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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第八話 爆炎

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

シンたち三人は薄暗い駐車場を探索する。

「ユキ、見えるか」

「体温の検知はない。どこよ……?」

「……地下二階だな。こういう駐車場は何層も下がある」

ユキの感覚器官はジーマ由来の高度な技術で構成されており、眼球一つとっても非常に高性能な視覚情報分析装置としての機能が備わっていた。

ユキの目で見られるものは『スキャン・システム』によって精密に分析され、体内の補助脳で解析される。そして解析された情報はユキの要請によって立体映像として統合される。また、通常視界の視覚機能だけでなく赤外線可視化の機能や暗視機能、グリーフなどの特殊なエネルギーの可視化機能まで備わっていた。

だが、どんなものにも限界はあり、コンクリートなどで阻まれた物体はさすがにユキの眼球でも視認することは出来なかった。

「……下の階までいく必要があるわ」

「それが分かっただけでも収穫だ。いくぞ」

そういって地下一階から地下二階に向かった三人は『ユキの視覚』を中心とした調査を行なってゆく。

「……いる!人の体温!これは……『カズ』よ!」

シンはユキの指差した方を見た。すぐに駆け寄りたい衝動にシンは駆られるが、拳銃を構えながら三人は慎重に動いた。

「左右クリア」

「すまん、ジャック」

「気にするな。それよりカズはどうなっている」

「車の中で気を失っている」

「爆弾は……?」

「……それらしきものが車両の後ろにある」

「……確かにな。こいつは建物すら吹っ飛ばすぞ」

「爆発は避けたいな。カズを死なせたくない」

「そうだ。慎重にやれよ」

「ああ」

ユキが車のオートロックシステムにアクセスしようとした。だが、すぐにシステムを止め二人に語りかける。

「駄目……爆弾の起爆システムと車のロックが一体になっているわ……クラッキングで車を開けようとすると自動的に起爆する!」

「な……!?」

ジャックが敵の周到なやり方に目を見開く。

ユキを連れてきた理由の一つはこのようなハイテクの罠に強いことにあった。

今回もそれが大いに危険を避けるのに役立った。

「……解除はできるな?」

「不可能じゃない。だけど手数がいる」

「ちょうど二人か?」

「そうね。貴方とジャックの手伝いがいるわ」

「なるほど……ジャックもいいな?」

「……やれやれ、爆発物の扱いは久しぶりだ」

「やれる」

「そうみたいね」

「さて、さっさと連れて帰るぞ」

三人は作業に取りかかった。

「ジャック、ボンネットのカバーを」

「ああ、……よっと」

ジャックがボンネットのカバーを開ける。駐車場の警備員に事情を説明し、警察へと通報と作業に必要な工具を貸してもらった。

軍の関係者であると言葉を濁しつつ、ユキは警備員にも避難を呼びかけた。

電気自動車の部品は大きく三つに分けられる。モーター、インバーター、バッテリー。

モーターはガソリン式で言うところのガソリンタンクであり、インバーターはモーターを回す電気の量を調節する部品だ。そしてモーターで車の車輪軸を回す。この事で電気自動車は加速する。爆弾はバッテリーとインバーターを悪用して作られていた。

インバーターとは簡単に言えば電圧や電気の周波数を調整する装置である。それを悪用し車でありながら爆弾でもある悪魔の装置を敵は作り上げていた。

今回の爆弾はそういう仕組みであった。

ユキの指示に従ってジャックはいくつかの回線を弄り始める。ジャックは銃器やAFの整備をしたこともあり、機械への理解は戦闘工兵の経験のあるシンと比べても劣らないものであった。

そのシンはユキの指示を待った。

爆弾の解除と共に扉を開けてカズを引きずり出す。そしてシンが爆弾の被害を避ける為にカズと共に遠くへと逃げる。最悪爆弾が爆発しても、ユキは腕部シールドを展開することができる。自身とジャックの身の安全を守るだけの防御策はあった。

「……どうだ?」

「分からん。ユキ」

「まだ……その回線。青いコードがあるわね。切断して」

「あいよ」

作業は精密さが必要なため必然的に時間がかかる。

あるタイミングでユキは二人に呼びかけた。

「……ジャック作業をそこで止めて、シン聞いて」

「救助か」

「そうよ。数秒だけ開けられる。カズを降ろした後、扉を閉めるから……準備は?」

「投げられるナイフが必要だ」

「ナイフ?」

「カズが縛られている」

「!!」

「カズは両手を座席に括り付けられていた」

「……シン、そうなると貴方には二度入ってもらう事に……」

「一度だ……リスクが高すぎる」

「それこそリスクが高すぎる!開け放ちすぎると爆発するのよ!」

「理解している。だからだ」

シンはじっとマリアの目を見据えて言った。

縄の切断に一秒。

残りでカズを救助する。

シンは頭の中で段取りを急速に組み上げた。

失敗は許されない。

深呼吸しシンは片手でナイフを持つ。

「……開けろ」

そう言うとマリアは遠隔操作で車の扉を開け放った。

シンは集中する。

シンとシンの周りの時間がゆったりとしたものになる。

極限の世界の中でシンはか細い縄に向かってナイフを投げた。

シンのナイフがカズの縄を切断し助手席の下へと消えていった。

その隙にシンはカズの体を引っ張り出した。精密に、しかし大胆に。

服や靴などが引っかかることが内容に精密に車内から引き抜く。

カズの意識がない事が幸いし、カズの救助は成功した。

「ユキ!!」

ジャックとユキが扉を閉め、ユキが大急ぎで車の扉を施錠した。

「………………うまくいったか」

「カズは大丈夫よ」

「そうか」

「行って」

「ああ……死ぬなよ?」

「大丈夫」

シンはカズの肩を担いで動く。ファイヤーマンズキャリー、消防夫搬送などの呼び名で知られるその搬送法によってシンは肩の上にカズを担ぎ上げて運んだ。大腿四頭筋を使うために、人であっても比較的軽く持ち上げる事が出来る。

