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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第十三話 不吉 

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください

シャドウとしてのシンはハヤタと出会う。

「どこにいた?」

黒装束に変わっていたシンはハヤタに呼びかける。ハヤタは病院の屋上にいた。シンは首元の覆面で顔の下半分を覆った。『シャドウ』としての戦闘態勢の合図であった。カラスの紋章がシンの顔を覆う。

病院であれだけの死闘にもかかわらずハヤタはいなかった。シンはそれが不可解だと考えていた。

「…………どこにいた?テメエは……」

「…………」

「言え!今すぐに」

シンは鬼の形相でハヤタに詰め寄った。

体中、戦闘の負傷と疲労と空腹で力が抜けそうであったが、シンはそれでも渾身の力を振り絞ってハヤタに詰め寄った。

仲間が苦しみ、相棒も悲鳴すらあげた状況でハヤタは冷淡に別行動をとっていた事がシンにとって許しがたい悪行であった。

「…………モリだ」

「モリ?モリ・ダンか」

「指令を受けていた」

拳。

ハヤタの至近距離に拳が寸止めされていた。

「ふざけた口聞いているとそのふざけた顔吹き飛ばすぞ」

「事実だ。俺は元々、ナンバーズとその協力者を追っていた」

「……ナンバーズは俺たちが戦っていたヤツらか?」

「そうだ。今はヴィクトリア警察が捕まえたから問題はないが」

「脱走さえしなければな」

「……サワダのことを引きずっているようだな」

「当たり前だ」

シンは鬼から修羅の形相に変わった。

「親友を殺し、マリンのような孤独と絶望に苦しむ女の子を殺そうとする下衆野郎に殺意を抱かない野郎は男としてどうかしているよな?あ、お前は男失格だったか?」

「……ひでえな」

「ひでぇのはお前だろうが!?マリンはお前の現地妻か?恥を知れ下衆野郎が?」

マリンの内情を知っているだけにシンの怒りはひとしおであった。

「マリンがお前を慕っているのにお前は仲間としてすら見てねえ。どれだけ冷酷なことしてるか自覚あんのか?ああ?」

シンはとうとうハヤタの胸ぐらを掴んで詰め寄っていた。シンの怒りはとうとう臨界点に到達する段階にまで至っていた。

そして唐突にハヤタは言った。

「……サワダもここにいる」

シンは目を見開いた。

サワダ・タクヤ。

『神の剣』と称された人型機動兵器を保持する人物の一人。

シン・アラカワが最優先にマークしている人物の名前であった。

「どこだ!?どこにいる!?」

「それだけじゃない。サワダはある人物と組んでいる」

「誰だ!?」

「……アイン。レフ・ライコフ教授のクローンだ」

「!!!」

シンは大層驚いた。プロフェッサー・ライコフとサワダ。

これほどの悪のビッグネームをシンは聞き逃すはずはなかった。

彼らほど、弱い立場の人物に対して異様に執念深く悪意に満ちた存在をシンは他に知らなかった。

「ナンバーズのメンバーに……ライコフの……」

「あくまでクローンだ。オリジナルはお前が殺したろ」

「そうだ。殺したはずだ!アイツは……アイツは……ユキを殺そうとした!!」

普段文通をしているマリンだけでなくユキの命を脅かした悪党の名前を聞きシンの興奮は怒りの方角に向かって最高潮に達してた。

「……言え……言え!どこにいる!!」

「俺たちも調べている!」

ハヤタは苛立ったように叫んだ。

「アイツは……元々……『正義』を……」

「何の正義だ!誰も救わないヤツの正義なんてどうせろくでもない!」

「だけどアイツは……どこか……悪を許さないところが」

「ユキとマリンのどこに悪がある!?どこに!?口を開けば馬鹿の一つ覚えのように偽善偽善偽善と戯言ばかり言うアイツの言葉なんか信じるな!!」

「だけど……マリンは……」

「マリンだって被害者だ!どうしてお前は!?」

シンの怒りが暴発寸前のところでダニーの警官隊とバレッドナインの仲間が仲裁に入った。

「シン!駄目!」

「シン!?おいよせ!」

「……シン。駄目。落ち着いて」

「ちょ、ちょ、落ち着いて。らしくないわ!?」

「駄目だシン……駄目だ!」

ユキ、ジャック、アディ、ルイーザ、カズが必死の仲裁に入った。

シンの怒りの炎は爆発寸前だった。仲間だけがシンの暴力的な感情の炎を止める資格があった。警官隊はせいぜいその手伝いしか出来なかったが、その手伝いをする事ぐらいは出来た。

ダニーは酷く驚いた様子でシンに呼びかけた。

「おい……よせ!なにを!?」

争いの現場を見たダニエル警部補ですらシンの怒りの激しさには一瞬躊躇いをせざるをえなかった。警官隊も変形式麻痺銃を構えシンに詰め寄ったが、ある一定のラインを越えられなかった。シンの間合いであった。シンの一秒以内に攻撃できる範囲であった。

警官は武道を習うため、その気配を本能レベルで感じる事が出来た。

それだけにシンの殺気がとても恐ろしいものであった。

「……やべえ……」

現場指揮官の立場であるダニーですらその言葉を漏らさざるをえなかった。

シン・アラカワという人物はぼろぼろであった。しかし、戦闘力は銃を持った兵士よりも脅威度が高かった。

うかつに近寄れば警官程度の相手ならしばらく起き上がれないほど無力化されるのは目に見えていた。メタアクト能力があって有利ではなく、メタアクト能力があってようやく『対等』であった。シンの肉体と技術の境地はそれほどのものであった。兄と違いグリーフを行使できなくともメタアクトを持たざる者であっても、シン・アラカワの戦闘力は常人からすれば十分な脅威であった。

