の無機質な音声を聞いて、ダニーはため息をついた。

「……また事件か」

「警部補!こちらです!」

駆けつけたアッカーマン巡査のパトカーに同乗し、ダニーは凄惨であろう銃撃現場へと向かっていった。

事件と事件が交差し真実は近づく。ナンバーズの目的は?アイン一味の狙いとは?


次回もよろしくお願いします

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