第七章 第十九話 疑惑
この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください
シンとハヤタが食事を終えた後、ある場所で話し合った。
場所はスペンサーズタワー。軍人や実業家などあらゆる政界や経済界に優秀な人材を排出する名家、スペンサー家が開発を担当した高層ビルの一つであった。このビルは安全性にも優れ、ガラス一つの強度にも並々ならぬ拘りがあった。
時刻は午後二時過ぎになる。
その建物の大広間の一つにて話し合いは開始される。
ハヤタとエリ、モリ室長はユダの別のメンバーと合流する。
ユダ側はハヤタ、エリ、モリ室長、サワシロ、ドウミョウ、サトウ姉妹ことミコトとマコト、『幽霊狙撃手』ことミシマ、見慣れぬ着物の男と、長髪の男、そしてマサタカ・サカモト。『神の剣』の適合者の過半数がいる異常な面々であった。合計十一人。そのうち『神の剣』の適合者は九人。ドウミョウとミコトを除く人物全てが適合者である。
ハヤタとエリを一グループと勘定しても八人、マリンとサワダ、故ストーン氏とカワシマ氏を除く全ての適合者がそこにいた。
シャドウを恐れてか、あるいは任務の重要性のためか、ユダの全戦力といってもいい人材がそこに存在していた。
一方のバレッドナイン側はシン、ユキ、カズ、ジャック、アディ、ルイーザ、アレックの七名であった。どういう訳かウェルズもいたが、彼はどちらでもない客人という扱いであった。
「やれやれだ。この面々ならこの街どころか、大国を滅ぼせそうだ。ちょうど今いる感じの……な」
シンがひどくシニカルな口調でそう発言する。シンは机の上で頬杖をついていた。彼はレイヴンスーツを背広に偽装している。ネクタイを除けば、レイヴンスーツの偽装で背広に見せているだけだ。
「……んで、カワシマは……忙しいのか。社長だしな……俺のような中小企業の経営者と違って会合とか付き合いとか人事とかトラブルもありそうだし…………いろいろありそうだからなぁ……」
カワシマ重工の次期社長であるカワシマ・カオルは多忙のために出席できずにいた。
「おっしゃる通りです。ミスター・アラカワ」
「おいおい、生まれた国は同じだから、……『ミスター』ってのは、無しだ。サカモト司令殿?」
「……そうですなぁ。民間警備会社バレッドナイン・セキュリティの社長殿。従業員は協力者を含め十数名の少数精鋭、AFのような最新鋭の兵器や巡洋艦クラスの艦船を所持し、武器の扱いと戦闘技能が『異様に』慣れた社員が要人警護、紛争地でのキャラバンの護衛や危険地帯の調査、救援活動、海賊などの鎮圧などを担当するお仕事はそちらもそちらで大変そうですねぇ……」
マサタカがわざとチラチラとシンの表情を覗き込む。
シンは冷めた目つきでマサタカにそう言った。
マサタカは意地悪く笑う。
「おやおや、元がテロリストでアテナ銀河中の各国政府に喧嘩を売った挙げ句、大企業お抱えの正義の味方と仲良しこよしの組織のトップは言う事は違いますな。……ところで……おたくの飼い犬の『サワダくん』は躾がなってませんな?……まあ、正直同情していますよ。あんな『狂った馬鹿犬』は世紀の発見ですからねぇ」
ニヤニヤと、満面の笑みをシンは浮かべた。
マサタカは凄んだ目でシンを見ていた。
痛烈な皮肉の応酬にその場にいたモリ室長以外の全員が唖然とした様子で二人を見つめていた。ドウミョウとハヤタに至ってはあんぐりと口を開けていた。その顔は完全に呆気にとられた人の顔であった。長髪の美男と着物の男は顔面蒼白で額に冷や汗を浮かべていた。
「……なんだこの空気……息苦しいが……空調はどうなってる?」
長髪の美男ことカザマが青ざめた様子で着物の方へ空調の不調を訴える。
「……空調は……動いているよ……」
着物男ことイシカワ・ソウイチロウが滝のような汗と目でカザマに沈黙を促した。首の動きだけ見ると故障したウェイター・アンドロイドの様に良く似ていた。
「そ、……そうか……そうか」
カザマはそのまま俯いてしまった。
だが、空気を読まない者は何時の世にもいる。
この場合はモリ・ダンであった。
「……そうか。では会議を」
「モリィィィィ!!」
マサタカのそばにいた二人が半泣きでモリを暗に非難した。
それに乗じてシンは言葉の攻勢に打って出る。
「部下の連携もバラバラですねえ……あなた部下の管理はきちんとしているのですかな?」
「内の部下もそうですが貴方の部下も負けず劣らず個性はぞろいで?管理は大変でしょう?」
「ご心配なく。我々の部下は優秀なものばかりで」
「おやおや、我々の部下の身体能力は高いですよ。貴方たち以上にね?」
「肉体派ばかりの職場は大変ですな?こちらは頭脳派も揃っております」
「おやおや、得意分野は?」
「そうですね……平和的な人探しから緊急事態の対処まで何でも出来るもので……柔軟なのは我々の強さで」
「そうですか。その程度の事は我々も出来そうですがね?」
「そうでしょうかね?あなた方連携もろくにとれていない状況で出来そうなどと大言壮語も甚だしいのでは?」
「大言壮語とは難しく言えば頭脳派の仲間にでもなれたつもりで?」
「こちらはそちらと違って頭脳派なもので」
「へぇ……それこそ大言壮語では?」
