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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第二十六話 流星の恐怖

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください。

アヤ・ストーンズのゲリラライブには大勢の観客が集まっていた。

ハスキーな歌声に酔いしれる者たちがハミルトン地区やや西に位置する一地域『マリーズパーク』の並木道に集っていた。観客の集う先には市立の自然公園があり、そこでゲリラライブは盛大に行なわれていた。

ダニーとカニング姉妹は人と言う人に対して厳重に目を光らせていた。

アヤ・ストーンズは手がかりであった。

敵の求める人物とはアヤの関係者である。そのことをダニーはクレアたちから聞かされていた。

「……すげえ人、なんというか……とんでもねえ光景だな」

「そうでしょ?」

「ガールズ&……もといエレメント商会に感謝だね。オッサン?」

「……お前な……隠せてねえぞ」

「う……まあ、まんまだし……一部メンバーが会社の体で動いたりするけどさ……」

商業地区が立ち並ぶこのマリー記念公園前には熱狂と興奮が存在する。それの秩序だった混沌を目撃しながら、ダニーは自分の一日を振り返っていた。

「……いろんなことがありすぎる」

「そうだろうね……まさかさっき殺そうとした人と仲良く一緒に仲間を守ろうとするなんてね」

「……ストーンがそいつを知ってるってことか」

「そう、ストーンとその子は幼馴染でさ。あ、私たちもそう」

ダニーは地元の人間に殺されかけたことが歯痒いためか、深くため息を浮いた。カニングの二人がダニーを向く。

「……やれやれ、さっきの件は目をつぶってやるから二度とするなよ。地元の人間の味方でいたいんだ」

「考えとく」

クレアの会話にアリアも入り込む。

「そういえばおじさんも地元?」

「そうだ」

「どこ?」

「アルファフォート。母方はハミルトン出身だ」

「へえ……」

「父はともかく母には泣かれたよ。警官なんて危険な仕事だと」

「まあね。私みたいなのに殺されかけるしさ」

「まあな……だが、俺じゃなきゃ誰か殺してたろ」

「まあ……」

「殺人罪は五年以上の懲役か、無期刑か死刑だ。星や州にもよるが割が合わないだろうに……」

「それでも、仲間をやられるよりはマシだよ」

「……なぜ警官を頼らない?」

「いるかもしれないから……」

「誰が?」

「アインの手下」

「アイン?」

「『ナンバーズ』の実動隊の指揮官」

「……スパイ映画みたいだな。そりゃあ」

「スパイ映画さながらよ。でも怖いのはナンバーズじゃない。ナンバーズにいるアイン派の人物よ」

「……アインは何がしたいんだろうな?」

「わからない。でも、この国に恨みがある」

「恨みってなんだよ」

「分からない。でも……この国とアスガルド人などの人類種を敵視している……私たちも狙われたの」

「……抗争でもしたのか?」

「した」

「……マジか」

ダニーは目を見開き、口をだらしなく半開きにした。確実に驚いている表情であった。アリアはそれに構わず話を続ける。

「あのね。ストーンの親友がシステムエンジニアで軍事関連の知識に明るい人なの、軍需産業とか兵器とか良く知っていて兵器関連のシステムにも通じている。彼は良い人なんだけど……」

「そいつはどんなヤツだ?」

「男」

「出身は?」

「外国。でも子供のときはしばらくこのヴィクトリア市内で過ごしてたんだって」

「名前は?」

「うーん……アヤは言ってくれなかったな」

「……だからか。アヤが狙われるのは」

「うん、アヤはたまに古くさいやり方でやり取りするらしいから」

「古くさい?」

「手紙だって。あんな面倒なやり取り。なんでメールじゃないんだろう?」

「へえ……凄くハイセンスなんだな……アヤは」

「ええ……オッサン……マジで……」

「手紙は良いぞ。情緒があって」

「……めんどくさぁい」

げんなりしているアリアとは対照的にダニーはしみじみとアヤの趣味を肯定していた。電子メールにはない紙でのロマンスにダニーは密かなあこがれはあったが、彼にそのやり取りをするチャンスは巡らなかった。それだけにダニーは趣のあるアヤの選択にダニーは思わず共感していたのであった。

「前に見た老警察官のドラマで妻に手紙を送るシーンあったの思い出したぜ。……あれは泣けた」

思わず男泣きしそうになったダニーの視界にふと嫌な雰囲気の人物が見えた。

コートの男。その男にダニーは見覚えがあった。

アイン。

ダニーはその存在をそう認識した。そしてそれは間違いではなかった。

だが、切られていたはずの左腕は無事でアインに似た人物がグレネードランチャーを構えていた。

「な!?くそ!」

ダニーはとっさに警棒を銃に変形する。

構え、照準。

相手が凶行に走る前に素早くダニーはアインに似た男の肩を撃った。男の放った榴弾が明後日の方角に炸裂した。

観客たちがパニックになる。そして、その場から散り散りに逃げ惑う。

銃を構えたダニーはアイン似の男に近寄る。そのそばにカニング姉妹が男を睨んだ。

「……あんたね?」

「……チッ邪魔が……」

「アインだな!ナンバーズの!お前を銃器規制法違反と殺人未遂、それと警官殺しの現行犯で逮捕する。権利をいまから読んでやるから大人しくしてろ!」

ダニーが拳銃をアイン似の男に向ける。

「……」

だがアインらしき男は不気味なくらい動揺がなかった。

一歩。

一歩。

一歩。

「動くな!」

ダニーが怒鳴る。だが動じない。耳元の端末触ってぶつぶつと何かを告げている。たまらず、ダニーは威嚇射撃をした。

電気の弾丸がアインの足元を焦がす。それでもアインは動じない。機械のように冷静だった。不気味なくらいに。

「お手伝いするわ」

「あたしも」

カニング姉妹がたまらず加勢する。

「おい、気をつけろ!相手は」

「テロリスト。そして仲間を傷つける男」

「お姉ちゃんと同じ」

「……怪我しないようにしろよ?」

「それはこちらの台詞よ?」

クレアが余裕の態度で答えた。

ダニーの射撃に合わせてカニング姉妹が突撃する。人魚の姿への変異はない。だが彼女たち二人の身体能力は極めて高く人間のそれとは遥かに逸脱していた。それだけに蹴り一つ、殴打一発が致命傷になるはずだった。

