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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第二十五話 圧倒

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

ハヤタとモリが通路を駆けた。

駆けるといっても通常の人間の走力は比較にならない機動性であった。それをより的確に表現するなら『跳んだ』である。

そこにユダ全ての兵員が突撃する。

ハヤタとモリの突撃に合わせて、ミシマが援護射撃を行なった。拳銃を構え、撃つ。全弾とも敵兵の急所へと着弾していた。左側の敵の喉。中央の敵の頭部。

右の敵の腕と左目。

拳銃の射撃と言うより、ライフル銃での狙撃に近い芸当であった。拳銃弾は銃身が短いために射程距離も短いはずだった。撃ったところでそれ以上の距離には命中率がかなり悪い。牽制にしかならない。だがミシマは当てた。

25メートルの動く敵兵に狙撃を成功していた。

敵の動きが鈍ったところでモリの剣術とハヤタの喧嘩殺法が炸裂する。モリが壁から出てきた敵をずたずたに切り刻み、ハヤタが敵の群れを蹴散らす。

それに合わせて、イシカワ、ミコト、マコト、サワシロ、カザマ、ドウミョウが敵に突進した。

『神の剣』に選ばれた若者たちの戦闘力は圧巻だった。

ミコトとマコト、サトウ姉妹の攻撃は芸術的な連携であった。

緻密に編まれたタペストリーの如く、その攻撃には寸分の狂いがない。

ミシマの狙撃に合わせてカザマが支援する。弾丸の飛び交う中であるにもかかわらずミシマの動きは機械の如く精密で沈着で執拗であった。

イシカワの短刀の動きに合わせてサワシロが敵を蹴り飛ばす。敵から奪った銃器でサワシロは敵を精密に仕留めていた。

そして驚嘆すべきはドウミョウであった。『神の剣』の適合者ではない常人であるにもかかわらずドウミョウの動きは俊敏そのものだった。

「オラア!」

ドウミョウは敵のそばに近寄り、強烈な殴打を加える。

致命傷にはなり得ないが敵がふらつく。

そこに回し蹴り。

敵が明後日の方角に銃を乱射しながらガラスに激突する。そのせいでガラスが砕け、敵兵は虚空へと投げ出された。

「一丁上がり」

得意げにドウミョウは笑う。そして突進してきた敵を背負うようにして投げた。敵の体は地面に思い切り叩き付けられ、うめくような金属音が敵から響く。

「やれやれ……こいつら一体なんなんだ」

「それはこっちの台詞だ!」

側面から声がする。シン・アラカワだ。

「……はぁ……よりにもよってこいつと……」

「アディとジャックに援護させる!」

「必要ないぜ」

身振りを合わせてドウミョウが発言する。

「どうだろうな!敵の頭数はきっとこれだけじゃない!」

ドウミョウの余裕な態度にシンは苛ついた様子で怒鳴る。銃声でも聞こえるようにするという配慮もあった。事実、機関銃や拳銃の音、ガラスの粉砕でその場は音と言う音で溢れていた。

