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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第六話 捜索

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください

二月の寒空は快晴であった。

時刻は九時半。穏やかな日差しがかろうじて寒さを和らげてくれている。

ユキ、シン、アディ、ジャック、アレック、ルイーザ。バレットナイン・セキュリティの六人とアレックがそれぞれ冬着を着込んである場所に集まっていた。

そこはアルファ・フォート地区の記念公園であった。親子連れ、子供の一団、学生たち、ジョギングする男、老夫婦などの人々で溢れていた。

『ヴィクトリアの朝はまだ冷え込む時期が続くでしょう。首都ニューフォートはやや暖かくなっており、ヴィクトリアよりは過ごしやすくなっております。市内でお過ごしの皆様は厚着が必須……』

「…………ヒューイ、気になる情報は優先的に送信して」

「OK。ミス・アラクネ。不穏な情報に警戒するとしよう」

スマートAI『ヒューイ』を通してユキがヴィクトリア市内の情報を集める。

ネット上の気候、地理、地図、事件などの情報がユキの体内に搭載された小型補助脳に受信される。

ヴィクトリアはいつもと変わらない穏やかさがあったが、珍妙な『割烹着の集団』がヴィクトリア市警察とSIAの合同チームに追跡されていること以外は特に気になる事件はなかった。

ユキは白を基調としたドレスコートと動きやすいズボンを着用していた。長い黒髪と対比されるモノトーンの色彩と美しいシルエットが芸術的である。

アディは紺色や黒をメインとしたレディーススーツを着用している。きっちりとした服装と豊満さの滲み出たシルエットの対比が大人っぽい魅力を十二分に引き出していた。

ルイーザは青いデニムのズボンに、スポーティな白っぽい色合いのパーカー、黒いキャップを着用していた。明るめ色彩と動きやすい機能性がルイーザの明るさと快活さがうまく表現されていた。長い金髪が良く映える。

「さて、怪しい人物は見えるか?」

レイヴンスーツの都市迷彩型とトレンチコートを重ね着したシンはユキのほうに言葉を投げかけた。

「……一人だけね」

「……ううむ、ずいぶんと露骨だな」

迷彩柄のズボンと黒を基調とした厚着のジャックは『怪しい人物』の方を見て引きつった顔をした。

茶のトレンチコートと帽子。そして黒い覆面。

距離は遠いが、不審人物と言わんばかりの人物が正面に見えていた。背丈や体つきから察するに成人男性だということは伺える。

「……俺が行こう」

「俺もいく」

ジャックの申し出にシンが頷く。他のメンバーがアレックを囲むように動きながら、ジャックとシンが不審人物に声をかける。

「お前がメッセージの主だな」

「……シン・アラカワだな?」

「そうだ」

「歓迎する」

そういって覆面男はナイフを取り出した。

ジャックがすぐに覆面のナイフを蹴り飛ばす。

通行人の何人かがナイフや金属バットを取り出してシンとジャックに襲いかかる。後ろのアレックが短く『ヒィッ』と悲鳴をあげる。

「……」

「……」

集団の一人が無言でジャックに襲いかかった。

だがジャックはそれをひらりと回避した後、男の体を掴んで地面に叩き付けた。

「まだまだだな?」

次の刺客がシンに金属バットで襲いかかったが、シンにすれ違い様に鼻を殴打され地面で無様にのたうち回った。

「……」

シンは一言も発しない代わりに、バットの男の顔を強烈に二度踏みつけた。

「お前の名前と所属は?」

シンプルに、しかし明確にシンは相手の情報を引き出そうとした。

「ゼクス」

そうとだけ言ってからゼクスは特殊警棒でシンに襲いかかった。

シンは敵の動きを完全に見切りながら器用に打撃を繰り出してゆく。

ゼクスもなかなか手慣れた敵であったが、シンとは技量の隔たりが大きすぎた。純粋な格闘戦ではシンが圧倒的に有利であった。

「なるほど、ならば仕方ない」

ゼクスは納得したかのようにそう言って頷いた。

そして、彼は『気体』となった。

からりと特殊警棒が地面に落下する。

気体。ガス状になったゼクスを見てシンは目を見開いた。

「メタアクター!」

シンがそう叫ぶ。それと同時に気体となったゼクスがシンの方に向かって体内へと侵入しようとした。

だが、レイヴンスーツの首元の装置が作動し、顔の下半分が完全にマスク状に保護された。

「無駄だ」

「そのようだ」

ゼクスは次にジャックの方へと向かうべく気体状の体をジャックに向かわせる。だがジャックの方も備えがあった。

ジャックはポケットから何かを取り出す。ライターに良く似ていたがライターではなかった。押すと猛烈な炎がスプレー状に伸びる。

超小型の火炎放射器であった。

「備えあれば……ってやつだ。これくらいなら知り合いに用意してもらえるからな」

ゼクスは気体状の体を維持できず元に戻ってしまった。

「その能力は集中力が必要そうだな」

「ふむ、カズと同様だな」

そう言ったゼクスの顔面をシンは蹴り飛ばした。

鼻の骨を折られたゼクスは地面に倒れ込んだ。覆面が鼻血で汚れる。

「吐け、カズはどこだ」

「噂通りだな」

「さっさと言え」

「……本来なら仕事の情報は、がぁ!」

「言え」

シンはゼクスの小指の骨を折ってからそう言った。

「俺がここに来たのは、カズの命が危ないからだ」

「なら尚更急がねばな」

「俺はシャドウの仲間を怒らせてしまった。そして組織はシャドウとの全面衝突を避けるべくある人物を売る」

監視役がいるのを恐れてかゼクスは敵だった男と交渉する建前でシンと話をした。もっとも、目の前にいるのは『シャドウ』の表向きの顔であるという事実がシュールな有様である。