アインは平然と受け止めている。どういう訳か、身体能力は同等だった。

「こいつ……」

「しつこいぃぃ!」

クレアとアリアが苛ついた様子でアインと殴り合う。

アインは余裕と皮肉と嘲笑を混ぜたような醜悪な笑顔で軽々と回避する。女の細腕ではあったが、大男の殴打に等しい威力が確かにあった。そしてそれにふさわしい速度の攻撃でもあった。

それでも、アインは表情に揺らぎをみせることなく回避してみせた。

まるで、なんの怪我を負っていないかのように。

「……お前、レオハルトに斬られたんだろう?どうしたよ」

「なんのことかな?」

「……」

ダニーは左手が無事な『アインもどぎ』の存在に疑問を抱いていた。

同一個体だとしたらなぜ左腕が再生できているのか。別個体だとしたら眼前の存在は何者なのか。顔を整形しただけの集団なのか。それとも……。

そこまで考えて、ダニーはアインに対してある仮説に行き着いた。

クローン。

遺伝子が同じ。

非倫理的。そして科学の負の側面。

ダニーにとってはその認識でしかなかったが、この状況下ではその程度の認識でも十分なものであった。

目の前にいるのは、ツァーリンでシンに殺害された『オリジナル』の代行者であったことは間違いでなかった。

ダニーにはある考えが浮かぶ。アイン軍団を作るにしても科学、もっと言えば生物学や医学に長けた人物のバックアップが必要であることは自明の理であった。すなわち、ダニーが必要なことは目の前の人物の捕獲か、直接情報を聞き出すことであった。

アインは背後に何かがいる。ナンバーズのような実働隊とは違う黒幕の存在がちらついていた。

「おまえ……この国をどうする気だ」

「どうするも何も決まっているだろう?」

「言えよ。まさか……滅ぼすとか?日曜日にやるヒーローアニメでもあるまいし」

「そのまさかだ」

あっさりとアインは言った。

「ほぉ……それで?お前さんには何の利益が有る?」

ごく自然に、しかしさりげなく挑発するかのようにダニーは敵を誘導した。

そして、思わぬ情報を聞き出した。それは至極単純、しかし巨大な闇そのものであった。

「滅ぼすことそのものに意義がある。人類などと言う劣等種族はな」

「は?」

ダニーはあまりにも狂った発言に理解が追いつかずにいた。

しかし、アインは気にせず発言を続ける。明らかに興奮した様子であった。

「人類は無価値だ!あまりにも!何もかも!適者生存の真逆と言っていい!無駄という言葉を細胞の包み紙で包んだ何かだ!そう!醜悪な!粗悪品!人類などという生物は無価値なまま燃え尽きる必要がある!特にアスガルド共和国!ここは死に損ないの国だ!抜き取られても抜き取られてもしぶとく他が生きる!生きることに狂った死に損ないの国だ!この国には『流星』が必要だ!狂ったように生きる癌細胞は一度裁きが必要だ!そうだ!無駄という存在をのさばらせておく宇宙に問題がある!『流星』の裁きだ!!」

ダニーは絶句した。

あるいは、沈黙。

罵詈雑言の激流の中にとんでもない情報が混じっていた。

流星。

言葉通りの意味でなければ。

口から出た出任せでなければ。

その存在は『悪夢』の具現化であった。

歴史の教科書で聞いた限りなら、『流星』とは『核兵器』や『生物兵器』や『時空間兵器』に並ぶ悪夢の産物であった。

宇宙の秩序ですら記号の羅列に過ぎなくさせる悪意の流星。

それこそが『ハイパーコメット』。

ダニーの背筋に冷たいものが流れていった。

テロリズムの話題であっても出るはずのない単語。

それは特攻とか、遠距離攻撃という概念をどす黒く変革させた悪夢の兵器であった。

罵詈雑言に混じっていた不吉な単語をダニーは聞き逃すことはなかった。否、聞き逃せなかった。彼の背筋が本能的な寒気に似た感覚に支配される。

人類滅亡と同義語になりかねない危険な発言に彼の内部で怒りに由来する興奮が急速に圧力を増す。

「俺がお前に何したってんだよ!?お前が何に怒ってるんだからしらねえけどよ!?ふざけるのもおとといにしろやゴラぁ!?」

言葉こそどうにかマトモな体裁を保っていたが、ダニーの脳みそは興奮で通常の状態を維持できなくなっていた。

そして何人めかのアインが発言する。

「俺の目的はこの国を殲滅することだ」

ダニーの顔が明らかに怒りで狂っていた。銃口がアインに向く。

アインの背後に男がいた。

『六』を意味するナンバーズのエージェント。『ゼクス』がそこに立っていた。

流星。不吉な言葉の影が街に忍び寄る。ダニーは?シンは?マリアは?街の運命は?


次回もよろしくお願いします。

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