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蒼穹の女神 ~The man of raven~  作者: 吉田独歩
第七章 ヴィクトリアシティ・ミラクルズ編
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第七章 第四話 午前十一時追跡中

この物語は残酷な表現が含まれる事があります。ご注意ください。

黒のイェリネック280型を追い詰めるべくイェーガーとダニー警部補は執念の追跡を続行していた。

「そこのイェネリック止まれ!止まれゴラァ!」

ダニー警部が怒号を叫ぶ時イェーガーは問答無用で回転式拳銃の引き金を引いた。

一発、二発。

乾いた破裂音と共に車両の板金を穿っていた。

「止まれ!止まらないと当てるぞ!」

だが車両は通行車両に衝突を繰り返しながら逃走を続けた。軍用車両をモデルにした車種で衝撃に強い構造をしていたことがヘルズの強みであった。

「……そうか」

イェーガーが拳銃を構えようとするが、ダニーが止める。

「少尉!ここは市街地です!市民に!」

「彼らは凶悪犯だ!言って聞く相手ではない!」

「尚更だ!刺激してどうする!」

イェーガーの意見にダニーが反論する。

「ならどうしろと!」

イェーガーの意見にダニーが叫ぶ。

「任せろ!」

そう言ってダニー警部補がバイクのアクセルを全開にした。

モーターが回り、ダニーとヘルズたちの車両との相対距離が縮む。

「おぉぉらぁぁああ!」

ダニー警部補がイェネリックに飛び移った。乗り手を失ったバイクが路上にに転がり、その場に残される。

ダニーが車両にしがみつき、振り落とされないよう力んでいた。車両は振り落とそうと左右に動いたが、微動だにしないダニーを認識してやがてそのまま目的地まで突き進んだ。

「まずい!?警部補!警部補!」

イェーガーの声をダニーは認識していたが、なす術がない事を悟りそのまましがみつき続けていた。ダニーと車両はアスガルド軍とVMPDの追跡を振り切り市内の何処かへと消えていった。






車両がたどり着いた場所は大きなビルの一画であった。すぐさまダニーは銃を構えその場からヘルズキッチンを降りるように伝える。

「全員降りろ!降りろ!そうだ。そのまま……な!?」

いつの間にかダニーは数人の男たちに囲まれていった。彼らはタキシードを着用しており銃を持ったダニーに物怖じする事はなかった。否、彼らも銃を持っていてすぐさま応戦できる雰囲気を出していた。

「何だこいつらッ!?」

ダニーは自分の状況を悟り、即座に降伏することを選んだ。

「…………どうしてこうなる。というか誰だこいつら!?」

見た事もない珍妙なタキシード集団の乱入にダニーは困惑の色を隠せずにいた。

それを見たヘルズの四人は悠々とした足取りでビルの中へと消えてゆく。

老人、気難しそうな中年、浅黒の男、小柄で目つきの鋭い男。

ヘルズの四人は誰かに出会うが、集団に囲まれてダニーはその特徴を知る余裕はなかった。出会ったのは女性だったという事だけだ。

「クソ……!」

ダニーはそばに居たタキシード男を投げ飛ばしてからジグザグに逃げ回る。敵は土地勘があるようだが、長年ヴィクトリアの大都市を警官として生き抜いてきたダニーに地の利があった。なにより警察官のダニーは身体能力に大きな優位性がある。地元の路地裏を軽やかに逃げる。

右折。

左折。

また右折。

ゴミ捨て場を横切り。

また右折。

時にその場にあったものを投げつけ、逃走。

また右折。

直進。

人混みに紛れる。

そうしてどうにかダニーは敵を巻く事が出来た。

敵はタキシードを着用しているので遠くでも視認できるが、ダニーは薄汚れたコートを着用している。長年の愛用品だ。これがあれば街にいる中年の紳士やサラリーマンに紛れる事が出来る。ダニーは完全に敵を巻く事が出来た。

「…………なんだあれは」

ダニーは理解不能に陥った自身の思考に四苦八苦しながら他の警察との合流を決意する。多勢に無勢では生き残れないから味方がいる。ようやくダニーは冷静さを取り戻してそう自身に言い聞かせた。

徒歩で歩いているとふと街の看板が目に付く。

「……ハミルトン島内には居るようだがな……それはそうか……橋は越えなかったからな……」

街を見通せるベーカリーの一つに入り、コーヒーとソーセージサンドを頼んだ。葉野菜と熱したチーズの入ったパンを頬張りながらダニーは街の外を眺める。敵はいない。ダニーは無線機のチャンネルを調整した。

「こちらダニー警部補。容疑者はハミルトン区西A三番ブロック領域内のビルの一画に逃走した模様。どうぞ」

「警部補!いままでどこに!?」

「すまん、敵の追っ手を振り切るので手一杯だった」

頭を掻きながらダニーはイェーガー少尉に返答する。

「今はソーセージサンド片手にヤツらの追跡に怯えているよ」

「……そんな軽口が聞けるなら大丈夫そうですね」

「当たり前だ。ここは俺にとって庭だからな」

「なるほど……地の利を使って……」

「ああ……お前らもさっさと来い。お騒がせ料理人集団を捕まえるぞ」

「……残念だが問題が発生した」

「……何だ?」

「暴行事件らしい」

「他の警官に行かせろ」

「問題はその人物だ」

「誰だ」

「片方はシナガワブラザーズ。トレジャーハンターとアズマ軍関係者のコンビだ。そしてもう一方はマリアだ。マリア・シュタウフェンベルグ」

「……はぁ!?」

「しかもマリアは行方不明だ」

「大問題だぞ!?よりにもよってマリア!!?」

マリアとレオハルトのラブラブぶりは有名で警察ですら彼ら夫婦の話は彼女のいない警官たちの羨望と嫉妬の的であった。レオハルトと付き合いの長いダニーは尚更その話の恐ろしさを全身総毛立ちの様相で聞く羽目になった。