「必要ない!」

「今向かった!」

ジャックとアディがユダの戦闘に割り込む。

「よう、坊主!味方で良かったな」

「……アイツの味方でなければなあ」

ドウミョウに対して複数の敵が現れる。

機関銃を持った敵兵。人数は四。

「やべ……」

銃声。

しかし、それは散弾銃の音だ。

ジャックが二人仕留めた後、アディの尾が残りを貫いた。頭部を一突きだった。

「やるな」

「当然でしょ」

アディとジャックが加勢し敵を一気に圧し潰した。

吹き飛ばされた敵はただただ倒される。

モリに切り刻まれ、ドウミョウやサトウ姉妹に殴り倒され、ジャックやミシマに撃ち抜かれる。

それに合わせて、シンたちも攻勢に打って出た。

「撃ちまくれ!」

そう言ってシンは何かを投げた。

羽根手裏剣。羽根を模した刃の柄本に何か装置が点滅する。ルイーザはそれに向かって拳銃弾を放つ。

銃火。

コンマ数秒に満たない時間に弾丸が虚空を泳いだ。

アローズたちが精密に弾丸を調整し着弾する。

閃光。

そして、衝撃。

空気の甚大な揺れと共に機械兵たちが吹き飛ばされる。

耳鳴りのような音が後から響いた時に、シン、ルイーザ、ユキ、カズが攻撃を開始した。カズがふらついた敵を衝撃波で吹き飛ばした時、シンとユキ、ルイーザが敵の息の根を止めた。

足で動きを抑えて、急所を撃つ。手慣れた動きで三人は敵を殺傷する。

「カズ」

「……うん?」

「アレックは無事か」

「ああ……」

「守ることだけ考えろ。汚れ仕事は俺たちがやる」

「……すまない」

「そこは『ありがとう』だろう?親友」

「ああ……」

カズのことを気遣いながらシンは敵を仕留めてゆく。まだ制御機構が無事なドローンが逃れようとじたばたと地面を這いつくばっていたが、ルイーザによって破壊された。

「イタゾイタゾ」

「映画ニナカッタカ?ソノ台詞」

アローたちが無駄話をしているとルイーザが喝を入れた。

「仕事しろ!」

「ハィィ!」

「ハィィ!」

アローは怯えながら弾丸の制御に集中する。それを見ていたシンが一言声をかけた。

「大変だな。お前の能力は」

「慣れると楽しいものよ」

「そうか?」

「そういうもの」

「……メタアクトも色々だな」

「私のはちょっと特殊でね。珍しい種類なの。エネルギーを持った半実体をうみ出すタイプでさ」

「そうか。確かにな」

ぶつぶつと独り言を言うアローたち。弾丸に干渉する分身たちを見ながらシンは頷いた。制御に難はあるが自立性に優れ知能がある。ピーキーであるが戦術次第で応用の幅はあった。

伝達、偵察、狙撃。

ルイーザがいることで戦術の幅は確かに広がっていた。

「あっちのミシマの大概だがこっちも良い射手がいる」

「あんがと」

「ああ……いつも助かっている……うん?」

「どうしたの?」

シンが敵兵の残骸を見て何かに気がついていた。

「……ジーマ人か」

「ジーマ?」

「ユキの祖国だ」

「ユキさんの?」

「……彼女を追い払った」

「わわ、シンさん!殺意が、殺意漏れてる!」

ルイーザが慌てふためく程シンは殺気立った表情を浮かべていた。空気が一気に緊張する程、彼の殺気はその場にいるものに悪寒を与える程強烈であった。

「……む、すまないな」

「……ユキさんのことになると必死になるよね」

「相棒だからな」

「そうだけどさ……」

シンは平静をどうにか装ったが、所々に複雑な表情の変化が入り交じっていた。その場にいた敵はどうにか打ち倒したがまだ援軍の気配はあった。

「場所を変える……アレックに聞きたいこともあるしな」

「……え?」

シンの発言にカズがその意図を察せずにいた。

だが、今はその場の安全を確保すべくスペンサータワーからの脱出を優先する。


そこは地下室や倉庫のような場所であった。

「……ここ苦手なんだよね」

「うん、私も」

「ほこりがね……奥のパソコンルームはマシだけれど……」

バレッドナインとユダの女性陣が埃の多い室内環境に難色を示す。

ユキだけはどうにか平然としていた。だが、掃除をすぐに始めるあたり、この環境を気に入ってはいないことは明らかであった。

埃を被った武器・弾薬保管庫と仮眠室、奥のパソコンルーム、車庫の四つで構成されたこのセーフルームは緊急時に文字通り隠れ家として機能する。シンはそこにユダとバレッドナイン、そしてアレックとウェルズを入れた。