「誰だ?」

「アイン。組織の幹部で参謀役の一人だ。彼の行動は怪しい」

「どこにいる?」

「ハミルトン地区西のある車両にカズは捕らえられている。爆発は正午だがナンバーズのメンバー以外が不用意に解除しようとすると爆発する仕掛けになっている」

「起爆を避けるのにひつようなものは?」

「これだ。バッジ。ナンバーズはこのバッジを所持している。解除は……できるんだったなお前は」

「戦闘工兵の訓練も受けた」

「なるほど……せいぜい頑張れ……場所はフラッグ通りの三番。そこのビルの前だ」

「感謝する」

そう言ってシンはゼクスを噴水へと投げ入れた。

「おまえ容赦ないな」

「人に刃物を向けたこいつが悪い」

「……否定はせんよ」

そう言ってシンは40メートル近くの木陰の方を見た。深緑のコートと仮面を着用した男シンの方を見ていた。獅子のたてがみのような顔の髭と悪辣な笑顔を見てシンは目の色を変えて無線に叫ぶ。

「ヒューイ!!パルドロデムを出せぇ!!!」

「敵か!」

「死んでなかった!アイツを追尾する!!」

リアルタイムでユキの視界を共有していたヒューイは直ちにパルドロデムを急行させた。

四足獣型戦闘支援無人機『パルドロデム』。偵察や戦闘支援を行なうほか、モーターバイクに変形する事も出来、戦地への急行や追跡を行なう事も出来る。武装は装備によっても変わるが、基本武装は鉄製の牙と背面部に取り付けられた麻痺機能付きのエネルギー機銃である。

四足の獣がヒューイの中継に使用されている多目的鳥獣型無人機『ロプロック』から投下され、その場でバイクに変形した。

シンは全員に警戒と待機を命じてアインを追跡した。

敵は発火能力を持ち、手のひらと足の裏から炎を出して逃走した。

「逃げるなぁ!逃げるなライコフ!!」

シンはエネルギー機銃を連射しながらライコフらしき緑コートを追ってパルドロデムのモーターの出力を上げる。

「ヒューイ!エネルギー機銃を殺傷モードにしろ!」

「警告!民間人への殺傷のリスクあり!」

「クソ!ならせめて当てなければ!」

「提言!緑コートとの距離を詰めろ、顔認証も不能だ」

「急いでる!手動モードに切り替えだ!」

二ブロック先で曲がり、緑コートはハミルトン方面へと逃走を行なっていた。

シンはパルドロデムで追尾しようとしたところでヒューイが警告音を出した。

「警告!これ以上の追尾は操縦者に社会的な不利益が生じるリスクあり」

「ふざけるな!それがなんだ!」

「アルファ・フォート方面の警察車両と警備ドローンの存在を確認。至急武装の隠蔽と色彩の偽装を推奨する」

「だが……」

「当AIは無人機での追跡への切り替えを推奨する。これ以上の追尾は深刻なリスクがあるものと推測する。追跡の中止を提言する」

「………………クソが……民間車両偽装モードに切り替え」

パルドロデムの武装が収納され、別の色彩へと変化してゆく。真っ赤な民間のバイクと変わらない見た目にパルドロデムは偽装された。速度も追跡に適した速度から他の車両と同程度の速度へと低下していった。

「…………カズの元へ向かうぞ」

「当AIも同様の方針である。…………バレッドナイン他メンバーとの合流地点を設定完了。目的地設定」

「…………」

シンは気落ちしながらもカズの救助を優先した。

「……懐疑提言。マスターへ」

「……なんだ」

「マスターは対象『レフ・ライコフ』を射殺したと報告されている」

「……ならあれはなんだ?双子か?他人の空似か?」

「データ不足。ただし状況から鑑みるに敵性組織の一員と判定されるに十分なデータを確認している」

「……どうなってるんだ。捕まったサワダの脱走の次はライコフのそっくりさんだと……」

「提言。救助任務への集中を推奨する」

「了解だ」

シンはロプロックの監視能力を信じてハミルトンへと向かうしかなかった。







十一時近くのこと。

シンはどうにか警察に逮捕される事なく、カズが隠されている場所の近くへと急行した。

「……それらしき車両が見えない」

「いやそうでもないぞ」

後から到着したジャックがシンのそばに近寄って、そう言った。

「ジャックか」

「おいおい。捕まったらどうすんだよ」

「だが……」

「ライコフもどき事も気になるが、……カズはここか?」

「らしい。ここら付近の車両……まさか」

シンはすぐそばのビルを眺めた。商業ビルでもあったが地下に駐車場も有していた。

「地下ね」

ルイーザがそう言うと全員が頷いた。

「ユキ、今何時だ?」

「十一時過ぎ」

「急ぐぞ!」

「待って」

ユキがアディとルイーザにアレックと共に待機する事を伝えた。アレックが心配そうな目でユキの方を見る。

「分かった。アレックが冷静でいるためね」

「ユキ……気をつけて」

「心配しないで、その手の技能もあるから」

アレックの配慮のためユキはあえて曖昧な表現を選んでいた。

「皆さん……お願いします」

アレックが三人に頭を下げた。

ジャック・シン・ユキの三人が駐車場に向かってゆく。

カズの隠された車両の発見の為に三人は分担して捜索を開始した。

緊迫の探索。カズの命のリミットが刻々と迫る。


次回もよろしくお願いします

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