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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第二十話 タイム

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

テレビの時計は二時過ぎを指し示した。

それを見ながらマリアは隠れ家でどう過ごすべきかを真面目に考慮し始めた。

「……まずい」

「マリア様、何か問題でも?」

ペニーワースが心配そうにマリアに話しかけた。

「安全性が確保されたが一つ確かな事があるわ」

「なんでしょう?」

「暇だぁぁぁッ!これからしばらくずっと暇ァ!」

半泣きでマリアは叫ぶ。

「……深刻ですな」

夫のレオハルトやシンが別々の場所で敵と死闘を繰り広げているその時、マリアには深刻なトラブルを考慮しなければならなかった。

退屈である事。それが問題だった。

字面にすると大変だが、逃げ隠れる者にとっては深刻であった。

敵がどこから来るか分からない時のような精神的に削られるような状況ではある種の心のよりどころは必要であった。

「あいにくカードすらない状況で……どうしたものでしょうか……」

「それなら良いのがあるわ」

アオイが提案を持ちかける。レイチェル・リード曹長もニコニコと笑みを浮かべている。

「……なんでしょう?私にはさっぱりで」

「外交的な女の子が数人集まったらやることは一つでしょう?」

「……ああ、そういう」

ペニーワースは納得した様子で頷いた。

「トークタイムね!一度話してみたかった!マリア夫人と」

「…………あ、その手があった」

マリアは照れくさそうに頭の後ろをカリカリと掻いた

「ということでやるわよ。ガールズトーク。がっちりと」

「いえーい」

緩く和やかな空気でマリアはSIAのエージェント三人と話を始めた。

「では。私はコーヒーの用意を……」

ペニーワースは深々とお辞儀した後、コーヒーの用意に取りかかった。

マリア、レイチェル、アオイ、マリン。

四人の女の子たちが会話を楽しむ事にした。

「そういえば、SIAって女性職員何人いる?」

「いきなりそれ聞く?」

「まあね」

マリアとレイチェルはにっと微笑んだ。

「SIA自体がさ元々小さな部署だったみたいよ。今はかなりの大所帯としか分からないわね。ゲストや協力者とかいるから正確な人数は分からないわ」

「へえ……二万人ぐらいはいそうね」

「それくらいかもね?あ、マスコミとかに適当なこと言っちゃ駄目よ」

「言わないわよ。私、軽率な人たち嫌いだし」

「なら安心。もっと無難な話しようよ。おしゃれとか」

「そうね。そういえば結構拘っているわね」

「そう!男たちは分かってくれなくてさ。お洒落は女の子の武装なの」

「あはッ!確かに」

「これでも短時間でやっているわ。一時間以下にして」

「すご!」

「マリアさんはどれくらい化粧する?」

「うーん、所々ね。口紅を少ししたりとか」

「ナチュラルメイクね!」

マリンもその輪の中に入る。アオイもそれに続いた。

「うん?それくらいが普通じゃないの?」

「うーん、人それぞれね。私だと、リキッドファンデーションに拘ってる」

「下地か……ああ、肌の質感は大事ね」

「私はごってり明るくする!」

「レイらしいね」

「アオイはどこ気にしてる?」

「目元」

「それ」

「そこね」

「みんな同じかー」

「目ってさ、顔の印象に関わるからどうにも気になるわね」

「そういえばさ。レイチェル?」

「レイって呼んで良いよマリアさん」

「ありがとう、レイ。忙しいときはどうしてる?」

「下地を大急ぎで整えて最低限書く。それくらいになるかな。もちろん中将の指示で薄めにしろと言われればするわね?」

「ナチュラルメイクのレイって印象変わるよね」

「まあ……軍人の武装だって状況で変えるでしょう?拳銃だってものすごい拘るし」

「レオが刃物に詳しかったのを思い出した」

「そうね。中将はあらゆる国のナイフや剣に詳しかったわ」

「趣味もあったけど実益も兼ねているのよね。どういう訳か刃物を使う戦闘も多かったらしくって」

「粒子式銃を反発する能力者と戦う事もあったからね。そう言うと時はメタアクターのエージェントがいると互角になるけど、銃が使えなかったり逆効果だったりする事もあるからね」

「どうして?逆効果?」

「エネルギーを食べる能力もある。交戦経験もあるわね。それこそ……」

「……ウソ?」

「私も戦った事あったわ。ベテランエージェントの付き添いで。無能力だった人が鎮圧したケースもあったわ」

「……そんなコミックみたいな」

「シャドウは実在しているでしょう?」

「あー……そうだよね……」

「私たち実力はそこらの部隊に負けないけど奇人変人集団としてみられてさ。男たちがマンガから飛び出してきたみたいなヤツらでさ。あ、無能力者ってのはサイトウってヤツがそう。ド変態な困り者なの。……良いヤツだけどさ」

「まあ……いろいろあるけど、暇なときは訓練するし。そこいらは警察組織の特殊部隊とかと変わらないかな?」

「それは全員やるわ」

「……SIAは軍の一組織でしょう?」

「まあ、間違いじゃないけど……指揮系統は独立しているから割と自由だけれどね」

「そうなんだ」

「そうそう、私や友達のアンジェラやキャリーはそのあたりで凄く助かってる」

「……軍人って感じじゃないからねえ」

「どっちかと言うと私たち調査機関の側面もあるからね。あんまり軍隊式でガチガチにすると対応しきれない場面もあるの」

「そうなんだ……」

マリアはSIAにいる女の子たちとレオハルトの苦労を感じながら話に聞き入っていた。レイチェルは友達の事を交えつつ基本的には自分のお洒落や仕事での楽しみを中心に雑談をした。待つ時間だけが必要な今は何気ないおしゃべりがマリアにはありがたかった。

