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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第十八話 憤怒のダニー

この物語は残酷な表現が含まれている事があります。ご注意ください

ダニーは炎と煙から逃れながら、敵に対して銃撃戦を繰り広げていた。

「くそがぁ!」

絶叫と共に繰り出された牽制の射撃を物ともせず、アインとドライは嘲笑を繰り返していた。

「きゃはははは!ああ楽しぃぃぃぃいいいい!!きゃはは!」

ヴィクトリア市警の警官を殺しながらドライは大笑いしていた。メタアクトの種類はどういう訳か違う。だが、その『幼稚な残虐性』はケルナーの面影があった。ドライは人差し指を向けて殺傷を繰り返す。

それに合わせてアインが醜悪な笑みと共に周囲に高熱と破壊をもたらした。人を殺すときの笑みは満面のものであった。

人を焦がし、そして溶かしながら、アインは醜悪に笑う。

「とるに足らないクズどもよ貴様らは灰となって燃え尽きる。苦しめ!苦しめ!万に一つ価値のない貴様らに明日はないのだ!!ふははは……」

アインの笑みは嘲笑の笑みだ。それは存在する生き物に対する嘲りの笑みだ。

侮辱し、誹謗し、軽蔑する。

そのためだけの満面の嘲笑であった。

「そこまでだ」

青い閃光が瞬時に目の前に立ちふさがる。

レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグ中将。

刀一つで果敢に敵に立ちふさがった。

「やってくれたな……貴様ら」

鬼の形相でレオハルトはアインたちを睨んだ。レオハルトは既に軍刀の鯉口を切っていた。戦闘態勢だ。居合いの態勢でレオはアインを睨む。

「……未来ある者たちの命と可能性を奪っておいて……価値がないだと?……ずいぶん傲慢だな?貴様らは」

「事実を言っただけだが?」

「事実?貴様の都合の良いフィクションによくも警官たちをつきあわせたな?高くつくぞ?」

「ほう……貴様らは価値のある人間のつもりか?」

「マイナスの価値しかない貴様らには言われたくないな」

「マイナス?」

「厄災をバラまくお前らはマイナスの存在と言わずなんと言う?」

「人間の存在自体が癌だ。この星のな」

「黙って聞いていれば、人間を十把一絡げに……お前は前人未到の馬鹿なんだな……今すぐ記録すべきだ」

「記録は一つで良い。お前たち人類が滅ぶ事だけを」

「ほう……自分がおしゃべりな死刑囚である自覚はないようだな?」

「弁護士はどこかな?」

「判決は死刑だ」

そう言ってレオハルトは軍刀を振るった。

超高速の斬撃はある一点で止まっていた。

「良い剣だ。貴様の名は?」

警官の変装をしたアズマ人の大男がレオハルトの刀を受け止めていた。大剣だった。鉄のかたまりのような剣だった。

「サワダ・タクヤ」

大男は確かにそう名乗っていた。

「……どこかで聞いた名だ」

「さあてな?」

大男は余裕の表情を崩す事なく笑みすら浮かべていた。その笑みに何処かシニカルなニュアンスを浮かべていたのをレオハルトは見逃す事はない。だが、それを敢えて口にする事なく、レオハルトは戦闘態勢を維持した。

「……そこの大男、戦う理由は?」

「当然。思い知らせるためさ」

「誰に?」

レオハルトが怪訝な表情を浮かべた。

「全てにだよ」

「全て?」

「そうだ。テメエでは手を汚さない癖に戦争反対とか言う偽善者全てにだ。全ての偽善者どもに現実を直視させて、狂ってゆく様を見下してやるんだよ」

「下衆め」

軍人の顔のままレオハルトはそう吐き捨てた。

「貴様の剣は技だけだ。人を傷つけ苦しめる事でしか意義を示せぬ外道の剣……貴様の素性は知らぬ。が、捨て置く事はしない。切り捨てる」

「やってみろやぁあ!」

好戦的な態度のままサワダはレオハルトに斬り掛かった。猛烈な斬撃で達人でも無傷で去なす事は難しい殺人術であった。だが、相手が悪かった。レオハルトは無傷でそれを去なした。

