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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第二十三話 双子の襲撃者

この物語は残酷な表現が含まれることがあります。ご注意ください

ダニーはタバコに火をつける。

喫煙の後、息を吐く。そして腕時計を見た

「午後15時……五分前ってところか」

「あなたの死亡推定時刻?」

「いいや、ドラマで聞かないか?午後14時55分現行犯逮捕って」

「あらあら……現実は非情なものよ」

「後ろにいるからか?」

「!」

クレアが目を見開く。ダニーは気がついていた。

「……アリアさんよ。挟み撃ちならもう少し上手くやんな」

クレアが苦々しい顔をした。

それと同時に物陰からアリア・カニングが姿を表した。二人は髪の毛の色以外は良く似ていた。

双子。二人の姿を見たら誰もがその考えが出る。そしてそれは正しい判断であった。

クレアはきちんとした身なりの美女で、スーツを整然と着こなしていた。長く黒い髪は方の位置で綺麗に切りそろえられていて、片耳のみに銀のピアスがあった。

アリアはゆったりとした服装で冬らしく淡い色合いの服を重ねて着込んでいた。それでいて見るものにゆったりとした印象を与える美女で端正な顔立ちがクレアとそっくりであるにもかかわらず、印象は真逆であった。

クレアは理論整然。

アリアは自由奔放。

クレアが理性なら、アリアは感性であった。

ダニーは昔から彼ら二人のことを良く知っていた。それだけになぜ近所の美少女にすぎなかった彼らが警官である自分を狙っているのかが腑に落ちなかった。変形銃の形を近接戦モードに切り替える。スタンガンと警棒を間の子にしたような武器に変形させる。どちらとも称せる武器だけが頼りだが、ダニーはそれでも直感的に感じる危機の感覚を抑えきれずにいた。その証拠に彼の額から冷や汗が流れていた。

「……話し合おう。な」

ダニーは諭すように話しかけるが、双子は臨戦態勢を崩すことはなかった。

クレアからダニーに蹴りが飛んだ。ダニーはすぐに回避する。虚空をきり、当たったコンクリート壁に足がめり込む。だがめり込み方が奇妙だった。固い壁に当たったなら砕けるものだが、粘液に入り込むようにして足が浸されていた。クレアがするっと身を翻す、固い壁の中に彼女は潜航していった。

「メタアクトか!」

アリアがにっと笑う。ハイスクールに通っていた時から変わらない笑顔から強烈な殺意が放たれる。アリアが腕を振るうとクレアとは反対側の壁が砕けた。

「……マジか」

ダニーは戦いが避けられないものと悟った。そして、アリアに変形した電気警棒で応戦するが、アリアの身のこなしは軽く明らかに異質な跳躍で回避した。

五、六メートル。

軽々と跳躍するアリアの様子は水たまりを飛び越える小学生のような陽気さすら感じさせられた。

「……ウソだろオイ」

ダニーの唖然とする顔を見てアリアはカラカラと不気味なくらい陽気に笑った。

アリアが壁に手を入れる。固体であるはずの壁からクレアの顔、首元、片手、胸元が湧き出る。

「ふふ」

「ふふ」

アリアとクレアが笑う。

「ふふ、あはははは……」

「ふふ、あはははは……」

二人は顔をほころばせる。

「あははははははは、あははははははははははははははははははは」

「あははははははは、あははははははははははははははははははは」

コンクリートが水面のように揺れている。壁のクレアとアリアは延々と延々と延々と大笑した。ダニーに向けられた笑顔は不気味なくらい明るかった。

カラカラと。

カラカラと。

カラカラと。

カラカラと。

甘ったるく幼さをも感じる女の声が二つ。共鳴するように笑っていた。

クレアとアリア。

染められた茶髪と自然な黒髪。

スーツと私服。

二つの女体が。

突如として。

「あ」

「あ」

融合した。

クチュ。

グチュ。

クレアの右。

アリアの左。

二つの頭部が融合した。

別々の果物が半分ずつ合わさるように、二つの頭部が引き合うように重なった。頭蓋骨があるはずの頭部は異なる柔らかい果実が潰れて擦れるような音をたてて合わさる。

粘液のような粘り気のある音がその場で不気味なくらい響く。

だが二人は笑う。そして艶やかに息を切らした。染められた茶色とありのままの黒の毛髪が意志を持つかのように交わった。

苦痛ではなく快楽を感じるように。

「……うぁ……ああう……あはぁ……」

「ああ……あは……はぁあ……」

二人の体が徐々に融合し、服だけが置き去りになる。

「……なん……だ……?」

ダニーは目の前の光景が信じられず口をパクパクと不規則に動かすだけだ。それは意識的なものではないが彼の甚大な同様を示す所作であった。

言葉だけがかろうじて意味をなすものとなる。

二つの人だったものは肌の色をした肉塊となって不規則に動く、そして徐々にそれは形を整えた。

人魚。

魚の下半身と女性の上半身。

胸元を鱗で隠した異形の敵が目の前で形作られる。

「ああ……いいわぁ……脳みそがグチュグチュ合わさるの……いいぃ……あははぁ!」

ダニーが青ざめた顔で彼女を見た。

アリアとクレアの面影のある人魚がダニーに襲いかかるのを。

「のわぁああああああああ!」

ダニーは狂乱のあまり滅茶苦茶に銃を撃つ。

だが空気中を泳ぐようにして人魚は電気の弾丸を軽々と回避してゆく。そして尾びれでダニーの拳銃を弾き飛ばした。

「が……」

ダニーの手から変形銃が転がって数メートル後ろに引き離された。

ダニーの数少ない攻撃手段は失われた。だが、それを代償にダニーは我に返った。

「は……は……な。こいつはクレア?それともアリア?どっちだ……ごばあ」

尾びれの攻撃が警官の腹部に当たる。

シャドウのようなハイテクスーツと軍隊格闘で固めた武人ならまだしもただの警官であるダニーにとって、『彼女』はあまりに強敵であった。

クレアにしてアリア。

二人分の身体能力とメタアクト、そして戦闘への優れた素質を秘めた女二人。

あまりにも勝負は明白だった。ダニーは自分がSWATの経験がないことを心底恨んだ。口から血反吐が吐かれる。その隙にダニーの足は沼地に入り込んだように地面に沈んでいた。客観的に見て万事休すのはずだった。