「仲間であるマリン・スノーもろくに救わないあなた方と比べれば、これでも謙虚な表現だと思いますがね?」
「あれが仲間と思わないでくださ――」
「おい」
シンの雰囲気が一変する。
その場で立ち上がり、マサタカに殴り掛からんと迫った。
「お前らは……誰にも頼れない人間を人柱にしないと正義成せないのか?……あァ?」
ユダの全て人員がシンの前に立ちはだかった。
「やめて!」
ユキが叫んだ。
シンだけでなくユダにも。
「話し合いでしょう?二人とも少しは落ち着いて話をして。人が死んでいるのよ……」
その言葉にシンが平静を取り戻した。
「……すまない。どうやら俺は落ち着きを失っていたようだ」
マサタカも非礼を詫びた。
「……ミス・クロカワ、君に感謝する。……それと此度の非礼どうかお許しください。我々は口論が目的ではなく、この街に潜むテロリストの掃討が目的なのです」
「ふー、……それだけじゃないだろう?」
「否定はしない」
「よし、その内容はわかっているが……」
「セントラル・ウィル。だが、我々には一つ確かな事がある」
「なんだ?」
「繋がりがある」
「繋がりだと?」
「そうだ。最近の彼らは様子が変だ。別の集団と結託しているようにも見える」
「結託ねぇ……」
「確定しているのはナンバーズ……ただし、一部の者を除いてだ」
「一部?」
「アインとドライ。それ以上のことはサワシロとマコトの諜報活動でも分からなかった」
「ハッキングか」
「そうだ。ヤツらはそちらのユキの出身地同様、機械で制御された集団だ。独自のネットワークを持っている分、システムに侵入さえすれば情報を引き出す事は容易い」
「ふむ……見えてきたな」
「ほう……何か見覚えが?」
シン・アラカワはユダが寄越してくれた資料の一枚を手に取ってからこう言った。
「セントラル・ウィルの目的は手段はともかく目的は人類の救済だ。だから、人類種に大きな損失をだすことを望んではいない。ということはアインとドライの目的は我々人類に深刻なダメージを与えるリスクのある目的で動いていると推察できる」
「……ゼクスとまた接触したいものだな。彼だけはまだツヴァイ派の中で警察に」
「ならちょうど良かったな」
ユダ側ともB9側とも違う声が全員に聞こえる。ウェルズでもない。
「……いつのまに」
ウェルズはジャックの後ろに隠れていた。
ユダとB9が戦闘態勢に入る。
が、ゼクスは両手で戦闘の意志がない事を示した。
「……まて、我々は嵌められたのだ」
「我々?」
「ナンバーズに裏切り者がいることは?」
「散々話した」
「誰と誰のことを?」
「アインとドライ」
「よろしい。今の俺の任務は組織内のアインとドライの思惑を調査し可能なら阻止する事だ」
「あっさりしゃべるな?」
「当然だ……これから情報を――」
その瞬間、ユキが始めに動いた。
生体改造されたユキの身体だけが、その一瞬に反応できた。シンも頭だけでどうにか動こうとする。だが、距離が遠くそばにいた人と机によって動きに限界があった。対応できるのは現時点でユキとハヤタだけであった。
ユキがドライの腕を掴む。そして、そのまま彼女を投げ飛ばした。それと同時にハヤタがいつの間にかアインの変装を取り払った。
アインとドライは通行している人間に紛れていたのだ。
ドライがデタラメに能力で壁やガラスを銃撃する。壁が穿たれ、ガラスが砕ける。硬質な破砕音が響くと、ビルの職員と通行人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。ウェイターの一人が持っていたものを落としたまま這う這うの体で逃げ出した。
ルイーザがユキに加勢する。シンもそれに続いた。
ルイーザは躊躇する事なく隠し持っていた拳銃でドライ撃ち抜こうとした。
火薬で撃ちだされた鉛の弾丸はドライをわずかに傷つけるが致命傷には至らない。
アインに対してはユダが挑んだ。ハヤタとモリ、ドウミョウを中心に、サカモト機関の元メンバーやミシマ、イシカワが得意な得物で戦闘を挑む。
ミシマは拳銃。イシカワは小刀で武装していた。
「各員。敵は発火能力がある。警戒しろ」
モリはサカモトから渡された刀を抜く。レオハルトの技に引けを取らない立ち回りであった。身体の速度はレオハルトより遅いが連撃を主体に流れるような刀さばきでアインに警戒心を抱かせた。フェイントを交えつつ、モリの刀が敵に少しずつ手傷を与えてゆく。
そこにハヤタの瞬間転移能力による高次元戦法が加わる事で敵の消耗はより明白なものとなった。
両勢力は険悪な関係性であるにも関わらず突然の乱入者に対して非常に高度な連携を発揮した。それはお互いの手口を理解していると言う事もあるが、共通の敵を前に共通の目標を得た事と別々の役割に専念する余裕ができたことが戦闘に大きく寄与した。
互いの疑惑を一度捨て、『呉越同舟』を実践することがこの戦闘の優勢を大きく印象づける事に成功したのだ。
アインとドライは警察署での勝利に慢心し、自分たちの首を締める結果に陥っていた。だが彼らにはまだ『策』があった。
ユダへの疑心。ユダからの不信。そして、片腕のみで不利な戦闘を行なうアインの思惑は?
次回もよろしくお願いします