「…………で?」

余裕の表情のまま、レオハルトは『鈴の音』を奏でた。

リィィィィ……ン。

鈴ではなかった。刀の音であった。されど刀は鈴に良く似た音を放つ。

サワダの剣が折れた。否、切断されていた。

レオハルトの振るった刀は鈴に似た音を放ちながら、サワダを袈裟切りにしていた。サワダがもし『神の剣』の適合者でなければ即死であった。

「……ぬぁ……にぃぃ……!?」

レオハルトは刀を納めることはない。仕留めたことを確信してから刀を納めているからだ。

つまり、レオハルトはまだ戦闘態勢を解いてはいなかった。

レオハルトはシュタウフェンベルグの軍刀ではなく、風切丸を抜いていた。

アズマの大業物。切れ味はこの世で屈指の代物だった。

「まだ死なないのだろう?……来い。何度でも斬り捨ててやる」

殺気の広さと冷たさは怒り狂ったシンの比ではなかった。世界を覆うような黒い殺意の気配。それは武道の極限にたどり着いた強者が得る境地。そこにレオハルトは確かに鎮座していた。

サワダは獣のようにレオハルトを睨みつける。傷は塞がっていた。ナノマシンによる自動修復機能。止血と共に新しい血球が体内で生産される。

されど恐怖は拭えない。

サワダはその場に釘付けにされていた。己の感情によって。レオハルトの神速の身体能力によって。

その異次元の戦闘をダニーとアッカーマンは見ていた。彼らの細胞と言う細胞が圧倒されていた。

「すげぇな……後はアインを!」

そう言ってダニーとアッカーマンはアインとドライの方を睨んだ。

「助っ人は動けないぞ?余裕はどうしたお二方?」

ダニーは二人を睨む。

「警官ごときに何が出来る?貴様らが束になろうと俺には勝てやしない」

「やってみるかこん野郎!」

ダニーは変形式粒子拳銃でアインの方を撃つ。怒号と共に。

二発。

四発。

銃口から閃光が瞬く。

出力は既に殺傷モードに切り替えてあった。

通常、警官の銃のリミッターは外れる事がなく、解除にも特殊な手順が必要であったが、ダニーはいつの間にかリミッターを解除していた。

「よくもよくもよくもよくも!俺の仲間を!部下を!顔なじみを!許さねえぞ人殺しがぁ!許さねえ!許さねえ!」

銃撃を続行しながらダニーは怒号をあげる。顔には青筋が立ち、目からは今にも涙が流れそうであった。この街の警官は他の都市の警官と比べても練度は高い。そして一人一人の勤務態度や家族の情報をダニーは知っていた。地元に根ざしたダニーの強みである。

それを嘲笑うようにアインは罵倒した。

「許されないのは貴様ら人類だ。価値のない虫数匹が死んだところでなんだ?」

「るっせええ!死ぬのならこの街の外で死ぬか今すぐ死ねぇ!!」

ダニーは怒りに任せてデタラメに銃を乱射する。だが熱エネルギーの壁によって、粒子の銃弾が飲まれる。極大熱量のエネルギーがアインの周囲を覆う。そしてその隙を縫うようにドライがメタアクトに任せて援護射撃を行なった。

「クソガキが!邪魔すんじゃねえ!」

メタアクターのドライとベテラン刑事のダニー。

めちゃくちゃな弾丸と能力の応酬が続く。壁と言う壁に弾痕と削り取られたような穴が開く。射撃の精度で言えばダニーが上であった。

「ふざけんな!ふざけんな!馬鹿野郎どもがぁぁ!!わぁあああああああああ!!!」

泣きながらダニーは拳銃を撃つ。撃ったら銃のエネルギーカードリッジを取り替えて撃つ。撃って撃って撃った。デタラメでも何でもダニーは撃ちまくった。射撃ではなく乱射という表現がふさわしい撃ち方だった。