「クレア?……アリア?……き、聞け」

「何?」

人魚から二人分の声が重なって響く。

一時的ととは言え攻撃が止む。

好機。

あらゆる好機が今訪れた。

ダニーは思考を精一杯走らせた。

これをしくじれば命を落とす。ダニーでなくても明らかな状況であった。

「…………」

思考を巡らせた後、ダニーは一言。

「……お前たちは騙されている」

ダニーはただそう言った。

「…………」

一秒。

二秒。

……数秒。

カニング姉妹の人魚が興味深げにダニーを見つめた。攻撃は来ない。敵意はまだ感じられる。だが、それでもチャンスは続いていた。

「騙されている?」

人魚が質問する。

ダニーはそれを見てさらに言葉をつなげる。

「お前さんたちはなにか勘違いしてるぞ。俺は自衛の為に拳銃を抜いちまったが元々戦う意志はない」

「私たちにはあるけどね!」

「それが騙されているってんだ」

首元で攻撃は止まった。指が数ミリ動けばダニーは首を落とされる。

「……へえ、じゃあさっきの『半狂乱の乱射』は?」

「……俺はノーマルだからな」

ダニーは顔を背けた。

「どういう意味よ!」

「あ、いや……別に深い意味は……」

女の子に対するある種の暴言にカニングは拍子抜けの様子を見せる。

「……後で覚えてきなさいよ。下手すれば今すぐ」

「うぐぐ……」

「……それで、騙されているって?」

「……お前たちが戦う理由だ」

「理由ですって?」

「ああ……」

「そんなの疑問の余地はありませんわ?」

「例えば?」

ダニーはさりげなく情報を引き出す。警察らしい心理的な戦術であった。しばしカニングは思案するが、その後は躊躇なく情報を口にした。

「……あなた方、警察が『エレメント』をテロリスト扱いしているのは明白よ」

「……へえ。そんなこと言ったっけか?」

「とぼけないで!アンタたち政府の犬はハッカーとクラッカーの区別もつかない癖に!」

「すまねえな。俺らみたいなアナログ人間は宇宙進出しても湧き出るもんさ。俺らみたいなポンコツはよ」

自嘲気味にダニーは目を逸らしながら言った。口調自体はコミカルだが、声色には自身への無力感を滲ませていた。

「……あなたは割とマトモな方みたいね」

意外そうな彼女の反応が返る。

「どうだろうな。大人になって嫌なことも増えちまった」

「例えば?」

「カラス男並の格闘戦のセンスもねえ。アラクネ殿みたいなハッキングのセンスもねえ。カズの坊ちゃんみたいなメタアクトの素養もねえ。SWATにも入りそびれる。そういう無力さだけが心に溜まるのさ」

「謙虚なのね」

「そう言われたのは初めてだ。大抵ぼやきと片付けられちまう」

「なんだか、あなたに狙われている気がしないわね」

「そもそも、狙っちゃいねえ」

「そうだっけ?あなたが私たちを狙っていると持ち切りよ」

「だれがそんな偽情報を言ったんだか」

「……あなたが同僚を失ったのは事実でしょう?」

「そうだよ……警官のくせに顔なじみもろくに守れねえ……下手すればシャドウの方が強い。アインみたいなメタアクトの使える敵に素手でも立ち向かっちまう。……俺には無理だ。自分の命ですら精一杯だってのに……あんな化け物みたいな連中と対等に殴り合うなんて……」

「……どうやら調査方法を間違っていたようね……私たち」

「……」

「後ろ向いてて」

「不意打ちはごめんだ」

「いま裸だからさ」

「……やれやれだ」

ダニーはしばし思案の後、背を向ける。人魚は元の二人に戻り始める。

粘着質な分裂の音と共に壁に映る影が二つの人影に分け隔てられる。

喘ぐ音と共に一つは二人となった。

「その体は強そうだな」

「時々、不便だったりするわよ」

「お姉ちゃんと同じ」

「……そうかい。上手くは行かないものだな」

服をがさごそと着た後、二人はダニーに合図をした。

「もう大丈夫よ」

「……ああ、見知った姿だ」

茶髪のふんわりした雰囲気の女の子と長い黒髪のレディがダニーの視界に入る。服は所々汚れているのは置いた場所が悪かったのもあるだろう。

「そういえば……アリアは元々黒髪じゃなかったけ?」

「染めた」

「そうか……詳しい話を聞かせてほしい」

「……メンバーの一人が狙われている。警察の情報から漏れている」

「メンバー?」

「良く知った人物よ。有名だから」

「そいつはハッカーか?」

「あら、ガールズ&エレメントはそもそも……」

「リーダーと幹部はハッカーだけど、緩い女の子の同好会でもあるの」

クレアの発言にアリアが横から付け加える。

「詳しく聞かせろ」

ダニーは落ちた自分の拳銃を拾ってから、そう言った。

意外な繋がり、緊張と緩和。不穏な新情報。


次回もよろしくお願いします。

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