レオハルトはマリアの日輪のような笑顔に魅了され。

マリアはレオハルトの聡明さと紳士的な物腰を愛していた。

レオハルトに知られるより前にマリアを確保しなければならなかった。さもなければヘルズどころか警察の担当者全員が恐ろしい目に遭うのは明白であった。

「な、な、な、なぁぁああんでマリアがそこに!?」

「知りませんよ。分かっていたら止めていました」

「ああああ!でも居場所に検討はつく!」

「本当ですか?」

「ああ、俺が近寄ったビルに女の気配がした!おそらく彼女がマリアだ!」

「……なんでまた彼女は?」

「……何が言いたい警部補?」

「……レオ坊が言うには、マリアの実家のキャロル一族は料理の分野において非常に高名だ。もしかしたらその関連で関わりが……」

「なるほど、ヘルズキッチンは元々ストイックな料理人集団だ。料理への情熱が行き過ぎて破壊活動をしているが、マリアとの接触は十分考えられる。……思わぬ繋がりだな」

「元々彼女は料理が好きだ。今もそうだが……」

「だが?」

「マリアは父親と父の仲の良かったヘルズに対して否定的なんだよ。行き過ぎたやり方が嫌いで……銀河中を逃げ回ったくらいだ」

「……そうか、そういえば調査に参加していたそうだな。警部補は」

「もう十年以上前だが覚えているよ。銀河中の警官が血ナマコになってマリアお嬢の行方を捜索していたのは未だに覚えている。やたら身体能力が高かったなマリアは」

「その頃からメタアクターに?」

「ああ……彼女は先天的にそうなっている」

ダニーは食事を終え、タバコに火をつけようとした。だが店員が止めようとするのを見てタバコの着火をやめる。代わりに深呼吸をした。

すぅ……。

ふー……。

息の音を立ててからダニーは店を出た。店を出て周囲を見渡しながら確認する。タキシードたちはいない。思考を巡らすなら今しかなかった。

ヘルズの狙いはマリアと会って料理関連の何かをする事であった。ヘルズは凶暴な集団だが料理の仕事に関しては常に誠意と信念があった。彼らは『お客』と『尊敬に値する人間』に対しては傷害を決して起こさない。つまり、彼らはビルの中にお客様を待たせ、食事を振る舞う。それだけのために刑務所を爆破し、警察を翻弄し、マリアを狙った暴漢の殺傷までやってのけた。

「……狂ってるぜ」

ダニーは必然的にある種の人間の顔を思い浮かべていた。

レオハルトの腹心で『冷血カール』の元部下だったアルベルト・イェーガーに、片腕が義手で偽名をいくつも持つ元復讐代行業者の拳銃使いルイーザ・ルイ・ハレヴィ、そして、『カラスの男』こと謎の私刑執行人シャドウ。

信念に従い、漆黒のような強固な意志を持つ者たちであった。

ダニーが見知った人物でもそれだけいた。

年老いたマフィア、ベテランの殺し屋、退役軍人、警官の同僚、消防士の知り合い、医師、弁護士の知人、交渉人、船乗り、作家、頑固な芸術家、普通のサラリーマンや主婦、学生にすらそのような人物はいた。数は少なかったが、ダニーの心に強烈な印象を残す者たちばかりだった。

「こういうタイプは厄介だな……」

ダニーは再認識した。信念の為に自身の犠牲すら厭わない人種は何者より厄介である事を。数少ない幸運は『そう言うタイプ』の数が少なく、『領域』を犯さなければ模範的な人物と変わらないという事だけであった。






ダニーにとっての幸運は彼らが純粋な料理人であった事とマリアと出会って彼女と共に誰かをもてなすことであった。それはつまり、何もしなくてもマリアに危害を加えられることはないことを意味していた。が、ダニーにとっても犯されざる信念と領域はあった。

「……警察を侮辱しやがって」

ダニーはSWATと共に突入を待った。少なくともダニーにとって警察の業務は誇りで犯されざるものであった。それを穢したヘルズキッチンはどんな理由があるにせよダニーにとって決して許す事の出来ない者たちであった。ダニーは相手が料理を完成させた時を見計らって突入することを決定した。それは、ダニーなりのせめてもの敬意であり礼儀であった。

「……アッカーマン巡査?見えてるか?」

別の建物で監視役をしているアッカーマンにダニーは無線で呼びかけた。彼は双眼鏡型のスキャニング装置で高層ビルのガラス越しに内部を観察する。内部にはダニーが予想した通りの光景が広がっていた。

「ええ、言った通りです……ヘルズの四人と……マリア・シュタウフェンベルグを確認しました……でも、……どうして?」

「何をしているのが見える?」

「料理しています……相手チームと競い合っているようです。なにがなんだか……」

「俺だってそうだ」

「……突入はいつ?」

「11時半以降だ。スナイパーとSWATチームが来るのがそれくらいになる」

「……もうなにがなにやら」

「全くだ」

そう言ってダニーが腕時計を見た。古いアナログ式だ。

時刻は午前十一時ちょうどを指し示しめそうとしていた。ダニーは後から来た警官の一人からタバコをもらい、火をつける。ダニーは警官隊の慌ただしい包囲網構築の様子を見つめていた。それとは対照的に街からは能天気な話し声が聞こえてくる。上空には警察のフロート型ヘリが飛んでいるというのに。

タバコの煙が緩やかに風に舞っていた。

狂気の料理人集団とマリア。その真実は?


次回もよろしくお願いします。

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