警官は銃を持つ。だが銃を撃つ時は少ない。警官が拳銃を乱射する時はまずない。そんな事は映画や小説の世界だけのことのはずだった。

そこが軍人との違いであった。人を殺す軍人と犯罪を取り締まる警官の大きすぎる差であった。

相手はテロリストだ。拳銃を撃っても誰も咎めない。

それだけにダニーは泣きながら撃った。

狂ったように撃ち続けた。こんな事は一生で一度もない。SWATでも撃たない数の弾丸を放った。

「逃げるなぁ!逃げるなぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

その涙の理由はダニーにしか分からなかったが、確かな事はアインとドライを戦術的撤退に追い込む程の迫力は確かにあった。

「どうにかしろサワダぁ!この警官が鬱陶しいぞ!!」

「バカ言うな!こんな強敵相手で忙しいんだ!なんとかしろ!」

「それはこっちの台詞だ!ふざけるな!」

「ふざけているのはそっちだろうが!」

「虫が調子に乗るな!」

「おい……お前死ぬか!?」

アインとサワダが仲違いを始める。

レオハルトはそのチャンスを逃さない。

「コォォ…………」

レオハルトは呼吸を整える。洞窟に一陣の風が吹き抜けるような深い呼吸であった。ダニーの制圧射撃によって敵のリズムが乱れる。そこにレオハルトの神速が付け入ることで、敵の戦術を乱す余地があった。

「隙ありだ!ド外道が!」

アインの能力の展開よりも、アインの脳の演算処理よりも速く、レオハルトは斬りかかった。

一閃。

鈴の音色を小さくしたような金属の共鳴と共にアインの左腕を何かが通り抜けた。アインがとっさに前に構えた左腕であった。

ずるッ。とん。

落ちた。ずり落ちたのだ。繋がっているはずのものが繋がりを消滅したかのように落下する。その有機体は紛れもなく、人の手の形をしていた。

有機体から赤い液が流れると同時に、アインの切断面から真っ赤な液体が勢いよく吹き出した。

「がぁぎゃああああががああああ!?」

アインは無事な右腕で左腕があったはずの場所を庇う。痛みを伴いながら液体が周囲を真っ赤に染める。

「逸れたか」

殺意に満ちた人斬りの目でレオハルトはアインの方を見ていた。

アインは怪我によってメタアクト能力を維持する能力を維持する気力はなかった。それに対してレオハルトは気力も体力も十分で手傷も一切ない。

勝負の行方は最早明白であった。

レオハルトが追い打ちをかける寸前でドライが鋭い反撃を行なった。

その結果、戦いは撤退戦にもつれ込む。

「逃がさない。アスガルドは許さない。若い警官の命を奪った事を。使命に満ちた者の明日を奪った事を。帰りを待つ家族たちの笑顔を奪った事を。俺たちは許さない。SIAは貴様らを逃がしはしない。覚えておけ」

レオハルトは怒りに満ちた形相でアインたちとサワダの方角を睨みつけた。

彼の右の片足からは血が流れていた。自然治癒力は高かったが、時間は数秒かかる。その数秒が狙いだと言う事をレオハルトは既に悟っていた。

ドライが何かを投げ込む。

閃光手榴弾。

強烈な高音と共に光が全てを包みこむ。

気がつけば、アインを含めた敵は消えていた。撃退はしたが、代償は大きかった。警官の遺体が辺りに転がっていた。命の消えた眼球からは既に涙が流れていた。生命の光も消えていた。

「クソがぁぁぁ!」

ダニーの咆哮が警察署に響く。

レオハルトは何かを確信していた。その証拠に誰かに連絡をとっていた。

大きすぎる代償。だが、レオハルトが何かを告げる。その内容は……。


次回もよろしくお願いします。

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