人間の引き出せうる極限の力と戦術をシンが持っていたからだった。

「…………」

シンはひたすら睨みつけた。

直接手出しを出来なくても意を示すという意味はあった。

ハヤタに対する敵意。それはシンにとって重大な意味であった。

正義の味方、神の代行、あるいは秩序の執行。

シンにとって、それは脅威ではなかった。

シンにとっての最優先は『孤独と絶望という状況の破壊』であった。それを破壊するためならシンは神との敵対すら瑣末ごとであった。

なぜなら、人間にとってもっとも恐るべき苦痛は孤独と絶望を味わう事であったからだ。少なくともシンにとっては善人や義人がそのふたつに苦しむことは何としてでも避けるべき事象であった。

「邪魔をするな」

「しない!私はシンのことを知りたいだけ!」

ユキがそう言うと、シンはあっさりと警戒を解いた。

「マリンや君を救うためだ」

「私?」

「……サワダが近くにいる。ヴィクトリア・シティのどこかだ」

「!!」

ユキが驚いた顔をする。

ジャックたちが驚いた表情をする。

だがハヤタの話題はこれだけではなかった。

「……サワダとナンバーズのアインは繋がっている。お前の包囲網を作るつもりだ」

「……俺か」

「俺としてはサワダとは敵対をせずに和解したい共通の敵を叩くのに必要な人材なんだ」

「……お前の敵か」

「セントラル・ウィル。意志を持った機械。人類全体の管理をもくろむ俺たちの敵だ。人類全体を守るためにヤツらは倒さなければ……」

「共和国におけるエクストラクターのような存在か」

「それよりかはマシだ。だが人類を彼らに任せたら確実に人は人でなくなる。人類という枠組みは保持されるだろうが……」

「……ヤツらの目的は?」

「人類の保護。という名の支配だ。そんな事は許さない。だからセントラル・ウィルの使者をマークしたいと考えている。それが俺の目的だ」

「そこまではまともだがな。俺もあの頭の固い機械野郎どもは許しがたい。だが……お前を信用する事は出来ない」

「マリンの事か……結局」

「ああ……お前がマリンをぞんざいに扱わなければいくらでも力を貸したさ……」

「アイツと話はしたか?」

「全然だ」

「なぜ?」

「俺は正直色々あった」

「色々?」

「さっき言った敵だ。ヤツらとの激戦で別空間に飛ばされたからだ」

「……お前のラインアークはよくわからないな」

「人に託されたものだからな」

「人類を守る鋼鉄の鎧か。字面だけは格好の良いものだ」

「見た目のカッコいいだろう?武者甲冑みたいで」

「それは否定しない。見た目だけ見れば日曜日の子供番組のヒーローみたいな趣がある」

「だろ?だろ!?」

「お前と拳なしで語らうのは何日ぶりだろうな?」

「もう脅されたんだけど……」

「そうだったな」

「ほら、カズとアレックだっけ?みんなもみているから……な?」

「そう懇願するような目で見るな。分かっている」

「ありがとうよ。そんじゃご飯にしようぜ」

「唐突だな……だが……もうこんな時間か」

シンはレイヴンスーツの時刻表示を確認した。右腕の液晶表示には時刻が刻まれていた。

午後一時二十九分。

「……皆はどうする?」

シンはバレットナイン一行とマリア、ウェルズ、ダニーたち警官隊に問いかけた。

「あー、俺はいいぞメシは食べながら歩くものにしている」

「具体的には?」

「カツサンドのようなパンやホットドックだな。こういう忙しい日はそう言うので済ませている」

「つまり決めていると」

「そう言う事だ。誘うなら他のヤツにしろ」

「マリアは?」

「……レオハルトも来ているし二人で食べるわ」

「ウェルズ先生はいかがしましょう?もし当てがなければ……」

「そうだな。私は君たちと食事を共にしたい。諸君は良いね?」

それを聞いて何人かは興奮気味で答える。

「僕今興奮している。目の前にウェルズ先生が」

「カズはそればっかだね」

「だって……大小説家が目の前に」

「ううん、僕が芸術家だったらなあ……」

「ああ、アレックは今のままでも十分素敵だよ!」

「ありがとうカズ。凄く嬉しい」

男同士であるが仲睦まじい様子は異性の恋人同士のそれと変わったところはなかった。カズはアレックの嬉しそうな様子に思わず頬を赤らめていた。

ハヤタはその様子に目を白黒させる。

「えっと……そう言う関係」

「そうだ。何か問題でも?」

挙動不審なハヤタに対してシンは淡白に答える。

「え?えっと。こういうのあんまりみないからさ……ははは……」

「まあ……最初の俺も軽く驚いたけどさ。同性同士の恋愛も異性の恋愛もそんなに変わらないぞ?子供は出来ないけどさ」

「ぶ!?お前な!?」

「カズはカズだ。俺は親友として親友の恋愛の成就を願うだけだ」

「豪快だなお前……」

「普通だろ」

いくつかの疑問。

すれ違った友情。

マリン・スノーへの気持ち。

あらゆる話題と自身の空腹に決着をつけるべく、バレッドナイン一行はウェルズやハヤタと共に食事の場所に目星をつけ始めていた。

シンとハヤタ。すれ違った二人と多くの疑問。あらゆる疑惑を抱えつつ、物語は時を刻み始める。


次回もよろしくお願いします。

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