「さて、……アレック。君の安全を守るためにいくつか聞きたいことがある」

「……どういう意味です?」

「君はただの一般人じゃない。さもなければジーマ人に狙われるなんてことはないからだ」

ジーマの生き残りはいくつかの勢力に分けられるが、すべてにおいて共通するのは不必要に他の民族と干渉はしないということだった。無論、ユキ・クロカワのような例外も考えられるが、あれだけ装備の充実した兵たちの場合はその例外を排除すべきであった。

「……」

「アレキサンダー・スタドニク。君の素性を改めて聞きたい」

「……僕はカズを愛している。それ以外に伝える必要は」

「ある。敵は終始無言だが、敵の存在そのものは特殊だ」

「……!」

アレックは目を見開く、動揺した様子が目元から伺える。シンは言葉を続けた。

「……アレック。君の職業は科学関係か?あるいは君が科学者では?」

「いいや。ただの経営者だ」

「そうか?」

シンはカズの方を見る。

「……アレックはベンチャー企業のトップだ。まだ初めて数日は経つがようやく最近は順調に事業が軌道に乗った」

「……ちなみにアレック。事業の内容は?」

アレックは言いよどんだが正直に事業を話した。

「…… IT関連だ。AIに関わる仕事をしている」

「AIか……」

シンがユキの方を見た。

「……アレックの会社は調べてあるわ」

「どうだ?」

「表向きは問題無し。ネット上の情報を調べた限りはね」

「……なら本人とカズに聞くしかない。敵の狙いはアレックだ」

「……正直、狙われる理由が分かりませんな」

「アレック、お前とカズを守るためだ。……隠すな」

そう言うとアレックは観念したように言った。

「……カズすまない。お前を巻き込んじまった」

「……どういうこと?」

「……俺の会社は新興の会社だ。技術を持った社員はいるがとにかく金がなかった。だが、一年前のある時に紳士服とコートを着た男が仕事をいくつか持ってきたんだ」

「仕事?」

「とても複雑なAIで船外作業ポットに使うと言っていた。だが、渡された仕事がいつしか軍用仕様のものに切り替わっていた」

「良く気がついたな」

「当然だ。俺の技術はアスガルド共和国の研究機関とも交流して作ったものだ。才能のあるエンジニアの卵も遊びにくるくらいだ。……まさかそのことで……」

「……AIか。軍用仕様ってのは」

「明らかに操作体系のプログラムが複雑になっている。船外ポットじゃなくて船のAIになってる」

「……まさかな」

「まさかって」

カズが怪訝そうな顔をした。

「……『流星戦争』の再来をやって得する馬鹿はいないはずなんだがな」

「え……」

シンは不吉な言葉を告げていた。

『流星戦争』とは再興歴二十八年に起きた災厄の名前である。

ワープ航行技術を発達させた当時のアテナ銀河内で一大勢力を誇っていた『竜山連合』が別銀河の『ガーマ帝国』との戦争である兵器を導入したことでそう呼ばれることになった。その戦争は戦争と言うには名ばかりの自爆合戦の様相を呈した人類史上最悪の戦争の一つとなる。

軍艦並みの大きさの星間弾道弾『ハイパーコメット』に空間湾曲移動装置を搭載し超高速で居住惑星を破壊する作戦を皮切りに多くの特攻軍艦が両国間で応酬された。『ガーマ帝国』と呼ばれていた別銀河の大国は滅亡。勝利した『竜山連合』も居住可能惑星の60%を失い、大きな衰退を余儀なくされたと記録されていた。

これを機に『特攻流星』はその後55年間、使用を禁止され、後に『反流星障壁』もしくは『アンチ・コメット』と呼ばれる惑星・重要拠点用防衛装置が各国で開発され、アテナ銀河のすべての国で広く運用される転機となった。

戦いは制したが、明かされぬ真実は未だ残される。


次回もよろしくお願いします

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