一秒でも危険から遠ざかるため、カズを担いだままシンは大急ぎで屋外へと向かった。







どういうわけか周辺にはパトカーや救急車が配備されていた。事件でもあったのか、警官や救急救命士がせわしなく動いていた。そしてシンは見慣れた顔を見つける。普段出会う分にはやや不穏な人物であったが、今は好都合であった。

「ダニエル・グレイ警部補か!」

「……うん?ってお前は……カラス野郎の上司の……」

「ちょうど良かった」

「嫌な予感がする」

「爆弾処理班を呼んでくれ」

「はぁ!!?」

ダニーは目どころか口をもあんぐりと開けて驚愕していた。

普通の会話で『爆弾処理班』などどいう単語が出てくる事はまずないからだ。しかも目の前には『民間警備会社の人間』がそう発言している。どう考えても事件の予感しかしなかった。

「どうして今日はこんな事ばっかなんだ!?」

「何かあったのか?」

「ヘルズ・キッチンが脱走してマリア夫人と一緒に料理対決するわ、警察と追いかけっこをするわ。どうなってるんだ……ヤツら投降したからよかったものの……」

「……その話は追々聞く事にする。それより爆弾処理班と救急車だ」

「……そういえばその男は?肩で担いでいるヤツだ」

「親友だ。爆殺されかけた。爆弾は俺の部下が処理している」

「……いちおういる。ヘルズ・キッチンは爆発物の知識もあるからな」

「なら早く――」

そう言った瞬間であった。

地響きに似た衝撃。

そして閃光。

耳をつんざくような音がシンの耳に響く。

アスファルトが砕け複数の破片が辺りに飛び散る。

「!!!!」

シンがカズを庇うようにして破片の群れに立ちはだかった。

「オララララララララッ!」

海岸沿いの道の方角から勢いよく人影がシンの前に立ちはだかった。

長い茶髪の女が人に襲いかかる破片を片っ端から拳で迎撃していた。

それはプロボクサーのジャブと比較しても速く、威力も常人の打撃とは比較にならないものであった。メタアクターは元々身体能力が大幅に強化されている上に特殊な能力を身につけていた。物理法則を簡単に捩じ曲げられることは大きな強みであった。

特殊な訓練を受け極限まで鍛えられているとはいえ、シンの能力は人間の範疇から出られるものではない。シンが出来る事と言えば破片の軌跡と『女』の動きを目で追う事だけであった。

「…………この能力……やはり……」

シンは女の容姿と能力で目の前の人物が誰かを特定した。それは意外な人物であった。

マリア・シュタウフェンベルグ。

有名料理人のジョセフ・キャロルの娘でかつての上官レオハルト・フォン・シュタウフェンベルグの妻であった。彼女は生来のメタアクト適性があり、目覚めるのが早い人物であった。性格は明朗快活そのもので慈愛に満ちた人格であると記憶していた。普段から陽気で冗談や独特な物言いも多いがレオハルトの妻にふさわしい心の温もりや思いやりに溢れた人物であった。

現に、彼女は見知らぬ人間や自分のために破片をとっさに迎撃していた。

「……ふう」

マリアは出来る限り破片と衝撃を防いだ後、その場で一息ついた。

「……まて……ユキ……ユキィィ!」

シンはしばらくマリアの動きに注意が逸れていたが、今の状況を見て顔面を蒼白にする。

爆弾の処理に失敗した。

シンは目の前の状況をそう分析した。そしてシンは大急ぎでユキの元へと向おうとした。

だが、誰かがシンの体を取り押さえた。

ダニーだ。安全を考え、シンを制止しているのであった。

「離せ!離せ!」

「消防隊に行かせろ!危険だ」

「ユキが!ユキが!」

シンが泡を食った様子でいると、どこからかユキの声がした。

「策はあるって言ったでしょ?」

瓦礫をぶち破ってユキはシンたちの前に飛び出た。ジャックも一緒だ。頭から血を流しているが、命に別状のない様子だった。

「もう勘弁だ!爆弾なんて」

「生きているなら安いものよ」

「死んでるわ!半分死んだ!」

「……やれやれね」

不貞腐れるジャックにユキが呆れた様子になる。軽傷を負っているものの、ジャックには悪態をつく元気があった。

「ユキ!無事か!」

シンはユキに近づく。ジャックと共にユキはシンのそばに寄る。

「腕部シールド。言ったでしょ?」

「良かった」

シンは唐突にユキに抱きついた。思わぬ対応にユキは頬を赤くする。

「な!?あふ!?」

「もう無理はするな」

「う、うん分かった分かったから、あわわわ……」

人形のような美しい顔を赤面させながらユキはシンの情熱的な抱擁に完全に面食らっていた。ユキはまんざらでもないようだが、周囲の目が恥ずかしい様子であった。

「新婚の時のかみさんの顔を思い出すな……」

「あらら、うぶだけど情熱的ね。前もレオと……」

ダニー警部補とマリアは互いの思い出を思い出しながら、甘酸っぱいような懐かしいような表情を浮かべていた。

ヘルズ・キッチンの大騒動から爆破事件へ。大都市を舞台とした物語は大きな変化を迎える。


次回もよろしくお願いします

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