そこでコーヒーが運ばれる。ペニーワースが四人にコーヒーカップを配った。

焙煎された豆の香りが四人の鼻孔を心地良く刺激する。

「わぁ……」

「いいにおい……」

レイチェルとマリンがうっとりと香りを楽しんだ。

「コーヒーなんて久しぶりね」

アオイが物珍しそうに黒い液体を見つめる。

「いつもはお茶なんだっけ」

「あら、私アズマ人よ」

「初めて来た時より上手くなったねアスガルド語」

「そうなの?」

マリンが疑問を口にした。

「……私さ。機械と外国語は駄目で……あ、アスガルド語は別よ。心強い教師と伴侶が教えてくれるから!」

「……心強い教師ねぇ……。刀に詳しそう」

「う……」

「褒め言葉の巨人だもんね。階級は雲の上かも」

「う……」

「仕方ないわ。あの人の褒め言葉のセンスはずば抜けてるから」

マリアも二人の言葉に同調する。

「う……」

マリアの素朴な同意がアオイに痛い所を突かれた顔にする。

「そ、そういうマリアはどうなのさ!」

「え、あ、……やあね。あの人ってさ……こないだも私のことを延々と自慢してる時あって……やだ、恥ずかしい」

マリアは赤面しながら顔を両手で覆った。表情は隠れて見えないが、明らかに笑みを浮かべながら羞恥していた。

「ごちそうさまです」

「この幸せ者め」

マリンとレイチェルがニヤニヤとマリアを小突いた。

「私だって負けないわ!こないだはサブロウタさんと買い物に行った時……って聞いてますの!?」

「ごちそうさまです。ヤマノ先輩」

「はーい。こっちはこっちで毎日聞いてる。いつもの」

緩いやり取りを繰り返しながら穏やかな時間がすぎていった。

マリアとペニーワース、アオイとマリンとレイチェル。

その場にいた五人は雑談に花を咲かせながら、時を待った。






マリン・スノーは窓の外に目を凝らした。

「……」

ナノマシンで強化された肉体は筋力や骨格が強靭になり、五感も自在に調整出来る機能が備わっていた。

一番特徴的なのは眼球で、虹彩がスッと色彩を変え、機械的な文様を描く。これが神の剣の適合の証でもあり、マリンにとっての呪いでもあった。

マリンは何かに警戒していた。

「……その目は?」

「呪い。私のアイドルとしての人生を奪った呪い」

「……そうか。貴方は……」

「いいの。シャドウさんが救ってくれたから」

「……シャドウ?」

「……もしもの話して良い?」

「……うん」

マリアが肯定の言葉を紡いだのは直感的なものに従ったからだ。それは聞き逃したら重大なものを見失うと彼女が予感したことが大きかった。

その言葉を聞いて、マリンは言った。

「もし…………シャドウが私を救わなかったら、私は死んでたと思う」

「……死んでた?」

「……サワダ・タクヤに殺されて……そんな気がする」

アオイがその名前を聞いて憂鬱な表情を浮かべた。長く美しい髪をいじり、皮肉っぽい口調でその名前を呟いた。

「……サワダ……か」

「……アオイさん?」

「知った名前だ。……といっても噂程度だけどね」

「……私は……彼に協力を求めたと思う。でも、……今思えば……彼は私を殺そうとしたと思う……だって……」

マリンは言う。思い出したように

「偽善者を憎む男だから……ってこと?」

「……ええ」

「どうして、自分を偽善者だと?」

「……私、両親が死んでから芸能人として生きてゆくしかなかった。才能に恵まれてテレビに出るようになって、それが生き甲斐になった。でも、その分妬まれていじめを受けて……偶然……力を手にした」

「それが『神の剣』のひとつ……『クイーン・オブ・キラー』ということ?」

「ええ……そうよ。その力で正義と共に生きる場所を得たと勘違いした」

「……」

「その結果私は……テロリストとして芸能界を追われ命まで失いかけた。……シャドウが救ってくれなかったら……どうなってたんだろう?」

存在し得た『もしも』を気にするマリンの顔はひどく哀しげだった。それは自分の浅はかさを呪ったためか、あるいは失ったものへの未練のためか。

いずれにせよマリアはマリンを捨て置く事は出来なかった。

「……私はシャドウを見た事がある。シャドウの正体も。彼は……望まぬ孤独に苦しむ者には優しかった。徹底的に」

「……どうして?」

「……分からない。でも、これだけは言える。シャドウは……傷ついた一人の人間なんだって。私はそう思う。だから彼は貴方を助けたんだと思う」

「でも……私は『正義のための力』を自分のためだけに……」

「じゃあ……貴方が死ぬ事は正しいの?私は思わない。散々いじめられたんでしょう?妬まれたんでしょう?そんな女の子を見捨てる事が正しいなんて……彼と私はそう思わないわ……」

マリンは敵との戦いを前にして精一杯の言葉を紡いだ。

「……ありがとう。……少し……救われた」

感謝の言葉。精一杯の言葉。

二滴の涙。

マリンはその言葉を言う。そして、外を注視した。

敵影をマリンは確認する。機先を制するまたとない好機であった。

緩やかな時間。緊張の幕開け。戦闘の予感。マリンたちとマリアが敵を迎え撃つ。敵の正体は不明。


次回もよろしくお願いします。

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